ギガントバイツ   作:ザイグ

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獣獄刹開始。「河馬」と同じ立ち位置。

無人島に上陸した俺は首輪の指示通りに動き、密林ゾーンに来ていた。

 

(俺のプレイヤーが母さんなんだから、原作の岡島さんと同じ流れになると考えてたけどビンゴだ。……このマスには俺以外に獣闘士が三人。あっ、背後から一人急接近してきた)

 

人工的な光が一切ない真夜中。その上視界も悪い密林でありながら、死角からの襲撃者を俺は正確に把握していた。やっぱり、「反響定位」って便利だな。

 

反響定位(エコーロケーション)」。クジラの仲間の一部は音波によって、定位を行う。頭部の「メロウ器官」と呼ばれる部位でコントロールされた音波を打ち出し、跳ね返ってきた音波によって、ソナーの様に前方の様子を知る事が出来る。それによって遥か数キロ離れた対象物の距離、姿形はもちろん、材質や内容物まで見分ける事が可能なのである。

 

背後から不意打ちを仕掛けた獣闘士の攻撃に合わせて、背中の皮膚を部分獣化することで容易く防いでみせる。

 

「! 硬い……何の獣闘士かは知らんが、背面部位を部分獣化していたか」

 

「そっちから来てくれるとは探す手間が省けた。しかし、人を攻撃して謝罪もないのは感心しないな」

 

現れたのは獣闘士「(ティガ)」、中西大河。既に獣化しており、半人半虎と呼べる姿になっている。

 

トラは世界最大の猫科猛獣である。最大種は体長3m、体重300kgに達する巨躯でありながら、瞬発力と柔軟性を兼ね備え、特に密林においては無敵の強さを誇る。

 

立地的に「虎」が有利。俺は狭い場所では本来の力を発揮できない。状況は圧倒的に不利。だが、これは1対1の対戦ではない。

 

「やたらこのマスに駒が集められてると思えば、随分と怖がれてるみたいだね、「虎」」

 

三門の獣闘士「巨猩羅(ゴリラ)」、矢部正太。

 

「三門・石田・角供が組んで八菱を潰す共闘作戦。別に俺一人で十分だかな」

 

角供の獣闘士「(クロコダイル)、椎名竜次。

 

プレイヤーの思惑が一致し、最も脅威となる「虎」を倒すために三つの財閥が手を組み、3対1で潰す作戦のようだ。

だが、「鰐」が一人だけで闘うと言い出し、獣化して頭部がワニそのものになり、「虎」に襲いかかる。

「鰐」と「虎」が戦い、俺と「巨猩羅」は静観する形になった。

 

原作だと「虎」が乱入した「巨猩羅」もろとも「鰐」を瞬殺し、そのあと角供の罠で「虎」が絶体絶命になり、「鰐」を道連れにしようとする。そこを「河馬」が助けるって流れだった。

 

でも、この場いるのは俺。助ける気はない。むしろ難敵である「虎」と「鰐」が共倒れしてくれるなら、ありがたい。

そうなると問題はその後だ。瞬殺されたと思われた「巨猩羅」が実は生きていて、三門最凶の獣闘士と合流してしまう。強豪揃いの三門と一対一でも嫌なのに、一対二になるなんて厳し過ぎる。なら、俺の最善手は……。

 

「……おい、ゴリラ」

 

「うん。何だい?」

 

「ちょいとくたばれ」

 

俺は獣化し、背中から尾ひれが付いた自身の何倍も巨大な尻尾を出現させる。

ちなみに俺のスーツは背中がジッパーになっていて、尾びれを出す時、開いて服が破れないようになっている。獣化する度に服が破けていたら勿体ない。

 

石田の獣闘士「鯨(ホエール)」、尊伊佐奈。

 

「クジラ……!?」

 

「潰れろ!」

 

 

━━鯨撲!

 

 

驚愕する「巨猩羅」に振るわれる巨大な尾ひれ。「巨猩羅」は獣化して両腕を巨大な豪腕に変化させ、その腕力を利用して回避する。代わりとばかりに周囲の木々が薙ぎ倒された。

 

クジラは魚類に似た形に進化した水棲哺乳類である。イルカなどの一部を除き、大半の種が全長10メートルを超える超巨大動物。

尾ひれのみで巨躯の泳力を生み出す筋力は凄まじく、威力は自然界最強。体重10tのシャチを十数メートルも吹き飛ばした事例もある。

 

「……あのさ、僕らの目標は「虎」のはずだけど?」

 

「お前たちと馴れ合う必要がないな」

 

「あ、そう。なら、君から殺してあげるよ!」

 

「巨猩羅」が巨大な豪腕によるパンチを放つ。だが、俺は真正面から防ぐ。「虎」の爪撃さえ徹さない皮膚は攻撃を受け付けない。

 

「な……!?」

 

ゴリラは温厚な動物だが、握力は500kg超、パンチ力は1t超。即ち、腕力に限れば自然界最強である。

 

そのパンチを受けてビクともしない俺に「巨猩羅」は驚愕する。実際は尾びれがデカ過ぎて身動きとれないから、受け止めるしかないという事情もある。

 

「だったら、更なる力で潰してやる! この僕を散々馬鹿にしてきた連中と同じ様に!!」

 

━━巨猩羅槌(ゴリラハンマー)!!

 

「更なる力……俺に力で勝てると思うな。おこがましい!」

 

━━鯨撲!!

 

「巨猩羅」の両手による振り下ろしに俺は尾ひれの打ち上げで対抗した。単純に考えれば落下速度と自身の加重を味方にした敵の方が有利。だが、世界最大哺乳類であるクジラのパワーはその程度のハンデをものともしない。

 

「━━ッ!?」

 

「巨猩羅」が力負けして空高くに叩き上げられた。10メートル以上の高度まで上昇し、重力に従って落下した「巨猩羅」は地面に激突。その身体はまるでトラックに跳ねられたように原型を留めていなかった。

 

「これで一匹。後は……」

 

俺が振り返れば、倒れた「鰐」の前に佇む爪を血に染めた「虎」が立っていた。その姿には傷一つなく、圧勝だったことが伺える。

 

まぁ、それくらいは予想していた。トラは密林が、ワニは川が主戦場。樹木が茂り、足場の悪い地で虎に見つかれば奇襲を防ぐことも、動きを捉えることも不可能。気が付いた時には急所を斬り裂かれ、屍となって地に伏すのみ。

そんな猛獣といまから戦わなければならない。……はぁ、怖い。睨み付けてきて怖い。せめて俺に有利な立地が良かった。

 

「フン。雑獣を始末する手間が省けたか。だが、一匹も二匹も同じこと。地獄を見せてやる」

 

「……獣どもが手傷の一つも負わせれねえから、こういうバカが湧いてくるんだな」

 

一つのマスに集まった獣闘士四人の内、半分が脱落。生き残りをかけて「鯨」と「虎」がぶつかろうとしたその時。ピーッ、と「虎」の首輪からアラームが響いた。

 

『駒の移動が確認されました。3分以内に南方向のマスに進んで下さい』

 

「虎」のプレイヤーが駒を動かした。その一瞬の隙を見逃さずに、倒れていた「鰐」が「虎」の足に噛み付いた。

 

「バカな。さっきの一撃は確実に致命傷だったはず……」

 

「こんな擦り傷でくたばる程、俺の身体は柔じゃねえんだよ!」

 

多少の傷ではワニは死なない。何故なら、彼らは凶悪な雑菌の蔓延る泥濘の中、戦い傷付くことを日常としている。そのために哺乳類とは比較にならない程の強力な免疫機構を持ち、破傷風などの感染症に侵される可能性は皆無。この事実が示すのは、2億年以上もの間、ほぼ形態を変えることなく生存競争を勝ち抜いてきたワニの筋金入りの耐久性(タフネス)である。

 

……「虎」のプレイヤーが駒を動かしたということは原作通り、角供の獣闘士「壺舞螺(コブラ)」と「守宮(ゲッコー)」がエルザさんを襲っているのか。そして「鰐」が「虎」を拘束して首輪による爆死を狙うのが角供の作戦だったな。

 

「ワニの咬合力は地上最強。一度食らいつけば二度と放さない。このまま首輪の爆発で本物の地獄に行け!」

 

「地獄には━━貴様も同伴だ」

 

「虎」は逃げようともがくどころか逆に絡み付き、爆死覚悟で相討ちを狙ってきた。

 

「この程度のことで俺がてめぇを放すとでも?」

 

「放す必要が何処にある。ここで命惜しさに俺を解放したならば貴様はもはや獣ではない。この俺を倒したくば一匹の獣となれ」

 

このままいけば「虎」と「鰐」は共倒れ。そうなれば石田が有利。何もせずにいるのが一番だ。ただ……。

 

『伊佐奈。獣闘士たる者、何より命大事と知らない』

 

唐突に母さんの言葉を思い出した。……大河さん、感謝してくださいよ。

 

 

━━鯨撲!!

 

 

俺は「虎」と「鰐」を薙ぎ払った。

 

 

◇◆◇◆◇

 

━━あー、やっちゃった。

 

「虎」と「鰐」が共倒れする絶好のチャンスを不意にしてしまった。拘束から逃れた「虎」は既に離脱。爆発音が聞こえないから間に合ったのだろう。で、問題は……。

 

「随分と舐めたマネしてくれるじゃねえか。覚悟はできてんだろうな、クジラ野郎」

 

作戦を台無しにされて、ブチ切れている「鰐」だった。

それにしても頑丈だな。「虎」を逃すために手加減したとはいえ「鯨撲」を受けて平気とは。

その上、「虎」につけられた傷も治りかけてる。やっぱり、ワニの回復力はすごいな。

 

ワニの血液には、エイズウイルスをも無効化するという強力な免疫機構が備わっており、その治癒力は汚泥の中で噛み傷を負っても、完治するほどの凄まじさで知られている。

 

「とりあえず、お前は死んどけ」

 

━━鰐鎚(デスメイス)!!

 

完全獣化によって二足歩行するワニとしか言えない姿になった「鰐」の尻尾の一撃。

 

ワニの尾は巨大な殴打武器である。それ自体が巨大な筋肉の塊であり、尾の力のみで時速30㎞もの速度で泳ぎ、垂直に飛び上がる事が可能。

表面は強靭な皮革質で覆われ、「皮骨」と呼ばれるスパイクが並び、その威容は中世の鎚矛(メイス)を彷彿とさせる。

 

しかし、その「鰐鎚」は片腕で受け止められた。「巨猩羅」の1tに達するパンチが効かないほど硬い皮膚を持つ俺にこの程度の打撃は通じわない。

 

「ケッ、打撃が効かねえなら、頭から食らってやるぜ!」

 

━━鰐噛(デスバイツ)!!

 

地上最強の咬合力による噛み付き。これは流石にただでは済まないと思ったので、抵抗する。

 

━━鯨響(げいきょう)

 

キーンという音が響き、「鰐」の身体が硬直。そのまま地面に倒れれた。

 

「な、なんだこれは……!?」

 

マッコウクジラは、他のイルカやシャチの様に「反響定位」を行うだけでなく、音波そのものをブチ当てて獲物を気絶させる程の音量(・・)を出す。

 

完全獣化していない状態では出せる音量が弱く、気絶させることはできなかったが、「鰐」の身体の自由を奪うには十分な威力だ。無防備な敵を見逃すはずもなく俺は尾ひれを振り上げた。

 

━━鯨撲!!

 

その破壊力は「鰐」の耐久力さえ打ち破り、彼を絶命させた。

例えるならば、道端でぺちゃんこになったトカゲに似た有様になっていた。

 

……勝った。とりあえずは戦況を把握するために黒夜さんと連絡を取ろう。

 

“おい。コウモリ、報告を入れろ”

 

“あら、ボス。どうしたの、お姉さんが恋しくなった?”

 

クジラは「反響定位」を探索だけでなくコミニケーションにも利用し、高度な会話することができる。

一説には、クジラは1000㎞離れた仲間とさえ交信が可能と言われている。

 

俺と黒夜さんがどちらも反響定位を使える獣人であることを応用し、生身だけで携帯電話のように通話することを可能した。

 

“状況は?”

 

“あら、無視? 寂しいわ。……予定通り、私は「蜜獾」を監視中よ”

 

黒夜さんは仲間で唯一連絡手段のない宇崎さんに付いてもらっている。非常事態などが起こればすぐに知れるためだ。

黒夜さんの報告によれば、宇崎さんは三門の獣闘士「(ベア)」、ジェロム本郷を撃破。その後、角供の獣闘士に襲われていたエルザさんを助けに移動、エルザさんと共闘して「壺舞螺」を撃破。残った「守宮」は逃亡。

そして宇崎さんとエルザさんは百合の花を咲かせていると………は?

 

“最後のはなんだ?”

 

“八菱の獣闘士の仕業ね。催淫フェロモンで発情させる能力かしら”

 

ああ、いたな。確か……「麝香猫(チベット)」だっけ? 原作では稲葉さんにも負けるくらい弱かったから、忘れてた。

 

“それは雑獣だ、ほっとけ。作戦通り、おまえは姿を見せるな”

 

“了解したわ。ボスはどうするの?”

 

“俺は━━ゴミを片付ける」

 

後半のセリフを口に出しながら、俺は振り返る。そこには新たな敵が来ていた。

 

「き、樹が……か、かわいそう……」

 

現れたのはスキンヘッドの大男。三門最後の獣闘士「穿山甲(パンゴリン)」、城戸剛。

 

「穿山甲」は俺ではなく周囲の薙ぎ倒れた木々を見ていた。自然崇拝主義(ナチュラリスト)である彼にとって、自然を壊す者は全て殺害対象。幼少期の虐待から植物を母親と同一視する様になった、この精神異常者は自然を守る為ならば味方さえ殺してしまう。……そんな奴の禁忌を既に犯した俺に、容赦はしないだろう。

だったら、先手必勝!

 

「潰れろ!!」

 

フルパワーの「鯨撲」。「穿山甲」に振り下ろされた尾ひれが爆撃のような衝撃を生む。

だが、効かない。敵は既に完全獣化していた。硬く刃物ように鋭い鱗を全身に纏った「穿山甲」は攻撃の一切を受け付けない。

 

センザンコウ。アルマジロに似ているが全くの別種。アルマジロの甲皮が防御にのみ用いられるのに対し、センザンコウの鱗は刃物のように鋭く、しばしば攻撃にも用いられる。いわば全身に武器を纏った状態であり、結果として怪獣の如き威容を得た戦闘型哺乳動物である。

 

━━甲撃(アタック)

 

「穿山甲」の反撃。最も大きく鋭利な「鱗」に覆われた尾での一撃が迫る。それを俺は腕を掲げて防御しようとして━━斬り裂かれた。

 

「……!」

 

「巨猩羅」のパンチも、「鰐」の尾撃も防いでみせた装甲が斬られ、血が流れる。「穿山甲」の攻撃力は俺の防御力を完全に凌駕していた。

 

このまま(・・・・)じゃ……ダメだ」

 

痛みを堪えながら俺は呟く。「鯨撲」じゃあの硬い鱗は破れない。俺の装甲もあの鋭い鱗を防げない。なら、こっちも本気になるしない。

『伊佐奈』をリスペクトする俺は、クジラの姿を嫌う彼を真似て滅多に完全獣化しないが、そんなことは言ってられない。

 

俺は尾ひれだけを出現させていた状態から完全獣化する。頭部が長く丸みを帯びたマッコウクジラそのものに巨大化。比例するように身体も膨張し、巨大な獣人に変化していく。

2メートル近い巨体を誇る「穿山甲」さえ小さく見える巨獣が出現した。

 

「さぁ、終わりにしよう……この姿は嫌いなんだ」

 

 

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