異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第124話「あ、ああ。詳しくは聞かないが……了解した」

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「ふっふっふっふ……ここから先は通さんぞ、侵入者め」

 

フェアリーの案内を受けながら森の奥に進むと、そこには不思議なくらいダンディな声のイケメン―――

 

ただし、下半身が絡み合った無数の木と根で出来ているイケメンらしい何者かがいた。

 

「よし、見なかったことにしよう」

 

ミナはジト目でそう言って、踵を返した。

 

「別の道ないの、君」

 

「あるにはあるけど、遠いぜ?」

 

名も無きフェアリーにそう聞いたが、帰ってきた答えは面倒くさそうなものだった。

 

空中に寝そべるように飛んでいるフェアリーを憎々しげに見上げて、ミナはルルを見た。

 

当然、これなる魔法生物か変異した精霊かわからないものに対処できそうなのは今は二人だけだからである。

 

「ルル、私アー○ンワールドのナマモノとお知り合いになりたくないの。どう見てもメタセコイヤの○○くんじゃないの」

 

「奇遇ですね、ミナさん。僕もあの手の変異精霊と関わり合いになりたくないと思っていたところでした。特に上半身裸なのが生理的に受け付けない」

 

あっはっはー、と笑って、二人は肩を落とした。

 

肩を落とした瞬間、今度は岬が前に出る。

 

その瞳にいつにないやる気……というか殺る気に満ち溢れさせて。

 

「……岬?」

 

怪訝な顔で声を掛けたミナに反応もせずに、岬は木の男へ殺意のこもった視線を向ける。

 

「光よ―――夢と希望は悪しき心に歪められた―――その心、支配するものから解き放ち給え!!」

 

突如としてステッキをそのナマモノへ向けて、岬は青筋を立てて魔法を紡いでいった。

 

「ちょ!?何キレてんの!?」

 

「止めないでくださいなのです!よりにもよってその顔で来るとは!余程死にたいみたいなのですよ!!」

 

岬がミナにはよくわからない激昂を上げているうちに、その木の男は「ふっはっははは。この私の美しさに混乱しているようだな!」と根拠のないことを言い出して、さらに岬をヒートアップさせた。

 

「なにが美しいなのですか!?」

 

「落ち着きたまえ、岬。あの顔がどうしたというのだ?確かに日本人めいた顔をしているが」

 

廻がステッキを掴んでそう窘めると、岬はぷいと廻から目を背けて―――ぼそりと呟いた。

 

「あ、あたしの……昔の、と言っても、11年前に別れた婚約者と同じ顔なのです……!」

 

―――この場に恋がいなくてよかった、と岬は心の底から安堵し、そして目の前の物体に激怒する。

 

「ほほう!この私と同じ顔をしている男とな……そんな者が本当にいたとして、大きな魚を逃してしまった君は恐るべき愚鈍者だな。はっはっはっ!」

 

その魔法少女を嘲り煽り、ウッドマンは高笑いを上げ始めた。

 

「よっし。殺すのです」

 

岬はいつの間にやらフレアスタイルに変身しており、もはや殴り殺すこと以外を考えていない顔をしている。

 

それを見て、ミナは頭が冷えると同時に、やはりこの空間の主は我々を知っているのだ、と半ば確信した。

 

そいつがあのピンク色のスライムなのか、それとも別のものなのかはわからないが、とにかくそういう存在であるのであれば遠慮はいらない。

 

「よし、岬!全力でやっていいわよ!」

 

ミナは燃え上がる魔法少女に、サムズアップを一つ返して応援する。

 

「やらいでかなのです!はぁぁぁぁぁぁ!!」

 

どこかの超有名な少年漫画で主人公が青年編序盤の必殺技となる赤い気合を放出しながら敵を倒す技のごとくに、全身から紅い魔力を迸らせた岬は地面を力強く蹴るとウッドマンへと吶喊していった。

 

「いいのかね、ミナくん」

 

頭部の装甲、つまり仮面を一時外して廻は苦笑する。

 

それに対してミナは軽く嘆息してから、「いいんですよ。好きだった人をコケにするような格好で現れた向こうが悪い」と答えた。

 

「む、そういう意味ではないのだが……」

 

苦笑を消して顎に手を遣ると、廻はウッドマンへ殴りかかりつつある岬を見た。

 

「私にはかなり内包する熱量が大きいと見えるのだが、君にはどう見えているのかね?」

 

「そうですねえ。岬の魔力と育ったフィジカルなら突き崩せるわよ。なんの問題もなく……」

 

ミナはそうしてウッドマンを見遣ると、すでに岬に往復ビンタを20回以上食らわされて悶絶する姿が見えた。

 

「へぶっ!?ぐはっ!?や、やめたまえ!この私の美しい顔がごぼぶぅ!?」

 

「君がッ!死ぬまでッ!殴るのを辞めないのですッ!!」

 

岬は手加減など微塵も見せない様子で、顔面にパンチを入れ、往復ビンタを繰り返し、更には目ツブシ、耳や目、口に指を突っ込んで殴り抜くなど容赦のない攻撃を続けていた。

 

―――しかし。

 

「……おかしいですね。アレだけ殴っていたら、普通は変異精霊であっても消滅するはずなのですが」

 

ルルが首を傾げると、ミナも「そうね」としれっと言って微笑んだ。

 

「岬ーそのへんにしときなさい。多分、こいつは出してくるリドルを解かないと死なないタイプのやつよー」

 

ミナが声を掛けると、ようやく岬はふーふーと肩で息をしながら、その木男を解放した。

 

そうして、しばらく倒れ伏して動かないウッドマンは―――「ふん、少しは道理を弁えたものもいるじゃないかね」と顔面が完全崩壊したまま起き上がる。

 

ぐちゃぐちゃになった顔面を何とか元に戻そうと四苦八苦しながら、ウッドマンはそう嘯いて立ちはだかったのだった。

 

「まったく……!これだから服などを着た蛮族どもは!この美しい顔が元に戻らなかったらどうしてくれる!」

 

「知らないのです!その顔を元に戻すなですよ!!半裸の変態!!」

 

怒りのままに岬が叫ぶのを、ミナは「どうどう」と後ろから腕を回して抑えて、顔と悪戦苦闘しているウッドマンに「ところでその顔、どこで手に入れたの?」と質問した。

 

男は「さて。私の顔が他者にどう見えるかは私にもわからないが、この顔は確かにそこの子供の記憶から作られたものであろうことは疑いがない―――」と含み笑いを始めた。

 

「我々の顔は美しい思い出から作られる……ふふふ、よほど美しい思い出だったのだろう、水鏡に映さなくともわかるほどに今の私は美しい……!」

 

顔が完全に元に戻ったウッドマンはファサリと髪をかきあげてポージングを取った。

 

岬がわなわなと震えて、顔を真っ赤にしているのが後ろからでもわかる。

 

ミナはそんな彼女から目を背けて、ルルに「変異精霊ってこんなんだっけ……?」と自信なさげに確認した。

 

「うーん、僕も多分初めて会いますねえ、ここまで自我がはっきりしてる奴は」

 

ルルもまたジト目で唇をへの字に曲げてそう返した。

 

「岬の時の願い魔もそうだけど、こっちの世界では変な自我持ってるモンスターによく出くわすわね……」

 

ミナが片目を手で押さえてハァ、とため息を吐くと、呆れたような顔を仮面の下に浮かべた廻が岬の前、ウッドマンを岬の視界から遮るように立ちふさがる。

 

「……まあそんなことはどうでもいい。なぞなぞでもパズルでもよかろう。何をすれば我らを通す?」

 

「ふむ……気骨ある青年……いや、どちらかと言えば意志を持った器物の類か……よろしい。君はどちらかと言えば私たちに近しい存在のようだ……私の挑戦を受けるのであれば、君が相応しかろう」

 

ウッドマンは廻をまじまじと見ると、興味深いとばかりに下半身の植物部分を怪しく蠢かした。

 

「そ、そうなのですか!?廻さんが植物!?」

 

「いやいや、そんなわけないでしょ?意志が薄い木々が変異したものと、機械が意志を持った廻さんのあり方に共通性があるだけでしょう」

 

岬をお腹の部分で抱え上げているミナが、騒ぎ出した岬にそう言うと廻は少し苦笑する。

 

「私の意志は大恩ある博士によって構築された電子的なものでしかないのだがね?」

 

「ふふふ、魂が先か誕生が先かは議論の余地がある哲学的問題だな」

 

心底楽しそうに笑う木の男がそう言うと、ミナは内心で(そんな大層なもんでもないと思うんだけどなあ。どっちが先でも生まれたらいいわけだし……)とある意味で女性らしい即物的な思考をしていた。

 

「では、私の試練を受けるかね?」

 

「無論、受けいでか」

 

す、と廻は腰を落としていつでも戦闘に入れるような態勢を取る。

 

例え相手が戦いという手段で試練を課そうとしているわけではないとしても。

 

「廻さん……」

 

「心配するな。かつての君の恋人の顔をしたものを打ち負かすであろうことを許してくれればいい」

 

怒りが少しは収まったのか、心配そうにマフラーを引っ張る岬にそう返してさらに一歩前へ出る。

 

「いや、それはいいのです。ただ―――」

 

「ただ?」

 

マフラーからするりと手を放して、岬は廻へと言葉を紡ぐ。

 

それは―――

 

「どんな形でもいいからぼっこぼこにして欲しいのです……!いくらこっちから別れ話を出したからって、ろくに引き留めもせずにさっさと次に行ってしまったあいつのことを思い出させた罪は重いのです……!」

 

小学六年生のボディで出しているとはとても思えないドス低い声でのブッ殺依頼であった。

 

「あ、ああ。詳しくは聞かないが……了解した」

 

岬の言葉に、廻も後ろで見ているミナも一様に一つのことを想っていた。

 

―――この分だと、コンビニ店長になった時に別れておいて正解だったんだろうな、と。

 

 




短いんで、明日も投稿します。

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