異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第108話「笑わねえよ、勇者様よ」

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結果として言えば―――

 

「矢だの雷撃の罠だの!今更私に通じると思ってか!」

 

回転床を避け、空中に飛び上がった勇者とその仲間たちは、どこからともなく降り注ぐ矢の雨と雷撃光の罠に襲われることになった―――が。

 

それらはすべてミナとルルの作った障壁の魔法と魔法少女たちの魔力弾によってすべて迎撃されていた。

 

「力技ァ!」

 

ミナに抱えられて飛んでいる空悟がそう叫ぶが、ミナは意にも介さず「はいまっすぐ行けばゴールだから文句言うんじゃねえよ!」と叫ぶのみだ。

 

「まぁ、回転床の罠でくるくる回ってニャンコの目するよりはマシだとは思うのです。あたしたちだから出来る芸当ですけども―――偉大なるロジックよ!力の矢となれ!砕け!エネルギーボルト!」

 

岬がそうしてエネルギーボルトを三連射し、射線上の矢をすべて薙ぎ散らした。

 

3分も飛行すると、そこは既に階段のある部屋の入口だ。

 

―――回転床を通らなかった者たちを待ち受けるかのように、部屋には大量の魔物たち―――どこかで見たような魔物たちがひしめいていた。

 

「ルル!岬!恋ちゃん!お願い!私は手ぇふさがってるから!」

 

その言葉に呼応して、岬と恋は合体魔法を、ルルはフレアー・クリメイションの詠唱を始める。

 

「光と希望と明日の翼!」「羽撃け未来のエネルギーッ!!」「「マジカル!!サンダーバード!!ストライクゥゥゥゥゥゥゥ!!」」

 

「世界を支配する偉大なるロジックよ。凝縮せよ。増大せよ。威を知らしめんがため。地獄の業火を呼び覚ませ。我が前のものすべてを焼き尽くし原初の姿へ葬送せよ。フレアー・クリメイション」

 

光の鳥と爆炎の棺が魔物たちを襲う。

 

それはほぼ一方的な蹂躙であり―――その場にいる殆どの魔物が倒れ伏した。

 

「よしっ!三人ともありがとう!空悟、下ろすから地面に注意しろよ!」

 

そうしてまだ爆光と爆炎によって焼き尽くされ燻っている地面に二人揃って着地する。

 

「おおっと!」

 

まだマグマの如き朱色を見せている地面に片足を突っ込みそうになり、空悟は慌てて後ろへ下がった。

 

「うーん……」

 

空悟は唸る。

 

―――唸る理由は簡単だ。

 

「―――あれなんだと思う?」

 

そこに何者かが存在していたからだ。

 

サンダーバードストライク、フレアー・クリメイションを食らってなお生きている何者かが。

 

『フッフフフフフフ……』

 

そこには、ゆっくりとその手の魔力光を自慢するかのように掲げるローブの男がひとり立っていた。

 

『よくぞ来た、我が名は―――である』

 

その名前はくぐもって掠れてよく聞こえない。

 

だが、ミナと空悟にはよくわかった。

 

それは―――自分たちが作ったネタゲーの、或いはこの城の元ネタであるゲームでの。

 

「あーバラ○ス軍の大幹部のエビ○マージだな、あれ」

 

「小説版だけだよな、それ。てか、よく覚えてんな」

 

「思い出したんだよ。さっきな」

 

後ろにルルと岬、恋が着地する気配を感じながら二人はそうして顔を見合わせた。

 

「んー……アレは魔法が効いてないのではなく、防御魔法か何かで弾いてますね。直接殴るのが一番でしょう」

 

「マホ○ンタ……でもないか。あれなら直接反射されるだろうし」

 

ルルの意見にミナはそう分析して、「……よくグラフィック作ろうと思ったな、オレら」と空悟にこぼした。

 

「なんか誰かからデータもらったような気もするが覚えてないな……プリセットのになんかいいのあったんじゃねえかな……?」

 

そう中学時代のうろおぼえの記憶に苦しめられるミナと空悟に、ルルは「前衛の出番ですよね」と笑った。

 

「あー、うん、そうね。ここは私が行くわ。あんたの葬送の魔法に、高位魔法に匹敵する岬たちの合体攻撃でダメージ食らってないんだから、私が出るほかないわ」

 

ミナは無限のバッグから金剛石の長剣を取り出して正眼に構える。

 

赤く焼けただれた地面の向こうでは、緑色のローブを纏った男がまだ含み笑いを続けている。

 

そこに意思の輝きは見て取れない。

 

長男豚や次男豚とも違った、おそらくは通常のバグモンスターであろうとミナは判断した。

 

「よし、じゃあ行くわよ!」

 

焼けただれた地面を避けて、壁を―――重力に逆らうかのごとくに走る。

 

魔法のたぐいは何一つ使ってはいない。

 

身軽な森人が軽装であるからこそ出来る芸当だ。

 

そんな忍者めいた挙動で男に迫るミナに、邪悪なる魔道士はその輝く掌から氷の嵐を撒き散らしてくる。

 

それはまさしく嵐。

 

おそらくは最低温度は摂氏マイナス100度にもなろうか。

 

否、最も冷たい場所は液体窒素のマイナス196度にもなるだろう。

 

それに対してミナは苦悶の表情を浮かべる。

 

だが、勇者は止まらない。

 

彼女の太陽の髪を黒く彩る飾帯は、あらゆる状態異常を撥ね退ける力を持つ特殊装備であり、完全に全体が氷結でもさせられない限りその体は低温と烈風でダメージを受けたとしても十全に動く。

 

死ぬほど寒く、痛く、辛くとも。

 

かつて女騎士と旅していたころに死を模した騎士たちと戦った時のようなことはあり得なかった。

 

『―――ぬ』

 

一声呻くがもう遅い。

 

ミナの剣閃は既に男の右腕を断ち切っていた。

 

『―――ド』

 

しかし、なんの痛痒も見せぬかのように邪悪な魔道士は氷嵐の魔法を続いて発動させる。

 

やはりゲームのキャラでしかないように見える。

 

多くのゲームのキャラは、例えHPが1であっても生きているなら全力の戦闘力が発揮できるのだから。

 

「ちぃ!」

 

ミナは痛み寒く辛いが、しかし寒さにかじかむことも痛みに鈍ることもない腕を振る。

 

まだ回復魔法は必要ではない。

 

後一度だけ剣を振るえばあのローブの男は簡単に両断できるだろう。

 

右頬を覆う氷をひと拭いして、ミナは再び剣を構えた。

 

「―――あれ、大丈夫なのか?」

 

警戒してサブマシンガンを構えながら、空悟はルルにそう聞いた。

 

「ええ、大丈夫ですよ。防御魔法を全然使う気はないみたいですが、肉体的ダメージはほとんどないでしょう。あの程度でミナさんの抵抗力とブラックリボンの状態異常無効化を突破することは出来ない。後少しで終わります」

 

その答え通りに、数秒後にミナが長剣を横薙ぎに振り抜くと、邪悪な魔道士はその首を命脈と共に断ち切られて沈黙する。

 

勇者はその血を払ってふう、と息をついた。

 

『……フフフフフフフフ……』

 

男は首だけになっても不気味に笑い続け、やがてバサリと崩れて砂になって―――

 

「おわぁっ!?」

 

その砂が急に膨れ上がって、レンガの山になっていく。

 

おおよそレンガ50個ほどに収束・分裂して、現象は収まった。

 

「あーびっくりした……たまにあるけどいつ見ても心臓に悪いわ」

 

バグモンスターがドロップアイテムを落とすときに、体以上に大きかったり多かったりする物を落とす場合、このように急激に膨れ上がることがあり、ミナは足元で急に起きるそれは本当にびっくりするからやめてほしいと思っている。

 

本当にたまにしかないため、慣れないものは慣れないのであった。

 

「まあそれはともかくとして、不思議なレンガがいっぱいか……なるほどね」

 

ミナはそうして、邪悪な魔道士の氷嵐の魔法を受けて熱が収まった地面を駆けてくる仲間たちを見た。

 

「ミナさん、平気ですか?」

 

「うん、もう平気。それよりも不思議なレンガが一気に手に入ったわ」

 

ミナの言葉に、岬が「おお……すごい量落とすものなのですね……」と感嘆する。

 

「うーん……ドラ○エはよくわかんねえんだけど、中ボスがレンガいっぱい独占してるから途中のモンスターは持ってないのかな……」

 

恋がミナと一緒に無限のバッグにそれを放り込みつつ、そんな感想を述べた。

 

「そうかも。確か、私と空悟で作ったゲームはボスはみんな何かしらドロップするように作ってたはずだから……」

 

彼女はそうして最後の一個をバッグに放り込んで、立ち上がった。

 

足についた埃をパンパンとはたいて落とし、先を見つめる。

 

階段が口を開け、さあ来いとばかりにおどろおどろしい気配を放っていた。

 

「……とりあえず一旦休憩しましょうか。必要分の半分はこれで手に入ったわけだしね」

 

ミナは階段の前に行くと、そこから吐き出されるおどろおどろしい気配を封じるために呪文を唱え始めた。

 

「世界を調律する我らが祭神よ。世を蝕むもの。真なる邪悪。生まれ落つる世界蟲を正しき姿へと調律し給え。塵は塵に、灰は灰に。歪みと過ちは正しき姿へ。我らの持つ原罪を許し給え。どうか我らを聖なる地へ導き給え。ホーリー・フィックス!」

 

ミナの青い宝玉の嵌った杖が白く輝き、階段を覆う。

 

すぐに調和神の聖印が地面に描かれ、階段から漏れ出てくる邪気を封じていった。

 

「よし。ここでしばらく休憩しましょう。眠っててもいいわよ」

 

「岩が焦げた臭いが凄くて無理だよ、ねーちゃん★」

 

恋はルルが敷いたブルーシートの上に座って、そういたずらっぽく笑う。

 

「それもそうか……じゃあ、みんな階段の近くに来て。完全に結界化してる部分なら外と遮断できてるから」

 

「なお、僕も入れます。僕はミナさんの下僕なので。入ると多少不快なので、離れて敷きましたけども」

 

ルルはそう言うと、恋に立つように促してブルーシートを聖印が描かれたあたりへと敷き直した。

 

「……ルルにーちゃん?不快って、どのくらい不快なん?」

 

「そうですねぇ……例えるのは難しいですが……スープに嫌いな具が入っていて、それをひとすくいひとすくいじっくりと味わわなければならないような感覚……でしょうか。調和神は、僕を調和の一部として認識しているようなので、アンデッドである僕にもそこまで害がないのです」

 

ミナの隣に座ったルルは、そうして不快感を消すかのように眠気覚ましのガムを一つ取り出して口に入れた。

 

スッとするハッカの味と臭いが口と鼻腔に広がり、ルルはふぅと息をついた。

 

「まあそこまで気にするものではありません。それより、初めてバグダンジョンへ踏み込んであなたのほうはどうです?」

 

ルルはそうして恋の目を見る。

 

後ろから岬が睨んでいるのがわかったが、それはそれとして話を続けた。

 

「恐ろしいですか?辛いですか?」

 

「それはあるけど……」

 

恋はんーと髪を掻いて、天井を見上げる。

 

「気持ち悪いモンスターも多いけど、面白い!怖いけど!」

 

ニカっと笑った彼女に、ルルと彼の主人は満足そうに頷いた。

 

「ならいいですよ。この程度で怖がりすぎても楽しみすぎても問題ですからね」

 

「そうね。おおよそ、ここまでに出てきたのは初級冒険者が相手にするようなモンスターばかりだったわ。岬との連携メインだけど、ちゃんと対処できてたし……」

 

二人は顔を見合わせる。

 

見合わせている二人に、勇者の親友は「で。合格でいいのか、三郎」と声を掛けた。

 

「そりゃもう、モチのロンさ。ぬえ子ちゃんがさらわれた時も、敵の逃げた方角だけ確認してすぐにこっちに来た。自分だけでなんとかしようとしないのは、冒険者の美徳だぜ」

 

ミナは言う。

 

冒険者は結局の所、ヤクザものと変わらない無頼の徒である。

 

冒険者ギルドや国の法律、その他諸々に縛られているだけで、基本的には仲間以外の何者も頼れない職業なのだと。

 

だから、きちんと仲間を頼ることを第一に考えて、岬に連絡し水門家へと急行した恋は間違いなく冒険者で食っていけるはずだ、と。

 

危機が訪れた時、一人で解決に向かう者は英雄になれるかもしれない。

 

だが、冒険者としては失格なのだ、と。

 

「恋ちゃん、○ースシリーズとか知ってる?」

 

ミナは恋のそばによって、彼女の肩を抱きかかえて笑う。

 

「あー……みはるねーちゃんにやらせてもらったⅢのスーファミ版しか知らないけど……」

 

青髪の魔法少女が、困惑してそう答えると、ミナは頷いた。

 

「あの赤髪の冒険者に近い人は、私がいた世界にもいたわ。でも、冒険者とは呼ばれず、冒険家と呼ばれた。何故か分かる?」

 

ミナは柔らかい笑みで恋に問いかける。

 

空悟と岬がなにか言おうとしたが、ルルが唇に人差し指を縦に当てて言動を阻んだ。

 

恋はまた天井を見上げる。

 

見上げて、十秒もしないうちに答えは出た。

 

「―――自分一人で死んでも、誰も文句を言わないから?」

 

恋の言葉にミナは首肯する。

 

「そう。自分だけで一人死んでもいいなんて考えの人は冒険者じゃないわ。そんな冒険を求める人は冒険家、特定の目標を駆逐する人は駆除者、どちらにも当てはまらない人は無頼漢と呼ばれたのよ。例え、冒険者ギルドに登録している職業:冒険者であっても―――ね」

 

ミナはくすりと笑って、バッグから青い色の宝石が飾られたペンダントを取り出した。

 

「そりゃあなんだ?」

 

空悟が指差してそう聞いてきて、ミナは何でもないことのように「オレが冒険者になった頃にはなかったんだけどな。100年くらい前に導入されたギルドの階級の証明書みたいなもんだ」と微笑む。

 

「なんかサファイヤみたいなのですね」

 

岬がそう聞くと、ミナは「鋭いわねー」ときょとんとした視線を向けた。

 

「これはクレーラの瞳の粉を加工したものでね―――ギルドが認定した階級に合わせて、色変わりしていく不思議な石なのよ」

 

ミナはそうして、それを掲げて懐かしむように瞳を細める。

 

「いやね。私もさ。勇者―――なんて呼ばれる身分じゃない。最上位の色が金色なんだけども、それに上がれってアホみたいにいろんな人に言われたわ」

 

その言葉にルルが少しうんざりした顔になる。

 

その顔のまま「あの連中をどれだけ爆破したかったことか」と瞳を閉じてため息をついた。

 

「そう言わないの。あの人らも大変なのよ―――でも、私達はバグダンジョンを踏破する権利さえあればよかったからね」

 

と無限のバッグから母が作ってくれたお弁当を取り出しながらケラケラ笑った。

 

「銀まで行くと、国に所属することになっちゃうのよね。でも、バグダンジョンと邪神の計略―――それは国では対処できないことよ」

 

ミナはいつの間にかワインの瓶を取り出して、コップに注いでいた。

 

「対処するだけならマジモンの勇者として国に祭り上げられるでも出来るは出来るけど、一切勝手なことできなくなるしね……」

 

注いだのはロゼワインのようで、その桜色の透明な液体を見つめて、彼女はその向こうに遠い過去を見ているようであった。

 

「あのエビ〇〇ージもどきのおかげで、すこーし余裕出来たし―――その頃の話、聞きたい?」

 

ミナはワインをグイと飲みながら、一党の面々に聞いた。

 

「聞きたいのです!―――いや、そんなこと言ってる場合ではないのはわかるのですけれども!」

 

「あたいも岬ちゃんと同じかな……ミナねーちゃんとルルにーちゃんの話、あんまり聞いてないし……」

 

魔法少女二人の言葉に勇者は肯んじて親友を見た。

 

「空悟、笑うなよ?」

 

「笑わねえよ、勇者様よ」

 

ミナに注がれたワインを掲げながら、空悟は渋い顔をした。

 

その渋い顔に満足気に頷いて、ミナはバッグからハープを取り出す。

 

遠い日の詩を詠うために―――

 

 

 




次からまた過去編です。

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