異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第105話「よいやさぁ!」

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「よいやさぁ!」

 

ミナの拳を覆う真銀の拳鰐が、なんだか粘液というよりはゼリーのような生命体を打ち砕く。

 

もちろんどこかの超有名RPGを盤石なものにする一助となったモンスターのような愛らしい目や口はそれには見えず、ただただこんにゃくを殴ったような気持ち悪い感触だけが拳に残る嫌な奴だ。

 

そうしている間に嘴が肥大した大きな鴉のようなものが10匹ほどミナに群がってくる。

 

「させるか!」

 

その一瞬で百式機関短銃を抜いて連射した彼女の親友は、転げるように前転すると同じく襲い掛かる準備をしていた手だけが人間の形をしているアリクイの化け物に九四式拳銃を向けて乱射する。

 

ガン、ガンという銃撃音とともに一匹ずつアリクイたちは数を減らしていった。

 

「随分多いですね―――あ、岬さん、恋さん、そのまま動かないで」

 

ルルが上空で鴉を追い散らしている魔法少女たちへ声を掛け、そしてそのまま詠唱を始める。

 

「「えっ」」

 

「動かないでくださいよ。冗談ではありませんからね。偉大なるロジックよ。五光の剣の形を成したまえ。剣を鍛えるは鍛冶の技。なれど作り出す秘密は論理が産む故に。サモン・シャドウグレイブ!」

 

驚いた二人が空中にピタリと止まると、詠唱が完成して―――虚空から20を超える様々な形の剣が生み出された。

 

それはよく見ればどれもこれも剣の形をした魔力の弾丸だ。

 

即ち、いつか生み出される未来の剣の影を呼び出す魔法である。

 

それはルルが唇を笑みの形に歪めると同時に、風の如き速度で鴉たちに殺到する。

 

『ギィヤァァァァァァ!!』

 

鴉たちはその剣を避けることもできず、剣の数と同じ数だけ天井に縫い付けられ、幻の剣が霧散すると同時に地面へ落ちてきた。

 

例外なく死んでいるそれらを満足げに見遣り、上を向くと岬が怯えた恋の頭をなでながら叫んでいる。

 

「危ないのです!でも、助かりましたですよ!」

 

「警告はしました。どういたしまして」

 

岬の抗議と感謝にルルはそう返答して、杖を空悟が相手しているアリクイの群れへと向けた。

 

岬たちにはまだ鴉が群がっているが、先ほどよりも明らかに数は少ない。

 

「今度はこっちか、助かるぜ!でも、三郎ほっといていいのか?」

 

「ミナさんに手助けがいるのは、魔王クラス以上の相手が出た時だけですよ。そういう意味で、廻さんと夕さんは魔王クラスです。物理に限れば下手な魔王以上、というのは恐ろしいものです……」

 

ルルがそう言って、今度はファイヤーボールの詠唱を始めた。

 

「なるほどな!つまりあの秋遂とかってロボットは、それ以上ってことか!?」

 

鍛銀の剣でアリクイの脳天を切り裂きつつ、空悟はそう吠えてルルを一瞬見た。

 

「ええ、そういうことになりますね―――偉大なるロジックよ!寄る辺なく燃える炎を我に!玉となり丸となり弾となし燃やし尽くせ!ファイヤーボール!」

 

アリクイたちはその一撃で吹き飛んで、後には残骸としか言いようのない黒焦げの死体が残るのみ。

 

そうしてミナはと言えば―――緑色の、人間の4倍は背丈のある巨大ガエルの腹に拳鰐を打ち込んでいた。

 

『げぇぇぇぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』

 

その一撃に、巨大ガエルはたまらず口から紫色の反吐を吐き、それはミナが身に着けた青いレザーアーマーと頭のブラックリボンの魔力により、不思議なことにミナの体に留まることはほとんどなく地面に落ちていく。

 

「この程度の弾力で、私の拳が止まるとは思わないことだわ!庚申流、浪打三段!」

 

ミナが掌底にてカエルの腹を三度撫でると、その腹がまるで何かが暴れまわっているように波打つ。

 

『ごぉぉぁぁぁぁぁ!!げぇぇぇぇぇぐぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!』

 

カエルはそうして恐ろしい断末魔を上げながら倒れ伏し、その口から内臓を飛び出させて絶命したのであった。

 

「どう見ても、いつ使っても、どこかの現人鬼の技にしか見えないのだわ……」

 

ミナは自らの放った技に呆れながらも、わずかに残ったカエルの毒液と胃液を浄化の魔法で清めた。

 

踵を返し仲間たちを見れば、戦況はほぼこちら側の勝利と一目で分かる様相である。

 

既にゼリーはほとんど駆逐され、後は残ったアリクイや鴉が空悟たちに蹴散らされておしまいであった。

 

「よし、空悟たちも知ってるだろうけど、今回集めるのはこれだ。頼むぜ」

 

不思議なレンガを3人に見せて、間違わないように念を押す。

 

「ああ、これだな。しかし、錬金工房ってのは材料さえあれば簡単にできるのか?」

 

空悟が鴉が変じた不思議なレンガを見つけてそう聞くと、「最低限はな。不思議なレンガを魔法で加工して錬金窯を作る。それを設置して、魔力の流れと動力源をつないでレンガで覆うんだ。それで妖精の雫を作るくらいは何とかなる」とシュタリと指を伸ばして口をへの字に歪めた。

 

「まあ、本当に最低限の機能しかないものになってしまいますけどね。しかしながら今はそれすら作れない。十分な量の不思議なレンガがないと錬金窯がとても危険な状態になるので……」

 

ルルは頭を振って、ミナの隣で素材の剥ぎ取りを始める。

 

「早くしないとぬえ子ねーちゃんが拙いから、頑張る!」「はいなのです!」

 

魔法少女たちもそうして素材集めを始め―――モンスターたちの死骸が無に帰るまでに見つかった不思議なレンガは7つであった。

 

「7つか……ちょっと渋いわね……」

 

ミナが数を確かめながら、そうして顔をしかめる。

 

「よくないのか?」

 

「いや、レンガ自体はいいんだけどな。数が思ったよりも少なかった。次のフロアへ行こう」

 

ミナは表情をニュートラルに戻して空悟にそう答えると、上に昇る階段を見つけた。

 

「よし、じゃあ次に行きましょう。誰もケガしてないわね?」

 

その言葉に全員が笑ったことを確認して、ミナは階段へと足を踏み入れたのであった。

 

 

 

階段を上ると、そこは―――どこか郷愁を感じる屋敷であった。

 

ダンジョンらしく、部屋数は多いもののそこはたしかに家の形をして存在し、階段もあれば廊下もある。

 

これまでのどこかのゲームで見たものではない、どことなく子供の頃に見たような場所だ。

 

―――奇妙なことに。

 

それはその建材を見ても明らかであろう。

 

「これは……藁、か?」

 

壁が柔らかく刈り揃えられた枯れた植物によっておおわれていることに気づいた空悟は、それに触れてみる。

 

「うん、間違いなく藁だ。それにしてもなんでこんなに藁が……」

 

地面を見れば、土かと思えたそれもまた踏みしめられた藁、藁、藁。

 

そこかしこに束になって、積まれて、あるいは馬の寝藁のごとくに。

 

牧場でもないというのに無尽蔵に、無造作に藁が積まれ続けている。

 

稲か麦か、あるいはそれ以外のなにかなのか。

 

少なくとも、触れて柔らかく少しチクチクするだけのそれらは、ススキなどのイネ科の雑草から作られたものではないことだけは明らかであった。

 

いったい誰が、どうして、どうやって、などと問うべくもなくバグダンジョンの理不尽が生み出したものに違いない。

 

「藁ね―――何が出るやら。どうやらクレーラの瞳とあの研究所分所をクリアしたことが鍵なのかしら……ダンジョン全体の趣が変わりつつあるみたいなのだわ」

 

ミナが独り言つかのようにそう呟いた。

 

ミナを苛立たせるかのような姿のモンスターはもう少ない。

 

本日最初のフロアにしても、某超有名RPG3作目の最初の洞窟とほとんど同じであったが、すでに慣れっこであった。

 

同じように今までのチュートリアルダンジョンの焼直しにしか今日は遭遇していないし、ここに至ってはミナにも訪れた覚えがなく水の流れる洞窟のような記憶再現ダンジョンというわけでもなさそうであった。

 

「なんなんだろーな……ここ……あたい、なんか知ってるような気がするんだよなぁ……」

 

恋が警戒して構えていた鎌を下ろして、不思議そうにそう呟いた。

 

「あー……藁で出来た場所ですから……うーん、なんか思い出せそうなのですけども……」

 

岬もまたこめかみに指をあてて唸る。

 

「ミナさん、空悟さんはどうです?」

 

魔法少女二人が見おぼえあった、それも恋―――つまり年若い日本人が知っているようなものである、ということにルルは気づいたようだった。

 

「うーん……まあ私もそうね。なんだか見覚えがあるような気がするわ」

 

「同意だぜ。小さいころに見たようなそうでないような……」

 

二人とも首を捻るが、なかなか思い出せない。

 

その様子に、ルルは一つの確信を持つ。

 

「ミナさんたちが全員知っていて、僕が全く覚えがない。この時点でやはりこのフロアの基本組成は地球の何かに違いありません」

 

「あ、つまり……日本人なら誰でも知ってるような話から持ってこられている?」

 

ミナもその言葉に気づいて、周りを見回した。

 

「藁……わらしべ長者じゃぁないだろ。あの話なら藁は一本しか出てこないはずだし」

 

空悟がそう言うと、「そうすると数は限られるわな。進んでいってみりゃあわかるだろう」とミナは藁だらけの闇の奥を見つめた。

 

「なんか湿ってるし、わかるようなわからんようななのですねぇ」

 

岬はそうしてふわりと浮いて、ミナたちの頭上を守るように飛ぶのだった。

 

―――そして屋敷の奥へと進んでいく……

 

現れた魔物は、奇妙に崩れた巨大ネズミやゴキブリがほとんどだ。

 

この中で一番弱い恋でも余裕で殺せる程度……つまり、グリッチ・エッグでは下水道によく巣食っている連中の強さと大差はない。

 

しかし、数だけは多い害獣害虫の群れはレンガどころか何も落とさない―――そんな事態が暫くの間続いた。

 

「うーん、マジでなんも落としやがらん……」

 

ミナがそうして髪を掻いてぼやくが、ぼやくだけでは何も起きることはない。

 

そうして、しばらく経って―――屋敷の奥と思われる暖炉の部屋へ5人は踏み込んでいた。

 

そこには、椅子とその上に座っているぬいぐるみが一つ……

 

「……ったく、ジョーダンじゃないわよ」

 

そのぬいぐるみは―――豚の形をしていたのであった。

 

 

 

その頃―――どこか。

 

ふわふわとした場所に浮いているのをぬえ子は感じていた。

 

(あっれぇ……私、どうしたんだっけ……?)

 

脳裏に胡乱な疑問が湧くが、そのふわふわとした全てに溶けていくようで、その疑問もまた胡乱なる思考の彼方へと消えていく。

 

ふと開いた目を周囲に向けてみると、遠くで―――どこかで見覚えのある―――月と星のタトゥーを持つ少女が、安らかな表情で中を流れていく様子が見えた。

 

―――そして、同じく。

 

「父さ……ん……?」

 

白髪の男性が。

 

彼女の父、新司が―――ただしっかと眼を瞑って、流れていく。

 

ふわふわと風がそよいで、どんどん気持ちよくなっていく。

 

父がなぜここにいるのか疑問が起きたが、それも一瞬のこと。

 

彼女の心は、この胡乱で安らかな空間に溶けていくように眠りについたのであった。

 

 

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