異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第111話「ハイエルフの話をしよう 昔のお話Ⅲ③」

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―――果たして先程のウィルプの言葉が正しかったかと言えば。

 

「いい、ウィルプ!」「いつでもいいでやんす!」

 

ミナとウィルプはそうして声を掛け合い、同時に鋼の糸に刃を当てる。

 

「1・2・3、今!」「せいっ!」

 

二人は同時にそれを切り、盛大に息を吐いた。

 

「うひぃぃぃ……寿命が10年縮んだっすよぉ……盗賊二人で同時に線を切らんとフロアごと爆発する仕掛けぇとかぁ……」

 

「やっぱあんた連れてきて正解だったわ……こんなん私だけじゃあちょっと無理だったし」

 

ミナはそう言ってウィルプと背中合わせに座り込んだ。

 

「あっしもそう思うでやんす……ミナさぁ……これ力押しでなんとかしようとしてたら絶対1日2日の仕事じゃねえでやんす……」

 

今、階層は10階、時間は約5時間ほどが経過していた。

 

結局の所、先程の彼女の言葉は的外れではあった。

 

力押しで突破できる階層とそうでない階層が2対1程度の割合で挟まれているのだ。

 

そのため、3階に1階はウィルプがいないと如何ともし難いという状況になっていたのである。

 

「うんうん、やはりOne for all, All for oneね。冒険者ならこうでなくちゃ。あんたにド貴重な酒たらふく飲ませた甲斐があったってもんね」

 

立ち上がって満面の笑みでそんなことを言うミナに「そりゃあっしも折角生きて戻ったミナさぁに死んでほしかないですかんね」とため息交じりで呟く。

 

その呟きに「当代一と言われた怪盗パックにそこまで想われるとは勇者冥利に尽きるわ」と満足気に頷いて、へたり込んでいるウィルプを引っ張り上げる。

 

「そりゃどーも……じゃあとっとと次のフロア行きましょうや。上に行けば行くほど難しくなんのがこの手のダンジョンでやんすからね」

 

ウィルプはそうして腰をなでながら歩き出した。

 

「大丈夫っすか、ウィルプ姐さん」

 

「なんすか、その呼び方……ま、いいでやんす」

 

ラディに声を掛けられて、若干不機嫌になったウィルプは彼の後ろにつく。

 

「前衛がしっかりしないとあっしが死ぬでやんす。しっかりするっすよ」

 

「は、はいっ!」

 

そうして背中を突っつかれたラディは先行するミナの後ろについた。

 

フロアの中央より少し北側まで来た時、上から階段が降りてくる。

 

その階段を登り、登った先にあった謎のテーブルを見据えてミナは「……どうやら次もあなたの出番みたいよ」と髪を掻いて笑うのであった。

 

 

 

―――現在。

 

「この後は割と退屈なんで99階までカットね。ひたすらトラップとギミック解除して上に登っていくだけだったからさ」

 

ミナはハープを脇に置いて、岬の淹れたコーヒーを飲んで一息つく。

 

そして、そんな様子を見た恋は「なあ、空悟おじさん?なんであんなに人の恋愛の話は出来てるのに、自分の恋愛の話はできねーんだ、ミナねーちゃんは」と頭に疑問符を浮かべながら聞いてみた。

 

「他人のやってることに興味があっても、自分のことになるととたんに興味ゼロになるなんてよくあることさ」

 

その言葉に、恋愛禁止が掟であるアイドルをしている恋は呆れ顔で「仕事が仕事だからあたいは出来ねーけど、できる時にしといたほうがいいと思うんだよなぁーそういうの」と呆れ顔になり、黙ってコーヒーを飲むミナを見た。

 

「なに?なんか言いたいことでもある?」

 

「いや、ルルにーちゃんがセクハラ野郎でアホなのはわかってるけど、ミナねーちゃんは恋愛興味ないのかなって」

 

ミナはそう聞かれて、顎に手を当てて暫く考える。

 

しばらく考えて「後500年くらいは考えなくても許されるかな、って……」と遠い目をした。

 

「いや、それじゃ駄目なのではないですか?茜先輩にお子さん見せてあげようとか思いませんです?」

 

ココアをふーふーと冷ましている岬にそう言われて、ハイエルフの勇者は「……いや、うーん……そう言われても相手おらんし……」と首をひねる。

 

ルルが自分、自分と指差しているのが視界の端に見えるが、あえて無視した。

 

「……カーチャンもどんなに私が回復魔法とかマジック・アイテムとかで延命したとしても、後50年か60年くらいで死んじゃうからな……私も前世のオレが寿命で死ぬはずの時期になったら向こうに戻らにゃならんし……もしかすると考えなければならないのかも知れん……」

 

「いや、しろよ。考えろって」

 

親友が苦笑いしてそう囃すと、ミナは「やっぱ地球人だった頃に比べると思考が悠長になっていかんなあ」と頭を振った。

 

とはいえ、ミナはハイエルフの社会では中学生程度の扱いしかされない人間である。

 

そして、それは同時に体もまた未熟であることを示しているのだ。

 

「第一、彼氏だ旦那だ作ってもだな。オレ、まだ妊娠できる歳なのかわからんぞ。ハイエルフに生理も初潮もないし」

 

ミナはそうしてまた首をひねる。

 

「え、生理ないのですか?羨ましいのです」

 

岬が心底そうであるとばかりにミナを見ると、ルルが「説明しますよ」と少し疲れた顔で肩をすくめた。

 

「んじゃ、お願い」

 

「はい―――ハイエルフや森に近いエルフは僕のようなダークエルフも含めて、女性の月のものがない場合が多いのです」

 

ルルはそうしてコーヒーを一口飲む。

 

すぐに疑問を呈したのは空悟だった。

 

「じゃあよ。発情期があるとか、或いは猫とかうさぎみたいな刺激性排卵だったりとかするのか?」

 

「まあそうともいえます。森人というものは精霊に近ければ近いほど、番と定めたものが近くにいれば自然にそう言う気持ちになるのですよ。男女ともに」

 

そして結ばれればそうかからずに子をなすのだという。

 

「因みに妊娠期間は只人よりも2~3割長いことが多いです。これも精霊との近しさによりますが……ミナさんの部族では2年と聞きました」

 

「でもってねえ。うちの部族だと成長期が終わってから結婚する人しかいないのよ。だから、今の私が妊娠できるかは知ってる人が誰もいないってわけ」

 

頬杖をついて、ちょっと困ったと苦笑するミナを見て空悟は「成長期ってなんだ?」と更に聞いた。

 

「んー……うちの部族の場合、300歳くらいまでに見た目中学生くらいに育つんだわ。それからだいたい1000歳から1200歳くらいになるまでこんな感じの金床つるぺたボディで過ごすんだ。で、それを過ぎるとまた成長しだして、大体2000歳くらいまでにその後一生過ごす姿になる。その800から1000年の間を成長期って呼ぶのさ。どこかの自由騎士の彼女みたいなスレンダーになる人、体型が変わらない人、うちの姉上みたいにめっちゃ育つ人と様々なんだけどな。男だと、稀に無茶苦茶筋肉質のマッチョメンになる場合もある」

 

そこらへんの個人差は只人や地球人とそう変わらない、と勇者は頬を掻いた。

 

「なるほどなあ……」

 

納得した空悟の後を続けたのは岬であった。

 

「でも、地球人でも6歳で妊娠したという事例はあるそうですし、出来るんじゃないですか?」

 

そんな身も蓋もない言葉に「だからって軽々しく試す気はないのだわ」とにべもなく言い放つ。

 

無論、視界の端に自分自分と指差す従者は見えているが、またも無視してミナはコーヒーを飲み干した。

 

「余談はここまでにして……じゃあ、続きを話しましょうか」

 

その言葉を恋や岬に向ける。

 

―――もちろん、彼女の背後で項垂れる従者を、親友が肩を叩いて慰めている光景など無視する以外にミナに方策はなかったのである。

 

 

 

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