異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか 作:大回転スカイミサイル
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魔塔、最上階。
だだっ広いそのフロアは、天井が一部なく、風が良く入り込んできていた。
「おーい、来てやったわよドロボー」
ミナがわざとらしく抑揚のない声音でそう聞いてやると、フロアの中央に人影が現れた。
そのローブを身に着けた人影は、こちらを向くと「よく来たな……森人の勇者、理を歪めるものめ!」と初手からミナへ罵倒の言葉を投げつけてくる。
ミナはそんな言葉は言われなれているのだろう、やれやれと肩をすくめて頭を振り、男の爛々と輝く瞳を睨めつけた。
「知らねーわよ。ハイエルフの私に勇者のチート寄越したどっかの神様が悪い。少なくとも調和神様以外が寄越したものだし」
「減らず口を……!」
憎悪に満ちた言葉で人影は彼女らを睨めつける。
―――それが此度の最後の戦いの始まりであった。
「そういえば……今聞くのはなんだと思うのですけども」
そう前置きして、岬は話を一瞬区切ったミナに質問をする。
「何?」
「勇者のチートってなんなのです?」
聞かれたミナは「そういえば詳しくは言ってなかったわね……」とハープを地面に置いて、コーヒーカップを手にとった。
「俺も聞いておきたいな。勇者って言うが、どういうもんなんだ?」
空悟もそう言い出して、恋もまた期待をふくらませるかのようにこちらを見てきたのでミナはため息をついて「そこまで大したもんじゃないわよ」と前置きをして話し始める。
「まあ言ってみれば、『万能の努力』ってやつなのだわ。元々持っている肉体の才能の有無に関わらず、技能や技術をそれが人間―――知恵あるものが習得できるものなら何でも覚えていくことが出来る。だから竜となるため自己を改造していき人を逸脱する竜魔法、不死者を操るため自らを不死者へと更新していく死霊術なんかは覚えられない―――とはいえ、ほとんどの有用な技術は常人よりも遥かに早く覚えることが出来る……」
そこまで行って、ミナは「ただし」と付け加える。
「結局、最速で覚えられる、簡易にコツを掴めるっていうだけで純粋に習得するのに時間のかかる技を覚えるのは時間がかかるわ。だから、只人にしか本来はこの権能は与えられないの」
「じゃあ、まあやっぱりD*3の勇者みたいに器用貧乏的になるか2の王子みたいにとことん一つの道を極めるか、って選択になるのはそう普通の人と変わらんわけだな」
「んだ。まあ、だから繰り返すけども基本的に只人にしか与えられない。稀に小人にも出るって話は聞くけど会ったことはないな。こんなん寿命の長い森人が持ったら大変なことだろ?」
ニヤリと笑ってミナは全員を見渡した。
「―――ねーちゃん、エルフなのに、じゃあ何でそんなの持ってんだ?」
疑問を最初に口にしたのは恋だった。
「―――まあ多分、邪神の仕業で転生したことが核なんだろうけど、直接的な原因は私が『元男』で『只人と同じ程度の寿命しか持たない地球人』だったから、でしょうね」
天井を見上げて、遠く過去を思いながらそう答えて瞑目する。
そうしてミナは勇者の伝説を話し始めた。
―――遠き昔、世界蟲あり。世界蟲寄りて繰りて集まりて、姿かたちを現すなり。これこそ魔王と呼ばれる者たちの祖である。
―――平たき山なる地より竜人来たれり。過去はなく、未来もないと彼は宣う。平たき山にて手にした白き神の宝玉と白亜の剣を持ち、魔王へと挑むべし。故に彼こそ勇者と呼ばれる者たちの祖である。
―――竜の勇者、戦の果てに遂に魔王と相討つ。しかして世界蟲は滅びず、竜の勇者の肉体は滅び、その魂は光の宝玉と共に砕けたり。
「―――勇者の魂、微塵と砕け、神々に掬われん。遠き後に再び地に現れたる魔王を滅するため、その御霊は千々に分かれて命短き人に宿らん―――って神話。まあ私が地球人だから神様のどなたかが誤認したんじゃないかなーって……少なくともドミネーターの糞野郎には誤算だったみたいだし」
そこまで言ったミナに岬が「……なるほどなのです。で、あれば……」と意味深な言葉を投げかける。
「何?」
「いえ、ちょっと思っただけなのですけども……まだ形にならないのです。ごめんなさい」
岬はそう言って頭を下げると「ふつーエルフって言ったら精霊魔法とか弓術とかしか使えないイメージが合ったのですけど、これで納得できましたですよ」と笑う。
「あのねえ。こっちの世界の創作上のエルフにもそれから外れてるのいっぱいいるでしょうが―――続き、話すわよ」
「はいなのです」
唇を尖らせたミナに、岬は素直にそう答える。
その脳裏で、何かが像を結ぼうとしていたが―――それはまだ後の話であった。
区切りいいところがめっちゃ短かったんで、明日も投稿します。
追記;アンケート設置しました。よろしくお願いいたします。
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