異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第139話 「嘘だと言ってよバニーちゃん……」

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一方、その頃のミナたちが何をしていたか、と言うと……

 

どう見ても一般の老人ホームと思える建物へと二人はやってきていた。

 

無論、私服で、耳も隠しているため何も怪しいところはない。

 

しかし、しかしながら……

 

目の前の建物に何故かミナもルルも小さくはない警戒感を抱いていた。

 

「ここの訪問可能な時間って何時からだっけ?」

 

「9時半からですね。今はまだ9時だ」

 

「仕方ない。時間をつぶすか……警戒も厳重そうだし、忍び込むわけにもいかないもんね」

 

ミナはひらひらと手を振って踵を返す―――と。

 

「……げ。なんでおじいちゃんのホームにいんの」

 

―――45分ほど前、別の場所でかけるに絡んでいた黒髪の少女であった。

 

ミナは軽く見覚えがあると思い、精霊としての感覚を開いて彼女を観察した。

 

「あれ?もしかしてこないだ岬と恋ちゃんを拐って私らを上から監視してた子?」

 

一発でその特徴的な魔力と精霊力を看破したミナは、彼女が―――そう。

 

「――――――ちっ、バレちゃいやんの。そうだよ、自己紹介してやんよ。私がスーパー・マジカルガール・ネットワークのメグミだよ!」

 

このまま逃げても捕まるとみなした彼女は、数秒ほど沈黙してからミナたちに蓮っ葉な口調で自己紹介をした。

 

「……なるほど、今の沈黙はあんたらの首領に電話してた、って所ね」

 

「見逃しては……くれないよねえ?」

 

ミナに気怠げにそう聞かれたメグミは、その質問に答えることなく質問を返す。

 

その態度にルルは一瞬ムッとするが、それをミナは抑えて「今はあんたらの相手してる暇ないのよ。あんたら一般人巻き込むテロはしてないみたいだし」と笑った。

 

「正直、あんたらの首領は怖いけど、部下のあんたらは全然怖くないわ。死にたくなかったら、今日は回れ右してよね」

 

その言葉にメグミは「なことできるか……ここは……」とそこまで言って口を噤んだ。

 

「チッ……覚えてろ……この老人ホームでなんかしたら絶対殺してやるよ……!」

 

普段の軽い口調など何処かへ消え失せて、余裕なく怒りの目をミナたちに向けてメグミは踵を返した。

 

「……家族でもここにいるのかしら」

 

ミナは小声でそうつぶやくが、その言葉は誰にも届くことはなく……ミナたちは近くの牛丼屋でしばらく時間をつぶすのであった。

 

 

 

その老人ホーム……「オケラの子の家」に入り、面会受付を通ると、すでに話は通っていたのかミナたちは奥まった場所の応接室へと通された。

 

「どうぞ」

 

細い眼鏡をかけた秘書のような女性がそう言ってお茶を置いていく。

 

そうしてしばらくすると、扉を開けて壮健そうな青いポロシャツにGパンというラフな出で立ちをした禿頭の老人が入ってきた。

 

「おお、よく来てくれましたね。歌自慢大会のときの優勝チームの方ですな。十瑚又三郎です、よろしく」

 

若いときはさぞやモテたのだろうな、と思わせるキザな調子で老人はソファに座り笑う。

 

「最初に確認しておきますが……ブン屋さんではありませんね?」

 

釘を差すような声でそう聞かれたミナは「ここで聞いた話を公開することなどありません。私の奉ずる神と精霊に誓って」と調和神の聖印を切る。

 

その様子に一瞬面食らったかのように表情をなくした老人は、すぐに元の表情を取り戻して言葉を紡いだ。

 

「わざわざ引退し、政治基盤から財産から何から捨ててきた私を尋ねてくるのであれば、要件は一つしかないはずだが―――さて、どうですかね?」

 

何もかもお見通しである、というその表情は、かつてミナに色々と難題を押し付けてきたアルバオト枢機卿のことを思い出させ、ミナはクスリと微笑んだ。

 

彼が亡くなってよりもう百年近くは経とうか……その思い出を振り払うように頭を振ると、ミナは十瑚元議員の顔をしっかと見据えた。

 

「私は水門ミナと申します。こちらは義弟のルル。単刀直入に申し上げます―――『改の会』という名前に心当たりは?」

 

ミナの言葉に禿頭の老人は一つ満足そうに頷いて。

 

「だいぶ懐かしい言葉を聞きましたね―――最後に聞いたのは30年ほど前。90年代―――冷戦終結の頃だったかと記憶しています」

 

自信たっぷりに、しかし若干の郷愁を込めて老人は微笑む。

 

「やはりと言うべきか、然りというべきか。昔話でもしましょうか……若い方には退屈でしょうがね」

 

ミナたちの意図を聞くこともなく、老人はくつくつと笑う。

 

そう、くつくつとまるで煮えたぎるような何かを感じさせる笑みを浮かべて、老人は続けた。

 

「改の会……その名前は、幻のように昔から時たま政府関係者の間では囁かれていました。戦後すぐ、からね」

 

「……初耳です。陰謀論か何か……にも聞こえますね」

 

ミナは真顔で老人の顔を見つめた。

 

「だが、程度の低い陰謀論と異なり、この言葉は政府部内から外のどこにも出たことはない……私もとある先生の下について勉強をさせていただいていた頃に聞いたのが初めてでした」

 

懐かしそうに老爺は言葉を続ける。

 

「そう―――この街にも関わることです。戦前……太平洋戦争前からとある旧陸軍の部署が開発を進めていたという超常兵器。その元締めをしていた……戦後に国会議員もしていたことのあるとある陸軍佐官も参加して創始されたという政治結社ですよ」

 

肩をすくめる老爺は「その存在が露呈したことは今まで一度もありませんがね」と唇を歪め、頬を吊り上げた。

 

「……それこそまさに都市伝説、ですね……」

 

ミナはそうして老爺と同じように肩をすくめる。

 

「まさしく。そう思うのも無理はないでしょう……ええ、無理などあるはずもない。しかし、彼らは実在する……とはいえ、今の政府には知るものは誰ひとりいないでしょうけどね」

 

老爺は笑う。

 

笑って、話を続ける。

 

彼らは戦後すぐから行動し、現政府を倒してやんごとなき血筋からあらゆる政治的権威を奪い京都に押し込め、もって維新を成すという目的で行動し続けているということ。

 

そのために邪魔になったものは消してきた、ということ。

 

そのために自らの存在すら消した元佐官すらいた、ということ。

 

戦後すぐにあったいくつかの未解決事件は彼らが犯行を行ったのではないか、ということ……

 

「その佐官っていわゆるどう見ても躁病の元国会議員……」

 

ミナがそう聞くと、老爺はゆっくりと肯く。

 

「ええ。第三次世界大戦を引き起こしかねない男として、連合軍総司令部にもマークされていたラオスで行方知れずとなった男もその一員だったのでしょう。その死体を私は見たことがありますので、生きてはいないと断言できますが」

 

腕を組み、老爺はなんでもないことのようにそう答えた。

 

「ラオスで行方知れずになった時期から20年もあとのことです。死体は石川県で―――彼の銅像の下で見つかりました。無論、それは総て闇に葬り去られましたとも」

 

老爺は表情を変えずに言葉を紡ぐ。

 

「そして、その前に―――顔のない兵士たちが官邸を襲ったのです。良くはわからないのですが、当時我が国は空母を保有しようと躍起になっていた―――まあ、艦載機の問題と野党の反対、イージス艦の配備などいくつもの要因が重なったために中止になりましたがね。しかし―――どうもそれが改の会には気に食わなかったようだ」

 

―――曰く、バーコードだの青年将校だのと言われた総理の机に知らぬ間に脅迫状が入っていた。

 

―――曰く、その予告どおりに顔のない兵士たちが現れたこと。

 

―――曰く、それをなんとか撃退してすぐに、件の元国会議員の遺体が見つかったこと……

 

「わーい、聞きたくもない厄ネタがバンバン出てくるんですけどぉ……○ーんが生きてて改の会の幹部かなんかで、バーコード総理が改の会に暗殺されそうになったって……うーわーあったま痛いわ……」

 

ミナが頭を抱え、その頭痛を更に増幅するかのように、ルルはその右の中指に填めた古代語魔法の発動帯である指輪を見て「少なくとも彼は嘘はついていませんね」と複雑な表情になった。

 

即ち、看破の魔法では彼の言葉は間違いなく、彼の中では真実として疑いようもなく規定されていることであると確定したのである。

 

「嘘だと言ってよバニーちゃん……」

 

「はっはっは。聞いてきたのは君たちでしょう。さて、何故彼が総理官邸を襲ったのと前後して、おそらくは改の会の内部で粛清されたのかはわかりません。しかし、それ以降パタリと改の会の噂は途切れました―――」

 

そうして完全に噂や動きが途絶えたのは1991年末。

 

ソビエト連邦が崩壊し、冷戦が完全に終結した年であったという。

 

「先程も述べましたが、今の政府部内には誰一人このことを知るものはいないでしょう。あれから30年以上が経った……」

 

老人はそうしてカップの中の茶をグイと飲み干した。

 

「あなた方がそれを知った理由はわかりませんが―――聞くつもりもありませんが、お気をつけなさい。確かに彼らは超常の……現代科学ではまだ到達できない場所にある技術を使っているのだから」

 

ニコニコとした表情を変えずに男は言った。

 

「……では、最後に。○ーんが首領というわけではなかったのでしょう?それでは、一体誰が創始したのか、それはご存知ですか?」

 

ミナがそう聞くと、男は満足そうに首肯して答える。

 

「当時、陸軍少将だった男であるというが……戦後のどさくさに紛れて総ての資料は抹消されてしまったと、そうバーコード閣下は言っていたよ。確かその少将の名前は桜海鷹人と言った」

 

「桜海鷹人……」

 

ミナはその名を記憶に刻むように神妙に呟く。

 

「……そんなバーコード閣下も亡くなって数年……私も引退した。このことは誰も思い出さないままにしておきたかったが……」

 

男はどこか闘志を感じさせる表情で「まだ連中が存在しているのならば。君たちが潰してくれるなら是非とも潰してくれたまえよ。こちらも、おそらくはアメリカさんも迷惑していたからね」と微笑み。

 

「そして……この街にある何物か。旧陸軍も着目していたという何者か……もしも、もしもだ。彼らがそんな現代科学を超えるものを生み出す何かをもっているとしたら、それは我が国にとって大変不味いことだ」と呟くように言って立ち上がった。

 

―――その表情はすでに部屋に入ってきた時の、快活で壮健な老人のもの。

 

「今日はありがとうございました、十瑚さん」

 

ミナが礼を言い、ルルも無言で頭を下げると、老人は首肯してドアに手をかける。

 

「この街に何か恐ろしいものが眠っていることを知っているものももう少ない。そんなものを戦争に利用しようとした者たちの亡霊を……頼むよ」

 

そう言って老人はドアを開けて部屋を出ていく。

 

ミナは「冒険の果てに、必ずや」と小さく答えて踵を返した。

 

 

 

「とりあえず敵の首領の名前と昔の地位という情報は得たけども……」

 

「軽く調べてみましたが、ネット上に名前は見つかりませんね」

 

ルルはそう言ってスマホをポケットにしまった。

 

ミナは老人ホームの入り口に立っている欅の木に手をかけて、メイズ・ウッドの呪文を唱えながら、まずは博士と廻、夕に確認を取らなければと考えていた。

 

「優しく麗しく淫らなる森の乙女ドライアードよ、この樹を印に、我らを害するものを迷わせたまえ……惑わしの樹よ」

 

欅にそう呼びかけると、ドライアードが現れ、そしてすぐに消えていく。

 

呼びかけは正確に精霊に伝わり、周辺から敵意が消えていくのをミナはその肌で感じていた。

 

「よし。じゃあ戻りましょう。まずは博士に確認ね」

 

「承知しました」

 

そうしてミナはため息をつく。

 

「このまま連中をどうにか出来ないまま、知人が増えていったら、最悪神森市が迷いの森になるわね……」

 

そう、このメイズ・ウッドという精霊術は、木を迷いの森の木に変えてしまう術なので―――なにかあるたびにかけまくっていれば最悪そうなってしまうのが玉に瑕な魔法なのである。

 

「その前になんとかしましょう。それがいい」

 

ルルはそう言って、ミナへと振り返ってニッコリと後ろで手を組み、彼女の顔を覗き込んで笑った。

 

「その女の子みたいな仕草をやめなさい……」

 

一筋汗を流して、困ったようにミナに言われて従者は「フフ、僕に女装を止めさせるよりは楽でしょう?」と続ける。

 

そしてくるりとはしゃぐ少女のような仕草を見せた従者に「はいはい、そうですねー」とさじを投げたミナもまたオケラの子の家の門から出て家路へとつく。

 

「明日からバイト再開だし、今日はエストロヴァの修復実験でもしますか……」

 

ミナはそう呟いて腕を頭の後ろで組んで嘆息した。

 

 

 

「……なんか、入りづらい感じになった……」

 

ミナたちが去った後、ジト目でオケラの子の家を睨むメグミの姿があった。

 

メイズ・ウッドの起点となる存在は十瑚元議員であったが、しかしミナの術であるために、彼女の敵であるメグミも入りづらくなってしまっていたのである。

 

「なにか魔法かけやがったな……チッ……」

 

恨めしそうな眼で、入りづらさの中心である欅を睨むと、手に持った重箱の包らしい風呂敷を一瞬睨んでから老人ホームへと彼女は入っていくのであった。

 

 

 

その頃のスナック黒十字では……

 

「うーむ。このままで良いものだろうか……」

 

廻が、客が来ないことをいいことにウンウンとなにかを思考しては同じことをいい続けていた。

 

「何を悩んでいるのだ、廻。業務中だぞ」

 

モップを片手に店の床を掃除していた夕にそう問われると、廻は「いや、岬のことだ」と短く告げて、また同じ姿勢でウンウンと唸り始める。

 

その様子に夕は「金髪女が感染ったか?何も考える必要もあるまい。敵は砕く、味方は救う。それより上を求めるから悩むのだ」とにべもなく言い放って掃除へ戻ってしまった。

 

「それは、そうなのだがな……」

 

廻が迷っていたことは一つである。

 

岬のために、例の魔法少女たち……おそらくは全員が未成年である彼女らを殺害しても許されることなのだろうか、と。

 

彼らにはロボット三原則は組み込まれていない―――完全な兵器として運用されるために作られた存在だからだ。

 

そもそもロボット三原則自体が、SF作家アイザック・アシモフとその師父にあたるジョン・W・キャンベルJr.が考案したものであり、欧米人が無意識に有色人種に求めるものを盛り込んでしまった、などという俗説すらあるそんなものを科戸研究所の人間が組み込む理由がなかったのだ。

 

しかし、彼はほとんど人間と変わりない知能を持つが故に、魔法少女たちを殺すつもりで攻撃することに躊躇がある。

 

未だ、廻も夕も魔法少女そのものと本格的に相対したことはないが……

 

「果たしてどうするべきか。どう決断するべきか」

 

廻の思考はある意味でフレーム問題―――どこまで問題を矮小化していいか、ということにハマりつつあった。

 

「宿痾だな……判断を博士やミナくんに投げるのは楽だが、これは私が出さねばならんことだろう」

 

きっとミナも博士も彼に、必要があれば、自らの仲間や家族が傷つけられるのであれば殺すべきだ、と答えるだろう。

 

それがおそらくは正しいのだ、とも理解していた。

 

だからこそ……岬を守るために、それをどう飲み込むか、どこまでをやるのか……

 

それは廻にとって難しい問題であり―――何故自分が岬をこそ守らなければならないか、という思考に追い込んでいるかの理由は、全く考慮に至っていない。

 

そこまで気づくには今しばしの時間が必要だったのだが―――そこで思考を中断することが起きた。

 

「夕」「ああ」

 

それは岬からの緊急通信であった。

 

「―――どうした岬」

 

『大変なのです!か、かけるちゃんが!』

 

『早く変身しろ、岬ちゃん!ミナねーちゃんにも連絡したんだろ!?こっち持たねえって!』

 

『あっ』―――ブツッ。ツーツーツー……

 

スマホを落としたのかなんなのか通話は唐突に途切れる。

 

「夕、私は行く。状況は追って通知するので、加勢が必要だと判断したら来てくれ。店長への釈明を頼むぞ」

 

「心得た……無理はするな。悩みは兵器としての自分を鈍らせるぞ」

 

その言葉に廻はニコリと笑って「もちろんだとも」と返して、店を飛び出していく。

 

向かう先は惟神小学校。

 

岬たちのいる場所である。

 

その慌てぶり―――本人はきっと慌てているとは考えていないだろうな、と思いながら夕は深い溜め息をついた。

 

「我々はもはや兵器とは呼べんのかもしれんな……否、思考を持つものは兵器足りうるのだろうか。ふん……余計ごとだな」

 

夕はそう呟くと、店長たちに廻が早退したことを告げにバックヤードへ入っていく。

 

そこで、潤美が店長をしばいていた話は―――また別の時に語るとしよう。

 

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