異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第101話「歌でも歌おうかしら」

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数分後の格納庫。

 

「世界を停滞に導く我らが厄神よ!時と空に陥穽を!」「やめてくださいそれディメンジョンイーターじゃないですか!?」「HA☆NA☆SE!!」

 

ミナはディメンジョンイーターを秋遂に思いっきりぶちかまそうとして、ルルと夕に両側から押さえつけられていた。

 

「なーに考えてんのよぉ!?これを研究所まで運んで、隔離せずに運用したいですって!?」

 

「いや、何をもなにもだね、死にたくない消えたくないと思っているものをただ消したり封じたりするのは忍びないと考えた。君とてそう考えるだろうに」

 

ため息すらついて廻は腰に手を置いてミナに苦笑を投げた。

 

「そりゃあ、まぁ、そうだけどぉ、さぁ……存在するだけで世界の危機じゃん……」

 

「それは私たち兄妹も君たちも同じだろう。まあ、薺川博士になら方策を考えていただけるはずだ。うむ」

 

「……仕方ない……ただし、バグを直接利用してる部分があったら、それは破壊ないし破棄してもらうからね!でないと流石に危険すぎるのよ!」

 

「それには僕も賛成です。第一、この鉄塊を容易に溶解させる兵器を持っているということは、熱量の発生という意味では僕やミナさんと同じ程度の能力があるのですから。それがバグを利用しているとすれば、間違いなくいつか暴走して―――謎の大爆発、あたりがありそうな結末でしょうか」

 

ミナを離したルルは、溶断され一部しか原形をとどめていない両脚戦車を眺めて真顔で廻にそう言った。

 

何よりもバグに近しいものであるからこそ、その言葉に廻は否やはなく肯ずる。

 

「全く。非常識というならお前が一番なんだぞ、金髪女」

 

「なのです」「わかるー」

 

夕が腕組みをして言った言葉に魔法少女二人も追従して、ミナはその様子に「……おのれぇ」と呟くばかり。

 

ふーっと深くため息をついて、ミナは秋遂を見つめる。

 

「まあ、なんだ。改の会とやらの目的が我が国の国家体制転覆とすれば、私たちが存在するだけで邪魔だろう。確実に阻止されると踏むだろうからな。故に、秋遂を保持していることは抑止力として有効という判断もある」

 

そんなミナに廻はそう声を掛けた。

 

「うーん……あたしもどちらかというとミナちゃんに賛成なのです。AI部分だけ研究所に持っていく方がいい気はするんですが……」

 

岬は廻の傍に寄って、その腕をつかむと「この戦車みたいな何かを量産されてお出しされたときにあたしたちだけ、どころか陸自とか在日米軍が出てきても辛いんじゃないですか……?」と不安げにミナを見る。

 

その瞳に、ミナは如何に防御手段を一切取っていなかったとはいえ、ルルの体をズタボロにした主砲のことを考えた。

 

「それもそうよね……私としたことが短絡的だったわ……」

 

「しかもあのロボの武器とか装備盗まれてんだろ?やべーって。ガン●ラ●バーみたいにその装備つけたのが出てくるよ……」

 

南北戦争時代のアメリカをモチーフにしたマイナーなロボット漫画の例を出しつつ、恋もまた怖気を振るう。

 

確かに勇者の装備をしたミナならば倒せるだろうが……

 

「流石に音速超えて空飛んだりはできないからね……」

 

ミナは諦めたように肩をすくめた。

 

「んじゃあ、とりあえず秋遂……さんでいいのかしら」

 

「うむ、合成音声は女性のように聞こえた」

 

そうして廻が秋遂を見ると、『お話は済んだようですね。わたくしと当機体の生存が許可されたことを嬉しく思います』とどこか機械的な女性の声がした。

 

「秋遂さん!廻さんが迎えに来るまでここで待ってて!敵が来たら殺っていいから!」

 

ミナがそう叫ぶと、秋遂は廻に許可を取るようにその両目にあたるカメラを彼に向ける。

 

廻がなにか通信でもしたのだろうか、ミナに向き直ると『承認しました。一党の責任者……パーティ・リーダー:ミナ・トワイライト。登録します。即応状態で待機でよろしいですね?』と答える。

 

ミナはそれに首肯すると、「そうでーす!敵が―――あの改の会とかいう時代錯誤な連中が来たら、山の形とか上の森とか山の動物達とかふっ飛ばさない・ぶっ殺さない程度にお願いしまーす!」ともう一度大声を出した。

 

「廻さん、彼女はあなたが乗っていなくても動くのですか?」

 

岬に聞かれた廻は、「問題ない。一度電源が落ちてしまうと、私の人工頭脳による再認証が必要ではあるが」と答えた。

 

「すげーな……ス○○リのフリしたマジ○ガーかと思ったら、AIジェ○ティかぁ……」

 

恋のなんだかズレた感想を聞き流して、ミナは「お願いします!」と声を上げた。

 

『承知しました。即応防御に移行します』

 

そうして、それを最後に秋遂は沈黙し、跡には静寂が残される。

 

「廻、首尾よく当初の目的を果たせたな。破壊か確保か、という意味では最良だろ」

 

夕が廻の肩を叩いてそう笑い、彼に背を向けて歩き出した。

 

「ふむ……気遣われるような表情をしていたか、私は?」

 

「そうだな……私にはそう思えた」

 

格納庫を睥睨し、夕はつぶやくようにそう言って「兵器が抱く感想ではないかも知れないが」と呟く。

 

「そうか……そう見えたか」

 

廻は少しだけ嬉しげに夕の隣に立つ。

 

後ろから声をかけたのはミナだ。

 

「なんかこう、存在理由に悩んでるって顔でしたよ、廻さん」

 

気を取り直したのか、平静な様子のミナに彼は「……何、私は別に消えたくない、死にたくないと言った仕儀を考えたことがなくてね。兵器としての自己保存ではなく、生まれきた生命としての『死にたくない』を機械は持てるのか、という疑念が湧いた」と答える。

 

その顔はあくまでも真面目である。

 

「こうした疑念は私が成長していることを示している。どこへたどり着くか楽しみでもあるが、やはり不安でもある」

 

「そして、それをあのスーパーロボットさんが自覚させてくれたのです?」

 

岬がそう聞くと、「そういうことになる。さて、戻ろうか。施設の警備機構を再掌握してからな」と廻は笑った。

 

その笑みは、今までよりもどことなく人間臭いものであったことは言うまでもない。

 

 

 

旅館へ戻った頃には、午後3時を過ぎていた。

 

ミナは服の汚れを落とすと、そのまま恋と共にゲーセンへと向かっていく。

 

「やっぱり餓○○説と言えばビ○ーだよね?」

 

「……恋ちゃん?ほんと、みはるちゃんから何を教育されてるの?今どき30代後半でもそんな話しないよ???」

 

「架空戦記の話しかできないあたしよりはマシなのです」

 

そんな会話をしながら、去っていく少女たちの背中を見送って、ルルは離れの温泉へと向かった。

 

途中に謎の狛犬像の群れがいたりして、朝と同じく面食らうがどうでもいいことだ。

 

今頃は自分の分身が護衛する茜とミナたちは合流しているだろう。

 

自分は他人を驚かせないように静かに温泉の熱を感じるだけだ、と考えながら遠い離れへと向かっていく。

 

そして、途中で長椅子に座ってビールを口にしている廻を見つけた。

 

「昼間から飲酒ですか?」

 

「酔わんがね。それより、私は離れの風呂に行くのだが一緒に行くかね?」

 

「ちょうど僕もそうするつもりでした」

 

二人は笑って、そうして歩き出す。

 

「……回りの人々よりも長く生きるとはどういう感覚なのだろうね」

 

「嫌でも後50年もすればわかりますよ」

 

ルルが苦笑すると「君はどうだった?」と廻が聞いてきた。

 

「そうですねぇ……僕はこういう存在なので、悲しいとは感じませんでしたが……もう会話できない人がいるということに寂寞は感じます」

 

そうしてルルは幾人かの名前を上げて、「みんな死にました。冒険で、戦争で、病で、事故で、事件で、そして寿命で」と笑う。

 

「もう会えないのは仕方ないので、忘れないように日誌に残して、日々思い起こすだけです。ほら、アンデッドは忘れっぽいですから」

 

その言葉に、廻はうなずく。

 

「いずれ私もそう思うようになるのだろうな」

 

「ロボットはいいですね。忘却の精霊に飲まれないし、なんなら記憶のバックアップすら作っておける」

 

二人はそんな、とりとめもない、しかし普通にはありえない会話をしながら離れの温泉へと向かっていったのだった。

 

 

 

「勝てねぇぇぇぇぇ!なんだこのビッ○ベア!?」

 

「はっはっはっは……投げキャラ一筋三十数年の私に勝てるとは思わないことね!」

 

目の前で恋が茜に10連敗しているのを眺めつつ、ミナは隣りにいるルルの分身に話しかけていた。

 

「どう?なんかあった?」

 

『いえ、特には……何度か、ミルアが目撃した地球人と同じ個体が此方を見ていたようですがね。武装の携帯もなく、ただの監視だったようです』

 

魔力を持つものにだけは薄っすらとぼけて見えるその幻影は、そう言ってニコリと笑った。

 

他の人間には完全に普通の人間にしか見えないだろう。

 

そんな言葉にミナは「ならいいわ」と答えて、古い音ゲーの椅子から立ち上がって自動販売機を探し始める。

 

自動販売機には、どこかの一人飯を楽しむサラリーマンならわざとらしい味と形容するであろう炭酸飲料が目白押しだった。

 

「うーん、わざとらしいというかなんというか……」

 

ごくごくと飲んで、ミナはクスリと笑う。

 

笑って、「夕飯は朝と同じくバイキングよ。2日連続で宴会ではないわ」とUFOキャッチャーでなんだかよくわからない人形を3つほど取ってきた岬に声を掛けた。

 

「そうなのですか。酔っ払いが少ないだけでいいと思うのです」

 

そうして自動販売機の隣のベンチに座る。

 

「……また新しい悪の組織が出てくるなんて、なんだか出来すぎなのです。まるで、誰かがもっとあたしたちに暴れろと言っているかのよう……」

 

岬はプライズのニンジャの格好をしたクマのぬいぐるみを掻き抱いてそう不安げに呟いた。

 

「あのくそやろうはそうしてほしいみたいね……前にも言ったけど、あのクソ邪神の目的は世界の崩壊だから……」

 

それはグリッチ・エッグだけではなく、此方の世界をも含むものなのだろうか、とミナは考える。

 

科戸護国神社が建設された大正時代には、研究所地下のダンジョン……バグへの道である空洞は発見されていたのだ。

 

邪神の計画はその時代からなのか、それともダークエルフの血を継ぐ崎見の家系がこの地に現れた時からなのか。

 

それはミナにも、ルルにも、誰にもまだわからないことだが……

 

『そろそろ動くでしょうね、あの邪神の眷属と思われる恋さんの母親に似た女が』

 

すぐに動くと踏んでいたあの女が、未だに動かないのはSMNと改の会の存在を先にミナたちに知らせるためだったのか、とすら勇者には思えてくる。

 

「……いずれ、魔法とバグの存在がこの世界の人間に露見するのは、避けられないことだと思う?」

 

『僕には避けられないことと思えますよ。あの巨人の如き黒鉄に近しい戦車のような何かを見れば、そうとしか思えません』

 

ルルの分身は唇を珍しくへの字に曲げてそう意見を述べた。

 

「そんなことになったら、世界の有り様すら劇的に変わってしまうのです。あたしや空悟さんくらいの力でも、もう現代兵器で対抗できるのは戦闘機とか戦闘艦とかそのタイプになってきていると感じるのです」

 

岬はより強くぬいぐるみを抱きしめる。

 

そのぬいぐるみが―――冒険者現象によって与えられた膂力で割けないのは、その膂力が無闇に破壊をもたらすために与えられた加護ではないことを示している。

 

それでも、それでも。

 

「ミナちゃん、あたしはそこらへんとても怖いのです」

 

岬は頼りなげな笑みを浮かべて、そう漏らした。

 

その言葉を数秒反芻して、ミナは「そうなったら力技でも何ででもどうにかするわ」と拳を握る。

 

握った拳でパンともう片方の掌を叩いて立ち上がった。

 

その顔に浮かぶ表情は確かに冒険者のもので、決意を秘めた勇者の顔だったのだ。

 

 

 

「それはともかくお風呂は気持ちいいわね」

 

ミナはそうして、一人離れの温泉に来ている。

 

崖っぷちに建てられた民家を改装して作られた浴場は、野天風呂に近い風情を出していた。

 

肩まで浸かり、湯を楽しむ。

 

―――誰一人いない風呂で、ミナは風や水、火の精霊たちに語りかけ、湯で龍や蝶を作ってもらったりして遊んで。

 

そして、風の中に影を見た。

 

影はかつての仲間や友人、出会った人々のように見え、一瞬で消えていってしまう。

 

「例え何もかも変わっていくとしても、変わっていくからこそ」

 

人生は楽しい。

 

人生は不安で。

 

人生は続いていく。

 

不変の心となってしまえば、それはただの石塊に過ぎない。

 

故に年を経て世界に飽き、停滞したハイエルフたちは自らを森に沈め、森と一つになって生を終える。

 

心になんの変化もなければ、それは知恵あるものとは言えないのだから。

 

「私はいつそうなるのかしらね」

 

岩風呂となっている温泉は実に気持ちが良く、だからこそそういう考えも浮かんでくるというものだ。

 

「歌でも歌おうかしら」

 

ぱしゃりと湯の蝶が顔の上で爆ぜる。

 

もしもあちらの世界で誰かに見られたら、行儀が悪いという指摘は免れないその行動を見るものは今は誰もいない。

 

そうして精霊たちを離して、ミナはばしゃりと音を立てて湯船の外の景色を見た。

 

「うーん、いい景色……これで中がまともでさえあればなあ……」

 

目の前には松林と崖、眼下には街が見える。

 

コンビニや大型スーパーの姿はこの角度からは見えない。

 

「いっそ改装して純和風にしちゃえばいいのにねえ」

 

その時、ガラッと戸が開いて、そんな声が聞こえた。

 

「あ、カーチャン」

 

「楽しんでるか、愚息」

 

現れたのは前世での実母であり、今世での義母でもある茜であった。

 

「うん、楽しんでるよ。そっちこそゲーセンはもういいのかい?」

 

「ふっ……恋ちゃんはなかなかやる……あれなら良いリュ○使いになるさ……」

 

言ってることがよく理解できなかったので、ミナはあえてそれに対しては何も言わずに再び湯船に肩まで浸かる。

 

「ただでさえあの子90年代に侵食されてるんだから、英才教育追加してなくていいからな、カーチャン……」

 

ミナはジト目で母を見て、そして眼下の景色に目を向ける。

 

「しっかし、久々に来てみりゃ楽しいんだから、オレもこんなことになる前に仕事辞めて旅行でもしときゃよかった」

 

その景色は今の自分にも確かに新鮮で、伝わる湯の感触と合わせて体が溶けていくかのように感じる。

 

「女湯に入れるようにはなったけど、男湯には二度と入れないしな……ま、いいけどさ」

 

そんなどうでもいい感想を言って、ミナは笑った。

 

「あんたがそれでいいならそれでいいけど。なんにせよ、よくやってると思うわ。半グレもいなくなったし」

 

茜はぐっとサムズ・アップをミナに向ける。

 

「世界を救う勇者なんでしょ?もっと自信持ってやりなさい」

 

「自信なら持ってやってるつもりなんだけどなあ……」

 

タオルで頬を流れる汗を拭いて森人の勇者は、たはは、と苦笑した。

 

「ダイジョーブダイジョーブ、バレたからってすぐに誰もが魔法使える世界になるはずもないでしょうが?気にすんな!最悪世界を変える覚悟は持て!私は気にしない!」

 

「それでいいのか……?」

 

「いいのよ、いいのよ。産業革命で世界が変わらなかったか?世界大戦で世界が変わらなかったか?情報革命で世界が変わらなかったか?こっちの世界の要素だけでもいくらでも世界は変わっていくんだから、あんたは事件を解決することだけ考えなさい」

 

茜にピシャリと言われて「危険なことはするな、じゃなかったんかいカーチャン」と返す。

 

しかし母は「もう言わないわよ。私が思うよりずっとずっと強いみたいだってのは、この半年でよくわかったもの」と取り合わない。

 

「魔法とかバグとかがバレたとして、それが社会にフィードバックされるまでどれだけ時間がかかると思う?第一、魔法を使えるのはあんたらとその……スーパーなんとかっていう特撮の敵みたいな連中だけなんでしょうが?隠蔽のしようなんていくらでもあるわよ。いくらでもね……」

 

「だからマジでなんの仕事してんだよ、カーチャン……」

 

ニタリと笑った母はそれに答えることはなかったが、なんとなく不安が払拭されたような気がしてミナはフッと短く息をついて湯船に耳まで浸かる。

 

岬の不安ももっともなこと。

 

茜の指摘もそのとおりだろうと思う。

 

今はただ、ダンジョンを攻略すること、そして錬金工房を作り失ったアイテムや装備をある程度取り戻すことが先決である。

 

それが成せなければ、邪神や上位の魔王相手にする時に厳しいのは間違いがないのだから。

 

ミナはぶくぶくと吐息の泡を温泉に作りながら、明日の方角を見つめていた。

 

 

 

後はあまり言うこともなく旅館での一夜は過ぎる。

 

夕飯のバイキングが終わった後、ミナやルルは今野夫妻に誘われて主張員というよくわからない名前の館内居酒屋へと顔を出していた。

 

どうにもこの店のビールは品揃えがアメリカンなせいか、ミナには合わなかったこともあってミナは日本酒を茶碗に注いで傾けている。

 

「どうもバドワイザー飲んでると、向こうでのやなことを思い出すようでな……」

 

下面発酵麦酒の発明に関わる冒険で出来たビールのことを思い出し、ミナは忘れるかのように日本酒をすする。

 

グリッチ・エッグのビールは基本的には上面発酵のエールビールが主である。

 

そこから外れたものを求めたある錬金術師による依頼だった。

 

「どうしたんだその冒険では」

 

「いや、材料取ってきては製作、材料取ってきては製作でさ。オレと当時の仲間が味見させられるわけよ。まあ最初は失敗続きで、成功する頃には結構な時間が経ってたんだよな……」

 

出来上がったのが少し薄めのバドワイザーみたいな味のビールだったこともあって、その味に近いものはそんなに飲まなくても良い、という気持ちになっていたのである。

 

「そんなことはどうでもいいですけど、今度はスーパーロボットですか……魔法少女にスーパーロボット、大日本帝国っぽいなにかの野望とか、ちょっと節操がなさすぎではありませんか?」

 

文がシュワシュワとビールを自分のグラスに注ぎつつ、そう言ってため息をついた。

 

「節操がないのもバグが関わっているとすれば納得なのですけどもね……僕も流石に魔王級の兵器を作っているとは思いませんでした」

 

オレンジジュースを舐めながらルルがそう返すと、「なんでこう先輩案件は理不尽なんですかねぇ」と2児の母はグラスのビールを半分ほど、ごくごくと喉を鳴らして飲んだ。

 

「それをオレに言われても困るなぁ……もしオレがこっちに帰ってこなくても、少なくとも戦車爆走事件は起きてたらしいし」

 

科戸護国神社の神様が言っていたことを思い出す。

 

―――少なくとも、君がいなくともアレらは起きていた。それだけは答えよう。

 

神社の氏神らしき存在は、確かにそう言っていた。

 

「ともすれば、オレが帰ってこなかったら、オレと関わりの深い空悟や清水さん、お子さんたちが狙われていた可能性もあるからな」

 

それは完全に理不尽なこと。

 

「あいつは……ドミネーターの糞野郎がオレを転生させたのは、『たまたま目についたから』と言っていた……明るい記憶を思い出せないようにしてから、少し転ばせりゃあ勝手に死んでくれると思っていたらしい」

 

だが、それはおかしい。おかしいのだ。

 

「もし邪神とかいうのの話が本当だとすれば、おかしいですよね。神森市にバグダンジョンがあることや、何十年も前からバグを利用した存在がこっちの世界にあることとか」

 

「ああ、そうだな。文の言うとおりだ。『たまたま目についたから』じゃあない。『神森市に住む人間でたまたま目についたから』ということなのかも知れん」

 

もし、そうだとするなら……

 

ミナはアジのなめろうを口にして、それを日本酒で洗い流して考える。

 

次に狙われるのは間違いなく目の前の親友で、その次はその嫁だ。

 

ミナが邪神の目論見を崩し、邪神の空洞でドミネーターを倒すことが出来ていなければ、きっと……

 

そして、ドミネーターはきっと生きている。

 

自分を、自分の周りの人間を揺さぶってくることは間違いなく、SMNや改の会もまたその流れのもののはずだ。

 

「どちらにしろ、やっぱりあのダンジョンを早く攻略していくに越したことはないな」

 

空悟はハイボールをグと飲み干して、ぷはぁ、と息をついた。

 

そうして「この話はここまでにしとこうぜ。なあ、ルルくん」と打って変わった明るい調子で空悟はルルに声を掛けた。

 

「そうですね、邪神のことを考えていると酒がまずくなりますし。あ、酔っ払う前に次のダンジョン攻略、都合のいい日はありますか?」

 

ルルに聞かれて、空悟は「しばらく土日なら大丈夫なはずさ。余程大事件でも起きない限りね」と答えた。

 

ミナはそれに「よっし。じゃあ今度こそ次の階層を目指すぜ」と返し、茶碗の酒をがぶりと呷った。

 

そこからはとりとめもない話がしばらく続いて、そして最後に―――文がぼそりと次の行動指針になる言葉を呟く。

 

「……そういえば歌自慢大会のスポンサーは元議員先生なんですよね?だったら、そのなんとかの会みたいな極右団体のこととか知ってても……いや、零細すぎて駄目かなぁ……」

 

「そうだなぁ……手がかりもないし、改の会についてはそっちから調査してみるかぁ。十瑚元議員は市内の老人ホームに入っているはずだし……」

 

ふむ、となめろうの最後のひとかけらを食べて、彼女は首肯した。

 

「ありがとう、清水さん。その方向で動いてみるわ」

 

礼を言ってミナは立ち上がる。

 

「さって、明日で旅行もおしまいだし、次の店に行ってそこで終わっとこうぜ。アキちゃんとタカシくんもそろそろ枕投げに飽きてる頃だろ」

 

「そーだな」

 

そうして空悟、文、そして最後にルルが席を立つ。

 

それから会計はミナの部屋付にして、後でもらうことにして館内の別の店へ移動した。

 

移動の際に空悟がルルにこっそりと何事かを吹き込んでいたようだったが、その内容はミナに聞こえることはなく。

 

一月ほどの後の騒動の発端であったことなど、ミナには何もわかるはずもなかったのである。

 

 

 

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