異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第125話「それで、なにで勝負するのかね?」

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「それで、なにで勝負するのかね?」

 

「まあそうあわてるな……まずは君の知る勝負方法で一戦目を行おうではないか―――ただし、シンプルすぎるものや時間がかかりすぎるものはやめていただこう。無論、直接戦闘もなしだ」

 

うじゅうじゅと触手めいた根っこを蠢かせてウッドマンは余裕の表情で笑った。

 

廻はしばし悩むと、すぐに首肯して「囲碁……と言いたいが、アレはアレで覚えるのに時間もかかる……オセロ、だったかな。戦後発展した盤上遊戯の一つ。あれならよかろう」とミナに目配せをした。

 

「まあ、持ってますけど?」

 

すぐにミナはバッグから少し大きめのオセロ盤を取り出して廻に渡した。

 

「これはオセロと言う、片面が白、もう片面が黒になっているコイン状の板を使って盤上を制圧する遊戯だ。白で挟まれた黒は白へ」

 

「黒で囲まれた白は黒となる、というわけか」

 

「そういうことになる」

 

廻のルール説明にウッドマンは首肯して、そして勝負が始まり―――

 

―――30分後。

 

「な、なぜだ、なぜ勝てない……!?」

 

3戦して3回とも、ほぼ盤上は廻の選んだ黒一色となりウッドマンは惨敗を喫していた。

 

「この程度の盤面であれば、私の人工頭脳により類型化は容易だ。済まないが、絶対有利な遊戯を選ばせてもらったとも。練習はこれでいいだろうか」

 

「お、おのれ……!だが、了承したのは私だ……!」

 

悔しげにほぞをかみつつ、ウッドマンは盤上のオセロを片付けていく。

 

「まあ、済まないとは思う。済まないとは。だが、ここで負けるわけには行かないのでな」

 

練習が終わったとして、最後の対局となったそれはまさに虐殺としか言いようのない光景であった。

 

「そんな、そんな馬鹿な……馬鹿なァァァァァ!!!」

 

一枚残らず盤面が真っ黒になっていくのは、確かにある種見ていて爽快なものはあったが、対戦相手の顔を見ればそんなことは思えようはずもなかった。

 

―――ただ一人、暗い笑みを―――否、目だけが笑っていない怖い笑みを浮かべる岬以外は。

 

(ちょっと、この子、こんな子だっけ?)

 

(私に聞かれても困るが。君のほうが若干長い付き合いだろう?過負荷……ストレスというものではないだろうか)

 

廻に耳を寄せてつぶやくミナににべもなくそう返して、目の前で突っ伏すウッドマンを見れば、彼は闘志に溢れた顔で立ち上がってくるではないか。

 

その様子に、まだ諦める気は毛頭ないことを察した廻は「次はなんの勝負をするのかね、君」と声を掛ける。

 

すると、彼は不敵な笑みを浮かべて―――「次は―――木登りで勝負と行こうではないか」と廻を睨めつけた。

 

「―――細かい規則を聞こう」

 

至極真面目に廻はそう彼に返す。

 

ウッドマンは満足そうに首肯すると、「この大木―――世界樹の苗木を先に登りきったほうを勝ちとする。禁止事項は『飛行』と『木を倒す』ことの2点のみ。無論、妨害は良しとするが、殺害が可能な攻撃は禁止とさせて頂く」とルールについて説明をした。

 

含み笑いなどしつつ腕を組んで自身有りげなウッドマンに、廻は「通常、こういった勝負は三本勝負だが……それが二本目ということで構わないか?」と確認を取った。

 

「無論だ。これで私が敗れれば、潔く負けを認めこの先へ進むことを許可しようではないか」

 

尊大に、先程負けたことをすっかり忘れたが如くそう言った男に、岬は「ボロ負けしたくせに何偉そうに言ってるですか」とじっとりとした視線を向ける。

 

「む、むむむ……たしかにそうだが……だが、勝負はまだここからよ!」

 

冷や汗を一筋流して、男はそう言って木に手をかける。

 

「減らず口を叩く子供よ!この私は木そのもの!たとえその鋼の男であったとしても、木登りで私に勝てるとは想わんことだな!」

 

そう嘯くと、男はまるで蜘蛛かなにかのように根の脚を器用に動かしてあっという間に木を昇っていく。

 

刹那、廻もまた瞬時に加速して世界樹の苗木に手をかけて、凄まじい速度で昇っていった。

 

ミナの目にも、緑と茶色の蠢くものと黒い鉄塊は殆ど同じ速度に見える。

 

それがおそらくは150mはある巨木を見る間に駆け上っていく姿は、ある意味で壮観であった。

 

「ふぇ~……これ、苗木とか言ってましたけど、苗木なんですか?」

 

「うん。まあ1000年以上経つと世界樹って言われるくらいでかい木になるのよ。まあ本当の世界樹は世界で一本しか存在できないから、それは世界樹の候補でしかないんだけども」

 

ミナは木肌に触れて、登っていく二人を見つめながらそう言った。

 

その二人はといえば。

 

「喰らえ我が強弓が放つ風を!」

 

「むっ!?」

 

ウッドマンは脚の根というか、もはや触手と言っていいほど自在に動いている脚だけで木にへばりつき、あらぬ方向へ弓を放つ。

 

「あっまずい」

 

下の方でそれに気づいたミナは「気をつけて!突風が来るわ!!」と叫んだ。

 

それはエンチャント・ウィンド・ボウと呼ばれる風を矢にまとわせ、風で敵の動きを封ずる矢を放つ精霊術の一つであった。

 

「むう!君は木の精霊だと言うのに、風を使うのかね!?」

 

突如びょうびょうと吹き始めた風から自らを守るため、廻はアンカーを装甲から発射して木に固定する。

 

触手で半ば木と一体化しているウッドマンは、暴風といっていい風の強さにもかかわらずその速度は衰えていなかった。

 

「我らが森のすべてが私に味方してくれるというわけだ!フハハハ!そのまま墜ちてしまうがいい!」

 

「むう……!」

 

廻は一瞬逡巡するが、しかしこここそが使いどきであると頷くと、手の装甲が変形を始める。

 

それは何かと言えば―――

 

「あれ、何かの粘液……というかトリモチみたいに見えるのです」

 

双眼鏡でその様子を覗きながら、岬はそう感想を述べる。

 

「ほう、それを頼りに楔を外したというわけだ……だが、それだけでは貴様の重量を鑑みれば私には勝てない!」

 

勝ち誇るウッドマンに廻は「そうだろうか?」と微笑んで―――そしてそのまま手を離すと、木に「垂直」に立ち上がった!

 

「ぬう!?」

 

「この粘着液とそしてルルくんから借りている翼の腕輪!そして薺川博士による短時間重力子影響阻害装置を使用すれば、私の重量を三分の一としながらこの突風の中でも問題なく登坂が可能だ!」

 

そう吠えて、廻は思いっきり走り始める。

 

前傾姿勢で、速度は普段よりは確実に遅いが、時速30kmにはなろうか。

 

「くっ!!」

 

先行しているウッドマンだが、その差は殆どない。

 

そうして―――木のてっぺんにほとんど同時に顔が現れた。

 

「―――引き分け、のようだな」

 

「そうだな。私の記録では……と言いたいが、もし私が早くても、私が記録したもので君に勝ったと誇るのはあまりに格好が悪い。映像解析は止めておくとしよう」

 

廻の言葉に、ウッドマンは「……いいのかね?君の目と鋼の体ならば、ゴーレムのように記録だけを抜き出すことも可能だと思うが?」と笑みを消して廻に尋ねた。

 

「構わん。それに時間がない。映像が正当なものだと証明するまでに期限を迎えてしまっては元も子もないのだ」

 

その潔い態度に、ウッドマンは二つほど首肯して「いいだろう……ここは通っていくといい」と肩をすくめて言った。

 

「……良いのかね?」

 

「ふっ、私はこの場の番人。私が通っていいと言ったら良いのだ。君はなかなか好感が持てる存在のようだからな」

 

廻にそう笑いかけて、男は「とう」と掛け声を吠えて地面へと降り立つ。

 

その体は木らしく頑丈で、地面に衝突するように着地してもなんの痛痒も受けていないようだった。

 

それを見届けた廻も跳び、その隣に降り立つ。

 

そして二人はガシリと手を握って、生まれた奇妙な友情のようなものを噛み締めて―――

 

後ろで炎を燃やしている少女に気がついた。

 

「……岬、我慢はできないか?」

 

「無理ですねえ……廻さんが殺ってくれないなら、あたしが飽きるまで殴る以外に方策はないのです」

 

呆れた廻に窘められても岬は止まることはなく、ゆっくりと一歩ずつ此方に近づいてくる。

 

「ミナくん……は止める気はないか」

 

見れば、木陰に座ってスーパーのパンコーナーで買ってきたもう氷が溶け切ったぬるいアイスコーヒーと惣菜パンを食べながら妖精の勇者はくつろいでいる。

 

こちらの視線には気づいているのだろう、頬に一筋汗が流れているのを廻の高性能カメラアイが見逃すことはなかった。

 

「……止めてはくれんかね?」

 

「怒れる婦人を言葉で止めるのはなかなか難しい。私の技量には余る」

 

先ほど友情を芽生えさせた二人は、顔を見合わせてそう語り合う。

 

後10秒もあれば岬はその拳の射程範囲にウッドマンを捉えるであろう。

 

「……さらばだっ!」「あっ!?」

 

突如ウッドマンの両肩からワイヤーのようなもの、おそらくは細い木の枝でできたそれが急速な勢いで伸びて枝に捕まるとそのまま上空へとあっという間にかっ飛んでいく。

 

「ふははは!また会おうではないか諸君!この先にはぐったりしているおっさんが毎日来るからなんとかもうこないように説得してくれたまえ!ふはははは!」

 

「逃がすかァァァァ!」

 

木の間をターザンめいて蔦と触手を操って跳んでいくウッドマンに岬がエネルギーボルトを乱射する。

 

しかしながら、相手は森から生まれた変異精霊。

 

そんなことで捕まるウッドマンではなく、「ふははははは!また会おう!私の顔となった思い出を持つ少女よ!」とやたら渋い声が響いてきた。

 

「まーてー!逃げるなですよぉぉぉぉ!!」

 

憤怒の形相で腕を振り上げる少女を尻目に、ミナは2杯目のぬるいアイスコーヒーを口にする。

 

「変異精霊にしては本当に自我がはっきりしすぎていて気持ち悪いですね、本当に」

 

「あのエログロスライムの仲間ではなさそうだけど、それにしたところで異常は異常、か」

 

ミナは立ち上がりながらそうして前を見る。

 

ウッドマンのいなくなった先には、ひどく胡乱に見える―――紅い紅い花畑が一面に広がっている。

 

それを見て、ミナは嘆息し、廻に窘められてもまだ怒り続ける岬をなだめに行くのであった。

 

 

 

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