異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第140話「なんで阿南さんは、そっちと遊ぼうとするのかな……」

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「あー!?スマホが飛んでいったのです!?」

 

「いいから前!かけるちゃんを助けないと!!」

 

吹っ飛んだスマホに気を取られる岬を叱咤し、恋は鎌で巨大な怪物を攻撃する―――その怪物は。

 

『ウオオオオオオオ!!ナニガ部活ダァァァァァ!!ホトンドさび残ジャネエエカァァァァァァ!!!』

 

それは叫びまわる女の形をした胸像の怪物。

 

即ち、それは―――

 

「虹の欠片の怪物……!マスクドなんとか以来ですね!―――変身ッ!!」

 

岬はそうしてマジカル・アナンへと変化する。

 

髪と目はピンク、衣装は白と桃と黄。

 

愛らしいドレスに身を包み、着地して―――名乗りも上げずに怪物を杖でぶっ飛ばした。

 

ガゴン!と巨大な打撃音が響いて、その怪物―――今いる女子陸上部の顧問である先生だったものは壁に叩きつけられた。

 

惟神小学校は小学5年生から部活が始まり、それなりに本格的にやるのだ。

 

―――かつての三郎と空悟はそんなことは気にせずに帰宅部であったが、かけるはそうではなく真面目だったようで―――

 

床には気絶した少女たちが倒れている。

 

かけるもその一人だが、危険なことに胸像の怪物の目の前で気絶してしまったのであった。

 

「まさか虹の欠片をもっているとは……大人が使うとやっぱりこうなるのですね!」

 

杖をそいつに向け、恋が胸像の下で気絶していたかけるを保護したのを見届けると胸像の怪物へと顔を向ける。

 

「……教師は部活やっても対して残業代でないんでしたっけ……」

 

岬は嘆息して、さっさと楽にしてやろうとアナン・レインボー・フラワーの詠唱を始めようとして―――気付いた。

 

何か、目の前の胸像とは違う力が―――どこかから。

 

岬は背筋にゾクリとするものを感じる……感じてしまう。

 

そう、魔法少女とは。

 

虹の欠片が訪うものとは―――自らでは打開できぬ不幸に襲われたものだったのではないか。

 

即ち、それは―――岬の友達となった、その少女も同じだったのではないか。

 

それに気付いて、恋に介抱されているかけるを見れば―――すでに遅かった。

 

「か、かけるちゃん!?」

 

恋が叫ぶ。

 

叫びを無視して、かけるはゆっくりと立ち上がる。

 

「―――虹の欠片よ。愛と奇跡をボクに分けて―――闇の願いを切り裂くために」

 

それは変身のための詠唱―――手にあったものは、確かに虹色の飴玉―――虹の欠片!

 

虹の欠片は彼女に吸い込まれ、そして杖に変わる。

 

否、それは杖ではなく―――盾。

 

彼女の心を鎧うかのような、しかし流麗な盾であった。

 

「永遠を走り抜けろ……天の弓―――アメノカケル!参上!!」

 

盾に弓が生え、弦が張られる―――そして、弦が飛んだ。

 

弦のない弓盾を構えて、少女はその瞳に狂気を湛えてニタリと笑った。

 

「―――まずいのです!恋ちゃん!」

 

「おう!ソング・オブ・アムネジアッ!!」

 

恋が鎌に口を添えて、忘却の曲を奏でる―――しかし、それは。

 

バキリ、となにかが砕けるような音がして、恋が苦しげにうめいた。

 

「ギィッ……!くそっ!レジストされたッ!あたいも強くなってるはずなのに!」

 

「精霊さんが!かけるちゃんの中の精霊さんが暴走しているのです!くっ……!」

 

胸像の化け物と対峙しつつ、しかしかけるは完全に暴走状態になっている―――まさに前門の虎、後門の狼と言うべき状況になってしまっていた。

 

「くーッ……どうするべきですか、これは……!」

 

連絡したミナや廻が来るまでにはまだ時間がかかるはずだ。

 

その間、倒れている女子陸上部の面々を護りながら教師の化けたもの、そしてかけるを止めなければならない。

 

「最悪なのです……!」

 

岬は一瞬歯ぎしりして、廻に言われた嫌な表情をするなという言葉を思い出して我に返る。

 

「恋ちゃん……壁をぶっ壊しますです!そうしたらふたりでかけるちゃんと先生を外に押し出すですよ!」

 

「ぅわかったぁ!!」

 

岬の言葉に恋が鎌を振りかぶる。

 

「―――なにしてるの?遊んで。先生も岬ちゃんも恋ちゃんも……遊んでくれなきゃ、ひどいよ?」

 

唇を半月に歪めて、少女は笑う。

 

けらけら、けらけら、けらけら。

 

脳にしみてくるようなその笑いは、正しく呪言である。

 

『ワァァァタシヲ無視スルナァァァァァァ!!部活ナンゾナクナレエェェェェェェェ!!』

 

その呪言に苛立ったのか、胸像の怪物も襲いかかってくる。

 

「恋ちゃん!いっせーのーで!」

 

「あいさ!いっせーのー!!」

 

「「よいしょーーーーッ!!」」

 

二人は全力で壁をぶん殴り、そこに穴が開くのが確実と見てとるや岬はかけるを抱えて、恋は胸像の怪物にドロップキックを仕掛けながら外に飛び出す。

 

部室の外は―――サッカー部が練習しており、思いっきり岬たちは衆目の前に丸見えになってしまった。

 

「恋ちゃん!」「あいよぅ!!」

 

恋は掛け声に以心伝心でソング・オブ・アムネジアを奏でる。

 

その妙なる調べに、周囲のサッカー部員たち―――少なくとも30m以上は離れている子供たちは次々にうっとりとした顔つきになっては倒れていった。

 

「これで周囲200メートルくらいは大丈夫なはず!」

 

恋の言葉に、岬は「ありがとうなのですよ!では―――」と杖を胸像の怪物へ向けてアナン・レインボー・フラワーの詠唱を始めようとして―――

 

「なんで阿南さんは、そっちと遊ぼうとするのかな……」

 

じっとりとした暗い目で、自分の腕の中から睨んでくる少女の視線を感じて「あっ!?」と存在を半ば忘れていたと告白するような言葉を発した。

 

「ちょ、ちょっとかけるちゃん!遊ぶのは後にしてほしいのですよ!?」

 

「あーッ!来る!来るぞ!避けろ岬ちゃん!」

 

「うふふふふふふふ……」

 

引き剥がそうとする岬に恋の絶叫が届き、不気味なかけるの抱擁と笑みを受けながら前を見れば―――

 

『イチャツクンジャネエがきドモガァァァァァァァ!!!』

 

地面をその爪のような触手みたいなもので削り、ガリガリと氷をアイスピックで砕くような音を立てながら突進してくる胸像があった!

 

「あー!?はなして、離すのです!?」「うふふふふふふふ―――」

 

不気味な笑みを浮かべたままのかけるを引き離せないまま、恋の援護も間に合わないかと思われたそのとき。

 

「せいりゃぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

上空から黒い装甲をまとった漢が一人、亜音速で飛び蹴り―――文字通りジェット噴射による飛び蹴りを胸像の怪物へと食らわせた!

 

「無事か、岬、恋くん!」

 

―――それは無論、廻の姿。

 

地面にめり込んだ胸像を踏みつけながら、廻は二人に振り返ってそう聞くと「ありがとうなのです!」と岬の言葉が帰ってきて、彼は満足げに首肯して地面へと降り立つ。

 

「熱量分布からすると……マスクド・ジェラシーと同じ虹の欠片の怪物か、こいつは」

 

「そうなのです!先生が突然変身しちゃったのですよ!」

 

岬はバタバタと腕の中でもがくかけるをいなしながら、そう答えた。

 

その言葉に呼応するかのように、胸像の怪物は『小学生ガいちゃツクナァァァァァァ!!!』と叫んで、その触手めいた腕を廻に振り下ろした。

 

「むっ……膂力だけならマスクド・ジェラシーよりも上か……脅威度判定開始」

 

廻が胸像に向き直って構えると、岬に「後ろに下がって態勢を立て直すんだ。その子を抱えたままでは戦えまい」と言って駆け出す。

 

初手から最高速。

 

しかし、岬の言葉が正しければ目の前の怪物はこの学校の教師である。

 

完全破壊することは、化けている人間の殺害を意味することとなる。

 

「面倒なことだッ!非殺傷性粘液弾!」

 

廻が放ったのは、邪神の端末である粘液の解析結果から生まれた超粘度の速乾性粘液だ。

 

固体に張り付けば、0.7秒以内に硬化し、その動きを止める。

 

それだけではなく固体非接触時の展性は液体時の金に匹敵し、破裂後地面と対象物を強固に接着するのだ。

 

「岬が動けるようになるまで、そこでおとなしくしていてもらおうか!」

 

そうして、油断なく機関砲と腰部噴進弾を向けて廻は停止する。

 

「はーなーすーのーですぅー!」

 

「やーだー遊んでー遊んでー」

 

「あー!魔法使った!かけるちゃん魔法使ってまで岬ちゃんにひっついてやがる!くぬーッ!」

 

二人共が彼女を引っ剥がそうとするが、彼女は粘着液を出す魔法を使ってまで離れようとしない。

 

「くっ……今のあたしにひっつく膂力とこの魔法!そして明らかにブースターめいたその脚の翼っぽいソックス!粘着液を撒き散らしつつスピードで撹乱するタイプと見たのです!」

 

「冷静に分析してる場合じゃねえだろ、岬ちゃん!あー!?」

 

そんな事を言っている間に、恋もまたかけるの粘着魔法に絡め取られてしまい、三人は少女の塊めいたことになってしまった。

 

岬も恋も布が多めの衣装のため、あられもないことにはなっていないが……かけるは割ともうすぐ大変扇情的な―――もちろん小学生にそれを感じるのであれば―――格好になりつつあった。

 

「伊良湖さんも遊ぼー……」

 

「そんな場合かぁッ!廻にーちゃんなんとかしてえ!」

 

不気味な笑顔で顔を近づけてくるかけるから、全力で顔をそらしつつ恋が廻に叫ぶが―――しかし。

 

「すまん!胸像が動き出す!殺傷性がないのであれば、私が再度動きを止めるまで我慢していてくれ!」

 

そう、触手の攻撃を素手で捌いている廻からの返答が帰ってくる。

 

「まさか触手を新たに生やすとはな!これでは―――!」

 

廻のセンサーは遠くからおそらくはこの学校の教師たちが近づいてくる気配を察知していた。

 

魔法少女たちが動けない以上、記憶を奪うなどの行為は難しい―――ミナが来るまで後数分はかかる。

 

「―――どうする?」

 

疑問を呈するもほんの一瞬。

 

外で運動していた児童たちの方でも、部活棟の方でもない異なる方向へと触手を掴んで投げるのが最善と判断した廻はそのとおりに行動した。

 

生体反応はそちらにはなく、ただの林である。

 

自在触手を持つ胸像には有利になってしまうが、それで倒れる自分ではないという自負もあった。

 

『アァァァァァァァ!!ナンデダァァァァァア!!!』

 

叫びまわる胸像に、弱威力の殺人光線を放ち岬を振り向いて「胸像のほうは任せるんだ。そちらは飛行にてこの場所から離脱しなさい!」と叫んだ。

 

廻はそうして林に落ちた胸像を追いかけて走る。

 

岬はその言葉に「恋ちゃん!ちょっとバランスおかしくなるですけど!」と叫んだ。

 

その言葉に恋は一瞬躊躇するが、遠くから先生たちが来ていることを魔法少女の身体能力の一つである強化された視力で確認して「悩んでる場合じゃない!」と言って足に力を入れた。

 

「あっはっはっは……」

 

抱き着いてくるかけるの頭を顔から離しながら、二人は「「せーの!」」で飛び立って―――

 

しばらくふらふらと空を飛びあがり、やがてこの間ミナたちが改の会の連中を撃破した林へと落ちていくのであった。

 

 

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