異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第134話「いいのですよー別に謝らなくても!あたしに勝てないそちらが悪いのです!」

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その翌日―――今日は思い出鏡が、崎見老人がぎっくり腰をしてしまったことでお休みの日であった。

 

一応回復呪文は掛けてきたミナであったが、崎見老人はダークエルフの血を引くとは言え80近い老人である。

 

大事を取って今日は休みになったのである。

 

そんな本日は土曜日―――ぬえ子の父の事件から1週間近くが経過していた。

 

「いやあ、本当にあっという間に解決してくれるなんて本当に助かったよ!」

 

ぬえ子が土手の上で伸びをしながら、ミナとルルにお礼を言っていた。

 

「まさか月曜の夜にはもう帰ってきて謝るなんてさ、想わなかった。なんか事件に巻き込まれてたみたいだけど……」

 

ぬえ子は少しだけ表情を曇らせて、すぐに眼下で野球をしている少年少女たちを見つめた。

 

「父さんは守秘義務があるから、って教えてくれなかったけどさ。おかげで高校のうちはこの街にいれることになったし、大学だって隣県ならOKって話だし、まあ解決かな……ありがとう!」

 

そうしてルルの手を握ろうとして……やめた。

 

「ごめんなさい。皮膚の病気なんだよね、ルルさん。もう無意味に触ろうとしないから……」

 

少し寂しそうにぬえ子はそう言って、再び眼下を見つめた。

 

「いえいえ、お気になさらず。事情を説明しなかった僕も悪い」

 

新司が語ったカバーストーリーをぬえ子は信じているようで、ルルは安心する。

 

そして、ミナとルルもぬえ子が見つめている眼下の草野球の見物を始めた。

 

草野球の主役は―――どうも岬と恋のようだ。

 

結論から言えば―――である。

 

その光景が示しているのは、岬がクラスで孤立するようなことはなかった、ということであった。

 

何くれとなく恋は岬のことを気に掛けてくれたし、コンビニ店長として培ってきた接客の技術は女子たちから反感を買うことを防いでいたし、男子たちについては……

 

かきぃん、と岬のバットが白球をぶっ叩き、白球はグラウンドの端を超えて思いっきりかっ飛んでいった。

 

文句なしの大ホームランである。

 

身長が170㎝近くある、クラスで一番どころか学年で一番のフィジカルを持つ男子が呆然とボールが飛んでいくのを見上げていた。

 

「やっべーぞ!あの女、ヨシヤくんの球ホームランにしやがった!」

 

「ヨシヤくんめっちゃ凹んでるんだけど」

 

「チビなのに中身ゴリラじゃん……」

 

そう、男子たちについてはその圧倒的なフィジカルと―――

 

「ちょっと男子ー岬にゴリラとかひどいじゃない!」

 

「そうだ、そうだ、謝れー!」

 

「第一、駆けっこで負けたからって無理やり阿南さんを野球に誘ったのはそっちなのになんで凹んでるの……!」

 

女子たちが岬に味方をすることで、彼女に下手なちょっかいを掛けるということが出来ない状態であった。

 

「いいのですよー別に謝らなくても!あたしに勝てないそちらが悪いのです!」

 

にべもなく言い放つ岬に、ヨシヤと呼ばれたでかい少年は「くそー!まだ負けたわけじゃねー!次行くぞ、次ぃ!!」

 

そして次の打席に立ったのは―――

 

ニヤニヤと笑みを浮かべている恋である。

 

「きゃー、ヨシヤくんかっこいいー!」

 

バッターボックスでそう煽る恋に、「くそー!猫かぶりめ!俺のフォークボールを喰らえ!!」と叫んで思いっきり振りかぶった。

 

そうして放たれたフォークボールは、小学生の放つ球にしては急角度で曲がり―――しかし。

 

またカキィンとグラウンドの向こうへと吹き飛んでいった。

 

「恋ちゃんすっごーい!」

 

「でもテレビに出てたときは空振りしてたよね、なんで?」

 

取り巻きの黄色い声が恋を取り囲んでいる。

 

恋もまたすでに取り巻きと言える子たちを手に入れ、孤立などはありえない状態であった。

 

そう、男でも女でもこの時期の子供はフィジカルが強い子が正義なのである。

 

無論目立ちすぎれば叩かれるのは同じであるけれども、恋はそこらへんの機微もわかっているようで、取り巻きの少女たちを早々に作ることでそう言ったことを回避していたのであった。

 

「そりゃあねーテレビだから、ちゃんとここはこうやる、って決められてるところがあるの。ヤラセっていうけど……それはそれで面白くない展開になったら駄目でしょ?」

 

恋はそう言ってマウンドを走り、岬に続いて2度めのホームランを達成して、取り巻きへと笑顔を返した。

 

「まだやるですかー?そろそろお昼なんでーあたしたち帰りたいのですけどー!」

 

岬がマウンドでうなだれるヨシヤにそう叫ぶと、ヨシヤは「ちくしょー!次こそは絶対勝ってやるからなあ!」と大音声を上げて踵を返すのであった。

 

「待ってくれヨシヤくん!」「あーもう!覚えてろよ女子共!」などとヨシヤの友人たちがなにか言ってるが岬は「若いのです……」と小さくつぶやいて友達を振り返った。

 

「うーん、ヨシヤくんてば見事な負け惜しみなのです」

 

腕を組んで皆のもとへと戻ると、少女たちは「大丈夫?」と岬に聞いてきた。

 

「もちろんなのです。さぁ、じゃああたしの家であたしが作ったお菓子をごちそうするのですよ~」

 

岬はにぱーっと笑って手を広げた。

 

時間は11時ほど。

 

もうすぐ御飯の時間だ。

 

「その前にお昼ごはんですけどね!みんな、お家には言ってありますですよね?」

 

「うん!」「いこう!」

 

取り巻きたちが全員頷いたのを見て、岬は「じゃあ行くですよ!」と言って自転車に飛び乗った。

 

「岬ちゃんも恋ちゃんもどういう鍛え方してんの……?ヨシヤくんが手も足も出ないなんて……」

 

自転車の鍵を外してサドルに乗った気の弱そうな子が恋に聞くと「うーん……ちゃんと運動して、ちゃんとご飯食べて、ちゃんと寝る……だと思うよ、私」と微笑んだ。

 

「そっかー……うーん……」

 

そうして自転車の上で腕を組んで首を傾げた少女に、恋は「なんか悩みあるの、かけるちゃん」と聞いてみる。

 

すると隣の利発そうな子が「かけるちゃん、家族の人がみんな陸上関係のお仕事してるの。でも、かけるちゃんそんなに……」と彼女の代わりに恋に言って、心配そうにかけるの顔を覗き込んだ。

 

「いいの……多分、あんまり才能ないんだよ、ボク……」

 

かけるはうなだれるが……それにニヤリとしたのは、土手下のグラウンドを出て、皆が来てないことに気づいてすぐに戻ってきた岬であった。

 

「そーんなことはないのですよ!ここはあたしと恋ちゃんに任せるのです!」

 

そんなことを岬は突然に言い出して、流石に恋も「そんな岬ちゃん、無責任な……」と眉をひそめた。

 

眉をひそめて、岬の瞳に真剣なものが含まれていたことに気づいて唇を耳に寄せた。

 

「ちょっとまさか……」「そのまさか、と思いたくはないのですが」

 

と他の三人に聞こえないようにひそひそ話をする。

 

と、そんな話をしているとミナが土手を下ってくるのが岬たちにもわかった。

 

「あ、ミナちゃん」

 

「よっ。どうしたのよ、なんか話してたけど」

 

だいぶ遠いところで普通は聞こえないと思うんですけど、と岬は言いたくなったがそこまでで口をつぐんだ。

 

岬にも風の精霊が感じられたからだ。

 

音を別の場所から飛ばしたり聞いたりすることが出来るウィンドボイスの術である。

 

「この人、誰?」

 

もうひとりの活発そうな赤毛の少女が誰何すると、岬は予め用意していたカバーストーリーを語り始めた。

 

「あたしが住んでるお家の従姉のお姉さんなのです。水門ミナちゃんですよ」

 

「水門ミナです。みんな、よろしくね」

 

ミナがそうしてニコリと笑うと、3人共がほぅっと息を呑んだ。

 

「き、きれいな方ですね……」

 

メガネを掛けた利発そうな、先程かけるのことを心配した少女がそう聞いてきた。

 

その様子にミナは内心で(なんか半世紀以上ぶりにこんな反応見た)と嘆息する。

 

―――そう、元の世界の、特に主に居住しているラゴンエスで有名になりすぎた彼女は初対面の人間でも「ああ、あの!」みたいな既知の有名人的な扱いをされることが多く、その容姿を褒められたり羨ましがられたりするのは本当に久しぶりのことであった。

 

「ありがとう。それじゃあみんな、自己紹介をしてくれるかなーッ!」

 

「「「はーい!」」」

 

元気な返事をした小学生女児たちを見て、ミナはひとつ肯くと恋を見る。

 

岬も恋もなにかあることに気づいているようで、それはミナの目―――否、感覚にはっきりと分かった。

 

その感覚がなにか。

 

それは―――

 

「水木ななかです!惟神小学校6年2組!クラスで動物係してます!」

 

まずは赤毛の少女が手を上げてそう自己紹介をした。

 

「佐々木とおるです。同じクラスで委員長してます。よろしくおねがいします」

 

眼鏡の利発そうな子がそう頭を下げる。

 

最後は短髪のしかし表情を曇らせている少女だ。

 

「―――影山かける。ななかちゃんと一緒に動物係をしてます……」

 

それぞれにちゃんと敬語を使おうと努力しており、ミナはうんうんと満足そうに頷いた。

 

「うん、みんなよろしく!」

 

ミナが元気に声を掛けて、そしてかけるの肩に手を置く。

 

そして、ウィンドボイスによって声が聞こえないように偽装して―――術を唱えた。

 

(世界を調律する我らが祭神よ。肉の堕落を遠ざけ、邪悪を退ける力を与え給え……ホーリーブレス)

 

ミナがそう聞こえぬ声で言うと、0.1秒にも満たない一瞬、かけるの肩が輝いて、そして消えた。

 

それは聖なる力をアイテムに付与する魔法であり、それが今はかけるの着ている衣服に掛けられたのだ。

 

(……よし。邪な気配が消えた。でも、これはきっと……)

 

ミナが近づいてきたルルに首肯すると、またルルも首肯を返してミナが感じたものが何かを肯定する。

 

即ち―――

 

(体の中の自然の精霊力が狂って病気になりやすい……それも怪我をしやすくなる風の精霊力の狂いだ、これは……)

 

そう心の中だけでつぶやいて、「よし!今日はこれからうちでお昼ごはんを食べに来る子達ね。今日はよろしく!それじゃあ私とルルは先に行くから、岬と恋ちゃんはあとよろしくね!」と二人の方を叩いてミナは踵を返した。

 

「どうしたの、ミナさん。急に走り出して子供たちに挨拶なんて」

 

ぬえ子がそう聞いてきたが、ミナは「ううん、これから家に来る子達に挨拶をしておこうと思ってね」とだけ微笑んで誤魔化す。

 

「あーなるほどね。それじゃあ私も漁大くらげ屋に乾物持ってかなきゃならないからこれで」

 

ぬえ子はそう言って、場を辞す。

 

その様子にルルはひらひらと手を振って見送り、そしてミナを向き直って盛大に溜息をつくのであった。

 

「―――不運の反動はもうすぎたはずでは?」

 

「知らん知らん……思い出したくもないわ……」

 

ミナはそう言って、土手の上にある駐車場へと向かっていく。

 

ジープグラディエーターの初代―――と言っても、薺川によってわずか半日で改修が施され、4人乗りになっているそれへと。

 

「とりあえず新メニュー候補をあの子たちに食べてもらって……それに風の精霊力を封じる仕掛けを入れて……あーやるべきことが増えて嫌になるぅ!」

 

ミナはぐしぐしと髪を掻いてズカズカと車へ向かっていく。

 

それはいつものミナであり、ルルは少しだけ安心してその後ろをついていくのであった。

 

 

 

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