異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第114話「試練場の100階へ挑もう 昔のお話Ⅲ⑥」

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口火を切ったのは男であった。

 

「ケルヴ・スティンガリウスが符に問う―――汝、なんと生まれしものか!」

 

『我は―――氷の規律とあらゆる独善を持って総てを統べるものなり』

 

「然り!汝の名は『支配』なり!」

 

そう、それはミナが東方である程度知ることの出来た魔法の一つ―――符や陣にて小さな世界を作り現象を起こす陰陽術であった。

 

支配の護符を陰陽術の符と見立てて現象を起こしたのだろう。

 

それはミナが知る術そのままであれば、精神と肉体をまるごと支配されてしまうという状態異常を引き起こすのだ。

 

「ちぃっ!ルル!」

 

「わかってます。―――偉大なるロジックよ。魔なるものに抗するきざはしを我は紡がん。カウンターマジック!」

 

光の輪が広がり、それがフロアを覆わんとする。

 

それが支配の領域を示しているのは明白。

 

状態異常が効かないルルやブラックリボンを持つミナはともかく、ラディとウィルプの抵抗力は完全ではない。

 

術によって支配されてしまわないよう、抗魔の術をルルは二人に掛けたのだ。

 

「んっ!?―――俺は大丈夫だ!」「あっしもでやんす!」

 

二人はどうやら抵抗に成功したようで、それぞれに得物を引き抜いて構えを取った。

 

「ほう……このスティンガリウスの使う東方の秘術で支配されぬとは、噂通りの実力よ。侍らう者共も侮るべきではないか……」

 

「さっき思いっきり私達を侮って、魔神像ぶっ壊されたのどこのどいつでしたっけ?」

 

含み笑う男に槍を向けてミナもまた笑う。

 

「減らず口を……」

 

「減らず口はどっちでしょうね!支配の護符を使っても完全な耐性を持たないものに抵抗されたなんて、魔術師として恥ずかしいと思いなさい!」

 

ミナが客人碎を振るうと、たちまち陰陽術が作り出した支配の世界は断ち切られ、光の輪は消滅した。

 

「付け焼き刃の陰陽術で私の槍を防げるなどと思わないことだわ!」

 

槍をスティンガリウスと名乗った魔導師へと突きつけ、ミナは唇をへの字に結んで吠える。

 

そして、客人碎の封印を剥がすための呪文が唱えられた。

 

「碎くものよ。異界よりの悪意ある客人を微塵と返すものよ。この戦いは世界を蝕むもの、邪悪なる世界蟲との戦いなり!その力を解放し、我に勇者としての任を果たさせ給え!」

 

東方世界にて遠い昔に鍛えられた勇者の槍は、今やミナの手の内にあり破邪滅神の輝きを放つ。

 

「そ、その光……う、失われた勇者の槍か!」

 

「御名答!東方、西方、北方、南方、グリッチ・エッグのあらゆる場所を渡り歩き、世界を食らう客人を微塵と碎いてきた伝説の槍よ!」

 

そうして、ミナはルルに「どう?」と聞いてみる。

 

彼は無言で頭を振り―――支配の護符がバグによって生成された、葬るべき品であることをミナに知らせた。

 

「あんの公王も厄ネタ隠匿してからに……!いいわ!あんたから分捕った後、あのハゲには必ず説明させちゃるのだわ!!」

 

ミナは怒りで顔を歪めて、「ウィルプ!あんたも王宮に顔利くでしょ!ついてきてもらうからね!」とキレ気味に叫んだ。

 

「ひぃぃぇぇ……なんてもの持ってるでやんすかぁ……ミナさぁ怒らせて得があんのけあのハゲは!」

 

巻き込みを予告されたウィルプもまた怒りでげんなりと顔を歪めて肩を落とす。

 

「あの王め……まさか、私をコヤツに始末させるためにこのタイミングで盗ませたのか……?」

 

スティンガリウスもまた怒りに身を震わせて―――ラディとルルは「みんなして怒ってれば世話ないな」と油断なく構えながら同じことを思っていた。

 

「で―――準備はいいかしら?」

 

「くっ……だが、私もいくつもの世界蟲の迷宮を踏破し支配の護符に選ばれしもの!簡単には断ち切れぬぞ!東方の秘術が付け焼き刃と抜かすなら、これはどうだ!」

 

そうして支配の護符を高く掲げると、虚空に穴が開き、そこから成竜たるファイヤードラゴンとアイスドラゴン、そしてハルティアたちと共にかつて戦った死の四騎士を模したものの一部―――黒と赤の騎士が現れる。

 

お定まりの召喚であるが、出てきた者たちは先程のストーンドラゴンと比べるまでもなく強力な存在である。

 

「げっ……成竜に死の騎士……!?」

 

その存在は上級冒険者であれど、相当に熟練したパーティーで1~2個体を相手にするの普通―――という代物だ。

 

かつて―――もうすでに70年も昔の話となるエトス都市国家群でミナが相対したように。

 

竜と不死の首なし騎士の組み合わせは、ハルティアたちと冒険した時に出会った死の四騎士もどき4体とほぼ同等の戦力と言える―――が。

 

「ふふん……もう70年前か……70年前の私と同じだと思ったら、大間違いよ!」

 

「そらそうだろうけど、俺らには荷が重いっすよ、姐さん!」

 

ラディが冷や汗を一筋かいて剣をかまえ直すと、勇者は「なーに、私とルルがいるんだからドンと頼りなさい!」と笑う。

 

「ウィルプさん、ラディさん。二人は牽制を中心にお願いします。ミナさんに攻撃が集中しないようにしていただければ大丈夫です」

 

「さっきの魔神像が4体いるのとそう変わんないから、へーきへーき。後は出し惜しみ無しで行くわよ!」

 

ミナはそうして、客人碎を左前に構えて駆け出す。

 

「ルル!1分抑える!ありったけのバフを全員にお願い!」

 

「承知しました!さぁ、行きますよ!」

 

「こうなったらやってやるぜ!」「必ず生き残ってハゲ王とギルド長に土下座させてやるでやんすぅぅぅ!!」

 

戦士と盗賊もまた同じく駆け出す。

 

ただし、ミナが今相手をしている黒騎士と赤騎士からドラゴンを引き離すためだ。

 

「世界を司る偉大なるロジックよ。我等が身に力を。腕に、足に、目に、指に。強く、速く、正しく、巧みに―――フィジカル・エンチャント・オールボディ!」

 

全身に力がみなぎる―――その後ろでルルはカウンターマジック、デス・ウォールを発動させていた。

 

「ようし、こっちだこっち!」

 

ラディはそうして、それまでよりも遥かに素早い動きで火竜の足を切りつけて、そこにウィルプが鉤爪をつけた魔法の転倒ロープをぶつける。

 

「引っ張るでやんす!」「応とも!」

 

二人がそれを引っ張ると、まるで力がかかっていないかのように火竜はすっ転んで地面に頭を叩きつけた。

 

『ぐるぉぉぉ!』

 

「うぬ!そちらの雑魚を早く片付けろアイスドラゴンよ!」

 

『がぁぁぁぁ!』

 

そうしてミナへ向かおうとしていた氷竜は、その顎を巡らせてウィルプたちにブリザードブレスを吐こうと咆哮する。

 

―――しかし。

 

「偉大なるロジックよ。策術が生み出せしは炎。炎の壁と風は等しく風と土を焼き尽くし、平野に乱を満たさん。ファイアストーム!!」

 

その言葉と共に、彼の捻れた杖からは熱波と炎が発生する。

 

それは射線上のアイスドラゴンと魔導師へと殺到し、アイスブレスの発生を防いだ。

 

「魔導師殿、あなたの相手は僕ですよ。僕の研究の足しになるか、テストしてあげましょう」

 

自らの指にキスをして、ルルはクスリと笑う。

 

「うぬ……死の王か!勇者に従う魔王もどき……!」

 

「魔王なんかになる前にミナさんに負けたのは僥倖でしたねえ。こうしてあの森から出ることも叶いましたし」

 

笑っていない目でルルは魔導師を睨めつける。

 

そうして「ウィルプさん、ラディさん……というわけですので、ドラゴンの方の足止めはお願いします」と微笑んだ。

 

「わ、わかったでやんす!」「お、おう……」

 

彼の目が細められ、その下の瞳の色が紫に輝くのを見た二人は、そのままアイスドラゴンの足にも鉤爪を引っ掛けて転ばす。

 

「イイんスか、姐さん」「言われたくないことを言われた彼はすぐああなるでやんす。触れないほうが吉でやんすよ!」

 

起き上がってきたファイヤードラゴンのブレスに、瓶に入った凍結剤を投げつけながらウィルプは怖気を奮った。

 

凍結剤と言っても、それは錬金術で作られた魔法の薬品であり、対象に降りかかると液体窒素並みの低温となって敵を凍結させる劇薬である。

 

『ガァァァァァァァァァ!!』

 

それは全身が灼熱の熱さであるファイヤードラゴンにはほとんどダメージを与えないが、放たれたファイヤーブレスの射線をそらす効果を齎す。

 

「よし!アイスドラゴンが起き上がってきたら、次はこれを投げつけるっすよ!得意でやんしょ?」

 

別の小瓶を渡されたラディは「了解ッス!」と答えて、バスタード・ソードを片手で握り、いつでも小瓶を投擲できるように構える。

 

―――光の階段を登ってくる際にミナに言われたとおりであった。

 

『支配の護符とやらが思った通りのものなら、支配されたものは知性を著しく減退させられる』

 

その言葉通りに、スティンガリウスがルルにかかりっきりになり指示を飛ばせていない状況では成竜が持つ高い知能を活かせていないことは明白であった。

 

「あっしらの攻撃じゃあまともにはドラゴンは殺せねえでやんす!でもドラゴンの知能が低下してるなら、これくらいは出来るでやんすよ!」

 

それから、ブレス攻撃が成功するまでもまだ時間はかかり―――その間に―――

 

「あん時とは武器が違う!練度が違う!何より貴様らの召喚者が異なる!!」

 

ミナの払いが、赤い騎士の鎧を薙ぐ。

 

『―――!』

 

そのままに破邪滅神の聖槍は、星霜すら撒くほどの光を発して、赤い騎士の胸から上をそれより下と泣き別れにさせる。

 

ドサン、とそのまま崩折れたアンデッドはサラサラと崩れて消えていった。

 

『―――!?』

 

驚愕の色を浮かべた黒い騎士は馬上よりその戦斧をミナに叩き込もうとするが、それも赤い騎士の援護がない今では既に―――

 

「いやぁぁっ!!」

 

ズシャン!と詰まった物が両断される気味の悪い音が響く。

 

裂帛の気合が込められた客人碎によって、その体を馬ごと真っ二つに叩き切られていたのだ。

 

「ようし!リベンジ終了!まあルルが操ったのより全然弱いわね!マジで魔術師として恥ずかしいと思いなさい!!」

 

ルルにエネルギーボルトを乱射され、近づくことすら能わず逃げ惑うスティンガリウスへとそう声をかけると、男は「くっ……!だが、無尽蔵に作れるぞ!」と体を捻ってルルの攻撃を躱しつつ支配の護符を掲げる。

 

「させませんよ」

 

ルルはそうしてニコリと微笑むと、ファイヤーボールの詠唱を終え、それを男に叩き込んだ。

 

バゴオム、と爆音がして「ぬうう!なんという詠唱速度……!これでは召喚する時間も稼げぬ……!」と魔術師は傷こそ負っていないものの魔力が霧散し、魔物の召喚が叶わなかったことを悔しがる。

 

見れば、その腕には青い水晶の腕輪―――高速同時詠唱のためのマジックアイテム「二口水晶」が装備されているのがわかるだろう。

 

高速詠唱と同時詠唱を使い分け、魔法を矢継ぎ早に乱打しているのである。

 

「ようし!そのまま足止めよろしく!ラディ!ウィルプ!ドラゴンスレイヤーにしてあげるわよ!」

 

ミナはニタリと笑って、足止めを続ける二人の前にジャンプして降り立つ。

 

「姐御!いやーきつかったっす!」

 

ラディに言われて、「でしょうね!」と返したミナは槍をすっ転んでは起き上がっていい加減怒り心頭に達したと見える竜たちに向けた。

 

『グァァァァァァァァ!!!』『オオオオオオオオオオ!!!』

 

瞬間、ファイヤーブレスとブリザードブレスがその口からようやくと吐かれるが―――既に遅かった。

 

「世界を調律する我らが祭神よ!その御手を盾として我等を厄災から守り給え!プロテクション!」

 

寸でのところでミナの防護魔法が発動し―――

 

「ぬううううううううん!!」

 

ミナが魔力を防壁に掛ける。

 

炎が、吹雪が圧倒的な威力で襲いかかるが―――しかし。

 

「はぁっ!どうでえ!」

 

『グォ!?』

 

吐息が消え去った時、そこには鼻を鳴らす無傷の勇者とその仲間たちの姿があった。

 

そう、それら必殺のブレスは減衰して彼女らには届かなかったのだ。

 

プロテクションの魔法は、デス・ウォールほど物理的な守りを与えてくれるわけではないが発動が早く、ホーリー・ウォールほどではないにしろ精神や魔法への守りもしてくれる便利な魔法だ。

 

ミナが神聖魔法……調和神の神官として覚醒してからはや七十年。

 

その力は、勇者の権能によって鍛え上げられ、今やドラゴンブレスをも完全にシャットアウトするほどの力になっている。

 

「……ドラゴンブレスを防ぐプロテクションなんか聞いたことねえんすけど、姐御……」

 

「こう見えて100年は勇者してるんで!さぁ、あいつら怯んでるわ!プロテクションが効いてるうちに倒すわよ!!」

 

よくよく見れば、確かにある程度の苦戦はしていたのだろう。

 

ミナの体を鎧うハードレザーには細々とした傷が入っている。

 

目の前のドラゴン2体は―――死の騎士もどきたちよりも強いはずだ。

 

その様子にラディは「了解ッス!」と叫んで、ミナの隣に立った。

 

「気合い入れすぎて死ぬんじゃねえでやんすよ!」

 

それを見ていたウィルプは憎まれ口を叩きつつ、雑嚢から出した小瓶に見えるもの―――今度は小型の爆弾であるそれに着火する。

 

「イケる?ウィルプ!」

 

「あたりきしゃりきのこんこんちきでやんす!喰らえ必殺!聖なる爆弾!!」

 

そうしてウィルプは全力でその爆弾を投擲した。

 

瞬時、それはドラゴンに当たって爆裂し―――猛烈な熱波と光線を放った。

 

「いよしっ!まだ効果切れにはなってなかったでやんす!」

 

「姐さん!?なんだよあれ!?」

 

プロテクションが作る防護壁によって、爆風も熱波も遮られてはいたが、その光線の眩しさに目を一瞬灼かれたラディは、冒険者現象の恩恵を受けている上級の冒険者らしく2秒ほどで視界を回復するとウィルプに大声でそう聞いた。

 

「ファイヤーボールとホーリーライト、それからエネルギーボルトが賦与された火薬入りの魔法の爆弾っす。これがあっしの切り札ってやつでやんす!」

 

「因みに、うちの故郷の姉上が作った特別製よ!威力は折り紙付きなのだわ!」

 

少女たち二人の言葉通り、それは凄まじい威力を発揮し、炎の竜でさえ角と体皮に大きな傷を遺し―――氷の竜に至っては左腕を吹き飛ばされていた。

 

「よしッ!突っ込むぞラディ!」「りょ、了解っす!!」

 

そうしてミナは大上段に客人碎を構え、それをダメージの大きい氷竜へと振り下ろす。

 

「三人いれば文殊の知恵ってねぇ!」

 

ガキィン、と金属を両断するような硬質な音を響かせ、ミナの槍は竜のもう片方の腕をボキリと折り砕いて使い物にならなくした。

 

『ギャァァァァァァァァァ!!』

 

「よし、やれラディくん!!」

 

「ううおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

何度目になるだろうか。

 

霊削るような絶叫が響き―――ラディの振り下ろしたバスタード・ソードはドラゴンの首を半ばまで断つ。

 

しかし、そこで強力な骨にぶち当たり―――それ以上刃が動くことがなくなった。

 

「くっ!?」「諦めるな!せいりゃああ!」

 

ミナは逆の方から客人碎を竜の頸に突き刺す。

 

『グル……お……』

 

そこまでであった。

 

急に首の筋肉の締め付けが弱くなり、それは後ひと押しの力となって―――

 

ズバリ、とラディの魔法の片手半剣が氷竜の頸を斬り落とした。

 

誠にあっけなく、二頭の成竜の片割れは地に伏したのである。

 

後は―――

 

瞬間、息をつくラディを爆弾のダメージから回復した火竜が襲った。

 

『ガァァァァァァァァァ!!』

 

「うお―――!?」

 

丸太とほとんど変わらない太さの尾を叩きつけられ、ラディは三度バウンドしてフロアの壁に叩きつけられる。

 

「ガッ!?」

 

ごぼり、と彼は血を吐いて地面に崩折れた。

 

「ラディさん!?」「ちぃ!!」

 

ウィルプの悲鳴と同時にミナは既に動いていた。

 

客人碎の真の力を開放するわけにはいかない。

 

だが、悠長にしている場合でもない状況にミナは―――魔力の消費もこの後ウィルプから言われるであろうことも、最早総てを度外視した。

 

火竜に炎の精霊術は意味がなく、風の精霊術ではすべてを吹き飛ばしてしまう―――この状況ではラディが危険だ。

 

水と土の精霊術は、ここでは力が弱すぎる。

 

水中呼吸の術のような自分の体内の水分だけでも発動できる、半ば裏技に近い術でなければ水の精霊も大きくは動いてくれないだろう。

 

土は石に包まれた此処では論外。

 

そして客人碎を握り、古代語魔法の発動体を装備していない今の状況で―――確実に火竜を消滅させることだけを考える。

 

ならば、手は一つしかなかった。

 

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