異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

13 / 333
第13話「そうよー珍しく妙な夢見ちゃってねー」

-13-

 

「珍しく眠たそうですね。先ほど飛び起きた件ですか?」

 

のそりと起きてまなこをクシクシとこする少女に、少年は日誌を閉じながらそう問いかけた。

 

「そうよー珍しく妙な夢見ちゃってねー」

 

寝ぼけまなこでトレーナーとスカートを身に着け、ベッドに座る。

 

「ミナさん、エルフは夢をあまり見ないでしょう。何かの警告なのでは?昨日の件はもうお忘れですか?」

 

「ん~……まあ、多分そうだと思うから、もっかい私護国神社行ってくるわ……ルルはいつもどーり神殿……神社の下で待っててね」

 

インコグニートの腕輪を身に着け、その長耳を隠す。

 

状態異常を防ぐ黒いリボンは用心のため常に身から離さない。

 

それをしゅるりと解いて首に巻くと、髪の毛を梳かすために部屋を出て階段を下りる。

 

ルルはそれにカルガモの子のようについてきた。

 

「まあ、それはいいでしょう。よくないですけど。行きたくないですけど」

 

露骨な不満を漏らして、ルルは反論する。

 

「もう少し後はこちらの世界の主神の一柱の生誕祭というではないですか。僕としてはそちらも気になるので、それを知れる場所に行きたいのです」

 

「えーまじクリスマス~?うちでは家でゆっくりと焼肉食べて酒飲む日なんだけど。それに、いいの?イエス・キリストっていうか四文字の神は一応善の神に属する神だと思うわよ?」

 

髪を整え、リボンを髪に結びながらミナは笑う。

 

しかし、ルルはそれに動じることはなく笑い返した。

 

「善神と言えど、この国にはその神の威光はほとんど届いていないのでしょう?だったら別に気にする必要はありません」

 

「昨日みたいなことにならないといいけどねえ。教会は日本にもたっくさんあるわよ。神森にも2つはあったはずなのだわ」

 

「うぐ……まあそれはその時です」

 

言葉に詰まったルルは顔をそらす。

 

その様子がなんだかおかしくて、ミナはちょっとクスリとしたのであった。

 

 

 

神森市は概ね12月中は雪が降らない。

 

うっすらでも積もるときは、たいてい県内は大雪で何らかの被害が出ているくらい雪が降らない。

 

その代わり、年が明けるといきなり雪が振る。豪雪地帯並に。

 

三郎だったミナは前世からずうっと理不尽だと思っていたが、気象など興味の範囲外だったため全く理由は知らなかった。

 

今年も例年にもれず雪は全く降らず、カラッと晴れていた。

 

空にも氷の精霊は少なく、その代わり科戸山から、その名前……風の生まれる場所という意味に相応しく冷たい風と鋭く駆ける風精が街に吹き付けていた。

 

「関節凍りそうなんですけど?」

 

「けど?じゃないが。ノーライフキングが情けないこと言うんじゃないわよ」

 

コートに身を包んだ二人は、ルルの街を見たいというわがままによって科戸山への道をてくてく歩いていた。

 

寒い寒いと文句を言うルルは、スカートに生足、そしてショートソックスである。

 

いいかげんにしろ、とミナは思った。

 

思ったからと言って、このリッチーの少年のファッションセンスについて言っても無駄だと知っているから何も言わない。

 

そもそも人間をからかうためだけに女の格好をしているという変態なのだ。

 

ミナは額に手を当てて、ハァ、とため息をつくと立ち止まる。

 

「そんなに寒いって言うなら、ここで休んでいこうか?」

 

立ち止まった眼の前には、喫茶キングスネークという看板がある。

 

半グレ事件中に寄った公民館近くの喫茶店だ。

 

「わかりました」

 

ルルはそう言って、ミナを追い越すように喫茶店に入っていく。

 

(マジで寒いのかしら、こいつ……)

 

そんな寒いと関節が軋むノーライフキングなんて嫌だなあ、と異世界で何度も思った感想が脳裏に浮かぶ。

 

その考えを打ち消して、ミナはルルの後に喫茶店のドアを潜る。

 

名前が変な割には、変なところはカウンターの奥の檻にカリフォルニアキングスネークを飼っているだけである。

 

十分変だと前世では思っていたミナだが、今世では全くなんとも思わなかった。

 

蛇そのものや蛇系モンスターを毒抜きして食べることも多い冒険者にとっては身近な生物であるということもあった。

 

席に座ると、ミナはコーヒーといちごのショートケーキを、ルルはアイスコーヒーを頼む。

 

「あんたさあ。別に寒くなかったでしょ?」

 

「当たり前ですよねえ。蒼色の王国に比べたらとても暖かいというレベルです。休みたかっただけですし」

 

「やっぱりあんた私のことナメてるでしょ。休みたいんだったらそう言いなさい……」

 

サービスで出された薄い緑茶をすすって寒さを体から追い出しながらミナは少年を睨んだ。

 

睨まれた少年はどこ吹く風である。

 

「こんな日に神殿……失礼、神社でしたか。そんなところに行くために停留所で立ちっぱなしなんてゴメンですからね」

 

「そりゃあ悪かったわね」

 

家を出てからこのオカマはずっとこの調子である。

 

善神の神殿に行く用事ができると、このように適当なことを言ってミナを困らせようとするのだ。

 

普段は素直なのにこうなるとめんどくさくて仕方ないとミナはずっと思っていた。

 

異世界にいた頃は、彼女とパーティを組む者の何人かはルルが暴走しだしても止められるものがいたから数週間くらいなら目を離しても問題がなかったが、今はミナ一人しか彼を止めることのできるものはいない。

 

ノーライフキング、リッチーというものはそれこそ本当に死者の王であり、彼の使うネクロマンシーは古代語魔法や暗黒魔法の不死者創造系魔法を遥かに超える危険度の不死者系魔物を召喚することが可能だ。

 

―――それも、ほぼ無尽蔵に。

 

彼が古代語や邪神の魔法を使うのは、手加減しているだけに過ぎない。

 

ミナにとっても頭の痛い話であるが、本来彼は人類の敵対者であり、奇跡的に彼女の下僕となっているだけなのだ。

 

彼を下僕にした事件についてはいずれ語ることもあるだろうが、今は置いておく。

 

そんな彼の機嫌をそのままにしておくのは、なんとも面倒な話であった。

 

「おまたせしました。ごゆっくり」

 

茶髪をショートボブにしたウェイトレスが注文した品を置いていく。

 

目の前のアイスコーヒーをチュウと吸うと、ルルはにっこりと笑った。

 

「神社の用事が終わったら、行きたい所あるんですけど、いいですか?」

 

―――このうざったい状態を何とかするために、ミナはコクリとうなずかざるを得なかったのであった。

 

 

 

そして勇者は再び護国神社を訪った。

 

手水舎で作法通りに身を清め、拝殿でお参りをする。

 

同じく作法通りの二礼二拍手一礼を行うと「失礼します」と言って、拝殿の裏側へと歩き出した。

 

聖なる力は手水舎、本殿、そしてその裏側からしか感じられず、本殿と手水舎のそれは大本ではないと容易に判断できるほどに弱かった。

 

立入禁止であると面倒だと思い、ミナはインビジブルの魔法を唱えて姿を隠す。

 

そのまま本殿の裏の森へと近づくほどに聖なる力は強くなっていった。

 

「……森か」

 

ミナは一言つぶやくと、そのまま森の中へと入っていった。

 

―――森の中は静かであった。

 

冬であり、大地の草はほとんど死に絶えて、ブナの木が周囲を囲んでいる。

 

木々の声はかすかで、よく聞き取れない。

 

眠っているような気配の薄さに、エルフは背筋を少し震わせた。

 

かさ、かさ、と落ち葉を踏んで先へ進む。

 

死んだ枝葉は何も言わない。

 

しかし、何かに惑わされるように聖なる力が強い場所へとたどり着かない。

 

「……迷いの森?まさか……いや、まさかはない。神様がいる世界であれば何でもあり得るはずよ」

 

ミナはバッグから呪文破りの杖を取り出そうとした。

 

そうしてバッグに手を突っ込んだその時である。

 

―――待ちなさい。

 

昨日と同じ、優しい男性の声。

 

―――ここに来てはいけない。

 

「……貴方は何方ですか?」

 

―――私は……いや、いずれ知ることになる。だから今は言わない。

 

ミナの誰何に厳かな声音を崩さずに、その存在は優しく拒否した。

 

―――気をつけなさい。危機が迫っている。

 

「危機……?この間までの犯罪者や革命家たちの事件ではなく、ですか?」

 

―――そうだ。私が抑えられているうちに、なんとかしてほしい。街で起きる大きくても、小さくても、目についた事物に手を差し伸べてあげてほしい。大八州で生まれた外つ国の稀人よ……―――

 

それだけだった。

 

声はそれから何も聞こえず、気配も消え、聖なる力も大本が見えないほどに薄くなってしまっていた。

 

「……なるほど。勇者への依頼とあらば、お引き受けいたしましょう。我がこの世界での故郷を守る神様……」

 

ミナはぎゅ、と握り込んでいた拳を開くと、作法通りに二礼二拍手一礼をして、踵を返したのだった。

 

 

 

神社を後にしたミナはルルと合流し、ルルの希望の場所へと向かっていた。

 

ルルはスマートフォンをもうミナ以上に使いこなしている。

 

それで知ったのだろう。

 

辿り着いたのは先程とは別の喫茶店である。

 

蛇がいる以外はシックな感じのキングスネークと違って、少しカラフルでメルヘンな感じの喫茶店だ。

 

「―――おい、マジで?やんの??」

 

思わず男の口調になるくらいの嫌な顔をしているミナに対して、ルルは実にいい笑顔である。

 

満面の笑みと言ってもいい。

 

「そりゃもう。行きたいところにつれてってくれるって約束じゃないですかあ」

 

ニヤニヤと笑う女顔の少年にミナは心底うんざりした顔をした。

 

「なんか混ぜ込んだりしようとするんじゃないわよ!?」

 

少々口調を荒く、額に怒りマークが浮かんでいるのが見えるような引きつった笑顔でミナは目の前のドリンクに目をやる。

 

「―――あいあいドリンクとかさぁ……!」

 

「ハイ一緒に飲みましょうねー」

 

「いぃぃやぁぁぁぁぁ!」

 

ミナは他の席がうるさくならない程度の声で悲鳴を上げる。

 

ハート型の恋人ジュース用のストローに口をつける少年の微笑みが辛かった。

 

―――勇気を出してそれを行えたのは、それから5分後のことだった。

 

「……た、大したことないわね!HAHAHA!」

 

「うーん、説得力ありませんねーこの余裕のない顔が見たかった!」

 

ストローから口を離す少女の顔を覗き込む満面の笑みの少年の顔は清々しかった。

 

「おーのーれー……こんなこっ恥ずかしいこと二度としないからね!」

 

「クックック……そんなこと言って、毎度毎度結局僕のワガママにつきあってくれるミナさんは本当にいい人ですね」

 

「やかましいわ!」

 

赤面して怨嗟の声を放つミナにルルの笑顔が突き刺さる。

 

ルルは嬉しそうに眼鏡をクイクイと位置調整しては含み笑いをこぼしていた。

 

「いやあ、こちらの世界もいいものですねぇ。僕以上がミナさんしか今のところ見当たりませんし、今後もこういう機会は増えそうです」

 

「よし殺す」

 

「ああ、ああ!耳をつねらないでください!ごめんなさい!調子乗りました!」

 

白い指で耳をギュッとつねられ、少年は嬉しそうに悲鳴を上げる。

 

あくまでも、嬉しそうに。

 

「ったく……」

 

頬杖をついてふてくされるミナの眼に、中身のなくなったあいあいジュースのストローが目に入る。

 

大きなため息をついて、出すべき言葉を見失ったミナはテーブルに突っ伏したのであった。

 

「―――それで、結局収穫はありませんでしたか」

 

「夢についてはね。とりあえず、この街で起こる事件を解決しろ、って依頼を受けたわ」

 

ファンシーなネコを象った砂糖菓子の乗ったチーズケーキをフォークで切り分けながら、ミナはそう答えた。

 

ルルは小さな球状のチョコアイスを指でつまんでは口へ放り込んでいる。

 

「ありがちなオラクルですねえ。その依頼、受けるつもりですか?」

 

もう一個チョコアイスを口に入れてルルは確認した。

 

それに対する答えは決まっているとわかった上で。

 

「私はどんな依頼でもとりあえず受けてみる派だし、何よりここは私のこちらの世界での故郷ですもの。守らなくてどうするってやつなのだわ」

 

ミナは切り分けたチーズケーキを口に含んで、そう胸をそらした。

 

「おっ、これ美味しい」

 

感嘆の声を上げ、ミナは笑う。

 

それを見ていた店の主人と思しき男性が声をかけてきた。

 

「いかがですか、当店自慢のチーズケーキは」

 

可愛らしいネコの刺繍がしてあるエプロンと執事めいたモノクルを身に着けた初老の男性だった。

 

「ええ、とても。何か隠し味でも?」

 

「ソースに私の母が生前大切にしていた木から採った杏の果汁を使っています。色味がオレンジがかっているでしょう?」

 

「杏ですか。だからちょっとチーズとは違うほんのりした甘味があるんですね。とても美味しいです」

 

朗らかに隠し味を説明する店主に、ミナも朗らかに返す。

 

その返事に満足したのか、店主は「ありがとうございます。ごゆっくりどうぞ」と答えてカウンターに戻った。

 

「杏とチーズねー良いじゃない」

 

あいあいジュースによって惹起した先程までの不機嫌はどこへやら、ケーキの美味しさに舌鼓を打つ彼女は完全に機嫌を直していた。

 

「それにしても夢はなんだったのか……しばらく気をつけないと」

 

「そうですね……と言っても、手持ちのドリームステッキは邪神の空洞で全部破壊されてしまいましたし、現状如何ともし難いですね。作ろうにも、こちらに材料があるかわからない……いや、多分ないでしょうね」

 

ドリームステッキとは他人の夢に潜るためのアイテムであるが、邪神の空洞にいたとある夢魔との戦いで壊してしまい、以降新しいものは手に入れていなかった。

 

うーん、とミナは腕を組んで唸る。

 

唸って、仕方ない、とつぶやいてケーキをまた口に入れた。

 

「とりあえず明日の朝も同じことが起きないか、ね。そして起きたなら、その中でヒントになるようなものを探してみるわ」

 

「それしかないですか。わかりました」

 

ルルは最後のチョコアイスを食べ終えて、そう答えたのだった。

 

 




無惨先生……ニンポです……

どんな日常回が読みたいですか?

  • メインキャラのエピソード
  • サブキャラのエピソード
  • 敵キャラについての深掘り
  • その他(活動報告にコメントお願いします)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。