異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第102話「わかるわーそういうとこわかるわー」

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翌朝。

 

この旅館の朝バイキングには、追加料金でアルコール飲み放題を追加することが可能である。

 

どうせこの後は代行を頼んで家に帰るだけである、とばかりに水門親子は酒を飲みつつバイキングを楽しんでいた。

 

「昨日の海鮮丼も最高だったけど、こうしてカレーをつまみに飲むのも乙よね」

 

「わかるわーそういうとこわかるわー」

 

母の言葉に同意しつつ、鰆の焼きびたしを食んで焼酎水割りを口にした少女はケタケタと笑う。

 

ルルはその様子にハァーとため息をつきながらも、ミナの顔をどこか愛おしげに見つめていた。

 

「おい、ルルゥ……お前、昨日空悟に何を吹き込まれてたのよ?」

 

「それは男同士の約束というものでして……ミナさんにならわかっていただけるものと」

 

いつもどおりに朝食を取らないものの、ミナが酒を飲んでいることからついてきたルルは、昨夜と同じようにオレンジジュースを舐めるように飲みながらそう答えた。

 

「ふーん……そう、そこまで言うなら聞かないわよ。相手空悟だし」

 

「わかっていただければ幸いです」

 

唇を尖らせて不満げに許容したミナに、苦笑してそう返したルルは周囲を見回す。

 

昨日は二日酔いで起きてこなかった商店街の店主たちも今日は殆どが同じ時間に朝食会場へ来ていることに気づき、流石に2日連続はきついか、と少年は得心してまたミナを見る。

 

その隣で岬と恋はじゃれ合いながら朝食を取っていた。

 

そんな水門家のテーブルに近づいてきたのは、みはるの父八左衛門と組合長の与野氏である。

 

「おはようさん。やぁ、愉しんでいるようだね」

 

「おはようございます。どうされました?」

 

ミナが割と大量にアルコールを飲んでいるにも関わらず平素と同じように挨拶をすると、八佐衛門は「いや、こちらの都合に巻き込んでしまったからね。この旅行だけではなく、何かお礼を、とね」と返す。

 

「いや、会議の後も言いましたけど、私ほとんどお役に立ちませんでしたから……」

 

「それだけではないよ。1日目の宴会で、誤ってワインを飲んでしまった娘を介抱してくれたそうじゃないか。ありがとう」

 

「あ、いえいえ。みはるさんが飲酒とかなると、それこそいろいろな人にご迷惑がかかりますから。困ったときはお互い様ですよ」

 

ミナは小声でニコニコと返して、立ち上がった。

 

まだ足元がふらつくほどには飲んでいないことに安堵し、八佐衛門と与野氏の手を握る。

 

「お礼をいただけるのであれば、みはるさんから頂きますので、どうかお気になさらず」

 

報酬と言えば、みはるがいつも持っている扇を一個もらう約束をしている。

 

何十年か後、向こうの世界へ戻るときに持っていれば思い出にもなるし、こちらの世界の素材でできたものであるからもしかすると高額で売却できる可能性もある。

 

ミナにはそれで充分であった。

 

なんとなれば礼金の二重取りはトラブルの元。

 

某なんとかもまたいで通る魔導士のように、街に拠点を持たない流浪の旅人であればそれもいいだろうが、ミナはきちんとギルドに登録した街住みの冒険者である。

 

そうしたことは如何なる場合でも避けておくべきである。

 

「ふむ……なるほど。ではそういうことにしよう」

 

「半グレがいなくなって半年、ようやく神森市は回復する段階に入りました。有望な若者であるあなたたちには期待しておりますよ。それでは」

 

頭を下げた二人に、ミナもまた頭を下げる。

 

そうして思いついたとばかりにミナは「あ、そうだ……十瑚元議員って、どこの老人ホームに入ったかとか知ってます?」と聞いてみた。

 

帰ってくる答えは当然のように。

 

「いや、個人情報だからね。私は知らないなあ。賢治さんはどうだい?」

 

「私も知らないですねえ。神森市は寂れていくばかりだった街。老人ホームはかなりの数がありますし。そもそもなんでそんなことを知りたいのかね?」

 

知らないという答えと、なぜ聞くのかという質問であった。

 

「歌自慢大会のスポンサーで、与党議員だった人でしょう?気になりますよ」

 

嘘ではないが、全ての真実でもない言葉を紡いでミナは後頭部に手のひらを当てて笑った。

 

「確かに気にはなりますか……」

 

与野は顎に手を当て、ふむふむ、と思案して―――「知っていそうな人はいなくもありませんが」と肩をすくめた。

 

「えーとそれはどなたでしょう?」

 

「あなたも知っている人の御父上ですよ。相羽つぐみさんとぬえ子さんの御父上は神森市の副市長なのですよ」

 

与野がそう言うと、ミナは努めて平静に「ああ、確かにそんなこと言ってたような……乾物屋やってるって情報しか頭に入ってなかったです」と頷いた。

 

「もうそろそろ娘と一緒に起きてくるだろう。その時に聞いてみればいい」

 

八佐衛門がそう言って踵を返し、与野も頭を下げて戻っていく。

 

みはるたちが朝食会場に姿を現したのはそれから十数分後のことであった。

 

 

 

「少なくとも私は知らないなあ……つぐみ姉さんは?」

 

「聞~てないかな~~?」

 

相羽姉妹は頭の上にクエスチョンマークを出す勢いで首を捻る。

 

その様子に、ミナはそりゃそうだ、とライスなしカレーをすくって口に入れ、ハイボールで追いかけた。

 

「じゃあさぁ、二人のお父さんにアポイント取るのはできる?」

 

ハイボールのジョッキを机に置いてそう聞くと、「どーかなー」「うーん……」となかなか否定的な言葉が返ってくる。

 

「えーと、ダメ?」

 

「ダメってわけじゃないんだけど、うちの親父気難しくて」

 

「おか~さんともそれで~ケンカしちゃってぇ~今~冷戦状態~~ってやつなの~~」

 

二人は困ったなあ、という風にほとんど同じ顔でため息をつく。

 

「ねえ、ルルさん。なんとかどうにかするアイデアないかな。今回は私やつぐみ姉さんのその、襲われたり入院したりのこともあってさ。長引いてるんだ。頼まれごとを頼まれごとで返すなんてダメだと思うんだけど……」

 

ぬえ子はそう言ってルルの手を握ろうとして、するりと躱された。

 

「そういうことは義姉様経由で頼んでください。僕の判断だけで方針は決められない」

 

にべもなくそう言って、残念そうに手をにぎにぎするぬえ子を一瞬見やって、ルルはミナの顔を見た。

 

そのミナはと言えば後ろで焼いたアジで日本酒を飲んでいる茜を見る。

 

茜は「そのくらい相談のってやんな」と返して、自分の携帯で代行が来る時間を確かめ始めた。

 

「どうせ今日すぐってわけでもないんでしょ?いいわよ」

 

ミナは母の様子を見て、昨日の夜に温泉で聞いた言葉は幻ではなかったのだと感じ、二人の依頼に是と返す。

 

その言葉にぬえ子とつぐみはわぁっと手を叩いて喜んだ。

 

こうして一つの冒険の依頼を受けて、ミナたちが招待された旅行はしめやかに幕を下ろすのであった。

 

そう言えば、とミナは周囲を見回す。

 

出口の方を見れば、そろそろ始まる日曜朝の女児向けバトルヒロインものを見るため去っていく岬と恋がいた。

 

彼女らが外へ出ていくのを見やった後、ミナはぬえ子に「……ところでみはるちゃんは?」と聞いてみると―――

 

「あーみはるさんはねぇ……」

 

「おと~さんに連れていかれちゃったよ~~あはは~」

 

そんな答えが返ってきたのであった。

 

 

 

みはるはその頃、八佐衛門の自家用車の中で父に説教されていた。

 

議題はもちろん、昨夜も懲りずにミナの肌に触れたがり、文の怒りを買うという天丼芸をやらかしたからであった。

 

飲酒については、ミナから「ラベルがジュースのものに張り替えられていた」と昨日のうちに聞いていたのでお咎めなしである。

 

「落ち着きなさい。もう高校三年になるんだぞ。大学受験が待っているんだぞ。わかっているのか、お前は」

 

「はぁい……」

 

「帰ったら母さんにも叱ってもらうからな。旅館の浴場で大騒ぎするなど全く……」

 

「ひ、ひぃ!お母様にだけはどうかご内密に……」

 

「ダメだ!」

 

「あぁぁぁぁっぁぁ~~!」

 

そんなみはるの悲鳴が、八佐衛門の車の助手席から響き渡る。

 

一から十まで自業自得であった。

 

 

 

数日後―――科戸研究所。

 

掘削を繰り返し、研究所へとたどり着いた秋遂は今や格納庫に横たわる形で収納されていた。

 

天井の高さがそこまで高くないため、横でしか格納できなかったのである。

 

『やれやれ……まさかあの分所がまだ稼働状態だったとは……私の計算違いだ。苦労をかけてしまったね、廻、夕。それとミナさんもありがとう』

 

薺川博士の骸骨は、そうしてこの場に姿を表しているミナとルル、廻、夕へと頭を下げた。

 

恋と岬は小学校へ、空悟は警察の仕事を今頃はしているはずなのでここにはいない。

 

そして博士はすぐに『分所は……どうしたかね?』と聞いてくる。

 

「私と夕で徹底的に破壊し、再利用不能と致しました。また、装備品や成果物を保存した格納容器についても、出来得る限り秋遂に牽引させています」

 

『うむ……それでいい。ありがとう。それで、彼女は生きたいと言ったのだね?』

 

廻の報告に薺川博士は追って質問を行い、廻は「はい。間違いなく、消えたくない、と」とよどみなく回答した。

 

「私としては……少し危ういと思うんですけどね」

 

ミナが肩をすくめてそう言うと、薺川博士も『私もそう思う……分所で設計図と異なる作業をしていないか、徹底して解析し、バグを直接利用などの想定外の装備が行われていた場合は撤去し、その後に再起動することとしよう』と答えた。

 

その返答に廻と夕は無言で敬礼をして答えとする。

 

『ミナさん、彼女もまた生まれてしまったからには私の娘だ。どうか、無下には扱わんでください』

 

「ええ、承知しました。とにかく徹底的な調査を、念を押してお願いいたします。バグ利用物が存在した場合は、それを撤去・破壊後に私が浄化・封印します」

 

ミナは薺川の言葉に肯んじ、対処について述べた。

 

それに続けてルルが「仮にですが……最悪の場合、破壊不能オブジェクトと化している可能性があります。それについては僕らがバグダンジョンに投棄しますので、その場合でもお任せください」と答える。

 

「うむ、ありがとう。よろしく頼む」

 

「仲間内で報酬……というのもなんだが、喜べ金髪女。困っていた例の件について薺川博士が融通してくださるそうだ」

 

廻が礼を言い、夕がそれに続きなんらかの報酬があることを指し示す。

 

「え。それってもしかして……」

 

『ああ、錬金工房……だったかな。君たちの道具や武具を作成するのに必要な場所の提供を行おう。幸い、秋遂が掘削してきてくれたことから、それによって作られた空洞を利用し新たな倉庫を建設する準備は整った。それで空いた格納庫の一部を使ってほしい』

 

そうして表情の見えない髑髏が喜色でカタカタと鳴った。

 

「そうですか!ありがとうございます!これでどうにか最悪の場合への対抗手段が作れるわよ!」

 

「ですね―――感謝しますよ、薺川博士」

 

そう、庭に作るわけにも行かないし、メイズ・ウッドをかけた松の木の成長を待つわけにも行かず、どこに錬金工房を作るかの問題が―――バグダンジョンで徐々に素材が集まってくると―――出てきていたのである。

 

魔法的なものを恒常的に扱うため、ミナたちの目が届かなくなる可能性のある場所や、あまりにあからさまな場所―――例えば家の庭―――などには作ることが出来ないだろうと悩んでいたことであった。

 

それが解決したとあって、ミナとルルは薺川へと素直に頭を下げたのであった。

 

『うむ。どういたしまして。私は万一の場合に備えよう。状況によっては機体そのものを破棄する可能性を否定しない。そのため、彼女の思考中枢の調査・保全と予備筐体への複製を優先的に行うよ』

 

返礼をした薺川は、そのまま廻と夕へ向き直るとそう答えて沈黙した。

 

「了解しました、薺川博士」

 

廻がそう答えると同時に、格納庫に銃男に似た頭部が工具箱となっているマニピュレーター付きの金属製胴体を生やしたカートがいくつも入ってくる。

 

それはこの研究所の作業用の端末機械である。

 

薺川博士の手足となって動くものだ。

 

当然彼らはバグを直接使用したものではなく、銃男を元にその構造を真似て制作された作業ロボットである。

 

頭の工具箱から様々な工具やケーブルを出して、器用に秋遂の調査を始めていく。

 

「それでは我々は地上へ戻ります。薺川博士」

 

夕がもう一度敬礼すると、薺川博士は『うむ。吉報を待っていてくれたまえ』と振り向かずに答えて作業へ没頭していった。

 

―――そうして、ミナたちは次の冒険へ行く準備を整えた。

 

次に地下へ赴くのは次の日曜日。

 

空悟は昨日の言葉とは裏腹に折り悪く休みが取れず、代わりに恋が行くことになっている。

 

新しい階層へ赴くに当たり、空悟はいけないことに不満を持っていたが彼には本業というものがある。

 

そこで今回は涙をのんでもらい、次回以降は地上の守りのために廻と夕のどちらかが地上へ残るようになることとなった。

 

悪の組織が二つも出てきては仕方のないことである。

 

「よし、どんどん行こう―――と、その前に今日はバイトだから急がないと」

 

ミナはスマホの時計を見て、足早に地上へのエレベーターを目指すのであった。

 

 

 

一方その頃―――惟神小学校、6年2組。

 

「どーもこんにちはっ!転校生の伊良湖恋です!アイドルしてるけど半分休止中っ!みんなよろしくね!」

 

「どうも、はじめまして。同じく転校生の阿南岬なのです。恋ちゃんほどアグレッシブで派手ではないし、アイドルでもありませんがヨロシクオネガイシマスなのです」

 

恋と岬が教壇の前でクラスのみんなに挨拶をしていた。

 

そう、今日から新学期―――3月3日で戸籍上11歳になった岬は恋と同じく小学六年生としてミナ―――水門三郎の母校、惟神小学校へと転校してきていた。

 

そのためのカバーストーリーはいつものことながら茜が用意している。

 

その事実に内心で冷や汗を流しつつ、岬はこれからクラスメートになる子供たちを前に頭を下げた。

 

さて馴染めるだろうか、と少し不安に思うが、隣で屈託なく笑う恋を見てその不安を和らげる。

 

「うおーすげーいきなり二人かよー」

 

「ちょっと男子うるさいわよー!」

 

子供たちの高い声が聴こえる中、若い女性の先生が「はい、みんな静かに。これから二人のことをよろしく頼みますよ」と手を叩いて黙らせていた。

 

―――そうして彼女たちの新しい時間も始まっていくのである。

 

 

 

 

―――某所。

 

薄暗い和室に、幾人かの人間が正座している。

 

そのうちの二人は、そう、研究所分所を襲撃した牛込と午来である。

 

人々は部屋の真ん中の布団に横たわる老人の前で、神妙にその口が開かれる時を待っていた。

 

「……そうか。本体の奪取には失敗したか」

 

老人のしゃがれた声が室内に響く。

 

寝たきりになっているその老人の口から漏れたものだ。

 

「困ったものだ……これでは大規模なテロルは行えぬ……『七式』……そして異世界からの来訪者……」

 

老人は、さして困ってもいないと示すような声音で面白そうに笑った。

 

そうして牛込の隣に座る者が甲高い声―――聞くからに女性の声で「奪取に成功した装備品の解析は進んでいるのかね」と牛込に話しかけた。

 

「ああ、そこは心配要らないよ……ただ、空間流体の確保ができていない。不規則性流体と違って制御は容易だが、その分理不尽さは不規則性流体よりも遥かに劣るし確保も困難だ……実用化にはもう少しかかるだろう」

 

牛込はそう答えて、面白そうにしている寝たきりの老人を見た。

 

「御老公」

 

「良い……しばしの間は研究所と異世界からの来訪者、そして『七式』を相手に作戦行動を行いなさい……良い練習相手だ……」

 

そこで御老公と呼ばれた老人は咳き込み、ひゅーひゅーと風が漏れるような喘鳴を発した。

 

「御老公!お薬を!」

 

午来が御老公へ近づき、簡易的な人工呼吸器と思われる器具を老人へと装着した。

 

そして数十秒もしないうちに、老人の吐息は正常なものへと戻っていく。

 

「ああ、落ち着いたよ……我が時間は長くはないが、同志たちよ……何かあれば君たちにすべてを任す……今は大願成就のための雌伏の時と思いなさい」

 

『ははっ!』

 

その場にいる幾人かの声が合わさって、御老公への忠誠を示した。

 

「結局の所―――利用しようというのが―――」

 

そこまで老人の声が響いたところで途切れ、安らかな寝息が聞こえてくる。

 

「御老公はお休みだ。本日は散会とする」

 

牛込の隣の隣からそう声が聞こえてくる。

 

薄暗い部屋の明かりで見えるのは、その男が禿頭であり、大日本帝国陸軍の昭和十八年制礼装に身を包んでいることがわかる。

 

その男はこの場では御老公の次の立場なのだろう、それ以外の者たちは彼に頭を下げると次々と起立し退出する。

 

そして、最後に今回作戦を失敗した牛込と午来が残った。

 

「十分な成果である。君たちも退出したまえ」

 

そう促されて、「は」と短く答え牛込と午来も立ち上がる。

 

「次も任す」

 

そう言った男の言葉にピクリと反応して、二人は彼を向き直り敬礼をする。

 

男はそれに軽く答礼すると、御老公の方を見つめたまま動かなくなった。

 

その様子を見た牛込らもまたすぐに退出し―――

 

部屋は沈黙と暗闇に包まれたのであった。

 

 

 

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