異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか 作:大回転スカイミサイル
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「死ぃねぇぇぇぇぇ!!」
空悟は火炎放射器からナフサを主原料とするナパーム火炎を吹き散らしながら大音声で叫ぶ。
その燃料タンクは、無限のバッグの解析結果から得られた空間拡張の技術で3000リットルもの容積を持つ。
即ち、粘液は空悟の100m以内に近づくことも能わずに焼却されていった。
同じように廻と夕も殺人光線やミサイルを焼却するためにうまく使っていく。
「キリがないな、廻」
「同感だ、夕。だが、我々の任務はぬえ子殿およびその父親の救出。わずかずつでも目的に近づくように努力しよう」
不満げな妹と、それをたしなめる兄の姿を見ながら、その後ろから飛びかかろうとするスライムたちを―――
「喰らえ必殺!アナン・ファイヤーなのです!!」
岬の胸から放たれた火炎放射が焼き尽くしていく。
もう湖の容積の半分は焼き尽くされていたが、ミナとルルはまだ崖の上にとどまっていた。
「……これで済むと思う?」
「いいえ、全く。あの変態ババァの策はまずは総て封殺したとは思いますが、粘液が何を狙いとしているかがわからない」
ルルが溜息をつくと、ミナも「ですよねー」と返して4人を巻き込まないように、彼らにバフ魔法を遠くから掛けていく。
そして、地面に赤い顔で座り込んだ。
「……きつい……辛い……気持ち悪い……」
はぁ、はぁ、と息も絶え絶えにしているミナを見て、ルルは更に一歩後ろに下がって「休んでいて良いのですよ?」と気遣いが聞いて取れる声音を発した。
「そうも……いかないでしょ……くっそ、ババァめ……!」
ミナが頭を振って、脚を切なげに閉じると、ルルは「―――屈辱だ」と小さな声で呟いた。
「何が屈辱なのよ」
「ミナさんにそういう桃色な気分を味わわせるのは僕だけで十分だからです」
「殺されてえのかよ、この馬鹿野郎……」
普段どおりのセクハラセリフですら、きちんと反撃する気力すらもうミナには残っていないようだ。
その事実に、なんとたちの悪い女だろうか、とルルは嘆息する。
それでもまだ理性を保っているのは、やはり装備している黄昏の剣や上古の森人の戦装束のおかげだろう。
そして、自分が使おうとした媚薬―――他ならぬイーニラの水を使っていたら、嫌われるどころか殺されていたろうな、と嘆息する。
(やはり、ここは空悟さんの策に乗るべきだな)と空悟との約束を思い返しつつ、ミナに再び鎮静剤を渡した。
(結局、僕はこの人が好きなだけなのだから、急ぐ必要もない)
ただそう思いながら、あのミナとそっくりの顔をした森の魔女とは違うのだ、と思う。
「……何考えてんのよ、可愛い顔してさ」
「普段ならそんなこと絶対に言わないミナさんの可愛さについて、でしょうか?」
ふっと微笑むルルに、ミナは「からかうなバカやろう……」と膝小僧を抱いて体育座りをしてしまった。
そんなミナを見ていたのは―――誰あろうか。
その気配に最初に気づいたのは、やはりルルであった。
「ミナさん、少し離れてください。何か来ます」
そう言ったルルから、10mほど離れた場所に―――桃色の闇。
しかし、今までに比べてしっかりした輪郭を持った粘液がいつの間にか現れていた。
『ぐぶぶぶぶ……こんにちは……勇者さん……』
声も多少くぐもっているだけで、はっきりと人間の声に聞こえることにミナは「貴様……!」と表情を崩して立ち上がろうとして―――
「ぐっ!」
崩れて地面に膝をついた。
スライム女を見れば、ピンク色の部分が随分と減って、髪や膝下、一の腕以外は肌色をしている。
胸や股間をまるでビキニ水着のように整えた不透明の粘液で覆って、まるで―――
「まるで人間……!随分と成長したようね……!最初の躯体よりも上等そうじゃない……!」
苦し気に吠えるミナをきょとんとした目で見て、女は『う、れしい……気づいてくれるのね……ぐぶぶぶぶぶ……』と蠱惑的に笑った。
『そ、う……最初の体は……あなたに……人形だったから壊されちゃったの……』
くすり、くすり、と衣擦れを思わせる笑みを浮かべて女は哂う。
『あなぁたの……おばあ様……の放つ魅了の力……美味しかったぁ……ぐぶぶ……』
「ば、ババァ……!何が捕まえたよ!完全に思惑に乗せられてんじゃないのよ!!」
青筋を立ててミナが叫ぶと、女は『そんなに……おばあさまを……悪く言うものじゃないわぁ……』とまだ透明な指を唇に当てて首を傾げた。
『ぐぶぶぶぶ……恍・惚・会・苦……それじゃああなたを倒してぇ……恋……に施した結界……解いてもらうわよぉ……』
口角を半月に吊り上げて、女はゆっくりとこちらに近づいてくる。
下を見れば、やはり活性化したスライムが仲間たちを苦戦させているのが見えた。
「ルル、どうするべきだと思う?」
「まあここは僕にお任せを……と行きたいところですが、どうもあれは随分と邪神の臭いが強くなっている。出来る限りでいいので援護をお願いします」
ルルは素早く二口水晶を装備すると、杖を女に向ける。
そうして、ミナがふらふらと立ち上がってホーリーフィックスの呪文を唱えようとしたとき―――
虚空から大音声が響いた。
『なんでそこで真っ正面から戦うことにしてるんじゃ!我、そなたの祖母!流石に孫がピンチなら、我も遊びはやめるんじゃが!?』
祖母のやかましい声が。
「っせーな!腹に響くからやめろアホババァ!!」
『腹ではのうて、胎であろ?』
心配そうに紅いドレスの女が自分の股間を覗き込んできたので、ミナは思わずその幻影をブーツで蹴った。
『あいたっ!?女の顔を蹴りおった!?』
「うぜーからマジでやめろ下ネタ!もうあんたの手に負えるもんじゃねえよ!解けるならさっさとこの術解け!!」
蹴られた頬を抑えるババァにミナはそう叫んで胸ぐらをつかむ。
上古の森人の戦装束のおかげで、今のミナは精霊に触れることも可能なのだ。
『そ、そ、それは……うーむ、そのじゃな』
「早くしてくださいませんかね。あのスライム女のニヤニヤ顔見ながら待ってるの大変気持ち悪いんで」
ルルがデス・ウォールを展開している中、女はスライムの指をどこかの幽霊族の生き残りのごとくに大量に飛ばして来ているのだ。
カレーナのふざけた話に付き合ってはいられない、とルルはじとりと睨めつけて再び前を見た。
「いい加減にしてください!世界を支配する偉大なるロジックよ。大気の法則を書き換えよ―――水の素、呼吸の素、そのいくつかを融合せしめ、致命の破壊を風と成せ!フュージョン・エクスプロード!!」
瞬間、爆光と爆炎が轟音を伴って女を包む―――だが。
『やぁだよぉ……婦・腐・符……』
核爆発で跡形もなく吹き飛びながら、周囲の粘液によって女は瞬く間に再生していく。
「やはりすべてを消滅させねばダメか!」
ルルが今度は二口水晶でディメンジョン・イーターとホワイトホールの同時詠唱を開始する。
「無茶しないでルル!つーか、早くしろババァ!間に合わなくなるだろうが!」
焦って胸ぐらをぶんぶん振るミナに、カレーナは流れぬはずの冷汗を見せながら―――
『それがのう……もう我が術、そなたに染み込み終わっておるので……後は自分でヤるかお相手見つけて鎮めるまでそのままなんじゃ★』
そのようなふざけたことを抜かしたのであった。
「憤怒ッ!」『ごぶふぅ!?』
ミナは怒りのままにその顔を思いっきりぶん殴ると、無限のバッグからスクロールとおそらくはオリハルコンでできたレイピアを取り出した。
『な、なんとも流麗な剣じゃのぉ……そ、それをどうするつもりであるか?』
頭をミナに掴まれ、逃げることも姿を消すことも能わぬ状態でカレーナは引き攣った笑みを浮かべながら、それでも後ずさろうと無駄な努力をしている。
その無駄な努力をあざ笑うように―――
「友人の竜司祭からもらった貴重な品を使うのはもったいないんだけどねぇ……いい加減……トサカにきてんだよババァ!」
あまりの怒りにその体に染み込んだイーニラの淫気すら吹き飛ばすほどの気勢を上げて、ミナは巻物を開いていく。
『だーめよぉ~?そのおばあさんをぉ……こちらの世界に連れてきたのは……わたしぃだしぃ……あまり責めてあげないでぇ?ぐぶぶぶ……』
「大体そんなもんだと思ってたよ!邪悪なもんに利用されて人様に迷惑かけてからに!」
スライム女の唐突な黒幕宣言に、そりゃそうだよなあ、という納得を顔色に出しながら、ミナは巻物の端をレイピアに巻き付けて呪文を唱えだした。
「偉大なる竜よ!汝に連なりしものが生み出せしものよりその威容を表したまえ!竜とは力、力とは剣、剣とは人の業故に!竜と人との橋渡し、力の譲渡を成し遂げさせよ!」
ミナが巻物に書かれている呪文を読み上げると、巻きつけられたレイピアが妖しく輝き始めた。
『まさか!まさかそれはぁ!?』
「竜魔法の奥義の一つ……それを150年前くらいの友達が巻物に仕立ててくれてたんよ……精霊をして竜の血で剣に繋ぎ止め、比類なき魔剣とするこの魔法の巻物をね!」
ミナはくつくつと歯をむき出しにして笑い、レイピアをカレーナに向ける。
「まだですか、ミナさん!予定通りとはいえ、戦いの中で実行するのは危険です!早く済ませてください!」
ブラックホールとディメンジョン・イーターを完成させながら、ルルはそう叫んだ。
ミナは「すぐ終わる!さぁ、堕ちて精霊と成りたる我が祖母カレーナ・トワイライトよ!我が剣に宿り、我が力となるべし!」と唱えた。
『お、おのれぇぇ!おのれぇぇ!絶対剣になってもちょっかい掛けてくれるからなぁぁぁ!』
「好きにしろバカ!ここから出た後、バッグから出すと思うなよ!!」
祖母の絶叫に、孫娘はそう返して剣をかざす。
既に祖母の絶叫は途絶え、その剣には紅と桃の紋様が刻まれ、同じ色の光が妖しく放たれていた。
「よし―――思ったとおりだ!ルル!下がって!あとは私がやるわ!!」
ミナはレイピアを持ち、すっくと立ちあがった。
そうして、その剣に意識を集中すると、今まで全身を冒していた火照りも嫌な感覚もすべて霧散していくではないか。
それは即ち……
『おのれ、おのれぇぇぇ!我が力を、我が血と魂が近いことにかこつけて剣に寄せて奪うとはぁぁぁ!!』
剣からカレーナの叫びが聞こえるが、そんなことはもはやミナにはどうでもいいことだった。
重大なことは、即ち自らの体に染み込み、術者本人ですら解除できない毒を解除するために、毒の主を僕にしたという事実である。
「名づけて祖母ブレード(仮)!まあ結局この方法で幽閉するつもりだったけど、ぶっつけ本番でやることになるとは思わなかったわね!」
ミナは左手で持った剣をスライム女に向けて、もう一振りの剣、黄昏の氏族、トワイライトの血族に縁深き勇者の剣を右腕でかざした。
『あら……これはもう駄目ねぇ……勇者……さん?次の体でも……遊び、ま、しょうね……?』
ぐぶぶぶ、と笑みを漏らして、女は触手のように変化させたスライムでもって崖の下へと自らを飛ばす。
無論、それをそのまま見逃すルルではないが―――
「逃がさん!世の帳に閑静を。遍く影をお与えください!永劫の地獄の扉を開けたまえ!!」「白き闇よ全てを吐瀉する白痴の光よ。昏き白よ、冥き闇を染めよ」
しかし、時すでに遅し。
白い闇と黒い穴がスライムを追うが、既に射程の外であった。
「ちっ!」
「追うわよ、ルル!」
ミナが崖から飛び降りると、ルルもまた同じく飛び降りる―――
崖の下を見れば湖の殆どが干上がって、スライムたちは空悟を完全に包囲していた。
『ほれ見ろ!我の軛がなくなった途端にアレじゃ!我悪くない!』
祖母ブレード(仮)が往生際悪く吠えるが、ミナは着地した瞬間にその柄を地面にバキリとぶつけて「そろそろ言葉に気をつけろやババァ」とドス低い声で警告する。
ダメージを受けたのかカレーナは『オウッ!?』とオットセイみたいな情けない声を上げて沈黙した。
「ルル!」「承知!」
二人はそれだけで通じ合ったようで、詠唱を始める。
「「世界を支配する偉大なるロジックよ。地獄の業火を呼び覚ませ。我が前のものすべてを焼き尽くし原初の姿へ葬送せよ。フレアー・クリメイション!!」」
二口水晶が全く同じ声音で葬送の火球を二つ、寸分の違いもない大きさで作り出す。
「暁の子、西に吹く希望王ゼビュロスよ!汝の吐息は竜の巣となり、竜の巣は全てを吹き飛ばし、もって清野をもたらさん!起きよ!風の竜!!」
その葬送の火球を風の竜が巻き込み、まさに炎の台風とでも呼ぶべき熱と破壊の嵐が形成された。
それは吹きすさびながら、空悟たちを包囲するスライムたちを溶かしていく。
「今だ!こっちへ走れ!!」
ミナが叫ぶ。
応じた4人は全力で走り出し―――熱風は空悟らの肌を炙っていくが、それは致命傷ほどではない。
「アチィ!?何してくれんだ三郎!」
「すぐ治すからぎゃーぎゃーいうな!世界を調律する我等が祭神よ、癒やし直し治し戻す力を降り注がせたまえ!ミディアムヒール!」
ミナがそう唱えると、治癒の光が空悟と岬に降り注ぎ、僅かな火傷を癒やしていく。
岬に至っては、その服は魔力で出来ているためか、服まで再生していた。
「あーびっくりしたのです!そっちは大丈夫でしたですか!?」
岬がいつものこととばかりに、服についた煤を払いながらそう聞くと―――その左手に握られた、禍々しいピンクのオーラを放つ物体に気がついた。
「ミナちゃん……なんなのですか、それは……」
ジト目で唇を歪めてそう聞く彼女に、廻が「ミナくんが彼女の祖母とやらをどうにかした姿だろう。そんなことよりあの粘液の熱量がとてつもないことになっている!」と警告する。
「―――これは、優に火山に匹敵する熱量だぞ、金髪女。いくらお前でも厳しいのではないか?」
夕は―――珍しくミナを心配そうに見つめてそう言った。
「なにより、貴様……先程まで今にもその場で自慰を始めそうなくらいいわゆる女性ホルモンが分泌されていたぞ」
―――そう、余計な言葉を付け加えて。
「やめて!私、この姿になってから一度もそんなことしたことないの!」
ミナがそんなどうでもいい告白をすると、「三郎、そういうシモの話は良いから」と空悟がげんなりした声を返してきた。
自分が祖母と同じような話をしてしまったことに気づいたミナは少し羞恥に顔を染めて、すぐに元の顔色を取り戻す。
「おう……そうだな。今は目の前のアレをぶっ飛ばすだけだ!」
ミナはそうして、左のレイピアと右の勇者の剣を翼のように広げて構えた。
「なにをするつもりだ、ミナくん」
廻が見咎めると、ミナは「そりゃもう、これで終わりにするのよ!」と笑った。
目の前で集結するスライムに、もはや意志の光は見えない―――邪神の眷属はすでに此処を去ったのだとミナは理解して嘆息した。
ひゅう、と口から息を吐く。
左に握るカレーナの魂を宿す剣から、右に握る黄昏の剣に力を移し込んでいく。
「……三郎、それは大丈夫なやつか?」
「ああ、平気さ。王の剣は黄昏の氏族のものだ。だから、トワイライトの血族二人が握る今、いつもよりも楽に扱えるのさ」
ミナはニヤリと笑う。
『ぐぶぶぶぶぶぶぶぶぶ―――』
意志を持たぬ、彼女と彼女の仲間の女達とよく似た顔の粘液の巨人が立ち上がる。
それをつまらなそうに一瞥して、ミナは黄昏の剣を『起こした』。
「我が名はミナ・トワイライト。天護の森にて虹の墓所を守るもの、黄昏の氏族の末裔なり」
瞳を閉じる。
紡がれるは滅びた王国の言葉。
それは風の羽音か、水のせせらぎか。
炎のゆらめきか、土のどよめきか。
彼の王の国の言葉は―――その血族に切なくまとわりつく。
「銀盤よ、輝け。畏れを讃えよ。讃え、称え、湛うこと千年。その命繰り返すこと十度―――永遠とは炎である。永遠とは風である。永遠は大地であり、永遠は海と水の流れである」
『しかして永遠もいずれ朽ち、塵に帰す。されど、恐れるなかれ。なれど畏れよ。我ら時の中に生くる御祖の力にて生かさるると知れ』
祖母の聞いたこともないような静かで美しい声音が虚空へ響く。
ミナは唱える。
「黄昏の剣よ―――王の剣。我らが始祖の力よ―――!」
かつて森のために死んだ自分勝手な祖母の声が唱える。
『黄昏の剣よ―――遍くに終わりを齎す蒼き輝きよ―――』
その言葉を受けて、ミナは祖母の剣と黄昏の剣とを振りかぶった。
瞳は金に、その髪は太陽に、剣は黄昏を越えた夜の闇に輝く。
「―――抜剣!これで終わりだァァァ!!」
夜の闇は蒼き輝き、蒼き輝きは破邪滅神の星光である。
振りかぶった剣が振り抜かれた時、巨人の形をした粘液は―――かつて、ミナが斬ったもの、目の前の巨人の母たる邪神と同じ運命をたどった。
真っ二つに閃光に両断され、両断された端から蒼き光に灼かれて消えていく。
『ぐ―――ぶぶぶ………』
くぐもった笑いだけがあとに残り、それもすぐにかき消える。
見渡せば、水のないクレーターめいた湖と、その真中に座する十字架のみ。
仲間たちの姿は皆無事に存在する。
それを見届けて、ミナは地面に今度こそ崩折れた。
「つーーーかーーーれたぁぁぁぁ!!なんでろくに間も置かんと何度も勇者の武器を抜かにゃならんねーーーん!!」
そう叫んで、地面に横たわる。
『……黄昏の剣とつながって、そしてなお目の前にして理解したぞ……そなた、邪神とも戦っておったのか……父親譲りで呆れた冒険に首を突っ込んでおるものよな……』
左手に握られたままのカレーナの剣からそう声がした。
その声は呆れ半分、心配半分、わずかに好奇心がない混ぜになった複雑な声音であった。
「そーよ……私の前世を殺したあいつ、いろんな運命を狂わせたあのクソ野郎を殺すための冒険だったわ―――最後の20年はね」
祖母が宿った剣を杖に立ち上がり、それをレイピアの本来の鞘に収める。
『ふーむ……なかなかおもしろいことに関わったようじゃのう、我が孫よ』
興味深そうに、今度こそ100%興味本位であると宣言せんばかりの聞くだけで桃色を連想するような声で剣は笑った。
『我がいれば消耗少なく黄昏の剣を扱える……我、切り札感出てきたとは想わぬか?』
調子に乗っているのか、祖母だった剣はそうしてケラケラと笑う。
「切り札であれば妄りに外に出しておくわけには行きませんね。そうは思いませんか、廻さん、空悟さん」
ルルが不機嫌な様子でそう言って、ミナからレイピアを受け取った。
「賛成。下手に性的な悪戯をうちの子供や嫁にされても困る」
「右に同じ。恋くんの教育に悪いし、岬にも目の毒だ」
男二人はジト目でルルに賛同する。
「あたしも賛成なのです。どう考えても廻さんの言う通り恋ちゃんの教育にすこぶる悪いので、永久封印でも構わないのです。危うく恋ちゃんがレズになるところだったのです」
「岬に賛成しよう。色狂いの喋る刀剣など呪物としてどこぞに封印してしまうが良い」
岬と夕も同じくその処遇には賛成のようであった。
そんな白い目で見る孫の仲間たちの視線に耐えかねたのか、孫へと『た、たまには出してくれると嬉しいのじゃがぁ……』と猫をなでるような、しかし蚊が泣くようなか細く媚を含んだ懇願が孫に跳んでくる。
ミナはその視線にハァと巨大なため息をついて―――
「ルル、とりあえずしまっておいて―――婆さんや、後でこっちの世界に来た経緯をきちんと話してもらうわよ」
ミナは平坦な声でそう言って、ルルへ首肯する。
『あー!なにするんじゃぁ!あぁぁぁぁぁーーー!』
絶叫が響く中、女の声を発するレイピアはルルの無限のバッグの中へと吸い込まれていったのであった。
「これでよし、と……」
ミナは大きく伸びをして、黄昏の剣を無限のバッグへしまって仲間たちへと向き直る。
「じゃあぬえ子ちゃんのお父さんを助けて、恋ちゃんたちを迎えに行きましょうか」
ニッと笑ったのは強がりだったのか、それとも本心からか。
祖母ソードの力を借りたとは言え、魔力を多く使ったミナの顔色は良くない。
それを慮ってか、ルルはミナへ肩を貸した。
「……ごめん、ちょっとだけお願い」
「承知しました。いつものことですし」
なんでもないとばかりにミナを抱えて、ルルは湖の真ん中へと歩いていく。
その背中を見つめながら、そのまま積極的になればいいだろうにな、と空悟は思うのであった。
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