異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第131話「普通はそんな下半身の半裸男を見たら笑うわよ」

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「うん、命に別条はないわ。呪いも解けかけてる」

 

少し歩いて気分が良くなったのか、ミナは棺に妖精の雫を掛けながらそう言って笑った。

 

「妖精の涙は魔力で硬化する堕ちたハイエルフの体液よ。実体を持たないそれを形にするのが魔力……でも妖精の雫はその魔力を霧散させることもできる」

 

ミナが聞きた気な岬に向けて、そう解説をしながら棺が溶けていくのを確認する。

 

「ただ、魔力を供給するには生きた存在が必要よ。精霊でなくね」

 

その供給するものが何かと言えば、それは唯一つしか存在しないだろう、とミナは思っていた。

 

そしてそれは―――

 

棺が溶け切り、ぬえ子の父が泥に落下する前にブルーシートの上に降ろされる。

 

溶けた棺の下の泥から出てきたのは……

 

「なんですこれ。葉っぱ?実?」

 

つんつんと杖で泥の中から出てきた大きな緑の塊をつつく岬を、ミナは「ちょっと避けてて」と言って肩を掴んで引き戻した。

 

そして、手に持った黒曜石のナイフを使ってその実とも葉で包まれた何かとも言えない物体を切り裂く。

 

中から出てきたのは……

 

「ぐ、ぐぇぇぇ……」

 

ひどく顔色を悪くしながら意識を失い、それでもうめき声を上げる戦闘機女―――スーパー・マジカル・ガール・ネットワークのチカであった。

 

「まあそうだろうとは思ってたわ。ここまで全く姿を見なかったからね……」

 

その衣服の殆どが溶け、しかし葉か実かわからないそれが硬化したと思われる緑に胸や局部は覆われていて、辛うじてR-18には至らない格好である。

 

それを見て夕は「もしかしていただかれた後のなのでは……?」と無表情でそんなことを言い出し、「やめなさい、夕」と廻に窘められていた。

 

「この後どうするんだ?定番だと、空間が崩壊するとかだけどよ」

 

「あー……主のいなくなった妖精郷は、精霊と変異精霊、そして妖精たちの楽園だ。一度作られたそれは意図的に破壊しなければ数百年は維持されるし、ハイエルフ以外が入ることも―――妖精の雫をもってしてももうできなくなる」

 

完全な幽世へ変貌し、まさしく幻想の存在になるのだ、とミナは謳うように答えた。

 

そうして空悟はぬえ子の父親を背負うと、「じゃあ急いで脱出しなくても大丈夫か……」と副市長の代わりに下ろしたリュックサックを廻に渡す。

 

「よろしく頼むぜ、廻さん」

 

「うむ、心得た。代金は君のタバコを後で一箱もらうことで替えよう」

 

二人はそう軽口を叩き、もと来た道を戻っていく。

 

ミナもまた立ち上がって、その後ろを。

 

「ちょ、ちょっとこの人どうするんです?危険人物ですよ?」

 

岬が慌てて聞くと、「精霊や妖精をこの子の実力では殺せないだろうし、多分ドライアードに絡め取られて森の養分になると思うけど……寝覚め悪いから連れてく……?」と慎重に言葉を選んでミナが答えた。

 

「……そ、そう言われると悩むのですよ。だって問答無用でバルカンぶちかましてきたですし……」

 

岬が腕を組んで悩み始めると、ミナは「正直、私はここにおいていくべきだと思うわ。マジカルバルカン砲を人間に向けてぶっぱしかねないし」とにべもなく言った。

 

「そうですねぇ……僕も正直、そう思うので外に出すなら無力化の措置を取りたいです」

 

ルルもそう言って杖を取り出した。

 

「な。何をするつもりです……?」

 

「うーん、先日テレビで放映していたハ○ー○ッターとかいう映画で、服従の呪文がありましたが似たようなものです。僕の魅了の魔眼をもっともっと強力にした暗黒魔法ですね」

 

「術を破られたときがめんどくさいから却下。もうここにおいていかない?生き残れるときは生き残れるわよ」

 

ミナがそうして唇をへの字に曲げたのを見て、岬はチカの胸に手をかざす。

 

そうするとそこから出てきた虹の欠片が、岬の額に吸い込まれていった。

 

「下手に殺すと、連中が本気になるかも知れないですよ?あのSMN……」

 

「多分、私なら構成員はほとんど倒せるだろうけど、白き空を改変する能力を持っているってのが厄介ね……わかった。とりあえずこの状態で連れて行く。ルルは魅了の魔眼でメロメロにだけしておきなさい」

 

匙を投げるかのように天に向けて手のひらを開いたミナは、その後すぐに盛大なため息をついた。

 

そうして、チカの脚を掴むとそのままズルズルと引っ張っていく。

 

「一応、我々の方でも微小機械型の発振器を注入しておこう。赤血球に擬態する機能を持つため除去はまず不可能だ」

 

夕がミナにそう言って「どんだけ技術を進歩させてんのかしら、あの博士」と苦い顔をする。

 

―――それで今回の事件の大体はおしまいであった。

 

 

 

ぬえ子がふと気づくと、目の前に父がいることがわかった。

 

自分は何か夢を、安らかな夢を見ていたはずなのに、どうしてこんなところにいるんだろう、と森のベッドの上で気づいて―――ああ、これは夢の続きだと嘆息した。

 

「……お父さん?」

 

父は誰かに背負われているようだった。

 

しかし、その背負っているものははっきりとはわからない。

 

ただ、自分がまだ安らぎに包まれていることを感じて静かに微笑んだ。

 

微笑んで、そして―――また目を閉じる。

 

柔らかい褥に体を預けて、「おやすみ、お父さん」と呟いて倒れ伏す。

 

その姿を見て、ミナは「彼女にはオブリビエイトを使う必要はなさそうね」と微笑んだ。

 

後は全部夢だと思わせるだけだ。

 

その程度なら簡単に済むだろう。

 

「説明は任せるけど、良いかしら……ルル」

 

ミナにそう言われると「多少無理のある説明でも、僕が言えば聞くでしょう。是非もありませんね」と笑った。

 

「み、岬ちゃん……ごめん、なんか急にヤバイ感じになっちゃって」

 

一足先に起きていた恋は、岬にそう言って謝っていた。

 

「ミナちゃんのおばあさんが全部悪かったんですし、いいですよ。ただ―――少し気になることがあるのです」

 

岬は唇に指を当てて目を伏せる。

 

「それは……君や空悟くんにあのカレーナとかいう女性の能力が効いていなかったことかね?」

 

廻にそう聞かれると、岬は黙って首肯した。

 

「……恋ちゃんは違っていたけども、多分、空悟が勇者の兜っぽいそれ……竜の兜をあっさり使えたこと、そして二人共がうちのクソババァの術に私以上に抵抗していたことを考慮すると、やっぱり一定の数の地球人に何か特別な要素があるんじゃないかって、私は思うんだけど……」

 

それが何かを今すぐに答えることは出来ない。

 

だが、調べることは出来るだろう。

 

錬金工房の中枢である錬金窯が出来上がったのだから。

 

錬金工房を拡大し、薺川博士の科学力との連携で出来るだけ早くそれを突き止めたかった。

 

「ミナさんの予想に根拠を与えるためにも、皆さん協力をお願いしますね」

 

ルルがニッコリと不死者にあるまじきひまわりのような笑みを浮かべる。

 

それにミナの親友は「仕方ないな。何をすればいい?」と微笑んで答えるのであった。

 

 

 

そして、ぬえ子は恋や岬、そしてルルと共に相羽家へと運ばれていった。

 

カバーストーリーとしての「急な貧血で寝込んでいる」というものを完結させるためだ。

 

寝言で何度もルルや父母、姉のことを呼んでいたが、それは問題ないだろう。

 

相羽家に戻してしまえば、後は勝手に起きるはずである。

 

父親との再会はまた現実で、それが行われるべき場所で行われるのが妥当だろう、とミナは思った。

 

「さて、道案内はここまででいいかな、黄昏の傭兵団の皆々」

 

ルルたちがガーゴイルに乗って飛び立ったことを確認して、妖精郷へ繋がる出入り口から顔を出したのは、イケメンの変異精霊であった。

 

「ええ、ありがとう」

 

「感謝に堪えん」

 

ミナと廻が短くそう謝辞を述べて頭を下げた。

 

「気にするな。彼女が怒っている理由はついぞ私には理解できなかったが、それでも私が傷つけてしまったからな。殴られながら道案内するくらいは問題ない」

 

ニコリといい顔で笑う男に、もう一度廻は頭を下げた。

 

「だから、そう気にするな」

 

どう見ても90年代に日本一元気な少年誌で連載されていた南国で少年な漫画の登場人物にしか見えないその佇まいを見て、ミナはプッと吹き出してしまう。

 

「何故笑う……」

 

「普通はそんな下半身の半裸男を見たら笑うわよ」

 

ひらひらと手のひらを泳がせて、ミナはまた笑って「それじゃあそのうちまた様子を見に来るから」と続けた。

 

「うむ。我々もフェアリーたちも歓迎しよう。さらばだ」

 

「まーたねー!」

 

ハニトーを貪っていたフェアリーも現れ、二人は別れの挨拶を述べて出入り口から去っていく。

 

「それじゃあまたね」

 

「さらば」

 

ミナと廻がそう言うと妖精郷への入り口は閉じ―――辺りには静寂が戻った。

 

「さて、どうするんだ金髪女。この副市長を」

 

「そうねぇ……」

 

空悟が敷いた布団に寝かされている副市長を見て、ミナは嘆息した。

 

「ともあれもう起こして事情聴取するしかねえんじゃねえか?」

 

空悟が頭をかきながらそう言うと、ミナも「それしかねえよなあ……」と肩を落とした。

 

「幸い君の祖母によって幻覚を見せられていたであろうことは明白だ。ここで倒れていたということにすればいいだろう」

 

廻が武装を解きながら、そうしてぬえ子の父のそばに来る。

 

「そうですね……ルルたちが戻ってきたらそうしますか」

 

勇者はそれしかないか、と思いながらまだ装備したままの空悟の竜の兜と今津鏡を受け取ってバッグにしまう。

 

そして満天の星空を見上げて「まあ、どうとでもしてみせるさ」とエルフの言葉で短く呟いたのだった。

 

 

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