まさかこんなに読んでくれる人がいるとは・・・
劇名「罪と罰」。かのロシアの文豪フィードル・ドフトエフスキーの傑作のひとつ。
主人公はある理由から殺人を犯し、しかしそれに気づかれることなく日々の生活を送っていく。次第に精神を病みやがて自らの犯した罪に押しつぶされていく。
しかし、それは罪であって罰ではない。本当の罰はその罪をどう背負っていくのか。どう生きるべきなのかだ。
様々な人物との出会いを通して主人公は己の犯した罪と向き合い、自らに与えられた罰を受け入れ、人間性を取り戻していく。
これは、再生の物語なのだ。
普通、は。
シークフェルト音楽学院定期公演会、舞台名「罪と罰」。
歴史あるシークフェルト音楽学院の舞台を一目見ようと観客席満員。立ち見で歩く隙間すらない。
そんな客席の興奮とは別にその舞台を冷静に見るものが3人いる。
シークフェルト音楽学院エーデル専用席。
エーデル。シークフェルト音楽学院を代表する才能と努力を積んだ生徒へ送られる称号。
エーデルの席は5つ。しかし、その内2つは空席。
普段この専用席は全く使われることはない。
なぜならエーデルが居るべき場所は観客席でなく、舞台だからだ。
しかし、その暗黙のルールは限定的に破られた。
「鶴姫やちよ、か」
「外部編入で入ってきた高等部1年生。しかし、その実力はシークフェルトで鍛えられた舞台少女を唸らせる・・・・ううん『飲み込んでしまう』て話だけど」
「噂は噂? 私達まで駆り出さされてるのに?」
白銀の君、雪代 晶。
蒼玉の君、鳳 ミチル。
そして、翡翠の君、夢大路 文。
現在の、そしてシークフェルトの歴史の中で最高と言われるエーデルだ。
数秒の間を置き、晶が口を開く。
「普通、外部編入生は舞台芸術科に入らない。それがなぜだか分かるか?」
晶が突然文に話しかける。聞く人によってはプレッシャーを与えてくるように感じてしまうため、きつい印象を持ってしまう。しかし、文は半年間の付き合いで晶の性格と特性を掴んでいる。
端的に言おう。雪代 晶は『アホ』だ。
無知という意味のアホではない。
相手のことを『ほぼ』考えないという意味でのアホだ。
普通の人だったら嫌われたり、場合によってはイジメに発展するかもしれない。
しかし、雪代 晶はただ『アホ』なだけではない。
整った、美しい顔つき。
自分をどう見せるかを完全に理解した所作。
無駄のない体つき。
学力。
などなど、漫画かアニメにでも登場する(してるのか?)『できる人』の特徴を詰め込まれている。これらの特徴が『アホ』という特徴と掛け合わされる事によって『雪代 晶』という圧倒的なカリスマ性(笑)を作り出しているのだ。
「そもそも試験が『入れない』ように作っているし、よしんば入れたとしても『次元が違いすぎるから』でしょ?」
文が答えようとしたことを代わりに答えたのは鳳 ミチル。
雪代 晶の幼馴染兼親友。
通称シークフェルの王子様。
なんでも晶が『王様』だとしたらミチルは『王子様』じゃないという安価な盛り上がり出できた通称だが、非常に的を得ていると文は個人的に思っている。
どんな人にも気さくに接し、常に明るい笑顔を絶やさない。
演技力や学力そして容姿も抜群。
晶が厳格(アホなだけ)だとしたら、ミチルはまさにそれを補う存在だ。
ただ、文は個人的にミチルが苦手だ。
(空気読めすぎてて怖くなるというか、常に全体を把握しているというか、悪いことじゃないんだけど人間味感じなくなる時があるのよね・・・・)
そのため、文だけはミチルのことを心のなかでこう読んでいる。
『腹黒ロボットプリンス』と。
閑話休題。
「シークフェルトは小学校から大学まである一貫校。中でも古い歴史のある舞台芸術科はシークフェルトの看板でもある。生半可な者に割くリソースはないってことでしょ?」
「そうだ、外部からの編入生も『シークフェルトに入れるだろう』ではなく『シークフェルトでやっていけるだろう』という観点から選んでいる」
「もし入れたとしてもついていくのがやっとなんだけど・・・・」
3人の目が舞台に集中する。
鶴姫 やちよ。
今シークフェルト音楽学院で話題の中心になっている学生だ。
ただでさえ少ない(というかほとんどいなかった)外部編入生にして、わずか数ヶ月でシークフェルト音楽学院舞台芸術化1年生のトップにまで上り詰めた少女。
そして、
エーデル候補に選ばれた少女でもある。