異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第137話「……これは……不味いのです!精霊術が効かない!?」

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さて、その頃のミナといえば―――

 

「済まないね。まさか豚肉が切れかけるとは思わなかった」

 

店を出る際の崎見老人の言葉が思い出される。

 

午前中からもう数十個は頼まれている六脚豚のサンドイッチもどき―――ワイルドサンドイッチ冒険者風と名付けられたサンドイッチの材料が切れてしまいそうだったので、いつも食材を仕入れている食品問屋へとジープを走らせていた。

 

もちろん急なものだったので格好はウェイトレス服のままである。

 

「うーん、この格好で外に出ることになろうとは思わなかった」

 

それもこれも、何故か売れ行きが良すぎるサンドイッチのせいだが、売れているのであれば問題はないだろうとミナは車を飛ばしていた。

 

―――内装は元のジープ・グラディエイター初代とは似ても似つかないものになっている。

 

カーナビはついているし、CDラジカセもついているしUSBスロットも存在している―――

 

CDとUSBだけで良いものを、何故カセットテーププレーヤーまでついているのかはミナにはわからない。

 

カーチャン以外誰もタバコを吸わないこともあって、シガーライターのソケットにはスマホの充電ケーブルが刺さったままだ。

 

更には薺川が設置した緊急用のなにかもくっついているが、これ警察に捕まった時どうすりゃいいんだろ、とミナは少しだけ疑問に思う。

 

思うが、その疑問は打ち消して安全運転に努めていた。

 

3kmほども走ると、そこには「水木食材店」と書かれた看板が目に入る。

 

―――思いっきり業務用スーパーな出で立ちをしている店だ。

 

大きな看板、外にはプランターなどの園芸用品、或いは灯油の給油所、そして農業機械が少々置いてある。

 

どこらへんが食料品店なのかわからないが、中を見れば確かに食料は大量にあることが窺えた―――が。

 

ミナが目指すのは一般向けに販売しているそれらの陳列棚でも冷蔵庫でもなく、バックヤード入口近くの受付だ。

 

そこが業者専用の商品受け取り口なのは言うまでもない。

 

「どーもー『思い出鏡』ですーお電話したお肉と野菜受け取りに参りましたー」

 

受付のやる気なさそうな眼鏡のお姉さんにそう言うと、お姉さんは「あ、はい。ご準備出来てます」と眠そうな目をこちらに向けて微笑んだ。

 

「えーと、豚肉20kgですね。後、サンドイッチ用のお野菜も。カートで持っていきますか?」

 

ミナが代金を受付に置くと、バックヤードから品物をカートに載せたお姉さんが出てくる。

 

着ている服は丈夫そうなつなぎであった。

 

赤毛をポニーテールにまとめたお姉さんは、「はーしんど。フィギュアだけ作って生きていたい……」とつぶやきながらカートをミナに渡して肩を回す。

 

その呟きを聞かなかったことにして「あ、はい。そのままカートで持ってきます。積み込み後は外においておけばいいですか?」と質問する。

 

ネームプレートに「水木」と書かれているお姉さんは、「大丈夫ですよ。灯油の給油所のところに置き場がありますから」と答えてまた受付の中へと戻っていく。

 

その様子を横目に見て「うし」と一言言った彼女はカートを押して自分の車へと歩いていった。

 

時間は12時半。

 

昼のかきいれ時は後1時間は続くのだ。

 

そろそろ残っていた肉も切れる頃だろう。

 

急いで戻らなければ、と思いながら車へと急ぐ。

 

そしてクーラーボックスに詰めた肉と野菜を後部座席へブチ込むと、ミナはアクセルを踏んで発進した。

 

―――店に戻った後、最悪の事態が起きることなどまだ知らないままに。

 

 

 

―――そして某所。

 

「それで、本当にやるんですか?」

 

「やるとも。この件には例の―――謎の生物を倒す少女たちも関わっているだろう。その力を手に入れるためにもやる必要がある」

 

聞いたものは軍服を着た若い男、答えたのは―――以前に科戸研究所分所を狙った改の会の牛込である。

 

男は「しかし、ここで我々が世間に露見するわけにはいきませんよ」と不安げに牛込に軽い抗議の視線を向けた。

 

牛込はそんな視線などどこ吹く風で「無論、露見しないようにやるとも……そのためにこれだけの火器を用意した。動くのも鉄砲玉―――我らの生み出した培養兵のみである」と暗い笑みを浮かべて、若い男の肩を叩く。

 

「標的となる少女がこれら2名ですね……事前調査では特におかしいものを感じませんでしたが」

 

男が目を落としたのは、岬と恋の写真であった。

 

「例の異常熱源と同じ家に暮らしていると言うだけでしょう?それのどこが?」

 

男は何もわからない、と言った体で写真を牛込へ返し首を傾げた。

 

「十中八九、私が遭遇したドレスを着た少女だよ、この二人は。顔の一部の造形まで変わっているから、普通にはわからないだろうがね」

 

多少美少女化しているが、確かに見慣れないものにとっては同じ人物かどうかは判別がつきにくいだろう。

 

更には分所での戦闘は結局の所乱戦になったし、照明も暗かったため気づくものは少ないだろう。

 

「我々があの異常熱源体に対抗するには、不規則性流体、空間流体だけではなく魔法……と呼ぶべきあの未知の技術を解明しなければならない。そのためにもどちらかを拉致したいと思う」

 

―――SMNに狙われる岬、邪神の手のものに狙われている恋、そして両方を狙っている改の会。

 

この場に岬や恋がいたら、きっと「嫌なモテ方だ」と嘆息しただろう。

 

「それでこの火器ですか……うーん、中国、ロシア、アメリカ、イギリス、ドイツ……雑多ですね」

 

「いずれも人間なら即死するものだよ。これでこの少女たちのいる教室を攻撃、爆破する。『変身』される前に確保するんだ」

 

そして培養兵は拉致後の輸送を実施する2名を除き、適当なところで自壊させる。

 

それですべてがうまくいくはずであった。

 

「私としても不本意だよ、このような作戦はね。無辜の民を巻き込むのだから――― 十瑚議員の暗殺も計画中に人員、銃器ともに何者かに掌握されて失敗……実行犯たちと我々のつながりはなんとか露見せずに済んだが……」

 

牛込はそう、歌自慢大会の時の銃器の出処は自分たちであることを述べて嘆息する。

 

「……ですね。しかも一般人や外国人までを『使う』ように仕向けていたわけで。私達の内部の派閥によるとは思えませんし」

 

若い男が資料をばさりと机の上に落として、怪訝な顔つきになった。

 

「ともかく、何人死んでも構わん。この二人のどちらかを確保したまえ」

 

「不承不承ながら……了解いたしました」

 

若い男は敬礼して、すぐに踵を返して部屋を出ていく。

 

その様子を見送って、牛込はまた一つ嘆息した。

 

「ふぅー……まったく。魔法などとくだらないことだ。現象の発生を解明し、科学に落とし込めばいいだけのこと。そのためにも……データが必要だ。拉致できれば良し。出来なくとも、データは手に入る―――そして、そのデータはこれの完成に使えるだろう……」

 

そして、目の前の―――巨大なものに目を向ける。

 

それは巨人……前回の脚のついた90式戦車とは似ても似つかない巨人であった。

 

「空間流体の確保も十分できた……これならば、未完成の秋遂を倒すことも可能だろう……ふ、ふふふふふ……ハッハハハハハ!」

 

牛込が狂える笑いを上げてキーボードを打つ。

 

マニピュレータがそこかしこの壁から現れ、部品の組み立て、装着を実施していくのを満足気に見遣り、牛込は再び作業に没頭していった。

 

特殊両脚戦車壱号と書かれたそのロボットは、静かに完成の時を待っていたのである……

 

 

 

そうして昼のかきいれ時は終了し、ミナたちは一時休憩をしていた。

 

「人、多かったな……」

 

「ええ。多かったですね。今日は月曜日だと言うのに、暇な人々もいたものです」

 

お昼の賄い飯をルルから受け取り、ミナは嘆息する。

 

「ほとんど私ら目当てのヲタクじゃん……いいけどさ。別に常連さんが減ってるわけでもないし」

 

崎見老人の作ったチャーハンを机に置いて、「いただきます」と調和神の聖印を切ったミナはスプーンで米を掬う。

 

半分ほど食べたときのことだった。

 

ミナのスマホが突然鳴り始める―――仕事中はマナーモード。

 

鳴り始めたということは、それは仲間たち、或いは茜、薺川からの緊急コールである。

 

「―――岬!?」

 

すぐに電話に出て、彼女の名を叫ぶと―――

 

「大変なのです!どこの誰だかは知らないですが、テロなのです!!」

 

岬の叫びが虚空を裂く。

 

ミナは「わかった、すぐ行く」と肯くと、ルルに目配せをする。

 

ルルもまた首肯し、二人のただならぬ様子に気づいた崎見老人も同じく「行き給え。午後の営業は臨時休業だ」と微笑んだ。

 

「すいません!すぐに行くわよ!」「はい!」

 

そうしてミナたちは駆け出した。

 

―――もちろん、ウェイトレス服のままで。

 

 

 

時間はわずかに遡る。

 

「―――廻さんが気を利かせてくれなかったら、おしまいだったのです」

 

岬は廻が渡してきていた超小型電波探信儀―――つまりレーダーの受信機を握りしめ、杖をぐっと握った。

 

即ち、突然にロケット弾がレーダーの警告いわく3発飛んできて、それをとっさに岬が変身して魔法を使ったのだ。

 

ミナのプロテクションをモチーフに、魔力で壁を作る新しい魔法少女の魔法を。

 

「……な、なんとか覚えたてのプロテクションもどきがうまく行ってよかったのです―――みんなは!?」

 

「だめだ!みんな怪我して気絶してる!死んじゃいないけども!」

 

同じくすでに魔法少女の姿になっている恋がそう叫ぶ。

 

「あたしは皆に回復呪文を掛けて回るのです!恋ちゃんは幻覚の魔法で、誰もこの場に近寄らせないでほしいですよ!」

 

「わかった!」

 

岬の指示で恋は廊下の外に出て魔法を使い、その間に彼女はヒーリングの術を皆にかけて回る。

 

―――どうやら本当に全員無事のようだ。

 

次の時間が移動教室だったため、半ば以上の生徒は移動していたのが幸いで、怪我をして気絶しているのも5名ほど。

 

―――問題はその中に、ななか、とおる、かけるが含まれていたことだろう。

 

かける以外の全員にヒーリングをかけ終わり、そして最後にかけるへと精霊術をかけようとして……気付いた。

 

「……これは……不味いのです!精霊術が効かない!?」

 

かけるは脚から血を流して倒れ、苦しそうにうめいている。

 

しかし、ヒーリングを掛けてもそれが治らない。

 

それどころか、生命力が抜けていっていることを精霊使いでもある岬には感じられた。

 

「これはいけないのです!ミナちゃんにすぐ連絡しなきゃ!」

 

ポーチからまるで変身ヒロインの変身アイテムのような装飾になったスマートフォンを取り出し、岬は電話を掛ける。

 

―――そして時間は今に戻るのであった。

 

「無事!?」

 

「こっちは大丈夫なのです!でもかけるちゃんが!」

 

爆発で完全に破壊された窓から、インビジブルの魔法を解いて侵入してきたのはミナだった。

 

彼女に無事を報告しつつ、かけるの問題を手短に「ヒーリングが効かないのです!」と叫んで知らせる。

 

「どうなってるんだ!入れない」「瓦礫が邪魔して開かないんだ!」

 

大人の男の叫びが外から聞こえてきた。

 

すでに周囲は大騒ぎになっており、幻覚の魔法で教室に入れないためだろう、てんやわんやのようだ。

 

「どれ見せて!―――やっぱり。精霊力の狂いが、身体の回復機能を邪魔してる」

 

ミナは一瞬かけるを見ると、マメラ教授のルーペを取り出して病状を確認した。

 

「……自然治癒力まで阻害されてる……やはり。ルーペも教えてくれているし確定ね。間違いなく風化病―――風の精霊力が決定的に反転しているがゆえに発症する業病よ」

 

「どうすればいいですか!?」

 

「うん。生命力が風化していく病気だから、土の精霊力が反転して体が腐っていく地熱病よりは対処が簡単よ。つまり―――生命力を足してあげればいいの」

 

ミナはそう言うと、調和の神に祈りを捧げ始めた。

 

「世界を調律する我らが祭神よ……その大いなる流転より調和の力を命と変え、癒やし直し治し戻す力を死すべき衆生へと賜らん。グレートヒール!」

 

それは祈る神より生命力を賜り、傷を治療し生命力を賦与する回復魔法の中でも上から2番めに強力なものだ。

 

光がかけるに吸い込まれ、そして消えていく。

 

傷はすっかりと治り、彼女は安らかな寝息を立てている。

 

今は問題なさそうだった。

 

「これでよし……ルル!」

 

「はい、直しますね。世界を支配する偉大なるロジックよ。我が触れたるものに元の形を思い出させよ。リペアー」

 

遅れて教室に侵入したルルは、修復の魔法を壁や窓にかけて回る。

 

「まだ!?そろそろこっち限界!」

 

恋がそう言って鎌に込める力を増やす。

 

「後もう少しです。僕らが出ていったら、あなた方も気絶しているふりをしてくださいね」

 

ルルは術を拡大しつつ、周囲の破壊をすべてなかったことにしていき……

 

やがて横たわっている5人の小学生を除けば、全く攻撃されるまでと変わらない光景が戻ってきた。

 

しかし、教室の中はともかくベランダまではリペアーの対象外だ。

 

どうせ外の部分は撮影もされているだろうから、という判断である。

 

「……まさか、学校にまで攻撃を仕掛けてくるとは。ここにもメイズ・ウッドをかけてやらないと駄目ね……」

 

ミナは嘆息して「岬、恋ちゃん。もういいわよ。変身を解いて、気絶したふりして」と二人に笑いかけた。

 

「了解なのです」「わ、わかった」

 

二人がそう言うと同時に、ミナは呪文を唱える。

 

「世界を支配する偉大なるロジックよ。光から我らを遠ざけよ、光よ今は我らを見守るな。インビジブル」

 

「それではまた後ほど、水門家で」

 

ミナの魔法が完成し二人の姿が消えると、ルルの声が聞こえる。

 

すぐに気配が消えて……勇者と死の王がこの場を離脱したことが二人の魔法少女にもわかった。

 

それと同時に二人は変身を解いて、床に伏せた。

 

そして目を瞑って気絶したふりをする―――間を置かずに教室の扉が開き、「大丈夫か!?」と男の先生の絶叫が教室に響き渡る。

 

―――全く何も起きていないようにしか見えない教室内で気絶する7人の少年少女を見て、目を丸くするのはその数秒後のことであった。

 

 

 

結果として、岬たちを含む7人は病院へと運ばれた。

 

集団幻覚のようにも思える、撮影された巨大な爆発音、爆炎、そして破壊痕。

 

しかし、それを嘲笑うかのように教室の中は何も起きていない。

 

ベランダの一部にだけ爆発の跡が残っているのみであった。

 

「どう思うよ、今野ォ」

 

おっとり刀でやってきた警察は現場の聞き取りをしていた。

 

岬の担任教師に話を聞き終えた空悟に話しかけたのは、いつもの目加田刑事である。

 

「またぞろ怪事件……でしょうね。実際に爆発の映像は生徒が何人か撮影していました」

 

「便利な時代になったもんだ。昔ならこんなもん集団幻覚でカタがつく話だったものな」

 

煙草をつけようとして、ここが小学校だということに気付いた目加田はたった今火をつけようとしたものとライターをまとめてポケットにねじ込む。

 

空悟はわずかに苦笑し頭を掻いて、次の聞き取り相手のところへと駆けていった。

 

(撮影されてるってことは、例の時代錯誤の連中だろうか。岬ちゃんたちは無事のようだし……調べても無駄だろうが、仕事は仕事だ)

 

次は教室に突入した男性の教師に聞き取りを始める。

 

「なるほど。すると教室にはほとんど爆発の影響はなかった、と」

 

「はい。あんな大きな音ですからね。昔、工事現場で発破を使ったことがありますが、あんな音が出るほどだったら絶対に中はとんでもないことになっているとばかり」

 

冷や汗を拭きながら男は目を伏せる。

 

その様子に(ルルくんが直したって連絡は来たから、証言と矛盾はないな。何かが飛んできたのを見たって体育中の生徒も言ってたし)と内心で苦々しい気分になる。

 

そう、リペアーの魔法は魔力を用いた破壊には無力であり、直すことは出来ない。

 

それが直せるというだけで、今「黄昏の傭兵団」が敵としている者たちであるとすればSMNと邪神の手勢の可能性はぐんと減る。

 

全く魔力を持たないであろう改の会の可能性が非常に高くなった、と空悟は嘆息した。

 

(これは……次の休みと言わず、すぐにでも十瑚元議員への聞き取りを実施するべきだな。三郎はもう動いているは思うが……)

 

聞き取りを行いながら、空悟はそんな考えに至る。

 

―――当のミナはそれどころではなかったのであるが。

 

 

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