異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか 作:大回転スカイミサイル
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―――出発から1時間後。
「―――む、無限回廊……!」
ミナはその次の階層で、仲間たちとともに迷い続けていた。
そう、そこは本来のラスボスの城にはなかったはずの無限回廊―――即ち、無限ループ階層が待っていたのである。
「うーん、この魔力の流れからすると、やはり正しい順序で進まないと無限回廊からは出れないですねえ」
ルルはやれやれと頭を振り、主人の顔を見つめた。
「そうねぇ……風の流れから言ってもそうとしか思えないわね」
「壁に手をついていく戦法で駄目だから、もう俺にはどうしようもねーな」
こめかみに指を当ててミナは唸り、空悟もまた顎に手を当てて打つ手なしと唇をへの字に曲げた。
「仕方ないのです。時間は有限なのですし、試行錯誤より確実な方法がいいと思うのです」
岬はステッキを前に向けて、現れた骸骨の剣士に魔力弾を放ちながらそう言った。
「ひぇーまた骸骨……あたい、ちょっと怖い……」
同じく魔力弾を放ち、恋は少し及び腰だ。
骸骨やゾンビ、グールの類ばかり出てくるこの階層に長居したいとはミナとて思えない。
尋常な方法ではヒントもないこの迷路を抜けることなどいつになっても不可能だと断じて、あまり使いたくない魔法を使うことに決める。
それはどんな魔法かと言えば―――
「幸運の魔法、なのですか?」
「そう、それと捜し物の杖を組み合わせることで、かなり高確率で順路を発見できるわ」
ただし―――とミナは前置きをする。
「しばらくの間―――と言っても使ってから2日か3日経ってから、そこから1日くらいの間は反動で些細な失敗が増えてしまうのよ」
そうしてため息をついて、バッグからL字型の棒を二つ取り出した。
「ダウジング?」
「魔法のダウジング棒よ」
恋に短くそう返して、ルルを見る。
見て、こいつにやらせるわけにはいかない、と心の中だけで呟いた。
幸運神の加護を受けている彼にやらせるのがおそらくは一番楽なのだが、しかし岬がヒトコシノミコトから聞いたという「幸運によってルルは変なことをしていない」という話が気になる。
幸運の魔法による反動を起こしてどうなるかなどと考えたくもなかったミナは、そうして古代語を呪文として紡ぎ始めた。
「世界を支配する偉大なるロジックよ。世界を動かす式を今動かさん。我が手から溢れる砂を、我が意に沿う場所へと落とし我が行く末を切り開くべし。インビテーション・ラック」
静かに唱えると、発動体として装備している指環が光る。
そして―――捜し物の杖は道を示していった。
L字棒が開き、そちらに捜し物がある可能性が高いことを確認するとミナは一度仲間たちへと振り返った。
「じゃあついてきて」
「はーい」
恋の元気な返事に首肯して、ミナは歩き出す。
次の階層への階段が見つかったのは、それから1時間ほど後のことであった。
次の階層への階段の前に立っていたのはオーガやオークキングと見紛うばかりに巨大な体躯を持つトロールと思われる巨人であった。
「まーた四天王か……」
そうそれは、某有名RPGシリーズの3作目において中ボスの一人を務めていたトロールめいた魔物によく似ていた。
小説版ではそいつはこの城の主のモチーフになった大魔王の部下であるファンから「かば」とあだ名で呼ばれる中ボスの魔王の幹部であったことを思い出しつつ空悟は鍛銀の剣を抜いてぼやく。
「ただの力バカならともかく―――覚えてるよな、こいつを相手にするなら―――」
ミナはその瞬間、何かに気づいたようで飛び退ってプロテクションの詠唱を始めた。
「世界を調律する我らが祭神よ!その御手を盾として我等を厄災から守り給え!プロテクション!」
『―――ン』
くぐもったよく聞こえない声でプロテクションとほぼ同時に唱えられたそれは―――
バヂン、となにかが弾かれたような音を立ててプロテクションそのものを無効化してしまっていた。
「やっぱりルカ○ン使ってくるのか!気をつけろみんな!あの術に当たると、攻略本の描写が正しいなら防具が脱げる!」
空悟は叫んで、容赦なく一〇〇式機関短銃をぶっ放した。
大型トロールの唱えたそれは某有名RPGの防御低下呪文に等しいと見え、もしプロテクションによる防御力向上がなければ空悟の言ったとおりになっていた可能性が高い。
「マジで!?あたいの裸は安くないぜ!?アイドルだもん!」
「落ち着くのです!あたし達が素っ裸になっても、この場で興奮するのはミナちゃんの服が脱げた時のルルくんだけですよ!」
岬と恋は、サブマシンガンを撃ち続ける空悟の後ろでサンダーバードストライクの準備をしながら、あまり良くわからないことを叫んで―――
「ルル!わざとやらかそうとしたらぶっ殺すからね!!」
ミナが絶対やるなよと怒り出した。
「しませんよ―――破壊と渇望の王、呑み込み食らう我らが神よ。その赤き牙を盾と変えたまえ……デス・ウォール!」
呆れながら物理的な障壁では最も強力な術であるデス・ウォールを唱え、ルルにその気はないことを示し、続いて彼はその腕に二口水晶を装備する。
「強さとしては……まあ、オークキングよりは遥かに強いですね、おそらく。空悟さんはお二人に攻撃が行かないようにそのまま銃を撃ち続けていてください」
「OKだ!」
ルルから行動指針を伝えられた空悟は、そのままの体勢でサブマシンガンを地面に落としてショットガンと拳銃の二丁をぶっ放し始める。
一番前では、ミナが巨大トロールの棍棒を魔法の戦斧で受け止めては弾き返していた。
「うーん!やっぱこいつ去年の半グレオークキングの3倍位つえーぞ!」
「だから言ったじゃないですか。ミナさん、飛び退ってください。封印術を掛けてみます」
捻じれた杖を巨大トロールへ向けて、ルルは精神を集中し始める。
「岬さん、恋さん。ミナさんの昔語りにあった光と冷気の術を見せてあげますよ。その巨人の動きを止めてください」
彼がそう言った瞬間にミナはトロールから離れて、ルルの前に立った。
「了解なのです!光と希望と明日の翼!」
「マジで!見たい!羽撃け未来のエネルギーッ!!」
「「マジカル!!サンダーバード!!ストライクゥゥゥゥゥゥゥ!!」」
光の鳥が一羽、雷の速さで飛んでいく。
その鳥を巨大トロールは棍棒で打ち払うが―――瞬間、着弾した鳥は大爆発を起こしてトロールの棍棒を完全に粉々にした。
『グオオオオオオオオオオ!!』
得物が破壊されたことに激高したのか、雄叫びを上げて腕を振り上げる巨人を見たルルは「動きが止まりましたね」と微笑んだ。
「「―――世界を支配する偉大なるロジックよ」」
二つのルルの声が、昔語りとまるで同じに完全に重なって聞こえる。
「星の光を星海の彼方より降らせ牢獄と成せ。光とは波なり、波とは粒なり、粒は肉となるなり。光と肉は同じもの故に!」
「極光の彼方より永久の氷壁をこれへ。凍結とは停止なり、停止とは静止なり。永劫に汝の生を留め置かん」
右手より光、左手より冷気が迸り―――それが如何なる術であるのか理解した岬と恋は震え上がる。
「だ、大丈夫なのですか!?それ!?」
「ちょっと穴開けて飲み込むやつと同じくらいヤバイ!?」
二人の少女の声に、少し満足したかのようにルルは「まぁ、合体魔法ですから―――あなた達もいずれ使えるようにしてあげましょう」と杖を大きく掲げて呪文の最後を唱え切る。
「ブライトネス・プリズン!」「フローゼン・ウォール」
光の束と冷気の褥がトロールを覆い隠していく。
『ガォォォォォォッ!!』
そうして、光の牢獄と氷の棺に囚われるまでにはわずかに数秒。
完全に魔法は発動し、巨大トロールは最早悲鳴を上げることもなく永遠の獄に繋がれていた。
「こんなものですか―――どうでした?」
「いや、思ったよりおっかない魔法なのです。これってここから動かすことは出来るのです?」
近づいてきた岬にそう聞かれると、「ええ。最早これは物質化した光と絶対零度による牢獄。直接触るとえげつない凍傷になるので、普通は台車なんかを使って運びますね」と笑った。
「って言っても、今は別にそんなことする意味もないからね。ここで倒していくわ」
ミナはそうして、重量がかなりありそうなトロールと打ち合っていた戦斧を掲げて叩き落とす。
すると、光の牢獄は術者の意思通りに砕けて、中のトロールごと微細な氷の粒となって消えていった。
「よし―――エビ○○ージと同じとすると―――」
ミナがすぐに後ろに下がると、砕けたトロールだった氷の粒は弾けて不思議なレンガと化していく。
今度は30個ばかりのレンガとなって、中ボスらしき魔物は消えていった。
「これで……7割ってあたりか?」
「だな。この分ならこの城で必要分は全部手に入るはずだが……ま、進んでみなきゃわからねえな」
時間はまだ朝の3時ほど。
リミットまでに後21時間というところであった。
そして―――トロールが消え、レンガをすべて無限のバッグに放り込んだ後に。
「……あれ、なんだろ?鏡?」
なにか光るものが見えたと思った恋は、それに慎重に近づいていく。
「なんかあるぜ、ミナねーちゃん!鏡……鏡だ!」
目視できる距離まで近づいた恋は、そう言って後ろを振り返る。
すると、即座にミナが駆け出してきて―――
「ふんっ!」
恋を横抱きにして後ろに下がらせると同時に、鏡から飛び出してきた何かにヤクザキックをぶちかました!
『―――失敗、失敗した』
それはドロリとした粘液に覆われた女。
―――それはどこかミナにも、ルルにも、岬や恋にも似ていて。
『ぐぶぶぶぶぶ……』
不気味な気配を放ちながら、こちらにゆっくりと近づいてきていた。
「恋ちゃん、こいつは!」
「あ、ああ……随分形が違うように見えるけど、気配は間違いねえよ……あたいのお袋をコピーしたやつだ……!」
体勢を整えた恋が鎌を向けて断言すると、ミナは即座にバッグから客人碎を取り出してスライムめいた女に向けた。
「舐めた真似してくれるじゃないの、邪神の眷属」
ミナはその気配と佇まい、そして濃厚なバグの気配からそう断じた。
「何を企んでいる、かなんて聞かないわよ。世界の崩壊以外に貴様らの行う所業などないのだから」
冷たい声で槍を向ける。
仲間たちもまた、それぞれに臨戦態勢でその「どこかで見たような女」を見据えた。
『ぐぶぶぶぶぶぶぶ……まだ、まだ……あと、で、ね―――』
泥濘に浮いた泡のような不気味な笑い声を上げて、女はドロリと溶けて―――床の中へ消えていった。
それは2秒と掛からない速度で液体と化して逃げた女に、ミナは「くそやろうが……」と冷気すら感じる怒りの表情で毒づく。
「この分だと、やはりぬえ子さんを拉致したのも彼奴の差し金かと」
「そうね……そして次は恋ちゃんを狙った……最初のターゲットにした恋ちゃんは私達といて警戒が強くなってしまった。だからここへ誘い込むために……」
―――勇者、否、冒険者の弱点とはこれだ。
見知らぬ土地、ギルドがない土地で長期の冒険をする際―――そこで防衛戦を行わねばならなくなった時。
純粋に手が足りなくなるのだ。
村で小鬼を迎え撃つな、郷で犬鬼を殺すな、小悪魔に平野で射かけるな。
例えかのような弱い魔物でさえ、誰かを守りながらでは―――
ミナやルルがたとえ天変地異を起こすほどの魔力と武具を持ち、岬や恋が如何に奇跡の魔法を使い、廻や夕が特撮ヒーローめいたロボット兵器だとしても。
どこまでも届く手など、どこにもないだろう。
冒険者は冒険に挑むもの。
挑まれるのはなかなか苦手なのであった。
「かーっ!冒険者の弱点だよなあ!これもうほんと!」
「ギルドがないどころか、武具の携帯すら法律で規制されているのが厄介ですねえ。バレずに護衛するのが難しい……」
叫ぶミナを見やって、ルルは骨の欠片と思しき白い石をいくつか手に握り、ハァ、とため息を吐く。
「なんです、それ?」
「無念を飲んで亡くなった方の骨を遺族や―――本人の亡霊に許可をいただいて加工したものです。高い知能を持つスケルトンが簡単に作れるので、そこそこ役に立ちますよ」
ルルは何でもないことのように笑って、それを無限のバッグへとしまった。
岬はそれに少しだけ顔をしかめると、「趣味は悪いですけど……本人とか遺族とかが納得してくれるならいい……んですかねえ?」と複雑な表情で首をかしげる。
「より大きな善を成すためには仕方ありませんよ。無理強いは―――少なくとも自我を得てよりはした覚えはありません」
そうして指を振った。
「多数を護衛しないといけない時に重宝するんですが、如何せんこちらの世界では動く骨人形など、ホラーの類ですからね」
ルルは肩をすくめて、「警察官として、こんなものを市民の護衛に使いたいですか?」と空悟に笑いかけた。
「いや無理に決まってんだろ。パニック起きるわ」
空悟は一〇〇式機関短銃をホルスターに収めつつ、苦笑してそう返す。
「まーぶっちゃけ私たちのいた国……さっきの話でもしたラゴンエス以外だと、緊急手段以外じゃあんまり使えなかったんだけどねえ。ラゴンエスでは魔物使いは普通の職業だったからOKだったけど」
頭をわしゃわしゃと掻きながら、ミナはそう愚痴をこぼして全員に振り返った。
「みんなの護衛のことはまた別途考えます。まずはこのふざけたレンガの城を叩き潰すのみ!」
「はーい!」「了解なのです」「承知」「おうとも」
やけくそで叫ぶようにそう宣言した彼女に、仲間たちはそれぞれに首肯と返事を返したのであった。
どんな日常回が読みたいですか?
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