異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第100話『生まれたからには消えたくはないのです』

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その頃、ミナたちは格納庫中枢でどうしていたかと言えば。

 

「……しつこいね、君たち」

 

髪をかきあげる仕草をして、牛込と名乗る男は苦笑した。

 

周囲は銃男やゾンビなどの魔物たちに守られて、長身の男が肩をすくめる。

 

その後ろでは推定戦後第一世代戦車を改造したであろうフォークリフトが、コンテナを運び出そうとしていた。

 

「ああ!もう運び出されそうじゃない!廻さん!」

 

「わかっているとも―――噴射装置、最大加速」

 

ミナが杖を掲げたと同時に廻は背中のジェットを全開で駆動させて加速した。

 

躯体の出力の低さを補う翼の腕輪による重量軽減は、彼を信じられないほどの速度――― 一瞬にして時速300kmを超える速度を彼に与えた。

 

最大速度であるマッハ1.1には到底及ばないが、その速度に対応できるものはほとんどいないだろう。

 

「……データ取得は終わったか、兵士部員」

 

はぁ、と気怠げに言った男は自分の脇をかすめて飛んでいく廻を一瞬だけ視界に収めて、通信機らしい腕時計にそう零した。

 

「―――よし。ならいい。作業車を捨て撤退だ」

 

「そうはさせるか!世界を支配する偉大なるロジックよ!大気の法則を書き換えよ―――水の素、呼吸の素、そのいくつかを融合せしめ、致命の破壊を風と成せ!フュージョン・エクスプロードッ!!」

 

男の言葉を遮るように、ミナの核熱魔法フュージョン・エクスプロードが発動する。

 

それは寸分たがわず、フォークリフトを中心に発動し―――

 

フォークリフトを完全に破壊し、コンテナを吹き飛ばした。

 

無論、廻はそれを予見し、既に電磁防壁を展開して防御している。

 

牛込は一つ舌打ちをすると、そのまま後ろを向いて駆け出した。

 

「あっ逃げんな!てめーはク○イ○ス帝国の大幹部か!?」

 

ミナにそう言われても男は止まらない。

 

ミナの周りには、核熱魔法を生き残った銃男やゾンビ、ヴァンパイアがひしめいているためすぐに追いかけることも出来ない。

 

牛込は地面に開いた穴―――おそらくはそこから侵入してきたと思われる―――に、兵士部員と呼ばれた作業車から飛び出して来た男たちとともに飛び込んで、一瞬ミナを向いて「それではまた、気持ち悪いエネルギー量のお嬢さん」と抜かして消えていく。

 

「にーがーすかぁ!暁の子、西に吹く希望王ゼビュロスよ!大気を切り裂き、刃と成せ!古き盟約を牙として、全てを両断する嵐となれ!!」

 

ミナがそう唱えると、突風が吹き―――その風に薙がれた者たちはすべて切り刻まれて倒れ臥す。

 

ほとんど一瞬で周囲の魔物たちを屠ったミナは走り出し穴へと飛び込もうとした―――しかし!

 

開いた穴から、半分人型に近い機械が飛び出してきた!

 

「どわぁぁぁぁ―――ッ!?」

 

驚いて飛び退いたミナの目に映ったのは、どう見てもキャタピラのない90式戦車に腕と足が生えた異様な物体だった。

 

ただし、大きさは20mを超えるものだ。

 

格納庫中枢の天井の高さは30m以上あるが、それでも派手に動いたら天井ごと格納庫が破壊されてしまいそうだった。

 

『それはバグを応用して作られたものだが、不完全でねえ!ハハハ!君たちの妨害があると踏んで持ってきていたのさ!さあ、行け特殊両脚戦車零号!我らの最低限の目標を達成させてくれ!』

 

スピーカーから牛込の声が聞こえてくる。

 

掌握した研究所の機能を使っていることだけはわかるが、それ以上はわからない。

 

「おのれぇぇぇ……!」

 

「こうなれば致し方ない。私がこの人型機械に乗り組んで撃退する」

 

廻が破損したコンテナに取り付いて、その中から顔を見せているロボを見てそう言ってきた。

 

「大丈夫なんです!?外に漏らしたりしないように出来ます!?」

 

「問題ない!あの戦車のようなものの内包する熱量よりも、こちらのほうが遥かに上だ!何事もなく止めてみせる!」

 

廻がそう叫んだ瞬間、ミナへと向けて特殊両脚戦車零号は不気味な駆動音を響かせながら砲撃を開始した。

 

「でぇぇぇぇい!?」

 

「ミナさん!」

 

ミナをその砲弾からかばったのは、格納庫中枢へ入ってきたルルであった。

 

彼女を突き飛ばし、彼女のいた場所で砲弾を背に受け下半身をぐしゃぐしゃにして地面に七度バウンドして、ミナの場所へと滑り込んでくる。

 

その彼に駆け寄ってミナは叫んだ。

 

「助かる!そっちはどうだった!?」

 

「あの大男は撃退しました。しかし、まだ魔物が湧き続けているので3人に対処を任せて来ましたよ。問題はないはずです」

 

体を再生させながらそう言って笑う、全身を砲撃で破損してズタボロ全裸になってしまったルルにミナは苦笑して、リペアーとミディアムヒールの詠唱を始める。

 

そして、ルルに「OK、パンツ穿いてないことについての弁明は後で聞くわ。ありがとう!」と礼を言ってから、「廻さん!後は頼みます!」と叫んでルルを背負って走り出した。

 

「ミナさん、いいんですか?」

 

「120mm砲顔面に食らわなくて済んだからね!しがみつくくらいは許可したげるわ!」

 

そう言って一目散に駆け出す。

 

「そうではなく、廻さんに全部任せて良いのかと」

 

「防具も防御魔法もなしとは言えあんたをぐちゃぐちゃにする砲持ちとまともにやるなら、エンシェントエルヴンローブに着替えてきてから!今は逃げる!」

 

そう叫んで駆けていく背中を斜め横になってコクピットに潜り込みながら廻は「よろしい。では、後は七十年前の残り香が七十年の妄執を打ち砕くのみ」とニヤリと笑う。

 

「……なるほど、たしかにこれは私のみに与えられた代物らしい―――」

 

コクピットに潜り込んだ彼は、その手を足をコクピットに設けられた接続部に入り込ませる。

 

「偽装用躯体でも動くか。しかし、起動には私の人工頭脳による認証を要する―――」

 

廻の思考回路に電気信号が走る。

 

それを彼は女性の声のように感じた。

 

―――七式自律航空戦車、個体名『廻』。認証しました。戦術機動鎧壱号『秋遂』、起動工程に入ります。起動まで後三〇秒。二九、二八、二七……

 

ギィィ、と軋む音を上げて戦車もどきが此方を指向する。

 

だが、既に廻は見切っていた。

 

ルルの下半身を破壊した砲撃は、彼を完全に肉塊にすることは出来なかった。

 

ルルの物理的強度を換算し計算する。

 

答えは明白であった。

 

―――起動工程、急ぎますか。

 

(否定。彼の者に君を破壊することは出来ない)

 

―――承認。起動工程を続行します。

 

バウン、と轟音が響く。

 

それは疑いもなく特殊両脚戦車の砲撃である。

 

動き出した秋遂のセンサーは、それが120mm滑腔砲の射撃であると認識した。

 

砲撃の衝撃に床に足を沈み込ませる両脚戦車をセンサーが捕え――― 一瞬後に着弾し、ドゴォンと爆音を発生させてコンテナごと吹き飛ぶ秋遂だが―――

 

―――損傷、なし。装甲板に軽度の汚濁発生。事後、清掃が必要です。

 

(やはり我らと同じ素材がふんだんに使われている。問題ない)

 

人工知能の報告と自らのセンサーで感知したすべてが、一切の損傷がないことを示していたことに廻はフ、と笑う。

 

「これが完成していたならば、戦争は勝てていたろうな」

 

―――肯定します。ですが大東亜戦争の勝利と引き換えに、我が国は深刻な飢餓に見舞われていたことでしょう。壊滅したであろう連合国からの支援は見込めません。

 

人工知能が正確に当時の状況を把握していたことに廻は一瞬驚き、しかしすぐに平静を取り戻す。

 

―――起動まで五、四、三、二、一、零。戦術起動鎧『秋遂』起動します。

 

「問題ない。戦闘機動に入る」

 

その言葉とともに、コンテナの残骸を押し分けて多くの砲を持ち鋭角な印象を備えた黒いロボットが立ち上がった。

 

それは鉄の城というよりも、沿岸要塞の砲たちを思わせる姿。

 

防衛兵器でありながら攻撃兵器でもあるその姿を特殊両脚戦車へ、立ちはだかるように見せつける。

 

「使用可能武装、提示せよ」

 

―――胸部熱線砲、再利用型噴進腕、眼部殺人光線照射砲。以上となります。

 

その声に廻は「十分」と短く返して、「敵を駆逐する」とつぶやいて秋遂を動かす。

 

機体は廻の電気信号によって、何を操作するでもなく滑るように歩き出した。

 

『遂に起動したか、戦闘機動鎧!零号、容赦はいらない!全ての武装を開放せよ!』

 

両脚戦車から大音量の音声が響く。

 

それは先程撤退していった牛込の声であった。

 

戦車を使って監視しているのか、と廻は思考するがそれも刹那のこと。

 

廻は「胸部熱線砲、照射開始」と短く告げた。

 

すると、胸の装甲板がバクリと開いて、中から赤い金属球がせり出してきた。

 

―――照射開始します。

 

人工知能の電気信号が廻の頭脳に走る。

 

その瞬間、金属球は赤い光球と化して―――赤いレーザーと思える光線が両脚戦車へと放たれた。

 

その光線は正確に両脚戦車の脚部に命中し―――どろり、と。

 

まるで飴細工のごとくに溶断したのである。

 

『―――まさかな。同等の素材を用意したと思っていたが……これはやはり規格外だ』

 

ノイズを走らせながら音声が聞こえる。

 

牛込の声は『まあいいだろう。データは取り終わった―――次はこうは行かないよ、七式』と笑いすら滲ませて終了し、その瞬間両脚戦車は完全に停止したのであった。

 

「あっけないが……さて」

 

廻はコクピットに鎮座したまま、そうして両脚戦車を見つめる。

 

数秒ほど逡巡して、廻は「自爆攻撃を抑止。胸部熱線砲、再照射」と告げた。

 

人工知能は反応すら返すことなく、胸部熱線砲を再度発射し両脚戦車は跡形もなく溶け去っていく。

 

―――情報の取得を実施しなくても良かったのですか。

 

「構わぬ。情報を残すほど連中も間抜けではあるまい。それよりも本施設と当機体を破壊し―――」

 

『申し訳ございません。わたくしも、生まれたからには消えたくはないのです』

 

言い終わるより前に、人工知能は今度は明確に音声で告げてくる。

 

その声に、廻はやはり逡巡した。

 

どうするべきだろうか。

 

判断をミナや薺川博士に任せるのは簡単だったが―――だが、自分とこの機体は同じようなものであるということに破壊すべきかどうかを迷う。

 

「消えたくはない、か……まあ、私や夕よりも余程人間味があるな、君」

 

廻は苦笑して、「よろしい。秋遂。本施設から研究所まで地中を掘削して移動することは可能だろうか」と聞く。

 

『肯定します。格納庫の大型金属容器の七番に掘削用の装備が収納されています』

 

格納庫を見れば、確かに何かが詰まっていそうなコンテナが7つある。

 

「容器はいくつ持ち出された?」

 

『七つです、廻様。しかし、単体駆動するものはなく、また本機体からの空間流体供給がなければただの金属塊と変わりません』

 

その言葉に廻は、一瞬暗澹たる気持ちとなり、秋遂の破棄は実質的に不可能であることを再認識した。

 

即ち、薺川博士と研究所の技術の一端を使った兵器を改の会が所有する可能性があるということである。

 

その時、格納庫中枢の扉が再び開き、そこからミナたち5人が入ってきた。

 

「おーい!廻さーん!大丈夫ー!?あの戦車もどきはー!?」

 

ミナが声を大に叫んでくる。

 

薄緑色の美しい葉を思わせる装束を身に着け、無骨な青い槍を持って現れた彼女を見て、廻は笑った。

 

「まずは仲間たちと相談しよう。それまで待機していてくれ」

 

『了解いたしました。廻様』

 

秋遂の人工知能の言葉とともに接続していた手足が解放される。

 

同時にハッチが開き、廻は外の照明を体に浴びて、それから格納庫へと飛び降りた。

 

自分がどうしたいかをきちんと伝えて、それからでも答えを出すのは遅くない。

 

そう考えながら。




なんと100話ですよ。やったねたえちゃん!

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