異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第122話 「あ、もうできてたのか……」

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じわじわと生命力を吸われ始めて、早5時間が経過していた。

 

あと1時間ほどで窯は生命力と魔力で満たされ、ミナがその血を捧げれば駆動を始めるだろう。

 

その間何があるわけでもなく、何度かパーティメンバーからのLINFや電話、或いは廻や夕からの定時連絡が届く程度であった。

 

「さて、材料の確認でもしておきましょうか」

 

バッグからホームセンターで購入した純水の瓶と部屋のプランターから採取した花弁を取り出す。

 

「とはいえ、これだけでいいんだけども……まあ錬金術も魔法の一種だし、質量保存の法則は無視してもかまへんか……」

 

ミナはフッと嘆息して、ポテトチップスを一枚食んだ。

 

何百回、何千回思ったか知れない疑問をのりしおの味と共に嚥下して、ミナは瞑目する。

 

ぶるり、とスマホがまた鳴った。

 

岬と恋が水門家を出発したという通知だ。

 

瞑った目を開けてそれを見たミナは「さて、あと少しね」と呟いて、また瞑目した。

 

仲間たちは2時間後には再びここへやってくる。

 

そうして妖精の雫を作ったら―――

 

そこまで考えて、ミナはわずかな微睡へと落ちていった。

 

 

 

―――1時間ほど後。

 

ルルが見守る中、ミナは椅子から立ち、その腕に自ら深く傷をつけてその血液を釜の中へと落としていく。

 

釜の底へたどり着いた血は、輝く釜の光を奪い去って透明になっていく。

 

コップ一杯分も血を落としただろうか。

 

魔力の光が消えて、完全に定着したことを示す静寂が訪れた。

 

「よし……ルル、お願い」

 

ミナはしとどに血を流すその腕を従者へ向ける。

 

すると、ルルはすぐに準備していたとばかりにミディアムヒールを使用してミナの傷口を塞いだ。

 

「うまくいきましたね」

 

「ええ。さ、後は少し休憩してから―――」

 

ミナはそこで軽いめまいを感じてよろめく―――貧血であろう。

 

「ほら、無理はするものではありませんよ……肩を貸しますから、さぁ」

 

ルルが気遣ってそう言ってくる。

 

それに対してミナは、「仕方ないわね……よろしく」といつもよりこころなしか青い顔で微笑んで肩を借りた。

 

彼女はエルフ。

 

森の民は……森と同じように、失えばなかなか戻らない。

 

彼女は冒険者であり、冒険者現象の加護を誰よりも厚く受けている少女だからこそ軽い貧血で済む……

 

しかし、普通のハイエルフにとっては人の十分の一、コップ1杯程度の血が時に死につながることもある。

 

森に近いエルフほど失血は致命に繋がる重傷なのだ。

 

―――もちろんそのために、腕利きで知られる森人の冒険者や騎士、戦士は対策をしているものなのではあるが。

 

ルルは釜の前に立ったミナに、バッグから血色の粉薬を封じた油紙を渡す。

 

それは「ブラッディパウダー」という魔法の抗貧血薬である。

 

どんな人間であろうと、たとえそれがハイエルフであろうと失った血液を短時間に戻す不思議な粉薬。

 

それをミナは受け取ると「まだあったのね」とニッと笑って、口の中に放り込んでひどく渋い顔をした。

 

「切り札は最後まで取っておくものですよ。まあ、これがあればいくらでも作れるでしょうけどね」

 

ルルが錬金の釜をポンポンと叩きながら、ミナとは対照的に明るい表情で彼女を見ると、その唇は溶けた粉薬で真っ赤に染まっていた。

 

―――口の中に取り込んだブラッディパウダーは、唾液を吸収すると瞬時に飲んだ人間の血液へと変換される。

 

当然口の中は恐ろしいほどの血の味で満たされ、慣れないものはそのまま吐いてしまうほどだ。

 

そのまま数十秒ほど待てば溶けたパウダーは口内の粘膜よりすべて吸収され、貧血を癒やしていく。

 

それまでの辛抱なのだが、その間がめちゃくちゃ辛い―――良薬口に苦しを絵に書いたようなアイテムであった。

 

「うげぇぇぇぇ……相変わらず最悪の味ぃ!」

 

「まぁまぁ……貧血は治ったでしょう?」

 

ルルがくつくつと笑って、ミナから一歩離れた。

 

「まぁね!じゃあ、ささっとやっちゃいましょうか!」

 

血色の戻ったミナは、先に出していた材料を錬金の釜へと入れていく。

 

純水が10リットル、花びらが20枚、そしてミナの―――先程の儀式で多めに入れた血液が釜の中で反応しだす。

 

「空悟たちが来る前にやっちゃいましょう」

 

「ですね。早いに越したことはない」

 

そうして二人は魔力を込めた大きな木のヘラで釜をかき回していく。

 

一定の速度でそれを回し、完成品のイメージを思い浮かべながら回し続ける。

 

そうして煮詰めて煮詰めて、小瓶一つ分まで煮詰めていくだけ。

 

妖精の雫は材料を揃えるのが―――ハイエルフの体液という部分がひどく難しすぎるという以外は、本当に初歩的な錬金アイテムなのであった。

 

 

 

 

 

「秘薬・妖精の雫~~~」

 

ミナはそうして高くガラス瓶に入った水色の液体を掲げて声高らかに完成を宣言した。

 

「あ、もうできてたのか……」

 

自動ドアから入ってきた空悟がそう聞くと、「あぁ、今出来たところだ」とミナはあっけらかんと答えて笑った。

 

「うまく行ったようで良かったのです」

 

一足先に来ていた岬がそう言うと、恋が「お疲れ様、ミナねーちゃん」とスポーツドリンクを勇者に渡す。

 

それを「ありがと」と言って受け取ったミナは、それを二口をほど飲んで蓋を締めた。

 

「とりあえずはこれで準備完了よ、こっちはね」

 

「後は、廻さんと夕ちゃんを迎えに行くだけなのです」

 

ここはフルメンバーで行くのが正しいだろう、とミナは考えた。

 

ついでに一ノ瀬家の入居しているマンション、そして相羽家の乾物屋にもメイズ・ウッドを掛けて、敵が近寄れないようにしなければならない。

 

そうしないといつ別働隊の襲撃―――だけではなく、あの桃色の闇が生み出した異空間をいつ発生させられてしまうかわからない。

 

彼奴がスライム系の魔物であると割れた以上、同時多発的に攻撃されないとは限らないのである。

 

「急いでいきましょうか。本当にあの糞野郎の下僕のせいであぁもう……」

 

ミナは妖精の雫をバッグにしまって、大きなため息をつく。

 

ついて、「いい度胸だ……奴には私の冒険の糧となってもらう……!」とくつくつと笑いながら自動ドアへと歩き始めた。

 

その光景に怯える恋に、ルルは「いつものことですから、気にしないでくださいね?」とニッコリ笑う。

 

「そうなのかぁ、ルルにーちゃん……」

 

恋はそう言って優しげな笑みを浮かべるルルを見て、「じゃあにーちゃんは?」と聞いて。

 

「ミナさんを怒らせてるなら、僕も十分怒っていますよ」と答えて。

 

恋は「あたい、ミナねーちゃん怒らせないようにするから怒らないでね?」と少し怯えた表情で聞いた。

 

ルルは一瞬心外、という顔をして「大丈夫ですよ、いい子にしていれば。僕も、あなたもね」と唇に人差し指を当てて微笑む。

 

自分に言い聞かせるようにルルは言って、ミナの後を追う。

 

「さ、俺らも行こうか」

 

空悟に肩を叩かれ、恋は「うん」と答えて歩き出した。

 

去っていく仲間たちの後を追いながら、岬は「……これ、もしかしてまずいのでは?」と独り言つ。

 

それが形になる日が来るかは、岬にも、もちろん誰にもわかることではなかった。

 

 

 

ミナが研究所を出た頃―――

 

夕は相羽家に近づく、不審な粘液を発見した。

 

無論、それは即座に殺人光線によって蒸発させられてしまったのだが―――

 

しかし、夕の電波探信儀、音波探知機、光学走査、そのすべてが粘液が数を増して近づいてくることを示していた。

 

夕は食べかけていたアンパンを背嚢―――バイト代で購入したリュックサックに、丁寧にビニールで再度包んでしまう。

 

そして腕に装着するオプション武器である6.5mm軽機関銃……博士いわく八×式小型軽機関銃を最も反応が強い場所へと向けた。

 

異端技術といっていい博士の持つ技術で作られたサイレンサーが装着され、ほとんど音は出ない。

 

周囲には不自然なほどに気配はなく、おそらくは以前の富永ふのりの事件の際に現れた異空間に近い場所と推察された。

 

「こちら夕、応答可能か?」

 

『こちら廻。問題ない。スマートフォンの電波は切れているが、専用回線までは妨害できていないようだ』

 

同じく敵に狙われたのだろう、瞬時に廻は通信に出て状況を知らせてくる。

 

その様子に「問題なさそうで何よりだ、廻。こちらは解析不能の粘液の襲撃を受けているところだ。そちらはどうか?」と答えた。

 

『同じく、粘液が攻撃を仕掛けてきている。解析不能なのは此方も同じく―――おそらくはミナたちと同じ出自だろう。こちらでは周囲に精神波の類が放射されている』

 

廻が一般人を巻き込むかも知れないと言外に言って嘆息する。

 

その答えに、夕は「こちらも状況は同じだ。周囲が商店街のため、問題は此方のほうが大きい可能性がある―――」と答えて、軽機関銃を斉射した。

 

プシュプシュプシュプシュと気が抜けたような―――しかしよく耳を凝らさなければほとんど聞くことが出来ない音が連続で発生し、粘液を散らしていく。

 

「ふむ……金髪女のやっている電子遊戯の魔物のように単純な質量攻撃は効かんか。迷宮のスライム……よりは上等らしい―――近接戦闘に移る。交信終わり」

 

『了解。交信終わる』

 

ふつ、と回線が途切れて通信が終わる。

 

ミナたちへ連絡できないか、と一瞬思ったが―――彼らは廻たちの専用回線との通信手段が現在存在しない。

 

科戸研究所を出発している今、すぐに連絡する手段はないが、おそらくそう時間も掛からずに自分か廻のどちらかと合流できるだろう、と踏んで戦闘を続行する。

 

「やはり殺人光線で焼き尽くすのが一番だな」

 

そうして夕は額のはちまきめいた殺人光線発射器から光条を連続で放つ。

 

『ビギィ』『ヴァ』

 

粘液らは声にならない声を発しながら、灼かれて消えていく―――が如何せん数が多すぎる。

 

夕への包囲は徐々に狭まりつつあった。

 

「ち……だが、ここで退けばつぐみやぬえ子らの母まで危険にさらされる……か。周囲の破壊をためらっている場合ではなさそうだ」

 

夕はそう独り言つと、バサリとデニムジャケットを脱ぎ捨て―――

 

瞬時に水兵服に似た戦闘用のスーツへと「変身」していたのだった。

 

「薺川博士も趣味的だな……それ自体は悪いことではないのだが」

 

そうして新兵器である左腕に装備された周囲に電撃を発射する、エネルギーボルトの解析結果から作られた試製空雷装置が火を吹いた。

 

バチバチと空気を高圧電流が裂く音がして、それは粘液群に極超音速―――否、雷速で襲いかかる。

 

即ち、比喩ではなく光速で―――異端技術により雷よりも遥かに弱い電圧電流によって空気の絶縁を突破して、粘液たちに突き刺さった。

 

『ビビビビビビ』

 

痺れているかのような声を発しつつ、全方位に放たれた電撃は粘液を少しずつ後退させていく。

 

「……どうやらこの装備が有効なようだな。後は金髪女達が来るのを待つばかり―――と行きたいところだが」

 

相羽家へ粘液の反応がゆっくりと近づいていくことを察知した彼女は、粘液を牽制しつつ相羽家へと徐々に近づいていく。

 

家の中にまで入ろうというのであれば是非もない。

 

今、この瞬間でさえおそらく電磁被覆がなされている彼女の持ち物以外の周囲の電子機器には、雷撃による電磁波によって小さくない損傷を与えつつの戦闘だ。

 

「……仕方がない。地方人の持ち物を無闇に壊すのは、兵器としても軍人としてもやりたくはないのだが―――」

 

夕はそうして腰部のミサイルを一発、粘液に撃ち込んだ。

 

バゴォムと轟音がして、相羽家へと入ろうとしている粘液の一部が吹き飛ぶ。

 

その間に夕は跳んで、相羽家―――相羽乾物専門店と掲げられている店先に立った。

 

「―――案の定、入り口から先には行けないか。が、奴らには突破するための方法がある―――」

 

状況は不利だが問題はない。

 

研究所からミナたちが出発したのは20分ほど前。

 

それは即ち、ガーゴイルを用いていたのであればそろそろ到着する頃合いだということだ。

 

例え、この変異空間へミナたちが入ってくることは出来ないにせよ、相羽家を守ることは十分に可能だろう。

 

結局の所、時間は今回は黄昏の傭兵団の味方なのであった。

 

「さて、そうするなら―――ぬっ?」

 

上から降ってきた粘液を紙一重で避けると、夕は怪訝な顔をして一歩後退る。

 

「……一瞬、電探から反応が消えた、か?」

 

はねた粘液が彼女の水兵服の裾に僅かについて、ぶじゅぶじゅと嫌な音を立てていた。

 

「装備の融解なし―――奇怪な」

 

夕はそうして強化服の裾を手刀でわずかに切り離す―――瞬時、粘液は裾とともに燃え尽きる。

 

奇怪な挙動をした粘液―――それは夕に危機感を齎すには十分なものであった。

 

「どうやら何か切り札めいたものをもっていると見た。ここで悉く掃除させてもらう」

 

左腕を右手で保持し、そして頭の殺人光線照射装置にエネルギーが収束する。

 

そして、腰部の噴進弾発射器も敵へ志向した。

 

「雷撃―――噴進弾、殺人光線―――斉射を開始する」

 

それが真実は機械音だと悟られることは万に一つもありえないであろう美しい、人と変わらぬ合成音声が夕の口から紡ぎ出される。

 

同時に人では決してなし得ぬ変形を遂げた腕と腰から必殺の攻撃が放たれ―――ロケット弾の着弾と同時に、額から殺人光線が広域に照射される。

 

『ギェェェェェェェェ』『アァァァァァァァァ』

 

どちらが合成音なのかわからない悲鳴を上げながら、スライムたちは焼き尽くされていく。

 

バリバリと唸る電撃に、轟音を上げる爆発に、そして音もなく灼いていく熱線によって。

 

30秒後―――うごめいていた粘液の反応はなく―――目の前には焼き尽くされて大穴が空いた道路がポッカリと穴を空けていた。

 

「反応なし……と行って欲しかったが、そうそううまくはいかんか」

 

そう言って格闘戦の構えを取ると、ほとんど消失したスライム共が一つ所に集まっていくのを彼女は探知しした。

 

それは夕が空けたクレーターの真ん中―――そこに、うじゅうじゅと蠢いて―――やがて、それらは小さいながらも人の形をなした。

 

子供ほどのそれは―――岬と見紛うほどに似ていたことに夕の人工頭脳は一瞬だけ混乱した。

 

「―――!その姿、どういうことだ!?」

 

『ぐ、ぐぶぶぶぶぶ……いのち、じゃ、ないで……す……まね……れ……ないの……です……?』

 

岬の声真似までしているそのスライムに、夕は瞬時に生理的な嫌悪を抱く。

 

無論、そうなった夕にとって―――そして相手が人類でないのであれば、やることは唯一つだった。

 

「よかろう。岬を、私の仲間の格好を真似て下らんことをしようとする異世界の走狗め。貴様が狗であろうと魔物であろうと私には大差ない。総て―――駆逐する」

 

夕の額に全エネルギーが集中する。

 

確実に蒸発させるための熱量がそこに集まり―――「待って!今やらないで!!」と上空から聞き知った声が響いた。

 

「―――チ、遅いぞ金髪女」

 

そこに降り立ったのは―――薄緑の美しい葉を想わせる装束を身に纏った少女。

 

即ち、森人の勇者ミナ・トワイライトである。

 

「結界を破らずに入るにはこれしかなかったもんで、着替えに時間がかかったのよ!」

 

「嘘をつけ。お前、革鎧からそれに一瞬で着替えたと岬が言っていたぞ」

 

服と同じ薄緑の刀身を持つ日本刀を正眼に構えるミナに、夕はにべもなくそう言い放った。

 

「あー、あれ結構準備と言うか、早着替え用のマジックアイテムが必要なの!」

 

ミナはそうして、スライムにジリジリと近寄っていく。

 

「夕ちゃん、結界の外には通行人がいっぱいいるから、このまま倒したらまたぞろ突然地面に大穴が空いたりして混乱が起きる。殺人光線の最大出力は止めて。穴からあれを引き離すことは出来るかしら?」

 

「あの粘液が私の装備に触れた時、奇妙な挙動をした。魔術を防御する武装はあるか?このオリハルコンとやらの籠手では防御できんようだ」

 

ミナはその言葉に一瞬逡巡した後、バッグの中から青いリボンを出してそれを彼女の首に掛けた。

 

「―――これは?」

 

「ブルーリボン……このブラックリボンほどじゃないけど、かなり高い魔法や状態異常への抵抗力を持つ防具よ」

 

自分の頭を飾る大きな黒い飾帯を指しながら、ミナはそうして一歩下がった。

 

「少なくとも、ルルとバトった頃に装備していたものだから、威力は折り紙付き」

 

「男女と戦った時に役に立ったというのなら、信用しよう。では―――!」

 

リボンを頸にマフラーのように巻いて、彼女は瞬時にトップスピードに達した。

 

その速度は時速にして200kmを超える―――この偽装用躯体ではこれ以上の加速はダメージを覚悟することになるだろう。

 

そのオリハルコンのガントレットを纏った右拳をスライムに叩きつけて、「邪魔だ」と一言漏らすとその鉄脚で回し蹴りを披露し、粘液の大半をクレーターの外に放り出す。

 

『ぐ、ぶぶぶ……!』

 

「逃さん」

 

そして小出力で殺人光線を残った僅かな粘液に照射して蒸発させると、すぐに彼女はふっとばした粘液を追って跳躍した。

 

その間に、ミナは詠唱を完成させ、魔法に寄らない破壊を齎した夕の痕跡の修繕を始める。

 

「魔力を夕ちゃんがまったくもっていないのが幸いね……世界を支配する偉大なるロジックよ。我が触れたるものに元の形を思い出させよ。リペアー!」

 

魔力を用いて壊されたものをリペアーで直すことはできない。

 

より上位の魔法であれば可能なものものあるが、かなり難しいので、この結果にミナは安堵して修繕の魔法をかけていった。

 

ものの1分と掛からずに周辺は夕による破壊の前と変わらない姿を取り戻し、そして―――

 

「これだけ砕けば、後は簡単に焼却も出来る……覚悟しろ、怪物」

 

『……愛・憎・怨・怒……な、か、ま……と同じ……かお……つぶせる……で、す……?』

 

命乞いなのか、動揺させようとしてるのか、粘液はそうして顔の形を笑みに歪めて夕へ問いかけた―――が。

 

「仲間の顔をしているだけだろう。全く異なる個体にしか見えないものを斃すことに躊躇などあろうか。私は兵器にして軍人なのだから」

 

そうして無言で砕けた粘液たちに小出力の殺人光線を照射していき、その全部を焼き払っていく。

 

『ぐ―――ぶぶ―――』

 

粘液はくぐもった声を上げながら、じゅうじゅうと高温で蒸発して、それで終わりだった。

 

「夕ちゃん!すぐ装備しまって!結界が解けるわ!」

 

ミナが無限のバッグの口を開けて彼女へ駆け寄ると、彼女は装備していたブルーリボン、ガントレット、殺人光線照射装置を外してバッグに放り込むと「変身」を解いていつもの姿へと戻る。

 

そうして「これでいいか?」と答えると同時に、バリン、と大きなガラスが砕け散るような音が響いて―――

 

ガヤガヤと周囲に喧騒、そして通行人が戻っていく。

 

「どうやら完全に敵は撃退できたみたいね……」

 

「そのようだ」

 

おそらく突然現れた二人に、目の前に現れたおばあさんが一瞬目を剥くが、すぐに視線をそらして立ち去っていく。

 

「なにかしたか、金髪女」

 

「夢の精霊に頼んで意識そらしの術をかけてるの。今のうちに行きましょう」

 

そうしてミナは夕の手を引っ張って相羽家の後ろの路地裏へと向かった。

 

「どこへいく?」

 

「そっちにガッちゃん下ろしてるから、そっちから行くの。安心して、廻さんのところにはルルが行ってるから」

 

にっこり笑って夕をガーゴイルに乗るよう促すと、ミナも飛び乗って再びインビジブルの魔法を掛ける。

 

「じゃあ、行きましょう。そちらにも敵は来ているはずだし」

 

「ああ」

 

夕はルルたちが到着しているのであれば、通信は不要だろうとあえて廻に連絡はせずにただミナへと首肯を返して周囲の捜索を己の体を使って始める。

 

異常がないことを確認した夕はもう一度ミナに首肯を返し、そうして透明化したガーゴイルはすぐさま空を飛び去っていった。

 

それを見守るものはなにもなく、商店街はいつもどおりに戻っていたのであった。

 




スターピアス
・防御力15(0)。全魔法MP消費三分の一(故障中)
 ミナがいつもつけている星型のピアス。すべての魔力消費を抑えてくれるが、
 現在は邪神の空洞での戦いで壊れてしまって働いていない。

もちろんフレーバーです。

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