異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第138話 「まーさかぁ。いくら何でもショッ○ー戦闘員なんかベタだし呆れるわよ」

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「やはりすぐに聞きに行かなかったのはまずかったのでは?」

 

「まあ、それはある。やっぱり思考が地球人時代より悠長になってるわ、私。地球の速度に慣れてない……」

 

ルルとミナはそんな言葉をかわしながら、てくてくと―――姿を消したまま混乱する「事故」現場を後にする。

 

空悟にも連絡は入れておいたが、おそらくまだ見ていないだろうと想いながら、細い道へと入っていった。

 

そこはかつて彼女が彼であった頃の中学時代、地権の問題で家も建物も建つことなく放置されていた林への入り口である。

 

ここを通ると、割と簡単に西ノ森へ行く近道になるので昔は重宝したものだが、いつしか有刺鉄線つきの「立入禁止」看板がついて侵入が難しくなり、その後は不良のたまり場になってしまっていた。

 

「懐かしいな……ま、誰にも見られずに逃げるなら、ここしかないから仕方ないか」

 

ミナはバッグから棍棒を一本取り出す。

 

本当にただの棍棒。

 

ただし、その素材は天護の森の枯れ木から切り出したものだ。

 

「おーい出てこーい。もう逃げられんぞー」

 

ミナは軽い口調でそう言って手をかざした。

 

その中指には古代語魔法の発動体である宝石の指輪がはめられていて、戦闘の準備は万端であることを示していた。

 

そのミナの言葉を聞いてか聞かずか、物陰から10人ほどの男たちが現れる。

 

全員、顔にはどこかの特撮番組に出てくる秘密組織の戦闘員めいて迷彩ペイントがなされていた。

 

よくよく見れば、それはこの場に現れた時点で自動的に彩色されているのか、一部の戦闘員は肌色から迷彩へと徐々に変化していくのが見て取れる。

 

「空悟さんが喜びそうですね、これ」

 

「まーさかぁ。いくら何でもショッ○ー戦闘員なんかベタだし呆れるわよ」

 

二人が軽口をたたくと、拳銃やナイフ、サブマシンガン、それに小学校を襲撃したときに使用したと思われるロケットランチャーを取り出してこちらへ向けてきた。

 

「……」

 

じりじりと近づき、こちらを包囲してくるそれらに対してミナは落ち着き払って「これ、人間かしら?」と疑問を述べた。

 

「意志の光がありませんし、何より……死を感じない。魂が宿るが故に内包する死を感じませんから、フレッシュゴーレムか何かかと」

 

ルルが杖を出して、男たちへ向けながらそう言うと、ナイフを持って男が飛び掛かってくる―――が。

 

ルルが杖を横凪に振ると、それは側頭部に吸い込まれてボコンと何かが凹む音を立てた。

 

当たり前のように戦闘員は横に吹き飛び、木に激突してそのまま動かなくなり―――やがてジュウジュウと肉の焦げる音を上げながら炭になっていった。

 

「……まさか本当に戦闘員を出してくるとは……それもどっちかというとゲ〇〇ョッカー戦闘員とかド○マファイターみたいな完全な使い捨てとは……」

 

ミナは拳銃を放とうとした男に飛び掛かり、棍棒でその頭蓋骨を破壊しながらそう嘆息する。

 

「……!」

 

「足止めのつもりかしら?まぁ、無駄というか……少なくとも出てきてくれたあなたたちを逃がす気はないわ」

 

ぶんぶんと棍棒を回し、ミナはニコリと笑ってそう述べた。

 

そうしてさらに3人ばかりが倒されたのち―――

 

「……!」

 

「ちぃッ!?」

 

無言でロケットランチャーを構えた男が、ミナを掴もうとした男を巻き込むかのようにその引き金を引いた。

 

瞬間、噴射炎と煙をまき散らしながら、ロケット弾がミナに突っ込んでいく。

 

しかし―――

 

バン!と何かとぶつかったような音がして、ミナたちにそれがたどり着くことはなく爆発を起こした。

 

「ふー、事前にプロテクション張っておいてよかったわ。で?まだやるかしら?」

 

ミナがそう言って、棍棒を戦闘員たちへ向けると。

 

「逃走に失敗。自壊処理」

 

突然直立不動となった男たちは、なぜか敬礼をするとそのまま倒した他の男たちと同じく焼けこげる臭いを発しながら炭になっていった。

 

「ふん。使い捨てのフレッシュゴーレムもどきだもの、そうするわよね」

 

自壊した戦闘員の炭に、ミナは浄化の魔法をかけつつまっすぐ前を見た。

 

「さて、連中め。どう出るものやら」

 

独り言ちると、一筋気持ちのいい風が吹いていく。

 

「わからん向こうの出方より、やれるべきことを先にやるしかないか……」

 

勇者は拳を握り締め、方針を心の内で決める。

 

後は仲間たちに伝えて、賛意を得たのちに行動するのみだった。

 

 

 

―――また、某所。

 

「ふむ。やはり失敗、か……まあ魔法とやらのデータはある程度採取できたのが幸いか。残念だが仕方あるまいね」

 

牛込は特に残念そうでもなくモニタに目を移す。

 

目の前のモニタには、望遠カメラで撮影された岬がプロテクションもどきを放つシーン、そしてミナがロケット弾をプロテクションにて防御した場面が映されていた。

 

「やはり空間流体を用いた技術なのだろうな。あの魔法という現象は……」

 

「いかがいたしましょうか」

 

「拉致には失敗したが、データは採取できた。以前の時は記録できなかったからね。これで対抗措置もとれるとは思うが……攪乱のため、もう一度二度培養兵を用いて惟神小学校周辺で騒ぎを起こしなさい」

 

そこで牛込は顎に手を当てて「そう、できるだけ子供だまし……もしもあのテレビアニメのキャラのような子供が現れたとすればヒーローショーにでも思えるような稚拙なものでいい。いや、稚拙なものがいい」と。

 

そうして含み笑いを漏らして、「それでも動かざるを得ないのか、そうではないかを見極めて、次の本格的な作戦の準備を整えよう」と手を叩いた。

 

「さぁ、忙しくなるぞ、君。魔法とやらのデータは手に入ったのだ。わずかでも対抗手段を講じることができるだけでもすごいことだぞぉ」

 

牛込は嬉しそうに手を叩く。

 

果たしてどうなるものか、と若い男はその様子に嘆息するのである……

 

 

 

水門家。

 

―――21時。

 

「みんな特に異常はなかったみたいね」と帰ってきた岬と恋にミナはオレンジジュースを出してあげていた。

 

居間には当然のごとく廻と夕、そして空悟もいる。

 

茜の姿はない。

 

隠す必要もなくなったからなのか、彼女は娘に「事後処理と隠蔽が必要だから」とだけ言い残して、夕飯を食べてすぐに飛び出していた。

 

「大変だったのです……みんな無傷だったから、爆発音でびっくりして気絶しただけってことになって入院とはならなかったのは幸いだったのですよ」

 

はぁ~とドでかいため息を吐いた岬は、オレンジジュースを受け取るとそれを二口ほど飲んで「でもみんな無事でよかったのです」と言って笑う。

 

恋もまた「だな……魔法少女のこともバレてなかったみたいだしさ」とスマホでニュースを見て安堵する。

 

彼女の公式SNSを見れば、彼女が通っている小学校がテロにあった、と大騒ぎであったし、プロデューサーも大慌てであったがそこは見て見ぬふりをした。

 

「テレビの取材とかも来てたけど、うちのプロデューサーがうまくかわしてくれたみたいで助かったよぅ」

 

胡坐をかいて少し眠そうな目で恋は微笑む。

 

それを見て「全くブン屋さんってのはデリカシーがなくて困る。アイドルが通う学校だからって、ボウフラみたいにどっからか湧いてきやがって」と空悟は不機嫌そうに口をへの字に曲げていた。

 

「全くだな。余計なことまで憶測で掲載し、情報を思想で歪め、時には戦争すら煽るのがマスコミュニケーションというものだ」

 

「SNSなるものが広まった今でも変わらんな。インターネット上の情報の錯乱ぶりを見ればよくわかる」

 

同じく廻と夕もまた、テレビ―――惟神テレビではなく、大手のネット局の報道番組―――を眺めながら気分を害している。

 

「とにかく悠長にやっている暇はないだろう。十瑚元議員に接触を図り、以て改の会の対策を立てるべきだ」

 

廻は岬が狙われたのが原因なのか、沸々と沸くような怒りを込めながらも静かにそう言ってミナを見た。

 

「私もそう思うわ。明日、私とルルで行って来ようと考えてる。惟神小学校にはメイズ・ウッドの術をかけてきたから、まずもう誰も岬や恋ちゃんに害意があるものは近づけないわ」

 

ミナがそう言って笑うと、岬は「害意、って命に関わるレベルですよね?そうじゃないとなんかいじめっ子とか出現したときに学校にどうやっても来れない子が出る気がするのですが」と少し心配そうな顔をする。

 

「そりゃそうよ。まあ、精霊さんを信じなさいって」

 

ミナはそう言うと岬を安心させるようにニッコリと笑う。

 

実際に、メイズウッドは調整の利く精霊術だ。

 

今はパーティーメンバーやその家族、友人、知人への殺意や強い敵意を持つものだけを識別するよう精霊にお願いしている状態である。

 

少なくとも小学生の可愛らしい殺意や敵意では反応しないだろう。

 

……もし二人をいじめようとしたものがいたとしたら、もしかすると二度と小学校にたどり着けない可能性は多少存在するが。

 

「わかったのです。それともう一つ問題が」

 

「あの風化病を患っている子ですね。同時に古い精霊の呪いを感じました。彼女本人……は可能性が低いですが、彼女本人かあるいは家族、先祖の誰かが精霊を怒らせたことは疑いないでしょう」

 

魔法のないこの世界でいったい何をすればそうなるのか、とルルは顎に手を当てて困った顔をする。

 

「判断材料が少なすぎて、彼女を助けてあげられる方策が見つかりませんね。とりあえずは対症療法薬となる正霊薬を定期的に飲ませるしかありません。それでも衰弱が始まるまでは間がない……おそらくは2年かそこらでしょうね」

 

ルルがそう言うと、恋と岬は「そんな……」と不安げにミナを見る。

 

「まーかせて!私だって風の上位精霊と契約してるのよ?そうそう大事になる前になんとかするわ」

 

ミナがサムズアップすると、岬と恋は少しだけ笑って、また不安を湛えた表情に変わった。

 

「どうしたの?」

 

「や、もしかしてさ。そのうち、街全部メイズ・ウッドかけないといけなくなるのかなって」

 

ミナの質問に、恋がそう答えてミナの瞳を見る。

 

同じく岬も「迷いの森になったこの街に人が住めるのか……とかいろいろ考えちゃうですよ」と力ない笑いを浮かべた。

 

以前のヘラっとした嫌な笑いではないが、それはどこか儚く危うい笑みだ。

 

「不安に思うなとは言わないわ。でも、私もいるし、みんないる。頑張ろ?ね?」

 

ミナがそう言って岬の頭を抱く。

 

彼女は「そうですね」と一言言って、「ちょっと暑苦しいのです」とすぐに離れてしまう。

 

「あははっ、じゃあそういうことで―――明日は私とルル以外は普段どおりにお願い。とにかく自分たちのいる場所を守って」

 

ミナが少し笑ってそう返せば、全員が無言で頷いた。

 

「んじゃあー……とりあえずご飯にしましょうか。みんなお腹へってるでしょ?」

 

「我らは減らんぞ、金髪娘。まぁ、気疲れはしたがな……」

 

ミナが立ち上がると、珍しく夕も立ち上がって台所につっかけられているエプロンを手に取った。

 

「手伝おう。特に岬と恋は早めに寝たほうがいい時間だ」

 

「ありがとう、夕ちゃん」

 

夕の言葉に純粋な感謝を述べて、ミナは立ち上がる。

 

「さっさと済ませるとなると、素麺かな……ちょっと季節的には早いけどいいでしょ。夕ちゃんはなにか一品作っててくれると嬉しいな。冷蔵庫に鯖が入ってるから」

 

「心得た」

 

そうして10分ほど後に、素麺と鯖の塩焼きが出来る。

 

それを食べた後、全員が三々五々に眠りについていく。

 

そこで恋は何も考えることなくナチュラルに岬とミナのベッドへと潜り込んで―――そして気付いた。

 

――― 一ノ瀬家への連絡を忘れていたことに。

 

 

 

「あー……おじさんにめっちゃ怒られたし……」

 

少し早く水門家から出てきて、一ノ瀬家へ教科書ノートを取りに行った恋は、それに一緒についてきた岬にそう肩を落として愚痴を述べた。

 

「病院にも来てたみたいですけど、見つけられなかったみたいですからね……今回は仕方なかったと諦めて、次から気をつけましょうです」

 

たはー、と恋を岬が笑って慰めながら、二人は惟神小学校への道を歩いていた。

 

惟神小学校の隣は同じく惟神中学校であるためか、道には学生服やセーラー服の中学生が歩いているのも見える。

 

「……昨日爆発事件があったとは思えないのです。普通ならテレビ局とか新聞社とかがいっぱい来てそうなものなのですが。特にあたしの隣にはアイドルがいることですし」

 

岬は首を傾げながらてくてくと通学路を歩いていく。

 

恋は「これもミナねーちゃんの術のおかげなのかな?」と同じく首を傾げた。

 

実際にどうかと言えば、それは是と言えるだろう。

 

好奇心は猫をも殺すと言う言葉があるように、時にそれは殺意や敵意よりも遥かに人を害する意志になりうる。

 

メイズ・ウッドの範囲に入ったマスコミたちは、生徒たちにろくに接触も出来ずに道に散々に迷うことになったのだ。

 

味方をしてくれたドライアードがこちらの世界の精霊だからなのだろうか。

 

カーナビやスマホのナビゲートアプリすらも誤動作を起こさせ、ごくごくまともな報道をしようとしている―――つまり、学校側の許可を得るためにこれからアポイントを取ろうとしているごく一部を除いて、小学校へ近づくことさえ出来なかったのであった。

 

「今の世の中、精霊さんもデジタルなのですねえ。いや、単に認識を阻害してるとかそーゆーことなのかもしれないですが」

 

岬がスマホで時間を確かめながらそう言うと、「まだ余裕だよな?」と恋が聞いてくる。

 

普段はツーサイドアップにしている彼女は、今日は髪を下ろしている。

 

一ノ瀬のおじさんの説教を食らったためにそんな時間がなかったのである。

 

「あー帰ったらまた説教だろうし、気分乗らないなぁ……」

 

「まぁまぁ。かと言って授業サボったりしたら当然怒られますですよ―――爆発事故があっても翌日に授業ありとかなかなか剛毅な学校なのです」

 

岬がニカっと笑って、恋の肩を叩いて慰めると、彼女は「だーよねぇー」と天を仰ぐ。

 

「何より……勉強できる時に勉強しておかないと大変なことになるのですよ」

 

―――あたしみたいに小学校高学年の内容ですらさっぱり忘れてイチから勉強するはめになっているのもいるのです。

 

そんな言葉が喉から出そうになって、辛うじて抑えると前の方で騒ぎが起きているのが見て取れた。

 

―――それは。

 

「ねぇ~?ちょっとだけでいいから授業サボってお姉さんに付き合わない~?」

 

「い、嫌だよ……」

 

どこかで見た覚えのある少女が、友人を何故かナンパしていたのであった。

 

一瞬だけ岬にはピンク色に見えた髪は漆黒と言っていいほどに黒く艷やかで、本人の軽さなど思わせない美しさをしている。

 

岬はツカツカとその少女へと近づいていく。

 

そして。

 

「朝っぱらから何をしているのですか」とかけると黒髪の少女の間に入って、その瞳を睨めつけた。

 

一瞬遅れて恋も岬の隣に並び、そして「これから学校なんだよ、あたいら。帰ってくれないなら警察呼ぶぜ」と不敵に笑う。

 

「……げ」

 

そんな二人を見て、一瞬真顔になって、すぐに困った顔になって、また苛つきを隠そうともせずにそう感嘆詞を吐いて静止した。

 

「……どこかで会いましたです?」

 

「知らない。なんだよ、もう。駄目じゃん。嘘つき」

 

少女はそのまま踵を返して歩き去っていく。

 

岬も恋もそれを追いかけることはせずに、かけるに向き直った。

 

「大丈夫なのですか?」

 

「だ、大丈夫……突然ボクを連れてこうとして、困ってたんだ。ありがとう、ふたりとも」

 

かけるは嬉しそうに二人を見て、そして「行こう。もう時間ないし」と駆け出した。

 

―――とりあえずはまだ彼女が衰弱して、死に至ることはないように思えた。

 

それでもミナやルルはこのままでは彼女が死ぬと言う。

 

岬はそんな運命、とっととひっくり返してやる、と心のなかで決意するのであった。

 

 




次話が混ざってたので修正しました(8時)。
ワクチンの副作用でだるくて眠いのが駄目でした。

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