異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第120話「あたりきしゃりきのこんこんちきよ!グロ動画を見せてくれたお礼は命で支払ってもらうわ!」

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―――最後の階段を抜けると、巨大な祭壇があった。

 

そこでようやくと思い知る―――やはり、スマートフォンの高度計が語っていたように、この城は逆しまに出来ているのだ、と。

 

天井に逆さまにそびえる祭壇。

 

捻じくれたその祭壇の篝火―――下に垂れ下がる炎がこちらを照らしてくる。

 

ボ、ボ、ボと最初は一対のみであった篝火たちはその数を増やして―――

 

やがて、フロア全体が明るく照らし出された。

 

―――しかし待てども、待てども。

 

誰も来ない、何も起きることはなかった。

 

「……なんか嫌な予感がする」

 

「奇遇ですね、ミナさん。僕もですよ」

 

主従は顔を見合わせ、天井―――あちらからすれば床を―――見た。

 

何も起きない―――起きないが、それだけで終わるはずもなく。

 

やがてミナは軽い頭痛を覚える。

 

こめかみを掌で押さえて、天井を睨めつけると、やがてそこには―――

 

桃色の闇で覆われた女が一人―――否、一匹。

 

人とも獣ともつかぬ様子で、いつの間にか佇んでいた。

 

「あれは……!やっぱりこっちに来てたのね、邪神の眷属!!」

 

ミナが叫ぶ。

 

岬が杖を掲げ、そして恋もまた鎌を向ける。

 

『あ、ら……はや、い、わ……ね?や、るのか……な?で、きる?きる??』

 

その桃色の粘液女は首を傾げて、その足元―――否、形をなさない下半身で押さえつけている何かを愛おしげに撫で擦った。

 

まるでまぐわいでもしているように見えるかも知れない―――だが、それはもっともっと悍ましいもの。

 

即ち―――

 

『ぐぶぶぶぶぶぶ』『溶け、溶けていく……わ、我が……!?この城の主が……!?』

 

粘液女の股の下でもがくそれは―――すでに半ば以上が溶けたカバならぬブタの魔王であった。

 

「うどわきもッ!?岬、恋ちゃん!見ちゃ駄目よ!」

 

ミナは思わず後ろの少女二人の視線を掌で遮って、不快に顔を歪める。

 

そう、この桃色の闇は―――城の主、子豚の末子を食らっていたのだ。

 

「おいおいおおい……」

 

空悟もまた強化された視力によってそれを見てしまったのか、口元を抑えて青褪める。

 

「なぁ、三郎。あれ、さっきのドラゴンとどっちが厄介なんだ……?」

 

「ドラゴン……と言いたいところだけどもよ、ぶっちゃけ戦いたくない度ではこっちのが上だべ」

 

天井の子豚は、ぬいぐるみに戻ることも許されずに、ぐちゃぐちゃとした肉塊になりつつ女に喰われていく。

 

「う わ ぁ」

 

岬がミナの掌を避けてそれを双眼鏡で直視し、それ以上言葉にならないとばかりに絶句した。

 

「だから見んなっつったでしょうが。あーもう!降りてきやがれクソッタレ!!」

 

「なんて嫌な騎乗位だ……やるぞ、三郎」

 

空悟はそう呟いて、ロケットランチャーを女へ向ける。

 

「子供の目の前でエログロはやめてもらおうか!!」

 

天井へ向けてロケット弾を発射しながら、空悟はそう叫ぶ。

 

排気炎が地面にぶち当たるが、それはこの場にいる誰にも痛痒を与えるほどの威力ではなく。

 

しゅるしゅると打ちあがった花火は―――桃色の女に着弾して爆裂した。

 

「おい、空悟」

 

「―――すまん。マジでなんだあれ」

 

いきなり攻撃をした空悟を少し咎めるような調子で呼んだミナに、空悟は引き攣った笑みを浮かべて質問する。

 

『ぐぶぶぶぶぶ―――』

 

それは―――着弾した爆発を、爆発のまま「固めて」食っているようにしか空悟には見えなかった。

 

「空間固定と吸収―――やはり『凍結』の権能を持っているのね……!空悟、あれはそういうやつだ!空間から時間を固定して、その固定した空間の中のものを吸ってるんだ!」

 

ミナは―――数瞬、黄昏の剣を取り出すかを迷い、しかしそのままに客人碎を握りしめる。

 

「今んとこ、倒せるのはオレだけだ!全員、オレの周りから離れるなよ!!」

 

スハイルやハニーファ……かつて、邪神に挑んだ時に共にあった仲間たちのごとくに、規格外の力にまで鍛えたとは空悟たちは言えない。

 

故に、ミナとルルが守る必要があった。

 

ミナは小さな声で、誰にも聞こえぬように客人碎の封印を解く。

 

そして、3人に指示するため天井の方を分析し始めた。

 

「重力の精霊の働きと、さっきのロケット弾の動きからして多分、天井の向こう側は重力が逆になってるわ。だから、ロケット弾はともかく銃弾はあんまり意味がないと思う。もっと大きな質量のものを投擲しないとダメね」

 

ロケット弾は先ほどのドラゴンとの戦いで2発使ったので残りは6発。

 

既に出し惜しみする理由もない……

 

ミナは少しだけ考えると、空悟たちに「今のうちにロケット全部ぶっぱたのむ。岬と恋ちゃんも同じく魔力が尽きるまで合体攻撃をお願いね」

 

ミナの言葉に、空悟は「今吸われてる爆発みたいに止められて喰われちまうんじゃねえのか?」と確認する。

 

ミナは親友の質問に、「まぁまぁ、オレに考えがある」とどこかのロボット生命体軍団の司令官みたいな回答を返して笑った。

 

「……信じていいのか、それ」「あたりきしゃりきのこんこんちきよ」

 

ケラケラと笑って、槍を女へ向ける勇者に刑事は「ならいいけどよ」とロケットランチャーに弾を装填して女へと向けた。

 

同時に、その後ろで二人の魔法少女が顔を見合わせてお互いに首肯して―――空を見上げる。

 

見上げた先で、母に似た、自分に似た、友達に似た、仲間に似たその桃色の闇を見つめて恋は吐き捨てるように―――「全力でやるぜ、岬ちゃん」と低い声で呟いた。

 

「もちろんなのですよ。限界の一つや二つは振り切るのです!」

 

岬もまた、己にも似た何者かに不快感を隠さぬままに杖に魔力を集めだした。

 

「っし!準備完了だぞ!」

 

「こちらもなのです!」

 

足元に装填した分を除いた残り5発のロケット弾を並べて、ランチャーを構えた刑事と。

 

そして光の鳥の魔力を握りしめた杖に宿した魔法少女たちが。

 

嵐の勇者、風の妖精に伝えて決意の瞳を向ける。

 

「よし!ルル!行くわよ!」

 

「いいですとも!」

 

その言葉とともに、ルルの口から古代語の響きが漏れ出す。

 

ミナはまた、その身を覆っていた銀色のハードレザーを脱ぎ捨てて、薄緑の衣を―――

 

エンシェント・エルヴンガーヴ。

 

上古の森人の戦装束、即ち勇者の鎧を身にまとっていた。

 

「本気でやるんですね?」

 

「あたりきしゃりきのこんこんちきよ!グロ動画を見せてくれたお礼は命で支払ってもらうわ!」

 

ミナはそうして客人碎に全身の力を預けていく。

 

「よし!撃つ!」「「サンダーバード!ストライクウウウウウウウウ!!」」

 

空悟と岬、恋がその持てる最大火力を投射する。

 

ロケット弾が矢継ぎ早に六発、光の鳥が五羽―――空へ飛んで、そして。

 

『ぐ、ぶぶぶぶ―――愛・恩・憎・魔・慍―――ぐぶぶぶぶぶぶ……』

 

くぐもった潰れた笑い声が響く。

 

その声とともに光の鳥もロケット弾の爆裂も等しく停止して―――

 

ミナはギラリと目を光らせて、半月に口を歪ませて「ビンゴ」と一声呟いた。

 

そして「やれ、ルル」と低く呟いて、そしてルルは「はいはい」と呆れたように微笑んで―――

 

「破壊と渇望の王、呑み込み食らう我らが神よ―――破壊の祝福を大地より。雨脚去りし天を繋ぎ、再生へ向かう階を我らに与え給え。エンゼル・ラダー!!」

 

瞬時、いずこかより光が降り注ぐ。

 

破壊神を示す紅い禍々しい光が。

 

それは破壊天使が死と再生へ人を誘う梯子、エンゼル・ラダー。

 

即ち―――爆発的な威力で、人を「階上」へと打ち上げる魔法である。

 

「死ぃぃぃねぇぇぇぇぇぇ!!」

 

ミナは殺意のこもった叫びを上げて、その「階段」で打ち上げられる。

 

その速度は、ルルの強大な魔力で打ち出されたこともあって、もはや時速600kmにも達するだろう。

 

風切り音を上げて、ミナは女に近づいていく。

 

『……?』

 

まるできょとんとしながら、股の下のもう声も上げることもままならないブタを掴み上げて―――ミナの槍を受け止めて―――

 

そして、轟音が世界を満たす。

 

爆発音は十と一つ―――即ち、ロケット弾とサンダーバードストライク、そのすべてが突如として停止を破って爆裂を起こしたのである。

 

『―――ぐ、ぶっ?』

 

何が起きたかわからない体で、女は爆発に吹き飛ばされ―――そしてミナはすっくと子豚の末子をまたぐように天井に立った。

 

その体はほとんど無傷―――そう、エンシェント・エルヴンガーヴに守られて埃をかぶった程度にしか汚れてもいない。

 

『……ぐぶ?何を……し、たの……?』

 

ミナは客人碎を傷ついた女に向けて、くっくっく、と含み笑いをした。

 

「邪神から―――あのくそやろうから聞いてないのかしら?勇者の装備は、その神話の最初から―――破邪滅神の力を持つ―――即ちバグと神々の権能を封じる力があるのだ、と」

 

ミナは輝けるその槍を女に向けて、不敵に笑う。

 

「一体何の目的であんな事を2回もして、しかも3回目にはぬえ子ちゃんを拐ったのかしら?ことと次第によっては、滅ぼすだけでは済まさんぞ……?」

 

ジリジリと女に油断なく近づき、自分の股ぐらの下に落ちた子豚の末子が動かないことを確認しつつも、いつでも女を殴り倒せる位置まで近づくとミナはそうして眉間にシワを寄せた。

 

『ぐぶぶぶぶ……ざ、ん、ねぇん……こんかぁいはぁぁ……こ・こ・ま・で……』

 

どろり、と女は溶け消えようと地面に潰れて―――しかし、半分ほどに潰れたところで、その変形が止まった。

 

『……?』

 

「だから言ったでしょうが。これは!この槍と剣は!破邪滅神の力を持つ、神と世界蟲の権能を封ずる!魔王や邪神ともなれば総て封ずるのは不可能だけども―――!」

 

ミナはそうして客人碎を地面に突き刺し、その光が保たれていることを確認して、バッグから―――青く輝く一振りの剣を取り出した。

 

柄に竜の勇者を象徴する龍の顎をあしらい、それ以外の部分はまるで無骨なそれは―――

 

『ぐぶぶぶぶ―――た、そがれ―――』

 

蒼き光はやがて赤銅色に染まり、それがミナの魔力を徐々に吸っていく。

 

吸っていくたびに刀身の柄に近い部分から青く染まっていく。

 

「勇者の剣と槍―――この二振りをもって封じられなかったバグは、魔王や邪神のみ―――さぁ、この光で消えなさい」

 

ミナはそう死刑宣告のごとく冷たく言い放って、剣に力を込めた。

 

『―――そ、う……ぐ、ぶぶぶぶぶ……』

 

ぶじゅり、と。

 

ぼごり、と。

 

女の桃色の肌が爆ぜて、飛ぶ。

 

飛んで―――ミナは気づいた。

 

「なるほど―――すでに逃げていたってことかしら?」

 

冷たい、まるで氷原の嵐を想わせる声が響く。

 

『ぐ、ぐぶぶぶぶぶ……ごめい、とう……や、や、社で……まって、るわ?』

 

ただでさえ回っていない呂律が更にくぐもって―――だんだんと消えていく。

 

「なるほど、スライムをベースに私や岬や恋ちゃん―――とか、いろんな女のデータをブチ込んだモンスターか、お前は。だから分体と本体で違いがない……!」

 

ぎり、と奥歯を噛み締めて勇者は女を睨めつける。

 

『あ~た……りぃぃ……ぐぶぶぶぶぶぶ―――』

 

そしてそのまま桃色の闇は、黒く黒く、闇色に変わって―――ぼん、と小さな爆発音を立てて消滅する。

 

「逃したか……大丈夫、そこのブタさん」

 

『お、の……れ……この儂が……こんな、こんな……ぐぅぅぅぅおおおお……儂は、儂は諦めぬぞぉぉ……ぐふっ!?』

 

呻くように呟きながら、やがて喰われかけていた豚の末子はそのまま絶命した。

 

「お気の毒……せめて来世は普通の豚になって生まれてくるといいわ……」

 

バグダンジョンの存在であるがゆえ、そんな可能性も殆どないことはわかっていたが、それでもミナはそう言って調和神の聖印を切ることしか出来なかった。

 

「……とりあえず急がないと」

 

ズタズタの豚のぬいぐるみに戻った子豚の末子は、やがて周囲の物―――玉座や床などを不思議なレンガに変換しながらその内包する魔力を朽ち果てさせ、完全にただのモノへと変わっていく。

 

ミナはそのレンガを無限のバッグに急いで拾い集めながら、ルルへ叫んだ。

 

「ゲームのとおりだとこの城崩壊するわよ!早くこっちへ来て!帰還の指輪で博士のところに戻るから!」

 

「承知!」

 

その言葉に、すぐに空を飛べる岬と恋は、それぞれ空悟とルルを持ち上げて空を飛ぶ。

 

「うわっ軽い!嘘みたいに前より軽い!」

 

「それが冒険者現象というものです。さぁ、遊んでいる暇はないですよ」

 

自分の力が劇的に向上していることに喜ぶ恋をたしなめながら、ルルは重力が反転したあたりで彼女から手を放してもらい地面に着地する。

 

そして、それは空悟も同じであった。

 

「……こういう形でくだらねえ思い出でも壊されるとちょっと凹むな」

 

「そうだよなぁ……」

 

親友に慰めるような口調で話しかけられたミナはそう返して、はぁ、とため息をつく。

 

そうしているうちに―――

 

ゴゴゴゴ、と天井も壁も床もすべてが震えだす。

 

「こ、これは―――お約束ってやつですか!」

 

岬が叫んでたたらを踏み、空悟に支えられて近づいてくる。

 

「このままゲームと同じに落とされたらどこへ転移させられるかわからないから、急いで!もうレンガの数は十分!行くわよ!」

 

ミナが叫ぶと、玉座のあったほうから亀裂が走ってくる―――

 

「よし!みんなひっついたわね!世界を支配する偉大なるロジックよ。我が手にあるものを我が手に依らずに駆動せしめよ。幻想の手は我が目の中にあらん。ファントム・ハンド!」

 

幻想の手が帰還の指輪を掴み、5人を転移させていく―――

 

ミナたちの姿がすっかり消え失せた後、亀裂はミナたちがいた場所を飲み込んで城ごと崩壊していったのであった。

 

 

 

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