異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第136話「あっまずい!早く食べないとお昼休みが終わっちゃう!」

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一方その頃、スーパー・マジカルガール・ネットワークの本拠地、森の中の瀟洒な喫茶店では―――

 

「チカ、お前は一体何をしに行ったのかしら……」

 

地下のアジト部分でイェカがチカを詰問していた。

 

他の魔法少女たちは、誰もいない……逃げ場のない詰問会である。

 

「い、いえ……敵のその黒い……」

 

「白も黒もアレらには迂闊に手を出すな、と言っておいたはず。警察の捜査資料から得られた情報で、連中に近いと思われる黒と顔の似た少女たちも二人いるがそちらも許可がない限り手出し無用と言い渡しておいたはずだが?」

 

白い目を向けられ怯えるチカに、イェカはため息をつく。

 

「しかもバケモノの片割れに魅了の術をしこたまかけられ、更には血中にナノマシンめいた何かまで仕込まれてくるとはな。チカ……お前はしばらくこの下で反省なさい」

 

どうやらルルの魅了の魔眼も薺川博士のナノマシン探知機も排除したと思しき言葉を吐いて、イェカはパチリと指を鳴らした。

 

「ご、ご、ごめ―――」

 

謝罪の言葉は床下からはいでてきた透明の触手に絡み取られてついぞ出てくることはなく。

 

チカが消えた密室で、銀髪の魔女は一言「……増やす必要があるか」と呟いた。

 

「増やす、ですか」

 

音もなく扉を開けたマコがそう言ってイェカの前にひざまずく。

 

「そのとおりだ。現状、戦力としては十分だが……不幸な少女の気配を私は今感じた」

 

唇をへの字に曲げて、女は苦々しく「また大人の勝手な都合で死ぬ少女が出る……悲しいことだとは思わないか?」と今度は微笑んだ。

 

すくい上げられるものはそうなったものの何千分の一だろうか。

 

女はそんなことは関係なく、目に入ったものだからどうにかしようという気持ちだけを見せている。

 

―――果たして、それは善か悪か。

 

いくら不幸だからとて、己の手足として拾い上げる行為が真に正しいものだろうか。

 

それは何人にもわかることのない命題であった……

 

 

 

そして翌日、月曜日。

 

岬は恋、そしてクラスメートの3人とともにドッジボールをしていた。

 

時間は四時限目の体育の授業である。

 

相手は同じクラスの女子で―――どうやらミナがシチューに混ぜた薬がうまく効いたのか、かけるは明らかに以前よりも良い動きでドッジボールを楽しんでいた。

 

先週までのどこか精彩を欠いた動きではない、本来持っていたであろう俊足を生かしてボールを避けながら戦うスタイル。

 

その様子に岬は顔をほころばせていた。

 

(一日でこうも違うとは思わなかったのです)

 

神聖魔法による衣服への破邪の賦与と正霊薬による精霊力の改善によってここまで違うなら、もしかするとアナン・レインボー・フラワーを当てれば問題は解決するのではないか、と岬は少し思って、その考えを打ち消す。

 

そうしてぼーっといる隙に。

 

「おっふ!?」

 

ドゴム、と音出そうな勢いで岬の腹に思いっきり相手チームの外野が放ったボールが突き刺さる。

 

「岬ちゃん、アウトー!」

 

「くっ……少しぼーっとしていたのです!取り返しますですよ!」

 

岬は外野に歩いていきながら、「気にしないでー!」と笑うかけるを見つめていた。

 

そうして岬がかけるを気にかけたせいでアウトになった後、獅子奮迅の活躍を見せたのは恋である。

 

あっという間に残っていた相手チームの女子を全員アウトにしてしまったのだ。

 

「よぉっし!岬ちゃんの仇はとったよ!」

 

少しだけ猫をかぶって、跳ねる恋にかけるが駆け寄っていく。

 

「すごいね恋ちゃん!すごいすごい!」

 

昨日とは全く違う様子に、恋も嬉しくなって「おうともー!」と叫んで彼女と喜びを分かち合った。

 

「かけるも恋もやるなー」

 

ななかが腕を組んでうんうんと首肯すると、とおるも「すごいね!やったね!」とかけるに微笑みかける。

 

「でも……先週までと雰囲気違いすぎないかしら」

 

一瞬でスンッと冷めてしまったとおるがメガネのツルを上げて怪訝にそう独り言ちると、恋は「そういうこともあるって!さ!次は男子の優勝チームと決戦だぁ!」と肩を叩く。

 

「そ、そうねっ!がんばらないと!」

 

とおるが腕をぐっと構えてガッツポーズを取ると、仲間の4人も皆ガッツポーズを取る。

 

「さぁ、次々行きますですよ!」

 

最初に外野送りになったくせにやたら元気な岬がそう言うと、恋よりも早くにかけるが「うん、行こう!」と笑ってついてくる。

 

―――昨夜、ポーションの瓶をたくさん机に広げながらミナが言った言葉。

 

彼女が。

 

影山かけるが。

 

遠からず衰弱を始め、やがて死ぬという未来予測など、何も真実ではないと示すかのように。

 

かけるは岬を追い越して走っていく。

 

岬はその眩しさに、目を細めて―――走り出すのだった。

 

 

 

机をくっつけて岬と恋は給食のあんまり美味しくないシチューを食パンで食べながら、かけるのことを話していた。

 

「どー思う、岬ちゃん」

 

「どう考えても、あたしたちでなんとかしないといけない話なのです」

 

食パンにつけるためのジャムは存在したが、前に同じものがついてきたときはやたら美味しくなくて辟易したので、二人は黙々とシチューにパンを浸しながら咀嚼していた。

 

「あたしが危惧していることは、わかりますですよね?」

 

「うん。ミナねーちゃんがなんか対策考える前に、邪神かSMNの連中が嗅ぎつけることだ」

 

チーズの入ったサラダにフォークを突き立て、美味しくなさそうに口に放り入れて恋は唇を歪めた。

 

二人は等しくため息をついて―――やがて机をこちらに向けて移動してくる三人娘の姿に気がついた。

 

「ななかちゃん、とおるちゃん。かけるちゃん」

 

岬がひとりひとりの名前を呼ぶと、「いつも二人だよね!一緒に食べよう!」とななかが元気に笑いかける。

 

その様子に「んーーー!なんかみんな机をくっつけてくれないから、なんとなくね!これからは一緒に食べよ!」と恋が明るい笑いを振りまいて机を岬の机ごと彼女らの近くへ持っていった。

 

「ちょっとちょっと、自分で運ぶのですよ」と岬が軽く抗議するが、梨の礫でそのまま三人娘の机と合体して一つの島となった。

 

転校生でありアイドルをしている恋は人気があったが、なんということはない―――やはり触れがたい雰囲気があるのだろう、と岬は思う。

 

恋もそれは感じていたようで、岬とたまに「みんな少しだけ別世界の人扱いしてくるよね」と笑っていたのであった。

 

「ねーねー、これちょっとまずくない?」

 

ななかが遠慮もせずに、シチューをスプーンで掬って苦笑する。

 

それにはとおるも肯んずるが、「月に給食費4000円だもの。きっと昨日のミナお姉さんのシチューをお店で食べたら、4000円じゃ済まないわ」と苦い顔をした。

 

「流石にそれは言いすぎだと思いますが……でも、ミナちゃんのシチューならどう考えても800円は取れるですよ」

 

岬は莞爾と微笑んでそう返した。

 

「だねぇ……ルー溶かすだけじゃあんな味にならないよね」

 

かけるがそう言うと、恋は「ミナねーちゃん、ほんと長旅してたらしいからさ。なんと外国ではシスターやってたらしいぜ」とケラケラ笑った。

 

「えー!ほんとに!?何歳なの?」

 

「なな……21歳だって聞いたですよ」

 

ななかの驚きに、岬は正確な年齢を言いそうになってなんとか言い直す。

 

自分の年齢もすでに本当は四十路であることに戦慄し、冷や汗をかきながらその言葉を飲み込んでミナの偽装年齢を口にした。

 

「すごいねー……21かぁ……」

 

瞬間、かけるがまるで手の届かない何かを求めるかのように遠い目で手を伸ばそうとして―――

 

キンコーン、と。

 

昼休みが半分終わったことを示すチャイムが鳴り響いた。

 

「あっまずい!早く食べないとお昼休みが終わっちゃう!」

 

とおるが口に手を当てて、慌ててシチューを口に入れて少し咳き込んだ。

 

「ほらほら、慌てないのですよ。お昼休みに遊べなくても、放課後は無限に広がっているのです」

 

パッと花開くような笑みを浮かべて岬はそう励ました。

 

―――社会人の休み時間など、ご飯を食べる・寝る・少しでも休むが主なもの。

 

相当に恵まれたものでも、運動不足解消のための軽運動をするのが関の山な人間がほとんどだろう。

 

特に岬はコンビニの店長であり、昼とてろくに休むことも出来なかった。

 

それに比べればなんと我々子供は恵まれているのだろうか、と岬は涙ぐみさえする。

 

「岬ちゃん、ちょっとそれおばさん臭い」

 

―――岬の本当の年齢をまだ知らない恋は、なんの衒いもなくそう言って岬の見えざる心臓に牙を突き立てるのであった。

 

「ごふっ!?」

 

突然咳き込んで机に突っ伏した岬に、ななかが「めんどーみがよくておばちゃんみたいなのだ」と追い打ちを掛けてくる。

 

―――実年齢40歳の偽ロリは心に傷を負い、そうして給食の片付けが始まるのであった。

 

 

 

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