異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第110話「仲間を補充しよう 昔のお話Ⅲ②」

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そして翌日。

 

ミナたちは今度こそ塔の下までやってきていた。

 

「さて、そろそろか……依頼書とあんたの話が正しいなら、ここらに―――いるのよね?」

 

「でやんす。生存者の報告によれば、それは外に放置されているはずです」

 

もう三下みたいな口調を隠しもしなくなったウィルプは、連れてこられたときとは違って動きやすいショートパンツとソフトレザーアーマーに、磨かれた黒い刀身のナイフを身に帯びている。

 

油断なくミナの隣を歩くのを見て、ミナは彼女がなんだかんだと修練を欠かしてはいなかったのだろうと安心した。

 

―――そうして塔へ近づいていけば、その周りには低木の林が出来ていて、その木々に隠されるかのように―――

 

「いましたねえ。石化された上級冒険者のみなさんが」

 

ルルは何でもないことのように言って、しかし杖を油断なくそちらへ向けた。

 

そう、そこにあったのは―――否、いたのは。

 

「……いやあ、20人で全滅かよ……これじゃあオレらか、でねっきゃ別の勇者呼んでこなきゃあかんわ」

 

ミナは男の口調でそう呟いて、その石像を。

 

全滅した上級冒険者達の成れの果てを見つめた。

 

「ルル?助かりそうなのはいる?」

 

ミナにそう聞かれるとルルはニッコリと「全員かなり強力な石化の呪いを受けてはいますが……さすがは上級冒険者と呼ばれる輩です。少なくとも、一人として死んではいませんね―――ただし」と唇を人差し指で指しながら笑った。

 

「ただし、なんでやんすか?」

 

「まあせいぜい持って3日でしょう。それ以内に呪いを解けなければおしまいです。全滅ですね―――うーん、昨日の酒盛りは余計でしたねえ。大きなロスです」

 

「うっさい。間に合わす」

 

ミナはルルの軽口にそう答えて、長年の従者となりつつある彼の瞳を見る。

 

死の気配に敏感なルルだからこそ、それははっきりと分かる感覚であった。

 

「ふむ……じゃあ、リムーブ・カースでどうにかなりそうなのは―――と」

 

ミナは石像たちのうち、幾人かを確認して、一人の男を見つけた。

 

「あれま……ラディ・クリュブくんじゃない……まあ、10年もたちゃあ上級にくらいなるか……随分と鍛えたみたいね。生命の術が得意じゃない私でも、感じれるほどに生命力を感じる……」

 

彼女が触れたその石像、否、冒険者はそんな名前をした只人の戦士であった。

 

ミナたちが録を目指して旅立った頃は、ほんの駆け出しだったはずであったが、時間の流れるのは早いものだと感慨深げに微笑む。

 

「うん、前衛私しかいないし、ウィルプには斥候に専念してもらいたいから―――彼に決めた!他には呪い解けそうなのいないし!」

 

「いーんでやんすかねえ……あっし、あんまりこいつらにこの格好見せたくないんスけど」

 

ブー垂れる三下受付嬢にミナはフッと笑って、「この子、猫かぶってた頃のあんたにぞっこんだったし、おっぱい押し付けて黙っててって言えば黙るわよ」とにべもない事を抜かした。

 

「げっ!マジすか……だから今でもあっしに絡んでくるんスかねえ……めんどくさ……あっし、グイグイ来る野郎はいっちゃん苦手なんでやんす」

 

げんなりとしてひどいことをいった彼女に、ミナは「脈なし、と。悲しいなあ、ラディくん」とケラケラ笑いかける。

 

ミナはそうして、彼に手をかざして調和神へと祝詞を上げた。

 

「世界を調律する我等が祭神よ。停止と切断を。世界と心に縛られし執着を絶つ力を与え給え。リムーブ・カース!」

 

魔法陣が一つ、なにかに耐えるような表情で固まる青年の下に形作られ、それが回転しながら光を放ち上へと昇っていく。

 

それが完全に消えた時、色を失い石と化した男はその色と柔らかさを取り戻し、一瞬表情を固めてからそのまま地面へ倒れ込んだ。

 

その肩を支えて、ミナは彼を立たせる。

 

ふるふると頭を振って「ここは……?」と呟き、キョロキョロと周りを見回した彼はミナの顔を認めると宙空に「!?」が浮きそうな味わい深い表情となった。

 

「よっ、久しぶりねラディくん」

 

「―――み、ミナの姐御にルル!?生きてらしたんで!?それに、ウィルプさん!?そ、その姿は!?」

 

右手を崩れた敬礼の形にして、補助無しで立ち上がった彼に挨拶したミナに、ラディは困惑した表情と言葉を向けてくる。

 

「まあ積もる話は道中で。今は塔をクリアすることだけ考えて。でないと後3日でみんな死んじゃうわ」

 

そう言われて、ラディはハッとして周囲を見回して―――そこに自分のパーティメンバーたちがいることを確認した。

 

「ヴィス、イライザ、ゼクスタント―――くっ、そぉ!俺たちが何も出来ないなんて!!」

 

悔しげに低木を拳の脇で叩き、ミナを見た。

 

「お願いです!俺も連れて行ってください!仲間を死なせるわけにはいかないんだ!」

 

「お願いされんでも連れてくわよ。ねえ、ウィルプ」

 

直角90度で頭を下げたラディに困ったミナは、話をウィルプに振る。

 

そして振られたウィルプは「くれぐれも邪魔すんじゃねえでやんす、三下。いいでやんすか?報告受けっ時毎度言ってる話ッスけどねえ、大雑把は今回は認めないでやんす」と受付嬢やってるときと同じ表情で三下口調をぶつけるのであった。

 

「うぃ、ウィルプさん……?」

 

いつもと全く違う様子のウィルプにラディは困惑する。

 

その様子に、10年前盗賊をしていた頃の彼女をミナは思い出した。

 

もともと彼女は一般庶民の出である。

 

両親が流行り病で亡くなった後、なんの偶然か彼女は子に恵まれなかった良家の老夫婦の養子として引き取られた。

 

ハーフエルフは、只人よりも寿命が長く、森人よりも頑健な肉体を持つ上に、只人との子供はおおよそ7割以上の確率で只人が生まれるため、こうした良家の養子になることも多い。

 

しかし、義両親が亡くなってからすぐに親戚たちに財産を奪われ元の庶民に戻ることとなった……

 

そして、義両親が遺したものの中でわずかに親戚たちに奪われなかったお金や―――いま身に付けている黒い短刀を持って冒険者となった。

 

ありがちな話ではあるが、彼女は冒険の中で仲間を失い、義両親の死の真実と親戚たちに奪われた物がなんであるかを知り、冒険者ではなく盗賊に―――即ちならず者となって走り出す。

 

―――やがて彼女の戦いはミナの冒険と交錯して今に至るのだ。

 

そんな彼女であるから、ラディはまだまだ未熟と見えるのかも知れない。

 

ミナはそんな二人を微笑ましく見つめて―――

 

「姐御?」「ミナさぁ?」

 

首根っこをひっつかんで歩き出した。

 

「ちょっとまって姐御!?どういうこと!?」「ミナさん落ち着いて!?」

 

「うるせーバカ!一刻を争うってんだよ!ルル!あの腐れタワーの間抜けドアの解錠よろしく!」

 

そうしてズルズルとハーフエルフとヒューマンファイター男、略してHFOの青年を引きずって歩くミナをダークエルフの暗黒魔道士がついていく。

 

真白き全くつるつるとしたその外壁は、登れるとはとても思えない。

 

「ミナさん、割と厄介な玄関ですよ。ただアンロックかけると罠が発動するようになってます」

 

「ほら、ウィルプ出番よ。私とラディはフリークライミングできないか壁を調べるから」

 

首根っこを離したミナにトンと背中を押されて「しゃあないっすねえ」とウィルプはルルと一緒に塔の扉を調べ始める。

 

そのいつもの受付嬢の姿と比べると遥かに軽装で肌色の多い姿に、ラディはまた頭の上にはてなマークを浮かべていそうな顔で困惑していた。

 

「……姐御、なんなんすかね、あれ」

 

「あー……あいつ、私のパーティにいたことがあってね。10年以上前のことだけど、あの頃はあんな感じだったのよ」

 

疑問にそう返したミナはラディの顔を見た。

 

その顔は―――なんだか、惚れ直したと言ってるかのようで、「ま、あの子はどっちかってーとおじさん好きみたいだから、諦めずにアタックし続けてみれば?」と自身の恋愛にはまるで疎いのを棚に上げるかのようにそうしてラディの腰を叩く。

 

「―――頑張るっす」

 

「頑張れ。私には頑張る相手がおらんから頑張らんが―――」

 

と無駄に真剣な顔でそんな会話をしてから、ミナは壁を触った。

 

「登れると思う?これ」

 

「うーーーん……楔はいくらか持ってきてますけども、これって多分2~300キュルあるっすよね。例え楔が刺さったとしても、500とか1000本とか使わなきゃならねえ。無理とは言わないが、難しいっすね」

 

それにはミナも同意見であった。

 

東方世界でミナが修めた庚申流気功術を駆使するならばおそらく登れるだろうが、それで登れるのは己一人。

 

無理をしたとしてもルルと二人で登ることになるだろう。

 

飛行の魔法であれば全員で行くことも可能だろうが、それは案外と妨害しやすい術であり、高空を飛ぶことになるがゆえに避けたいことであった。

 

「やっぱり地道に登るしかないわねえ」

 

頭を掻いてそう言うと、ラディを促してルルたちのところへと戻る。

 

そうすると「っしゃあ!開いたでやんすよ!」とウィルプがガッツポーズをしていた。

 

「物理と魔法で六重に閉鎖して、一つでも失敗すると石化の呪いが放出される、と。なかなかクソのような術ですが、僕ら相手ではほとんど意味がありませんでしたね」

 

ルルが肩をすくめて笑い、彼が笑むと同時に荘厳な金と銀で描かれた巨龍を頂く扉は、ゴゴゴン、と大音声を立てて開いていく。

 

その中に広がっていたのは、まずは高い天井の大広間であった。

 

4人は慎重にその中に踏み込む。

 

前衛のミナとラディが最初に、その後ろを中衛のウィルプが。

 

一番後ろからルルが警戒しつつその広間へと入っていく。

 

入ると、お定まりのように後ろの扉は閉まっていった。

 

『ようこそ挑戦者よ―――よくぞ最初の関門を突破した。我に挑む力を持つ強者の素質があると認めようではないか』

 

やはりお約束のように不気味な声が聞こえてきたが、ミナはその話を全く聞くつもりはなくそこらへんを物色し始める。

 

「……うーん、やっぱ1階には宝箱なんかないわね。ルル、そっちは?」

 

「魔法の罠は感知できませんよ。後はウィルプさんの領域ですね」

 

ほとんど無視するかのように話を続ける二人に、響く声の主は苛ついたかのように『話を聞けい!』と大声で怒鳴った。

 

それに対して、ミナは「あー、はいはい。聞いてるわよ。勝手に喋ってていいわよ。ヒントとかそういうのは聞いててあげてるから」とジト目で微笑む。

 

「どーせ大したヒントなんかくれないんでしょーけどぉ」

 

腰に左手を当ててそう嘲ると『おのれ舐め腐りおって!』と声の主の怒りのボルテージが一段回上がったことが聞いて取れる。

 

「あんたの大層な演説聞いてる暇なんかないのよ。聞いてほしけりゃ報酬よこせ、報酬。救い料1億万円になります。ローンも可」

 

どこかの幼稚園児の落書きから生まれたヒーローみたいな豚っぽいなにかのセリフを真似て嘲笑してやると、声の主は最早怒りも萎えたかのように声を上げた。

 

『よかろう……ならば我が万の軍勢の一端をお見せしよう。うぬらの死を持って邪なる神々への生贄としよう――― い よ い よ も っ て 死 ぬ が よ い』

 

どこかのシューティングゲームのラスボスのようなことを声の主が宣うと、それに呼応したかのように広間の壁から100はくだらない魔物の集団が現れる。

 

内容は雑多だが、その6割ほどは上級冒険者が相手をするような強力なモンスターであった。

 

「よし、やるわよルル」「承知」

 

挑発がまんまとうまく行ったと思った二人はニタリと笑って呪文を唱え始める。

 

その呪文は、古代語魔法の炎の呪文の中でも最高位に当たるものだ。

 

「あ、ありゃぁ……まさか、最高位の……!?」

 

「呆然としてる暇ぁないでやんすよ!さっさとミナさぁとルルっちの後ろに隠れるっす!」

 

「は、はい!」

 

慌てて二人がミナたちの後ろに隠れる。

 

その瞬間に、二人の呪文は完成した。

 

「「世界を支配する偉大なるロジックよ。地獄の業火を呼び覚ませ。我が前のものすべてを焼き尽くし原初の姿へ葬送せよ。フレアー・クリメイション!!」」

 

葬送の爆炎が2つ、宙空より太陽のごとくに出現する。

 

『な……!?』

 

「ワー○ナもどきに今更負けてやる理由がないのよわたしたちはぁ!!」

 

驚きの言葉をかき消す大音声と共に、二つの火球は集結した魔物たちに着弾する。

 

バッゴオオオオオン、と火炎と爆音を轟かせ魔物たちは飲み込まれていく―――

 

それはおよそ七割に近い魔物たちを焼き尽くし、消し炭と変え、或いは大火傷で戦闘不能にしていった。

 

「よっしゃ突っ込むぞラディ!」

 

「は、はい!」

 

ヒヒイロカネの小剣を抜き放ち、ミナは駆け出す。

 

流石に上級冒険者、秒もかからずに切り替えてその得物―――魔法のバスタード・ソードを引き抜いてラディもそれに続く。

 

「ダークケンタウロスね……だが、もう敵じゃねえんだよなあ!」

 

「がぁ!?」

 

ラディがバスタード・ソードを振り抜くと、槍を持った人馬はその得物ごと袈裟に叩き切られて地面に倒れ伏す。

 

「なかなかやるようになったじゃない。10年も生き残れたなら当然か!風の乙女よ!我が足に宿りてカマイタチとなれ!」

 

ミナもまたワイバーンをジェノ〇イドカッ〇ーの術で斬り殺して壁に着地した。

 

その器用な機動に青年は「姐御ほどじゃねえっすよ!」と叫んで、おっとり刀で突撃してきた赤い悪魔像の羽を斬り落とした。

 

「にしても、姐御はハイエルフなのにパンツ丸見えとか全然に気にしねえんですね!?」

 

「見せて減るもんじゃないでしょ!お上品なのは苦手なのよ!」

 

ミナはそう言い放ち、小剣で悪魔の頭を突いて絶命させ、もう片方の手で貫手を放ちオークの心臓を抉り出す。

 

ラディは「素手でも戦えるようになってるとか、やっぱあの人やべーわ」と呟いた。

 

『がおおっ!』

 

そんな彼に狼が数匹群がってくるが、その牙で傷つけられたのは彼の薄皮一枚。

 

ラディの命に届く一撃は一つもありはしない。

 

あるものは蹴り飛ばされ、あるものは斬り倒されてその命を終えた。

 

そうして大した怪我を冒険者達に与えることもなく、残った30あまりのモンスターは死んでいく。

 

―――ルルとウィルプはその間、宝箱や次の階層への入り口がないかを探索していた。

 

最早死骸と残骸の山と化した手下たちを見て、声の主は震えるような声を聞かせてくる。

 

『ば、馬鹿な……貴様、本当に人間か……?』

 

「ハイエルフだけど、私は人間ね。うちの下僕は残念でもないけど人間じゃないわよ」

 

ミナが声の聞こえてくる方へ返してやると、それは『う、ぬぬぬ……!まさか、貴様!高位の不死者を従えるハイエルフだと……!まさか、貴様が!?』と驚愕の声を上げる。

 

「まさかまさかやかましいわよ。そうです、私が変な勇者です」

 

ジト目でミナはそう言って、カラカラと笑った。

 

『も、森人の勇者、ミナ・トワイライト……き、貴様は死んだはずでは……東方世界へ通じる無明の砂漠、不磨の山脈に踏み込んで生きて帰れるものなど……!』

 

「この通りピンピンしてるわよ。どこかの魔剣目録持ってるおっさんの真似事してきたから、そのうち交易路とかも出来るんじゃないかしら」

 

道中の障害になるものをぶっ飛ばしてきた、と胸を張って笑うミナに声は慄く。

 

『お、おのれ……だが、我が負けたと決まったわけではない。残り99階層、突破できるのであれば突破してみるがいい!』

 

負け惜しみのようにそんなことを抜かした声の主の気配が消えると、上から階段がゴウンゴウンと機械音を響かせながら降りてきた。

 

「なるほど。魔物たちを出現させて、全部倒せば上に行けるというギミックね」

 

声の主のことなど何も気にせず、ミナは階段の前に立つ。

 

「よし。挑発に弱いワー○ナね!この調子で行くわよ!」

 

ガッツポーズをするミナの背中をじっとりした視線で睨めつけ、ウィルプは「あっしが来なくても力技でどうにか出来たんじゃないっすかね?」と、今更の文句をつけるのであった。

 

 

 

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