異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第112話「99階を突破しよう 昔のお話Ⅲ④」

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―――魔塔、99階。

 

六本腕の魔神像が4人を出迎えていた。

 

『ふははははは!これこそ深淵の世界蟲迷宮より発掘した最大の秘宝!我が手にある支配の護符に勝るとも劣らぬ遺物よ!これに勝てるかな!?』

 

ダンジョンの主の声がフロアに響き渡り、同時に魔神が腕を振り上げると床から何体もの龍の形をした守護像が姿を表す。

 

しかし、ミナもラディもそれに臆することはなく、ルルに至っては瞑目して呪文すら唱えてはいなかった。

 

ウィルプはといえば、前の98階で手に入れた指環の品定めをしている。

 

その様子にダンジョンの主は『……ほとんど苦戦することもなくここまで来れたことに慢心しているようだな?』と含み笑いを始める。

 

「油断というか、このレベルの敵だったら、私何体も相手にしたことがあるんだけどなぁ……」

 

ミナは金剛石の長剣と古代語魔法の発動体を兼ねた魔法の小盾を手に、そうして虚空へと声を掛けた。

 

『な、なにぃ……!?こ、これほどのものを秘める迷宮に挑んでいただとぉ……!?』

 

「この人、自分の功績をすぐに隠蔽するんで、そこらへんのこと本気でわかんないんですよ。逆に失敗は正確に報告してくるから、ほんと厄介で……」

 

ウィルプが受付嬢の口調でやれやれと肩をすくめて笑い出すと、『ぐぐぐぐ……』とダンジョンの主の困惑した唸り声が聞こえてきた。

 

「ラディ、ウィルプ、ルル。周りのストーンドラゴンを倒してからあの六本腕よ。ストーンドラゴンはバグダンジョン製じゃないみたいだから、普通に倒せるはず」

 

唸り声を無視して、勇者は笑う。

 

「ッス!ストーンドラゴンなら何度も相手してるからダイジョブっすよ!」

 

ラディがバスタード・ソードを引き抜いて、ドラゴンへ刃を向ける。

 

『オオオオオオ……』

 

六本腕の魔神像は動かず、その口から咆哮の如き唸りを上げていた。

 

それは即ち―――

 

「ち……!テラーボイス……!」

 

ウィルプが耳を抑えて舌打ちする。

 

それは文字通り聞いたものに恐怖の感情を引き起こす音声である。

 

抵抗に失敗すると、恐怖で動けなくなったり体が鈍ったりするが―――

 

「そぉりゃぁっ!」

 

ラディは抵抗に成功したのか、まるで気にせずにバスタード・ソードをストーンドラゴンの首へと叩き落とした。

 

バギン、と砕ける音がして―――しかし魔法の片手半剣に傷がつくことはなく、ストーンドラゴンの石の肌のみが砕ける。

 

しかしながら首を落とすまでには至らず、石竜の爪が男の腹を薙いだ。

 

「ぐっ!だが、浅手よ!」

 

傷つけられたのは薄皮一枚。

 

たたらを踏むことなく着地して、すぐに襲いかかってくるもう一匹の石竜の顎を後ろに転がって避ける。

 

それは十分な隙となって―――そこにルルの呪文が完成した。

 

「世界を支配する偉大なるロジックよ、吹き荒れよ、氷雪の嵐となり、眼前を吹き洗え!ブリザード!」

 

ルルが唱えた吹雪の魔法によって、ストーンドラゴンが2体氷漬けになる。

 

おそらくは数秒も持たずに氷雪の棺に納められた竜は脱出を果たすだろう。

 

だが、それは致命的であった。

 

「うおおおおおおおおおおッ!!」

 

「いやぁぁぁぁあぁっ!!」

 

ラディの片手半剣が再び傷ついた石竜の首を捉え、そしてミナの金剛石の長剣がストーンドラゴンの頭蓋を割る。

 

もう2体の石竜が此方へと殺到する前に、同じ形の竜が二つ地面へと倒れ伏した。

 

「よし!」「油断するなでやんす!」

 

殺到する石竜の突進に、ウィルプはいつの間にか設置していたロープを引っ張った。

 

それは―――

 

「スネアとスリパリーの術が仕込まれたロープでやんす!ドラゴンだっておっ転ばせてやるでやんすよ!!」

 

魔法の蔦で編まれた、泥濘と転倒の精霊術が封じられた縄の罠。

 

それに引っかかったドラゴンは盛大に転んで地面に頭を打ち付ける。

 

『アァァァァァァァァァァ……』

 

その光景に、遂に六本腕の魔神像が動き出すが―――

 

しかし、石竜は既にミナとラディに頭を潰されて機能を停止していたのであった。

 

「……こんなにあっさり倒せたの始めてっすよ?」

 

「そう?普通じゃない?」

 

金剛石の長剣と魔法の小盾をバッグにしまって、ミナは六本腕の魔神像を睨めつけてそう言った。

 

「いや、普通じゃないっすからね?ストーンドラゴンなんて、もっと苦戦するもんっすよ。姐御とルルがおかしいんスよ……」

 

その言葉を聞いて苦笑して、「バグダンジョンなんてものに潜り続けてるとそんなもんよ」とケラケラ笑う勇者は、バッグの中から一振りの槍を取り出した。

 

アダマンタイトで出来ていると見られる柄に鈍色の刃。

 

その柄には「客人碎」と篆書体にて描かれているのがわかる。

 

即ち、それは長年愛用することになるミナが東国で手に入れた勇者の槍であった。

 

「っし、行くわよ!ルル、援護!ウィルプは弓や投擲で!」

 

ミナはそうして左前半身構えにて突進する。

 

すぐ後ろをラディが同じように突進していることが気配と音でよくわかる。

 

その時、声は聞こえないが、ミナとラディの体にルルの唱えた身体能力賦活の魔法が降り掛かってくるのが感じられた。

 

『くそっ!ストーンドラゴンと魔神像を一緒にするなよ!同じようなものといえど、世界蟲の迷宮から生成される存在にはピンからキリまで存在する!勝てるはずがないッ!!』

 

「そう思いたければそう思えばいいでしょうッ!!」

 

声の主の絶叫に、ミナはそう咆哮して魔神像の心臓を突かんと槍を繰り出した。

 

『ヌゥ……!』

 

唸り声とともに石の体とは思えない素早さで、六本腕に握られた蛮刀がそれを弾く。

 

ギィン、と金属音を響かせて、ミナは一歩後ろへ下がった。

 

「はっ!だいぶ強力なのを発掘してきたようね!」

 

「無茶しないでくださいよ姐御!」

 

蛮刀2本をバスタード・ソードで弾き返し、ラディはそう叫んで剣を振り抜く。

 

魔神像は腕を弾かれるも一歩も下がることはなく、下がることになったのはラディの方であった。

 

「うーん、マジで結構強そうなやつを連れてきたわね。よくまあバグダンジョンからあんなもんを連れて行く気になるわ」

 

ニッと歯を見せて笑うミナの頬には、一筋の汗が流れる。

 

決して倒せない相手ではない、とミナは思った。

 

しかし、客人碎の力を解放しての勝利では―――支配の護符を持った魔導師に相対するのは厳しいとも考える。

 

この階層に入る前にイーガックの懐中時計で確認した経過時間は―――およそ60時間。

 

後半日しか時間がないこの状況で、その消耗は避けたいことではある。

 

持って3日ということは、それよりも前に力尽きるものもいるかも知れない。

 

時間をかけることは敗北を意味するのだ。

 

「どうする、ルル?」

 

「普通に大きな魔法をふたりでぶちかまして壊してしまいましょう。それで滅びないなら、もう一撃ってことで」

 

「魔力は大丈夫?」

 

聞かれたルルは何を言ってるのか、とばかりに「誰に言っているのです?僕はあなたの従者にして死の王ですよ?」と答えて微笑んだ。

 

「そ、ならいいわ。ラディ、ウィルプ!私達が呪文唱えてる間は抑えてて!」

 

ミナは客人碎を一旦バッグにしまって後ろに飛んだ。

 

「了解したっす!」「えぇぇぇぇぇぇ!マジでやんすか!?」

 

了承と抗議の二つの声が聞こえてくるが、ミナは二人が既に動き始めていることに安堵して呪文に集中していった。

 

『ぬぅ―――まさか!伝説の魔法まで使えるのか、こやつら!?』

 

驚愕に染まった声がフロアに響く。

 

ミナは挑発するかのごとく「まーね!古代語魔法、精霊術、それと調和神様の神聖魔法はあらかた使えるわよ!ルル!」と叫んで、もう50年近く従えている従者へ瞳を向けた。

 

「はい!ラディさん、ウィルプさん!合図したら一目散に僕らの方へ!何、最悪巻き込まれても1時間以内なら蘇生してあげますよ!」

 

「あたらこえーこと言わんでくれでやんす!」

 

ロープと黒いナイフを器用に操って、魔神像の腕を絡め取っているウィルプの抗議がまた響く。

 

しかし、二人はそれを殆ど無視して呪文に没頭していった。

 

「世界を支配する偉大なるロジックよ!大気の法則を書き換えよ―――」

 

「世界を支配する偉大なるロジックよ。混沌の中心よりあらゆる神に連なることなき白痴の王を呼び覚まさん―――」

 

「あーーーーー!これ絶対まずいやつ!死体も残らないタイプのやばいやつでやんすううううう!!」

 

「姐さん!そんなことより魔神の腕!」

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

二人の叫びが聞こえる中、呪文はもう後数秒で発動するだろう。

 

ミナは大声で「次の攻撃を回避したら5秒で発動させるわ!」と叫んだ。

 

「わかったぜ、姐御!」「ぎゃああああ!死ぬ死ぬ死ぬでやんすぅぅぅぅ!!」

 

魔神像がその六本の腕の蛮刀すべてを大きく振りかぶり、その口から古代語に近い響きを持つ世界蟲の言葉が紡がれる。

 

『EVWAMUUCAV―――オオオオオオオ………!』

 

その腕から真空の刃が六条飛び出す。

 

「―――まずっ!?」

 

ウィルプが焦ったときには既に遅く、その真空の刃は彼女を捉える―――だが、それが彼女に届くことはなかった。

 

「がぁっ!?」

 

そう、ラディが覆いかぶさるように庇ってその背中で受けたのだ。

 

「ラディさん!?また大雑把なことして―――!動けますか!?」

 

「なんとか……これでも……この鎧……頑丈なもので……!」

 

盗賊は戦士に肩を貸し、できるだけの速度でミナたちの方へ退避する。

 

それを―――

 

『アアアアアアアア……』

 

魔神像が追いかけてくる。

 

巨体に似合わぬ俊敏さで、おそらくはあと1秒もかからないうちに二人に蛮刀を振り下ろすだろう―――

 

と思われたその時。

 

「早く逃げなさい!」

 

その声とともに、ミナの杖を持っていない左手に握られているナイフが、まるでそれが意志を持っているかのように飛んでいく。

 

―――バグダンジョンで拾った、使い捨ての魔法のナイフ。

 

ミナ自身は魔法のスペツナズナイフと呼んでいるそれがガンと衝突音を響かせて魔神の脳天に直撃し、0.1秒の隙を作る。

 

その時間は、最大限の身体能力賦活を受けているウィルプとラディには十分な時間だ。

 

蛮刀が地面に叩きつけられ、それを滑るように避けた二人はミナとルルの後ろへと叩きつけられるように転がっていった。

 

「よしッ!水の素、呼吸の素、そのいくつかを融合せしめ、致命の破壊を風と成せ!フュージョン・エクスプロードッ!!」

 

「白き闇よ全てを吐瀉する白痴の光よ。昏き白よ、冥き闇を染めよ―――ホワイトホール!」

 

瞬時に呪文の最後が唱えられ、魔法は狂いなく発動する。

 

核融合と次元境界、二つの巨大なエネルギーが弾けて魔神像を襲った。

 

『ヴァァァァァァァ……!』

 

雄叫びを上げ、像は爆光の中へと消えていき―――その光が消え去った後、次元の境界が閉じ核融合が起こす爆風が去っていった後には―――

 

一振り、蛮刀が地面に突き刺さるのみ。

 

『ば、馬鹿な……!?古代語魔法の最高峰……だと……!?し、死者の王ならともかくなぜ貴様のような人間が使える……!?』

 

「努力した。以上」

 

迷宮の主の落胆と驚愕と怒りと憎しみと困惑がない混ぜになった声音を聞いて、ミナはピシャリとそう言い渡した。

 

そしてまだブツブツとなにかをわめきたてている迷宮の主を無視し、ラディの背中を診ているルルに声を掛けた。

 

「ラディくんはどう?」

 

「鎧と筋肉に助けられています。グレートヒールでどうにかなりそうですよ」

 

ルルはいつもどおりの笑みを浮かべて、彼の背中に手を当てて破壊神への祝詞を唱え始める。

 

その様子に、ウィルプは「はぁ……また無茶して……とりあえず助かったでやんす。ありがとうでやんすよ」と額の汗を拭って、自分を救った男へ笑いかけた。

 

「へ、へへ……無事なら良いんだ……姐さん……」

 

息も絶え絶えにそんな事を言う彼に、ルルは特に感慨を抱くこともなく祝詞を終える。

 

「破壊と渇望の王、呑み込み食らう我らが神よ。破壊され死に絶え再び生まれくる輪廻より、癒やし直し治し戻す力を死すべき衆生へと与えん。グレートヒール」

 

ミディアムヒールより一段上、本人の生命力に寄らずに傷を癒やす神聖魔法が戦士に降り注いだ。

 

「うっ……ぐ……!」

 

みるみるうちに傷に赤みが差し、肉が盛り上がり、皮膚が造られ、傷が消えていく。

 

あっという間に攻撃を受ける前と同じに回復していった。

 

「おおっ!すげえ!うちんところのヴィスより全然効くな!やっぱあんたすげえな、ルル!」

 

「リッチーですから。僕は」

 

起き上がってバンバンとルルの肩を叩くラディに、半眼になって彼はそう返した。

 

「あー……鎧の方は、これもうダメかもしれないでやんですね。ずたずたでやんす」

 

ウィルプはそう言って背中の真空波で切られた鎧の背中を撫でると、「しゃあねえよ、姐さん。こればっかは。ま、冒険してりゃそのうち代わりも手に入らあね」とラディはあっけらかんと返した。

 

「あーはいはい、そう言うところが大雑把だって言ってるんでやんす。だからヴィスさんやゼクスタントさんにご迷惑かけるんですよ」

 

呆れ気味にそう言って、ウィルプは腰に手を当ててため息をつく。

 

その顔にはまるで出来の悪い弟を見る姉のような笑みが浮かんでいた。

 

『―――無視するんじゃァない!おのれ……!おのれぇええ!!』

 

そのどこか微笑ましい光景を邪魔するかのように、迷宮の主の怒声が響き渡った。

 

「何よ。まだいたの?さっさと最上階への扉なり階段なり出してくれない?」

 

ミナがにべもなく言い放つと、声の主は冷静さを幾分か取り戻したようで『ならば……最上階で待とう。我をその魔神像と一緒にするんじゃあないぞ……我とて、世界蟲の迷宮を踏破してアレを手に入れたのだ!』と哄笑すらあげ始める。

 

「―――踏破した数は問わないが、その言葉を吐いた以上、私の手を逃れられると思うなよ?もうすでにバグに侵されているかどうか、確かめてあげましょう」

 

驚くほど冷たい声音で、ミナは哄笑へと回答を述べる。

 

バグに侵され、思考までも侵食されたのであれば、それは最早勇者が滅ぼすべき敵である。

 

「森人の祖と勇者の祖の名誉に掛けて、絶対に逃さんからな」

 

『ほざくな!ええい!王といい貴様といい―――我以上の者でなどないくせに、我を嘲りおって!よかろう!貴様は我が手ずから縊り殺してくれよう!』

 

再び怒りに火がついたかそう叫ぶダンジョンマスターの声は、即ち最上階への階段を発生させる。

 

―――そう、それは虚空から発生した光の階段であった。

 

「大掛かりなもん作ってるわね……いや、もしかして……」

 

「俺も嫌な予感がしますよ、姐御……」

 

立ち上がってバスタード・ソードを鞘に収めたラディがそう言って唇をへの字に曲げる。

 

「それでも行かなきゃならないでやんす……うちんとこのギルドに所属してる上級冒険者が20人から死んだ、なんてなったらあっしらもおまんまの食い上げっすよ」

 

後頭部をポリポリ掻いて、ラディと同じように唇を歪めたウィルプがその階段に罠がないか見て回る。

 

その後ろからルルが魔法系の罠がないか確認し、数分後二人は親指と人差指で○を作ってこちらへ見せてきた。

 

「ふたりともありがと。それじゃあ、あの偉そうな声のおっさん?を叩きのめしに行くわよ!」

 

ミナは腰に手を当て、人差指で階上を指して歯をむき出しに笑う。

 

それからすぐに4人は階段を登り―――そして、通った後に階段はすっかりとその姿を消していたのであった。

 

 

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