異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第141話 「あはははははっ!遊ぼ!遊ぼうッ!」

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「ぬう!?」

 

胸像の怪物を殺さないよう手加減しつつ放り投げながら、廻は岬たちが落ちていった林を走査した。

 

「岬たち以外の生体反応はない……まずはこれを完全に停止させねば」

 

廻は両腕から超硬質ワイヤーを射出する準備をする。

 

そう、ワイヤーで完全に拘束してから粘着液で固めて岬たちの落ちた林まで持っていくのである。

 

拘束さえしてしまえば光学迷彩を用いて隠蔽することも可能という判断である。

 

「重量は―――二.七屯。問題なし」

 

廻はそう告げて、ワイヤーを発射した。

 

『ヴァァァァァァァァァ!!!』

 

まだ大声で叫びまわる教師だったものに「少し黙っていてくれ」とだけ言ってそのままワイヤーで口部と触手の大半を拘束した。

 

「数が多いと言えど所詮は単純な物理攻撃……このまま腕部触手発生部を硬化する」

 

そうしてワイヤーで絡めとられた触手が固められ、同じくやかましい口がふさがれた。

 

『!?!?!?』

 

それでも叫ぼうとする胸像の声を無視して、廻は「光学迷彩および噴射推進全開」と短く述べた。

 

そうして胸像の後ろに取りついてワイヤーを掴むと、そのまま上昇していく。

 

そうしてバリッと電撃のような音がして、やがてその姿は人には見えない透明化がなされていき―――

 

ゴウゴウとジェット噴射の音だけを残して、そこには誰もいなくなったのであった。

 

 

 

その頃、岬たちは―――

 

「は、はがれないッ!はがれないのです!」

 

「だーからー遊ぼーって言ってるよね……」

 

かけるの粘着魔法に苦戦していた。

 

対抗するために接着部に魔力を通すとその部分だけははがれるのだが、すでにかけるが絡みついているせいで全く無意味なのだ。

 

「ど、どちらかだけでも離れるのですよ!恋ちゃん!」

 

「ああ!だったら浄化魔法が使える岬ちゃんだ!あたいの魔力、全部受け取れ!」

 

岬の叫びに、恋がそう答えて岬の手を握る。

 

「良しなのです!これでぇぇ……!」

 

岬が全身に魔力を漲らせると、接着面が湯をかけた氷のように溶けていく。

 

「あー逃げちゃやだぁ……」

 

かけるはそうして残念そうにするが、それで聞く岬ではない。

 

自分がかけるの拘束から脱出すると、恋にしがみついている部分にも魔力を流していく。

 

魔力の最大出力が足りないから脱出できなかったのだ。

 

サンダーバードストライクと同じ要領で二人の魔力を合わせれば、拘束魔法はあっさりとはがれてくれたのだった。

 

「サンキュー岬ちゃん!」

 

「お礼は後なのです!まずは虹の欠片を彼女から引き離すですよ!」

 

岬はそうして杖をかけるに向けるが―――しかし。

 

かけるはその時点で走り出していた。

 

「今度はボクが鬼かなあ!?捕まえてみてよッ!あはははははっ!」

 

笑いながら駆け抜ける―――林の間を高速で駆け巡る。

 

よく見ればかけるが手足をつけたところには、水色の魔力光が宿っている。

 

岬の看破した通りなのだろう。

 

それは下手に触れれば動けなくなる粘着魔法だ。

 

「チィ!偉大なるロジックよ!力の矢となれ!砕け!エネルギーボルトなのです!!」

 

エネルギーボルトを魔力光に当てれば、それは瞬時に雲散霧消する―――つまり。

 

「恋ちゃん!」「おう!魔法を当てりゃあ消えるなら任せてよ!」

 

「ミュージックオブヴァッサー!雨粒よ割れて降り注げ!」

 

巨大な雨粒が林の真ん中の道の上5mほどに浮かび、それは破裂して雨となって降り。

 

「……あー、消さないでよぉ意地悪だぁ」

 

かけるが残した魔力光をすべて消し去っていく。

 

「でも捕まってやんなーい!鬼さんこちらー手の鳴る方へー!あはははははっ!」

 

しかし、雨が上がれば新たな足跡が地面についていく。

 

同じ状態になる前に、岬としては速攻で決めたかったが―――如何せん、アナン・レインボー・フラワーは発動した瞬間に敵を拘束するような魔法ではない。

 

だとすれば……

 

「まずはかけるちゃんを倒さなければどうしようもないということなのです!恋ちゃん!援護をお願いしますですよ!」

 

「ああ!ミュージック・オブ・ヴァッサー!広がれ!!」

 

水弾が無数に放たれ、かけるの走行を邪魔していく。

 

「あははっ!楽しい!走れるよボク!ミナおねーさんのところに行ってから調子がいいの!今日はもっと調子がいいの!あははははっ!」

 

水弾を避け、スピードを殺されながらもかけるは楽しそうに笑う。

 

「そちらがスピード勝負なら、こちらはパワーで勝負するのです!燃える炎のエレメント!マジカル・アナン、フレアスタイルなのです!!」

 

どこかのヒーロー番組で聞いたような決め台詞を吐きながら、岬は炎の魔法少女へと変身する。

 

そして、スピードが殺されつつあるかけるへ一撃を加えるためにしっかと大地を踏んで身構えた。

 

「―――こういう時のために廻さんやミナちゃんに鍛えられていたのですよ!」

 

ズシン、とその矮躯には似合わない重々しい震脚で地面に根を下ろし、彼女は掌底を低く構える。

 

手加減をするならプロレス技、一撃必倒を求めるなら八極拳、というのがミナの何故かわからない信念であり、故にそのように廻が八極拳と―――プロレスではなく柔道を教えていたのである。

 

その八極拳とプロレスの元ネタがとある18歳未満厳禁なゲーム雑誌の参加型読者コーナーであることを知っているのは黄昏の傭兵団のメンバーでは空悟だけだ。

 

「一撃必倒―――狙いは必中―――!」

 

殺しさえしなければ、その体は回復魔法で治せる―――よしんば致命傷であってもミナやルルであれば苦もなく治すことが可能である。

 

で、あれば。

 

「あはははははっ!遊ぼ!遊ぼうッ!」

 

「正気に戻ってから存分に遊びましょうですよ―――恋ちゃん!」

 

岬が合図をすると、恋は「全部を覆いやがれぇぇ!!」と叫んだ。

 

無数の水弾は弾けて雨粒となり、更に別れて霧のようになっていく。

 

「あははははははははははっ!!」

 

ケタケタと笑いながら弓盾を振りかぶって、それ以外の進路が水弾によって潰された少女が突貫してきた。

 

それは岬にとって狙い通り。

 

「―――頂心肘!」

 

一歩踏み込み、全力で肘を突き出す―――その肘は彼女が構えた盾の中心に激突して―――

 

「ああっ!?」

 

かけるの悲鳴とともに、爆ぜた。

 

「―――良し、止まったのです」

 

岬は瞬時にスタンダードな姿へと再度変身し、そして杖を動きを止めた少女に向けて構えた。

 

と、そのとき、上空から何かがかけるの隣に落とされる。

 

「―――これは、廻さんですか!?」

 

「左様!まとめて浄化するんだ、岬!」

 

宙空に浮かぶは漆黒の装甲。

 

「恋ちゃん!力を貸してほしいのです!」

 

「おう!」

 

恋は岬に駆け寄って、その肩を掴む。

 

「いつでもいいぜ!」「はいなのです!」

 

恋が岬に魔力を預けていく―――そして。

 

『ァァァァァァァァ!!妬マシイィィィィィ!!!』

 

「……なんで、遊んで、くれないの……?」

 

胸像の怪物が狂気の絶叫を上げる中、かけるは岬を見ながらもその向こうに誰か違う人を見ているような、そんな遠い瞳をして―――砕けた盾を地面へ落とす。

 

「光よ―――夢と希望は悪しき心に歪められた―――その心、支配するものから解き放ち給え!!悪しきを、凶つを、魔に落つ前の姿へ。天の道を思い出させるのです―――!さぁお眠りなさい!アナン・レインボー・フラワー!チャージアップなのです!!」

 

そして虹色の花が咲き、花に胸像もかけるも包まれていった。

 

「ふたりともおやすみなさい。起きたら、また良い日が来ます。その時まで、ぐっすりおやすみなさい!」

 

岬と恋は踵を返して、光を背に大きく腕を広げてから組んで笑いあう。

 

「良しなのです!」「大丈夫かかけるちゃん!先生!」

 

二人はそうして変身が解けて地面に倒れ伏すかけると30代前半に見える眼鏡の女教師へと駆け寄っていった。

 

「ふたりともバイタルは正常だ。安心したまえ」

 

廻が地面に降り立ちながらそう言うと、「あー良かったのです!下手に大怪我させるとミナちゃんが来るまであたしだけじゃどうにもならないですし!」と額の汗を拭いて変身を解いた。

 

「無事ーッ!?」

 

その時、上空から少女の声が。

 

ミナの声が木霊し、ガーゴイルが風を巻いて降りてきた。

 

「無事だよミナねーちゃん!」

 

恋が手を振りながら、地面に降り立ったミナへと駆け寄っていく。

 

「はー、良かったぁ。間に合わなかったらどうしようかと」

 

ミナはそう言うと、バッグから数個の正霊薬の小瓶を取り出した。

 

「まさか魔法少女になっちゃうなんてねえ。はぁ頭痛いわ」

 

ミナが頭を振ると、岬が「どうしましょうですかね……このまま虹の欠片を摘出してしまったら、また何か悪いことが起きるような気がしなくもないのです」と不安げにミナの服の裾を掴んだ。

 

「そうね―――マメラ教授のルーペで見る限り、どうやら風化病の進行は停止してるわ。こないだ見たときは徐々に進行しているのが見て取れたのだけど」

 

ミナはむぅ、と困りきった唸り声を出して額に指を当てる。

 

「あーなんか思いつかんかなあ」

 

「それよりも人が来る前にこの子とそっちの教師をどこかへ連れて行かなければ」

 

廻が武装を解きながらそう言って、眼鏡の女教師を背に担いだ。

 

ミナが気絶したままのかけるの口に正霊薬を含ませながら、「そうですね……その女の先生は廻さんに任せます。岬と恋ちゃんは私と一緒に研究所へ。いまの状態なら私とルルである程度の治療が可能なはずだから」と言って、かけるをお姫様抱っこの形で抱き上げる。

 

「……わかったのです。廻さん、櫛田先生のことをお願いしますですよ」

 

「心得た」

 

廻はすぐにも光学迷彩を発動すると、そのまますたすたと歩き去っていく。

 

徐々に消えていくその背中になにかの迷いのようなものが見えたのは、岬の気の所為だったろうか。

 

彼の気配が消え去る前に、二人はミナのガーゴイルに搭乗して飛び去っていく。

 

後には若干の破壊痕と―――魔力の残滓が残るのみ。

 

バサリとその破壊痕の降り立ったのは―――メグミだった。

 

「……自然に目覚めた。しかも連中に回収されちゃうなんて!悔しぃ~~~!!」

 

メグミは地団駄を踏んで悔しがり、そして―――

 

杖に魔力光を発生させ、虚空へ向かって無言で撃ち出した。

 

「なんかウチラじゃないのもあいつら監視してるじゃん……あ~あ!ムカつく!これならマコちゃんに怒られてたほうがマシだったよ!」

 

メグミはそう独り言ちると、ふわりと宙に浮かんで飛び去っていった。

 

バチバチと空中で電光が走り―――がしゃん、と衝突音を放って地面に何かが落ちた。

 

それは―――カメラかなにかに見えるもので。

 

(帰ってイェカ様に報告しよ……)

 

虚空にメグミの思考が、ただそう残されていたのであった。

 

 

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