異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第11話「いやぁ、とりあえず丸く収まってよかった!」

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半グレの集結と暴動。この事件そのものはうやむやなまま決着がついた。

 

彼らが不法に居住していたと思われる廃墟のいくつかがもぬけの殻となり、そこにいたと思われる人間たちは行方不明ということで処理された。

 

集結していた兵隊たちも指示がなくなるとおおよそは自分たちの住んでいた場所へ戻っていく。

 

―――逮捕者120名、精神異常による入院117名、行方不明者131名。

 

動機不明、首謀者不明、経緯不明。

 

それが、後に神森半グレ暴走事件として知られるこの異様な事件の結果として残ったのであった。

 

一方でうやむやに終わらせられなかったのは集成党である。

 

ミナがばらまいた国家転覆、暴力革命謀議の証拠の威力は絶大であった。

 

神森市支部がもぬけの殻となり、議員居住区画が更地になっていたこともあり、長年公安監視団体となっていた彼らに遂に公安の本格的な捜査の手が伸びたのである。

 

各SNSは半年以上にわたる大炎上が起きることになったが、マスコミは奇妙にもこの炎上や公安の捜査についての報道を徹底的に避けていた。

 

更には言論統制と異民族弾圧で悪名高き某国が、自由な政治活動への弾圧である、などとお前だけには言われたくないとどこの誰であっても絶対に反論するであろう批判コメントを出して世界にまで飛び火していることすらも無視している。

 

それがネット上の炎上をさらに煽り、遂には集成党の主要な議員は離党を表明。

 

しかしながら彼らの作った新政党もまた公安監視団体として指定され、次の国政選挙は絶望的とみられている。

 

―――失踪した神森市集成党支部に当日滞在していた議員、職員が見つかることはなかった。

 

神森市集成党神隠し事件と神森半グレ暴走事件。

 

この二つの事件はネット上の好奇心あふれる人々によって面白おかしくつなぎ合わされ、やがて神森はオカルトマニアの定番スポットになることとなる。

 

そしてこの二つの事件が同時に語られるようになると、神森半グレ暴走事件についてマスコミの報道はぴたりと止んだ。

 

それがまた憶測を呼び、10年ほど前の左派政権の失敗と合わせ、1世紀は日本国に中道左派よりも左の思想を持つ政権は現れないだろうという言説が定説となる。

 

とばっちりを食らったのは、その失敗した左派政権の成れの果ての泡沫野党たちであり、彼らも次の選挙で大きく議席を失うこととなるだろう。

 

しかし、そんなことはミナには知ったことではなかったのだった。

 

じゅうじゅうと脂の溶け焦げる音を上げながら、網で肉が焼けていく。

 

「「「「かんぱ~い!」」」」

 

その光景を見ながら、4人は祝杯を挙げた。

 

ルル以外の3人はビール、ルルはトマトジュースで。

 

ここは中華の井坂の隣にある焼肉屋「OZAWA」。

 

本当は中華の井坂で久々の平和な飲み会をやりたかったのだが、中華の井坂は半グレ事件の際にチンピラの投石による被害を受け、現在店の改装中だったためその隣のここが会場となったのである。

 

「ぷは~っ!いやぁ、とりあえず丸く収まってよかった!」

 

「うちはまだ大変だけどな!」

 

ミナと空悟はもう一度杯を合わせて乾杯した。

 

「そんなことより本当の本当に水門先輩なんですか?」

 

「いい加減信じてくださいよ、フミ殿。ミナさんが悲しい顔しちゃってるじゃないですか」

 

まだミナに疑いの目を向ける文にルルはジト目でそう返した。

 

「いやあ、そんなことはないよ。いつか信じてくればそれでいいって」

 

耳の星型ピアスを指で弾いて、もう一口ビールを口にするミナを見て、文はハァと息をつく。

 

「可愛らしくなっちゃってまあ……あのデリカシーの欠片もないボッチマンと同一人物とは思えません」

 

「ひどいっ!清水さん、ひどいよそれっ!?俺は悲しい!辛い!」

 

「ボッチマンだったのは本当だろうが」

 

文の暴言に反論しようとするが、左胸に「溝呂木」と白文字で大書された黒いポロシャツを着た空悟にツッコまれてしまったミナはよよよと泣き崩れた。

 

もちろん演技である。

 

「やめろ!気持ち悪い!!」

 

「ミナさん、そういうことしても、僕を含め友人知人は誰もしおらしいなんて思いませんからね」

 

男二人のツッコミは容赦がなかった。

 

焼けた肉にニンニクダレをつけて口に運んで文は「焦げますからね」と微笑む。

 

「そうそう、焦げる焦げる」

 

ミナは未使用の箸で焼けた肉を網から回収して、全員に配る。

 

「お待たせしました」

 

配り終えるとほぼ同時に、朴訥な印象を受ける店員がキムチとナムルを持ってきた。

 

「ありがとうございます」

 

ミナはニコニコとそう返す。

 

「やっぱり別人な気がするんですけど。5年前の水門先輩ならそんな店員に気を使ったセリフは出てきませんでした。失礼をとがめた私に、言うに事を欠いて『金払ってるんだからいいでしょ』と抜かしたことを忘れていませんからね」

 

「ぎゃあああ!やめて!死ぬ!死んじゃう!俺もあっちで苦労したんだって!交渉とかも致し方なくやんなきゃいけなくて愛想だってよくなったんだって!だから勘弁して!!」

 

「しません」

 

必死で言い訳するミナであったが、文は辛辣であった。

 

そうしてミナいじりを中心に和やかに会は進んでいった。

 

途中で店長のおばちゃんに話しかけられた気がしたが、酔いが回ったこともあってあまり良く覚えていない。

 

3時間ほどして、お開きとなった時、時間は2200を過ぎていた。

 

そして4人はいったん水門家までタクシーで戻り、今野夫妻は茜に預かってもらっていた子供たちを引き取って帰っていった。

 

ミナは会の途中で空悟が言っていたことを思い返す。

 

『これからどうするつもりだ?』

 

その言葉が耳に残っていた。

 

「勉強して、バイトでもして、異世界に帰るまでダラダラお休み……ってわけにもいかなくなっちゃったなあ……」

 

何が起きているのか、それを調べないといけない。

 

異世界の存在による混乱など、ばらまかれてはたまったものではない。

 

何より前世の彼と今世の彼女の人生を狂わせたあの邪神が生きているなら、死んでいたとしてもそれが遺したものが存在するのなら、彼女が始末しなければならないだろう。

 

ふと窓の縁に座って満月の夜空を眺める。

 

ひんやりとした空気が、酔いで火照った体に気持ち良い。

 

晩秋の空は冷え冷えとして、彼女の息を白く彩る。

 

月も星も、いつかと変わらずそこにきらめいていた。

 




とりあえず第一部オタワ。

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