異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第142話 「「悪魔像!?」」

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―――科戸研究所。

 

「おかえりなさい、ミナさん」

 

ルルが格納庫に怪しげな手術道具と手術台を展開しつつ、朗らかに笑ってかけるを担いだミナとその後ろからついてきた魔法少女に声を掛けた。

 

「うーっす。もう最悪よ、最悪。多分改の会に監視されてたわ、あの空き地。廻さんも多分気付いてたし」

 

「えっ!?そうなのですか!?」

 

かけるをその怪しげな手術台に横たえながら、ミナは監視されていたことに気付いていたと告白し、岬を驚かせる。

 

「それって、大丈夫なの?」

 

「まぁ魔法を解析してどうこうしようってことなんだろうけど、すぐには問題は出ないわ―――だってこっちの世界の人間、ほとんどオドを持ってないんだもの」

 

そう言って苦笑した。

 

「オド?」

 

「世界の論理を改竄したり精霊に声をかけたりするのに必要な体内の魔力のこと。魔法少女は虹の欠片で代用してるけどね。あそこまで冒険者現象で強くなった空悟でもほとんど感じられないから、まぁ一般人は何をか言わんや、ってやつなのだわ」

 

そして「だから対策を取るには魔法が賦与された武具を作るか、或いは白き空より来る力を無理矢理に使うかしかないの。アイツラにそれを用意できるとは思えないわ」と言った。

 

もちろん、ミナの知らない理で対策を編みだす可能性もある。

 

「うーん、岬だけじゃなくて恋ちゃんにも魔法のレッスンは必要なのだわ。魔法少女の魔法は出力高くて汎用性あるけど、魔力バカ食いするみたいだもんね」

 

そう言いながら、ミナはかけるのぼろぼろになった体操着にリペアーの魔法を掛けていた。

 

「うーん、やっぱり魔力で切られたところは直らないのだわ。手術終わったら繕うか……」

 

ミナが溜息をつくと、岬が「明らかに怪しすぎる手術台なのですが、大丈夫なのです?」と聞いてくる。

 

勇者は笑って「風化病の進行が止まってるからね。精霊の呪いを解くための手術というか儀式が必要なのよ。ルルが作ったやつだからまぁまぁ不気味で暗黒魔法な感じだけど、特に問題ないわ」と返した。

 

「……このようなデザインにした理由はなんですか、ルルくん」

 

「僕は本来悪の暗黒魔道士なので、当然デザインはこうでなくてはならないのです」

 

朗らかに、凄まじく機嫌よくそう言ってルルは腕を広げてパンパンと手を叩く。

 

「……どうしたんだ、ルルにーちゃんは?」

 

「不気味なのです」

 

「それは私にもわからん……」

 

寝息を立てるかけるの前で黒いローブを着て何故か異様にニッコニコな少年に、ミナは「なんか機嫌よくなるようなことあった???いや、ホント真面目に聞くんだけど」とちょっと心配げに問いかけてみる。

 

すると彼は指を蠱惑的に指にかけて「いえ、致命的になっていない風化病のサンプルはなかなか取れないので―――普通は見つかる前に致命的になっていますから。グリッチ・エッグの医学薬学治療術を進歩させる契機になりうる出来事です」と言った。

 

「人の不幸で喜ぶな阿呆!」

 

すかさずミナのチョップが脳天に刺さり、「痛いじゃないですか」といつもの文句が帰ってきた。

 

「痛くしてんのよ!この変態!とりあえずとっとと処置するわよ!」

 

「はぁい……」

 

頭を抑えてルルは手術道具を並べていく。

 

鉗子、メスなどと言った常識的なものだけではなく、怪しく蠢く緑色の液体が入ったビーカーらしきもの、人一人が収納できそうな大きさのガラス瓶、そして悪魔像めいた2mほどのオブジェが置かれており、魔法少女二人は激しい不安を感じていく。

 

「あの、ミナちゃん、それは……?」

 

「正霊薬の原料でもあるミジェール草の汁と万一の場合狂った精霊を封じ込める精霊封じの大瓶、後は周囲の精霊力を安定させる悪魔像よ」

 

「「悪魔像!?」」

 

二人がびっくりして声を荒らげると、ミナはフッと笑って「何故悪魔像なのかはわからないわ。ただ、こういう機能があるものとしてとある錬金術師が作ったものよ。ちなみに金貨200枚で買った」と返した。

 

「危険ではないのですか……?」

 

「デザインがおかしいだけよ……」

 

ミナは聞かれ慣れたことであるとばかりに匙を投げ、横たわったかけるに声をかける。

 

「助けられるかどうかはわからないけど、少なくとも今よりはマシにしてあげるわ」

 

母のような目でかけるを見ると、「じゃ、さっさとやるわよ、ルル。正霊薬の点滴を始めて。私は呪いの核を特定するから」と無表情で従者に促した。

 

「承知しました。ミジェール草は?」

 

「精霊が暴走しそうになったらすぐに使って」

 

そうして二人は目の前の少女の治療に専念する。

 

不安げに見つめる少女たちの視線を無視するかのように没頭していく―――

 

 

 

―――2時間後。

 

「……よし。完治は難しいけど、これでどうにか……」

 

ミナはミジェール草で作られていると思われるドクンドクンと蠢くビー玉大の宝珠を開腹したかけるの腹に入れ、肝臓に縫い付けながらそう言った。

 

風化病に侵されている筋肉や神経を浄化し、最後に開腹してミジェール草の宝珠を入れるという手術である。

 

その間、ミナもルルも真の病巣を探そうと魔力と精霊力の痕跡を探していた。

 

しかしながら、それでもミナにもルルにも呪いの核―――すなわち、何故精霊が彼女を害しているのかは全く解らなかったのである。

 

だが、対症療法としての手術はこれで成功と言って過言ではなかった。

 

「それは大丈夫なのですか……?」

 

何度目かもわからない岬の疑問が背中から飛んでくるが、ミナは至って冷静に「活性化させたミジェール草を固めたものよ。少なくとも5年は正霊薬を常に飲んでいるのと変わらない効果がある……まあ、それでも発作というか精霊が活性化したら、正霊薬を投与しなきゃならないんだけどね」と返した。

 

「まあ滅多に起きる発作ではありませんし、彼女は虹の欠片の魔法少女になった。その時点でおそらくは平気だと思います」

 

ルルが処置の結果割と血まみれになったローブを脱ぎ捨てて、杖をかけるに向ける。

 

その腹部はまだ開腹されたままで、少しだけ血液が滴っていた。

 

それをちらと見て、すぐに彼は破壊神へと祈りを捧げる。

 

「破壊と渇望の王、呑み込み食らう我らが神よ。破壊され死に絶え再び生まれくる輪廻より、癒やし直し治し戻す力を死すべき衆生へと与えん。グレートヒール」

 

ルルがそう唱えると、腹に開いた穴も戦闘で傷ついた身体も綺麗に治っていった。

 

そして、ミナが細菌や病原体の侵入に備えて―――

 

「世界を調律する我等が祭神よ。暖かき御手でこの者を包み給え。彼女を阻害するすべてを癒やせ。リフレッシュ!」

 

快癒の魔法を彼女にかける。

 

2つの光が収まると、そこには安らかな寝息を立てるかけるがいた。

 

「はい、これでおしまいです。しばらくすれば目を覚ますと思いますんで、その前にうちへ運んでしまいましょう。体操服の繕いもしなくちゃならないでしょうし」

 

ルルは微笑んで顔についた血をタオルで拭った。

 

「ほ、本当に大丈夫なの?」

 

恋が聞くと、「もちろん。少なくとも発作が起きない限りは衰弱も死ぬことももうないかな、十中八九くらいの確率だけど」とミナはサムズアップをして答えた。

 

「なるほど……虹の欠片さまさまなのですね」

 

「そうよぉ。進行が停止しなきゃ今日使った手術道具じゃどうにもならなかったのだわ。理論上はこうしたら治せる!の類の術式だったわけなの」

 

ミナがそう言うと、「これはグリッチ・エッグでもおそらくは世界初ですよ。虹の欠片についての研究が済めば、これと合わせて論文を学院に提出できるでしょう」とルルも笑った。

 

「まぁ、公開は慎重にするけどね!めんどくさい奴らに絡まれると大変だしね!」

 

ミナとルルはガッツポーズを取って、魔法少女たちに向き直る。

 

「はー……良かったのです。友達が死ぬのなんて見たくはないのです……」

 

岬は脱力して錬金工房に置かれている椅子に腰掛けた。

 

恋もまた地面にどっかと腰を下ろす。

 

手術中、ずっと心配で見守っていて疲れてしまったのだろう。

 

だが、それでもここで休ませておくわけにもいかない。

 

―――かけるはいつ目を覚ますか知れないのだから。

 

「じゃあふたりとも、かけるちゃんのことは任せていいかしら。すぐに体操服繕うから、ね」

 

ミナはそう言って二人にスポーツドリンクを渡した。

 

「はいなのです」

 

ミナが数分で手早く体操服の繕いを終えると、岬が彼女を担いで連れて行く。

 

その背中を見送りながら、「本当に何が呪ったのかしら」とミナは呟いた。

 

「なんとなく想像はつくのですけどねえ。科戸護国神社の神とあの森。そしてこの血……かける殿の出身を洗う必要がありますね」

 

ルルがサンプルとして採ったかけるの血液が入った試験管を振りながら、ため息をつく。

 

「……崎見店長と似たようなもの、か。確かにダークエルフの血脈があるのなら、それが残っているのは一つとは限らない」

 

ミナはそう言ってから、「これもまた冒険だと思って、なんとかしますかぁ」と背を伸ばして唸ったのであった。

 

 

 

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