鶴姫やちよは壊れている   作:修道女は正義

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鶴姫やちよは壊れている

 『鶴姫やちよ』は舞台が大好きだ。きらびやかな衣装とセット。何より魅惑的なキャラクター。

 キャラクターになりきることで『鶴姫やちよ』は『鶴姫やちよ』でいなくなることができる。

 『自分を殺す』事ができる。

 引っ込み思案で、自分に自身がなくて、自分の作品を自分できることができないゴミみたいな自分が大嫌いだ。

 舞台に立つのは自分でなくて良い。舞台に立つのは『キャラクター』だ。台本と監督、そしてその舞台を見る人々が求める『キャラクター』でいる間、『鶴姫やちよ』は『鶴姫やちよ』でいなくなる。 

 台本を読み込み、作品を読み込み、周囲の空気を読み、監督の考えを読み、そして舞台を演じるための『キャラクター』を作る。

 この『キャラクター』でいる間、私は己を嫌いでいることができる。

 

 

 舞台に立つ際、頭に思い浮かぶのは絞首刑場だ。

 『鶴姫やちよ』『鶴姫やちよ』は、

 思い上がりも甚だしいことに舞台に立ち輝く自分を想像してしまいました

 あろうことか実際に舞台に立つことになってしまいました

 調子に乗って衣装まで作ってしまいました

 ごめんなさいごめんさいごめんさいごめんさいごめんさいごめんさいごめんさいごめんさいごめんさいごめんさいごめんさいごめんさいごめんさいごめんさいごめんさいごめんさいごめんさいごめんさいごめんさいごめんさいごめんさいごめんさいごめんさいごめんさいごめんさいごめんさいごめんさいごめんさいごめんさいごめんさいごめんさいごめんさいごめんさいごめんさいごめんさいごめんさいごめんさいごめんさいごめんさいごめんさいごめんさいごめんさいごめんさいごめんさいごめんさいごめんさいごめんさいごめんさいごめんさいごめんさいごめんさいごめんさいごめんさいごめんさいごめんさいごめんさいごめんさいごめんさいごめんさいごめんさいごめんさいごめんさいごめんさいごめんさいごめんさいごめんさいごめんさいごめんさいごめんさいごめんさいごめんさい

 貴女(キャラクター)を生み出してごめんなさい

 『鶴姫やちよ』ごときが演じることになってごめんさい

 

 お詫びとしてこの体を貴女(キャラクター)に捧げます

 

 執行官の『鶴姫やちよ』が『鶴姫やちよ』の首にロープをくくる。

 幾重にも厳重に。足におもりを付けることも忘れない。

 ギャラリーには今まで『演じさせていただいた』キャラクター達。

 

 舞台の幕が上がり、演劇が始まる。

 その瞬間、足元の感覚がなくなり、刑が執行される。

 一瞬で死ぬことは許されない。 

 ゆっくりとたっぷりと『殺し続ける』。

 

 『鶴姫やちよ』の役が始まる。

 ギャラリーたる鶴姫やちよ(キャラクター)達が『鶴姫やちよ』を取り囲む。

 

 台本から読み取ったキャラクターの心理になりきる。

 拳が『鶴姫やちよ』の腹を打つ。

 

 周りの状況を把握する。

 蹴りが『鶴姫やちよ』の背中を打つ。

 

 監督はどんな演技をすることを望んでいるのかを思い出す。

 つま先が『鶴姫やちよ』の脇腹に突き入れられる。

 

 観客にこのキャラクターを伝えるにはどうすればよいのかが思い浮かぶ。

 ボウガンが『鶴姫やちよ』の心臓に突きつけられる。

 

 実行する。

 『鶴姫やちよ』心臓に矢が突き立てられる。

 

 『鶴姫やちよ』の演技を見ながら、『鶴姫やちよ』は殺され続ける。

 呼吸が、できない。痛みが、止まらない。死ぬことが、できない。

 

嬉しさが、止まらない。

こんなゴミみたいな自分が誰かを魅了しているということに?

違う。

『鶴姫やちよ』が『鶴姫やちよ』でいなくなれるということに、だ。

『鶴姫やちよ』が好きなことをして、『鶴姫やちよ』がしてほしいことをする。

矛盾。破綻。乖離。いろんな言葉で言い表せることができるだろう。

けれど・・・。

 

 

『鶴姫やちよ』は舞台が大好きだ。

『鶴姫やちよ』は己が嫌いだ。

『鶴姫やちよ』は・・・・

『鶴姫やちよ』は・・・

『鶴姫やちよ』は・・

『鶴姫やちよ』は・

『鶴姫やちよ』は

 

 

 もう、ダメだった。

 もう、

 

人間と

して、

       

 

           全

が、

 

 

  壊れ切

っていた。

 




私の頭には絶望が詰まっている。

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