異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか 作:大回転スカイミサイル
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―――遠い昔。
愚かなる上古の森人の王。
生ける魔王とも畏れられし虹の帝ティトゥスは世界を征するため、周辺の森人たち、只人の集落を糾合し、獣人や蜥蜴人すらも支配して世界征服に乗り出した、と伝えられている。
おおよそ2万年の昔と伝えられるその戦は、同じころに生まれた山人の「名を伝えられぬ王」が率いる滅び去った石の王国と世界を二分する戦いへと激化していく。
その最後の戦いで落ちた神々の罰によってほとんどの力を失った二人の王は、一人は身内に裏切られ、敵に囲まれて死に。
もう一人は名を奪われ、財宝を抱いたまま魔物に囲まれて沈んでいった。
この後に森人と山人は平野での生活から離れ、魔法の力を手にした只人の王国が勃興することとなる。
世界の理の多くを解明したその古代王国文明もまた、驕れる実験を繰り返した挙句、世界の壁を砕く試みが神の怒りに触れて滅びたという。
それを直接知るのは齢7000を超えるハイエルフの古老たちだけであろう。
―――カレーナ・トワイライトとは、そういうハイエルフの古老であり、かつ虹の帝の直系の子孫でありながらやらかしが過ぎた。
わかっているだけで三十人の夫を持ち、倍する乙女を色の歯牙に掛け、行きずりで破局させた恋人たちの数は知れず。
ぶっちゃけミナの一族の恥であった。
しかし、この女と来たら色ボケのくせに無意味かつ無駄に強く、彼女をしのぐものは誰もなく、それが現れたのは彼女の子にしてミナの父シリウスが長じてのちであった。
そう、彼が冒険者となり、一人目の妻である只人の少女を森へ連れ帰るまでだれ一人逆らうことができなかったのだ。
まさしく虹の帝の再来、恐るべき傲慢と欲望。
恐れられて然るべき女であった。
そして―――やがてシリウスの一人目の妻を寝取ろうとして息子と大喧嘩となり―――敗れて森の奥の社に軟禁されたのである。
それがおおよそ3000年前。
ミナの姉ポーティが生まれる100年ほど前のことであった。
最初の妻と死別したシリウスは、自分の息子であるハーフエルフがひとかどの男になったことを見届けたのちに、妻の親友であったララと再婚したのである。
「あのババァに勝てるのは、天護の森では父上以外では私だけ。まあ多分ルルも勝てるけど……全く!死んだ後まで家族に迷惑をかけるとはぁぁ……!」
ギリギリと奥歯を噛みしめながら全力疾走するミナを見て、岬は「とんでもねー婆さんもいたものですね……」と呆れかえっていた。
「うちの一族はその虹の帝の血を引いてるからなのか尊大なのがやたら多かったらしいけど、あのババァが調子に乗ってるのを見て殆どが謙虚になったらしいわ……あんな色ボケと一緒にされたい人はそう多くないってことね!」
ミナがそう言って、紅い花畑を抜ける。
そうして―――すぐにもぬえ子が寝ている場所へとたどり着いた。
そこでは、空悟が魔力切れですっかり寝こけていて、しかしその手に持っている兜は未だ淡い光を放っているのがわかった。
「よし!さすが空悟!光がまだ残ってるなら、アレに支配されたりはしない!」
ミナはそうして岬を地面に下ろすと、すぐにバッグから一本ガラス瓶を取り出した。
「金髪女!首尾は!」
「失敗!しかも敵が増えた!ぬえ子ちゃんを連れて一旦脱出!以上!」
ミナは夕にそう返して、すぐさま瓶の中身を無理やり空悟の口の中に入れた。
「げほっ!?いきなり何を飲ましてんだお前はぁ!?」
咳き込んで飛び起きた空悟にニヤリと笑いかけ、「よし、マジックポーションは効いてるな?とっとと逃げるぞ!」と早口でまくし立てて彼を起き上がらせた。
「ど、どうしたんだよ一体?」
恋がそう聞くと、「話は後なのです!とんでもねー変態が襲ってくるのですよ!」と岬が叫んだ。
その言葉に、空悟も「のっぴきならない事態ってことだな、三郎?」と真剣な顔で返した。
「んだ。とっとと―――」
「うーん、お約束というべきか。あの女のほうが早かったようですねえ」
ルルが呆れたように空を見る。
それに合わせて、廻が天空を指差して「アレを見ろ!」と叫んだ。
『ホホホホホホ―――ほうほう、ミナの仲間は誰も彼も美男美女のようじゃのう。只人の男―――っぽいのもなかなか筋肉質で楽しめそうじゃ……ホホホホホホ♪』
空を見れば、紅いドレスのミナによく似た―――しかし体つきは女らしく豊満な女性の幻影が浮かんでいるではないか。
「なんだあの偽三郎は」
空悟はその幻影が放つ、強烈な魅了の術の波動に全く動じぬかのように空を見て、兜を装着する、
そして「知り合いか、三郎?」とある程度察している表情でミナを直視した。
ミナはその長い耳をヘタリと垂れさせて、それを彼女自身が手で抑えて「恥ずかしい身内で済まねえ……向こうの実家のばーさんだ……」と力ない声で返した。
「わーお。ってことは7000とか8000歳なんだろ?わーお……」
ひらっひらすけっすけのドレスを着た8000歳のばーちゃん、というだけで、空悟にはもうどれだけ見た目が若かろうと痛いものを見る目でしか見ることは不可能である。
「正確には、享年9723歳だ……しかも死んでから100年経ってるから9823歳だ……」
「そうか……どっかの寺で百回忌でもやるか?」
げんなりとした声のミナに空悟がそう声をかけると、「いやいいわ……オレ、もう仏教徒じゃねえし……」と返してくるのみであった。
『何をごちゃごちゃ言うておる。そなたらには試練に参加してもらうぞ。我の暇つぶしにのう』
ケラケラと笑う淫売に、ミナは「必ずひでー目にあわせてやっかんなクソババァ!」と憎々しげに叫んだ。
それをニマリと狐めいたいやらしい笑みで返し、『では我はそなたを喰ろうてやろうかのう……性的な意味で』と悍ましいことを言い出した。
「や!め!ろ!背筋が気持ち悪くなったじゃねえか!妄言垂れ流すんじゃねえよ!身内に欲情するなボケ!!」
怖気を振るって、ミナは空悟とルルの後ろに隠れる。
「ルル、もういいぶっ放せ!一発ぶちかまして黙らせて!」
「承知しました―――いい加減に黙ってほしいですしね。ミナさんの容姿を汚す毒婦め……!」
そうしてルルは暗黒魔法の奥義たるディメンジョン・イーターの詠唱を始めようとして―――それを見咎めたカレーナが『いかんのう?そんなことをしたらそなたらの目的まで木っ端微塵に砕けてしまうではないか』と虚空を指差した。
するとそこには―――空間に映像が写っている。
それは虚空に浮かぶ幻影―――クリスタルで出来た十字架の棺に寝かせられたぬえ子の父親であった。
しかも―――その周りには粘液が。
桃色の粘液が蠢いているではないか。
「み、ミナちゃんあれ……!」
「あのスライムじゃねーか!!」
魔法少女二人が困惑と怒りを湛えた声で叫び―――
「おい……ババァ……それはなんだ……?」
ドス低い声で無表情のミナが立ち上がる。
立ち上がって、女を凄絶な眼で睨めつけた。
『闖入者にもご協力仰いだのみよ……ふっふふふ―――どうにも我が森に正しくない手で押し入られては気分が悪い。そなたらのための障害として使ってやろうと閉じ込めたまでよ』
またミナとよく似た声と顔で笑う。
ミナは、それがだいぶ不快であった。
「……ぬえ子ちゃんの親父さんは無事なんだろうな?」
『無論じゃ。あの水晶は妖精の涙―――ふふふ、我が滅びぬ限り砕けぬとも。だが、あの粘液がわずかな……わずかな針の万分の一の穴より侵入するやもしれぬ……ごくごくわずかな可能性……それがそなたらを急かそうぞ。ホホホホホ♪』
実に楽しげに笑う女に、ミナは無表情で「父上の苦労がわかったわ。2回目の幽閉を楽しみに待ってろクソババァ」と無感動無感情な声音を発した。
「そうだなあ。悪ふざけがすぎる。三郎のあっちでの婆さんとやら。拉致監禁も誘拐婚もこっちの世界じゃ明確に犯罪でね。エルフだからって逃れられないんだ」
空悟はそうしてサブマシンガンの具合を確かめてミナの前に立った。
『ホホホ、威勢のいい坊やだこと。ミナの前世の友のようだが、なんとも可愛らしい……』
「だから!人の親友を!性的な目で見るな!!死ね!!」
妖艶に笑って空悟とミナをからかうババァに、ミナは怒りの声をまたぶつける。
「相手にするだけ無駄のタイプのようだから、さっさと行こうぜ三郎。なんか視線が気持ち悪いしな」
仮称・勇者の兜によって魅了の術のすべてをレジストしている空悟は、空を見てうんざりした顔になる。
岬は恋に予備のブルーリボンを巻きながら、「実に不快な波動なのです」と口をへの字に曲げてそっぽを向いた。
「恋ちゃん、大丈夫ですか?」
「ちょっとボーッとする……やっぱりあの魔力、まずいやつだよな……」
くらりとする頭を振って、恋は岬を見た。
「……岬ちゃんの顔がキラキラに見える……」
赤い顔で、頬が緩み、まるで恋する乙女のような顔で岬の瞳を見ている―――
「ババァ!?まさか、やりやがったな!?」
『ホホホホホホ♪だから大したことのない余興と言ったであろうが。ふっふふふふ……』
ミナがこれまでにない焦った顔で祖母を睨めつける。
「どういうことだ?!三郎、説明しろ!」
「―――媚薬だ!正確には、イーニラの水っていうアレなアイテムと同じ効果を持つ魅了の術だぞ、これは!」
ミナはすぐに杖を取り出して、ホーリー・フィックスを唱え始める。
「世界を調律する我らが祭神よ。世を蝕むもの。真なる邪悪。生まれ落つる世界蟲を正しき姿へと調律し給え。塵は塵に、灰は灰に。歪みと過ちは正しき姿へ。我らの持つ原罪を許し給え。どうか我らを聖なる地へ導き給え。ホーリー・フィックス!」
「岬さんは恋さんを拘束してください。もうすでに影響が出ている。襲われますよ、ええ」
ルルがそういうので、見るともう胸を掻き抱いてすぐにでも何かが暴発する、と言った体の恋が岬の目に映った。
「ぶっ!?こないだの旅館でルルくんがミナちゃんに飲ませようとしたやつなのですか!?」
岬がポーチからワイヤを取り出しながらそう聞くと、「そうよ!ブルーリボンどころか、私のブラックリボンでも防ぎきれないやつよ!」とミナが叫ぶ。
イーニラの水は、エルフまたはダークエルフの体液と13種類の魔草、26種類の薬草と3種類の鉱石を原料とする特級の媚薬である。
その効果は状態異常ではない―――つまり疾患でも中毒でもなく、能力向上……即ち薬効にあたるものであるため、ブラックリボンであっても完全抵抗は出来ないのだ。
「み、岬ちゃん……うう……か、体が……」
「今縛り上げるんでちょっと静かにしておくのです!ここからR-18展開はご法度なのですよ!」
フラフラと岬を掻き抱こうとした恋を避けて、岬は腕と脚を素早く縛り付けてぬえ子が寝ているベッドに放り投げた。
「あんっ♪乱暴……だなあ……」
「れ、恋ちゃんはもうだめなのです!」
トロンとした目の恋を見て、岬はゾッとしてしまう。
「クソが!」
『ホホホホホ!如何にそなたや黒い死体でもこれは効くであろう!抵抗したままあの粘液を倒してみせよ♪さすればそなたの友人らの呪いは解いて進ぜようぞ★』
心底楽しいと言った風で、女は笑う。
「てんめぇ……!」
『そこの死体とそなたが盛り始めても解放してやろうほどに♪我、優しいであろう?ホホホホホ♪』
つまり、勝利条件はそもそもそう言ったものが効かない廻と夕以外の全員が発情する前にぬえ子の父を助け出すか、そうなる前にミナとルルがR-18行為に及ぶか、ということだ。
「僕は僕の力でミナさんを落としたいんですけども。本当に癪に障ることをしますね、あなたは」
無表情でルルがそう返す。
「行くわよみんな!」
「うむ」「私は頭痛がしてきたがよかろう」
廻と夕が肯んじ、ルルと空悟も無言で首肯したのを見てミナは「助け出したら次はてめーだからな!覚えてろよ!」と叫んで駆け出したのであった。
なんと今日で投稿開始から1年ですよ。
やったぜ。
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敵キャラについての深掘り
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