異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第127話「まさか!死んだはずのおばあちゃん!?」

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「よし!なんだか知らないが、攻撃が効くぞ!」

 

空悟はサブマシンガンを乱射しながら、ぬえ子の眠るベッドの脇まで後退する。

 

「どうやらそのようだな。蒸発しろ、化物め」

 

最前面に立った夕がそう言うと、すぐに殺人光線が照射された。

 

『ぐぶぶぶぶぶ……ゆう、しゃ、ではない……でも……と、く、べ。つ……?』

 

蒸発する先から再生し、首を傾げる女に恋は「ごちゃごちゃ言ってんじゃねえ!ミュージック・オブ・ヴァッサー!」と水弾を放つ。

 

本来であれば水弾如きは吸収できるのかもしれないが、しかし兜の光―――客人碎や黄昏の剣と同じ破邪滅神の力を放つ兜の前ではそれすらも弱まり、水弾も痛痒となったようで、女は『ぐぶ……』と不満げに顔を逸らした。

 

『おも、しろい、かも……ぐぶぶぶ……』

 

それでも客人碎や黄昏の剣に比べれば弱いその光では、女を完全に倒すことはできないのだろう。

 

まだ余裕のある表情―――わざとそう見せているのかもしれないが―――で笑いかけてくる。

 

『お、もしろ……い……つれて……っても、いい?』

 

「悪いな!俺には愛する奥さんに子供が二人いるからな!お前みたいな不気味な女についていくわけがねえだろうが!」

 

空悟は誘いの言葉―――この場では恋しか気づいていないが、恐るべき魅了の魔力が込められたその呪言を、ただの一つその気合だけで吹き散らしてロケットランチャーを構えた。

 

なにも考えることなく、すぐさまそれは放たれるが―――

 

『ぐぶぶぶぶ……』

 

轟音とともに吹き飛んだスライムは即座に再生を始めて、『つがいが、いるの……ね。な、あんだ……ざ、んね―――ン』と妖艶に笑った。

 

瞬間、スライムは人の容を失ってどろりと地面に溶け消えていく。

 

最後に『……またあとで』と言い残して。

 

「ちっ……逃がしたか。そうなると次に来るのは森の奥か、脱出するときか……」

 

空悟はそうして、地面にどっかと座り込んで、そのまま大の字になる。

 

「やっべ……全身に力入んねえぞ……」

 

まだ光り輝く兜を取りながら、空悟はそう独り言ちて目をつぶる。

 

そう、即ちそれは魔力切れの症状である。

 

しばらくの間、彼が起きることはあるまい。

 

そして敵が襲撃してくることも。

 

恋と夕は顔を見合わせて、そしてお互いにため息を吐く。

 

危機は去ったが、先ほどの現象は何だったのか、後でミナに問い質さねばなるまい。

 

「全くあの金髪女は……」

 

はー、と一際大きなため息を吐いて、夕は装備を解除した。

 

「飯でも食うか、恋」

 

「……うん、わかった」

 

二人は空悟を木陰へ移動させると、ミナから渡されていた弁当を開けて休憩するのであった。

 

 

 

「こっちだよ~こっちだよ~」

 

ハニートーストの蜂蜜で顔をべったべたにしたフェアリーが、そう言いながら案内している。

 

「先ほどはどこにいたのかね、君」

 

「あの連中がいるのに出てこらんねぇよぉ」

 

どうやら「あの連中」とは先ほどのイケメン変異精霊のことを示しているようで、「あいつらえらそーなんだよーなー」と空中でくるくる回りながら不満を示した。

 

「……」

 

「そんなことはどうでもいいので、とっとと案内してください。我々は急いでいるのです」

 

沈黙してまだ不満であることを隠しもしない岬の様子に、ルルは小さくため息を吐いてフェアリーを急かす。

 

ミナもまたそれに首肯して、何の問題もないことを従者に伝えた。

 

「まったく……ほんとに……ムカつくのです……」

 

嫌な笑みをよく浮かべていたころとはまた別ベクトルで嫌な表情を浮かべながら歩いている岬を見て、廻は「そうむくれるんじゃない。あの男が悪いわけでもなかろう?」と声を掛けた。

 

「それは……そうなのですけど、それでも嫌なものは嫌なのですよ……」

 

廻に咎められたと思ったのか、岬は肩を落として息を吐く。

 

「嫌という気持ちを忘れるなとは言わない。だが、今は我々は仕事の最中だ。今は飲み込むがいい……愚痴くらいは後でいくらでも聞こう。嫌なことをぐっと飲み込んで我慢するのも、人間の修行というものだ」

 

廻は岬の顔を覗き込み、「君はそれができる人間だろう?」と仮面を外して笑った。

 

「……そう言われては、はい、としか言えないのです。ごめんなさい、廻さん」

 

素直に頭を下げた岬に、廻は「いいさ、いいさ」と言って再び仮面をかぶる。

 

その様子にミナは「うん、うん」と訳知り気に頷いて、ルルに呆れられていた。

 

そうしているうちに赤い花畑は尽き、ウッドマンの言ったとおりに紅い花で彩られたベッドに寝かしつけられた初老の男が一人見えてきた。

 

「―――うん、間違いなく副市長ね」

 

その白髪の男を視認して、ミナはそのまま近づいていこうとして―――

 

何か、懐かしいものを見た気がした。

 

「……?」

 

「ミナさん?」

 

「あの花園と森の間にいるあれ、なんだと―――ううん、誰だと思う?」

 

そこには―――副市長の頭を撫ぜる、紅い赤い衣装をまとった美しい―――ミナによく似た印象の女が一人いた。

 

ルルは「……この森の主、でしょうか?」と微笑む。

 

どう話しかけるべきか、とミナが悩んでいると、声を掛けてきたのは向こうであった。

 

『懐かしい気配の子……』

 

声もミナによく似た……その女、おそらくは堕ちたハイエルフの女性に、ミナは見覚えがあった。

 

声も、その顔つきも、何より母や姉によく似た雰囲気―――体つきも今の自分よりも母や姉に近いその女に。

 

数瞬、数瞬考えて―――ミナは叫んだ。

 

「まさか!死んだはずのおばあちゃん!?」

 

「!?」

 

驚愕して眼を見開いたのはルルであった。

 

「おばあさん!?」

 

次いで驚愕した岬を置いて、ルルは「バカなッ!?ありえないぞッ!あの事件の時、僕は確かに森と一つになったミナさんの祖母を見たッ!」と叫ぶ。

 

「うちのおばあちゃんに姉妹はいないからね……そっくりさんでなければ偽物、なんだけど……」

 

ミナが警戒しつつ近づいていく。

 

「危険です、ミナさん!」「警戒待機」

 

男たちの声が後ろから聞こえる中、ミナはゆっくりと女に近づいていく。

 

そうしてミナは確実に声が聞こえる位置まで近寄って、「―――御婆様?」と静かに声を掛けた。

 

『その声……その姿……久しいな……ミナ。我が孫娘、ミナ・トワイライトよ……』

 

ふっ、と立ち上がった姿は半透明で、ほとんど精霊化しているようだったが―――

 

それは、彼女は、確かに―――

 

「バーチャンこんなところで何やってんの!?つーか、なんで生きてんの!?」

 

ミナの大音声が響き、彼女が紛れもなくミナの祖母であることを高らかに宣言していた。

 

 

 

十数秒後。

 

ミナの大声に仲間たちが駆け寄ってきて、ミナの周りで女を見ていた。

 

『そう大声を出すでない……永の別れより100年というところだが、どうにもお前ははしたない……妹を見習うのじゃ……』

 

はふぅ、と色すら見えるほど濃密な精霊力を放つ吐息を吐きながら、ミナの祖母らしき女は紅いベッドにしなだれかかった。

 

「いや、ってかそんなことはどうでもいいっていうか、なんで生きてるの!?あの時、森に飲まれて死んだでしょバーチャン!?」

 

ミナの叫びに、女はまた大きな大きなため息を吐いて『相も変わらず只人のような物言いをする孫娘よな。我が息子も含めて、我は教育を誤ったのかもしれぬ』と頭を振った。

 

その様子に埒が明かないと思ったか、冷静さを取り戻した岬が「どうもこんにちはです。あたしは阿南岬と言います」と頭を下げた。

 

『ほう……ふむ……?なかなか不思議な魂をしておる娘に……ほう、精霊力も論理力も用いずに動くゴーレム!良いぞ、興が乗る輩ではないか。我が名を聞くことを許す』

 

そう尊大に宣い、女は足を組んで名を名乗る。

 

ミナが目を手のひらで覆い、「まーた始まった」などと言っていることは耳に入っていないかのように。

 

『我は天護の森にて最も古きものであった黄昏の氏族の前の長―――カレーナ・トワイライトである。孫が世話になっているようだな』

 

そう笑って立ち上がった。

 

「……ちょっとやっぱりミナさんの家系っておかしくないです?祖先に虹の帝がいるし?」

 

「いやいやいや、知らんがな」

 

ミナはげんなりと肩を落とすと、地面に目を落としていわゆるうんこ座りをして頭を抱えた。

 

「……ミナさん?」

 

ジト目でミナをルルが見る。

 

ミナはミナで果てしなく嫌な顔をしながら、廻と岬の肩を抱いて頭を近づけ、「ちょっとこっち来て」と言った。

 

「……?」「いいだろう」

 

二人ともがミナと共に木の陰に隠れて、ミナの張り付いたような笑みを見た。

 

「廻さんは絶対変身解かないでね?岬もよ。理由は別々だけどね」

 

驚くほど低い声でミナがそう言ったことに、廻と岬は顔を見合わせ、次いで彼女に尋ねた。

 

「……その理由を聞いてもいいだろうか」「なのです」

 

ミナは心底嫌なことだとばかりに表情をゆがめて、「廻さんはイケメンだから。岬は変身解くと魔法への抵抗値が下がるからよ」とげんなりと答える。

 

その後は「任せた」とルルの肩を叩いて、木の陰から出て祖母を睨めつけた。

 

「どういうことなのです……?」

 

「簡単なことです。あの女はハイエルフらしからぬ邪悪な心を持っている……あなたたちの世界で言うなら、七つの大罪が一つ、色欲の罪を心に抱えているのです」

 

ルルは頭を振って、ため息を吐くとさらに説明を始めた。

 

曰く、カレーナ・トワイライトはその生涯にて三十人もの夫を迎え、その倍にいたる数の女性を囲った真正の淫蕩ものだと。

 

「さ、三十人……!?」

 

「ふーむ、まるでロシアの女帝エカテリーナのようだ」

 

岬と廻はその数に驚いてまた顔を見合わせた。

 

「そのほとんどは同族ではなく、森を訪った只人や小人。彼女に弄ばれ、彼女が満足すると彼女が産んだ子と共に財宝を持たされて追い出された……と伝わっていますね」

 

長いハイエルフの人生では多くもないと言える数かもしれない。

 

だが、少なくとも風聞はよろしくないものだ。

 

それも、この女は悪癖があるとルルは言う。

 

それは……

 

「……御婆様?そこに横たわっている地球人の男性は何です?」

 

『無論、我の三十一人目の夫に他ならぬ。我の虜となってなお未だ妻子を忘れられぬ強靭な精神力が気に入った』

 

ミナはその言葉に、心底呆れて盛大にため息を吐いた。

 

そしてギロッとまるで親の仇でも見るかのような目で睨めつけて、「死ぬ前と全く変わってねえじゃねえかクソババァ!!」と絶叫する。

 

「てめーがそんなだからねーちゃんもまだ結婚できねーんだからな!?わかってんのか色ボケ変態倒錯クソババァ!!」

 

あらん限りの声を上げて祖母を罵倒するミナであったが、女はどこ吹く風と言った風で『ポーティが嫁に行けぬのは我が息子シリウスの嫁御……ララめ譲りの身持ちの硬さのせいじゃ。我に責を及ぼすでないわ、愚昧め』と抜かしてケタケタ笑う。

 

その姿があまりにも美人で絵になっているので、ミナは更に怒りを燃やさざるを得なかった。

 

「このNTLBBAが……!私の友達の親になんてことしているんだよ!!」

 

「……ああ、そう、なんだ、つまり?」

 

ミナの罵倒に廻は実に疲れた声で「いわゆる泥棒猫を演ずるのが?」と疑問形でルルに聞いた。

 

「そのとおりです。魅了の精霊術を得手とし、その術を用いて番を破局させ、その片方、或いは両方を寝取るのが趣味なんですよ、あの女は。品のいいトワイライトの血族の方々の中で唯一僕が『女』としか呼びたくない御仁です」

 

ルルは白い目をカレーナに向けて嘆息した。

 

『ふぅーむ……もう二人ほど森に取り込んではみたが、汝がそうまで言うのであれば考えなくもないぞ?』

 

「考えなくもないぞ、ってアンタが言うときは考えるだけってことじゃねえか!いいからぬえ子ちゃんとその親父さんをさっさと起こせ!ぬえ子ちゃん拐った戦闘機娘はくれてやるから!!」

 

ビキビキと音がしそうなくらい青筋を立ててミナが叫ぶと、『めんどくさいのう……我、久々に親子を食ってみたい気分』と掌をひらひらと泳がせた。

 

「趣味の悪い淫乱クソババァめ……!熊とでも盛ってろ!!」

 

『ほ。趣味が悪いというのであれば、そなたこそ其処の黒い死体を長と愛でておるようじゃが?不死の王を番にするとは、呆れた趣味と言わざるを得んなあ』

 

カレーナはその―――もはや実体は存在しないのだが―――豊満な胸を揺らしてケラケラとミナを笑う。

 

拳をギリギリと握りしめていた彼女は、その言葉を聞いて―――ブツ、となにかがキレた音がしたような気がした。

 

「よし殺す」「殺しましょう」

 

ノータイムで杖を妖精郷の主に向けた主従に「落ち着き給え。ここでアレを張り倒しても二人の眠りが解けぬのでは意味があるまい」と廻が立ちはだかった。

 

「そうなのです。こんな話を一緒になって聞いていては話が進むものも進まないのですよ」

 

岬がそうして眼鏡のツルをくいと上げた。

 

「ぐっ……確かに……!」

 

その言葉に多少冷静さを取り戻したのか、ミナはそうしてカレーナに再び向き直る。

 

「前から言ってんだろーが、こいつは私の下僕!相棒!なんですぐにシモにつなげようとするんだアンタって人は!」

 

ミナは一応そう抗議してから、「その人返さねーと、マジで殺すかんなババァ……」とドス低い声で呟いた。

 

ルルもまた「あなたにだけは僕は容赦する理由がない。少しは息子殿や孫たちを見習ったら如何ですか?」と漆黒の冷たさを放つ声を向ける。

 

『おお、怖い怖い。まあ我も実体がもはやないものだし、我が孫娘ミナの友人とその親とあらば、此処は一つ寛大な心を持って勘弁してやろうか……』

 

そうして肩をすくめて―――何かを思いついたように唇を三日月に曲げて笑う。

 

それはミナが本当に怒っている時の笑みによく似ていて―――

 

『しかし、しかしだ。ただで返すと想われては、妖精郷の主として沽券に関わるのう……そうじゃ、そうじゃ。我の試練に打ち勝ったら返してやろうほどに』

 

そんな、とんでもないことを言い出した。

 

「ちょっ!ババァ!!こっちは時間がねーんだよボケェ!!」

 

ミナがカレーナに掴みかかろうとするが、寸でのところでかわされてしまった。

 

『ホホホホ、そう時間のかかる余興ではない。そなたら以外の侵入者にも参じてもらおうほどに―――ホホホホホホホ……』

 

そして楽しげな笑い声を響かせながら消えていく―――消えて、その場にいたはずのぬえ子の父もまた消失していることにミナは気づく。

 

「あぁぁぁぁんのクソババァァァァァ!!」

 

ミナの怒りと焦りとイラつきがない混ぜになった絶叫が響く。

 

「すぐにぬえ子ちゃんのところに戻るわよ!あの粘液だけでも厄介なのに、これ以上が来るなら空悟たちが危ない!」

 

そう叫んで、岬をお姫様抱っこしたミナは走り出す。

 

「わっ!?こんなことしなくても飛べるのです!」

 

「いいから!こうなったら走ったほうが早い!」

 

ミナは駆ける。

 

親友のもとへ。

 

―――やはり、これはもう幸運の魔法のリバウンドが来ているのではないか?

 

そう思える程度にはクソッタレな出来事であった。

 




次は7月6日に投稿予定です。
もう投稿初めて1年であります。

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