異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第143話「さすがの僕でもそれは理不尽だと思います」

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一方その頃―――某所。

 

「……なるほど。単純な空間流体の応用では”魔法”を防ぐことは難しそう、だな……」

 

牛込はそう言って、書類を机に放り投げた。

 

「やはりサンプルの確保が必要か。確認できている魔法少女とやらと戦っていたもうひとりを確保したいところだ」

 

眼鏡を掛け直して牛込はデータをPCへと打ち込んでいった。

 

「ところで、君。”財布”のほうはどうだ?」

 

副官らしき若い男へ牛込はそう聞いた。

 

「最近の収穫は少ないですね。やはり30年前と比べると、武器弾薬、物資を強奪されても泣き寝入りするしかない連中の数は減っていますから」

 

「仕方あるまいね。なら”漁獲”のほうは?」

 

眼鏡のブリッジを指で押し上げて、牛込はそう聞いた。

 

「そちらは問題ありません。ウラニウムの海水抽出は順調です。エネルギーの確保は十分できています」

 

若い男は書類に目を落としながらそう答える。

 

その答えに満足したのか、牛込は「よろしい。魔法対策は気長にやりましょう。最初の作戦の決行日も近い」とほくそ笑んだ。

 

「御老公も楽しみにしておられる……」

 

牛込はそうしてまたディスプレイに顔を向けた。

 

「空間流体であれば……この程度は……」

 

声は闇に紛れて消えていく。

 

怪しげな響きを遺したまま……

 

 

 

そうして手術を終えたミナとルルは、薺川博士に挨拶をして研究所を出ると、図書館へと向かってガーゴイルを飛ばしていた。

 

「まあまずはまた図書館で郷土史関連本を漁るのが先決よね」

 

「電子版の確認はお任せください」

 

ミナの腰にひっついたルルの声が聞こえて、彼女は「うん、任せたのだわ」と微笑んだ。

 

「あれだけ完璧に理論通りの治療ができていたのにもかかわらず、僕にもミナさんにも呪いの核である精霊の恨みつらみを見つけられなかったのはなかなかプライドが傷つきましたね」

 

「根が深いものを感じるわねぇ。リムーブカースも効かなかったし」

 

ふーむ……とミナは考え込む。

 

崎見老人と同じくダークエルフの血を引いているとすれば、彼女が魔眼を持っていなかったのは不自然だ。

 

無論発現しない場合もあるが、その場合は大きな魔力を持たずに生まれてくるケースがほとんど。

 

―――地球人であればおそらく一般人と同じように魔法の才能を一切持たずに生まれてくるだろう、というのがミナの予想であった。

 

だが、ミナの見立てでは虹の欠片なしでも彼女には魔力の素養があったのである。

 

なら、魔眼を持っていなかったのが非常に怪しいところであった。

 

「ダークエルフの血が入ってるだけで魔力を持つようになるとも思えないしねえ……」

 

ミナとルルがそう話しながらもガーゴイルは目的地へ向けて飛んでいく。

 

神森市図書館へとたどり着いたのはミナが呟いてより30秒ほどしてだった。

 

林のほうへ着陸してインビジブルと召喚を解き、怪しまれないように図書館の入口を目指す。

 

すると、そこには。

 

「あら、水門先輩にルルさん。お帰りはあちらですよ」

 

初手から辛辣な文が掃き掃除をしていたのであった。

 

「なんの御用です?なにかの騒ぎが起きるんじゃないでしょうね?」

 

「……いや、用事なきゃ図書館来ないし。今は……あ、もう20時か」

 

ミナはスマホの時計を見て、しまった、と声を上げた。

 

「後1時間ほどで当館は営業を終了させていただきます。調べ物ならまた明日にしたほうがいいですよ、先輩」

 

ニコッと笑って文はしっしっと追い払うような手付きを見せた。

 

「はぁ……そうするか。清水さんは残業?」

 

「ええ。子供は空悟さんが見てる時間ですね」

 

箒を柱に立てかけて文は「ちなみにどんなことを調べに来たんです?」と聞いてくる。

 

ミナはその言葉に「実は、岬の同級生がさ……」と事情を話し始めた。

 

「へぇ。影山選手の妹さんが惟神小学校に通っているんですか?」

 

「有名な人なのですか?」

 

口に手を当てて驚いた文に、ルルもまた疑問符を浮かべて質問する。

 

「有名というか……知らないのが珍しいと言うか」

 

文はそうして説明を始めた。

 

曰く、3000メートル障害物走で五輪銅メダルをとったアスリートであり、その親兄弟もなんらかの成果を残した陸上一家なのだ、と。

 

「インタビューで家族に一人だけ”足が悪い”妹がいて、その子を守るのが自分の役目だーって影山選手が言っていたことを覚えています」

 

「へぇ……って、足が悪い?かけるちゃん、普通に歩いてたぞ?オレの手術前から」

 

文の説明に違和感を抱いたミナはそう聞き返してみた。

 

「うーん、私もそれ以上は知らないんですよねえ。何しろ数年前のメダルを取った時のインタビューの話ですし」

 

なんでも影山選手だけではなく影山家はプライベートにマスコミが関わることに激怒するタイプで、これまでにも何度か訴訟を起こしているらしい。

 

おおよそは陸上に関わることのないその妹や母親の記事を書いた週刊誌に対してだという。

 

「ふむ……そんな大事にしている妹の足が治ったって言うなら、少しくらい記事になっていたりSNSの投稿をしていてもおかしくはないな」

 

ミナは男口調でそう自分に言い聞かせるように言って、文の手を握った。

 

「ありがとう、清水さん!おかげで調査の方向性が一つ見つかった!ありがとう!」

 

かつての水門三郎を全く思わせぬ快活な笑顔を向けられた文は「どういたしまして」と表面上は変わらぬ笑顔で返す。

 

そうしてから「その笑顔が眩しすぎてなんだかムカつくので謝罪してください」と表情を全く変えずに理不尽な要求を食らわせた。

 

「えーと……そんなこと言われても、なぁ?」

 

「さすがの僕でもそれは理不尽だと思います」

 

二人に苦笑を返された文は、フッと短いため息をついて「はいはい、ごめんなさい。理不尽なことを言ってしまいましたね。まあ、とりあえず今日はもう帰ったほうがいいと思いますよ。私もタイムカードはもう切ってますし」と返して立て掛けた箒を持って踵を返した。

 

「了解。んじゃ、ありがとう清水さん。また今度」

 

ミナの言葉に文はひらひらと手のひらだけ振って返し、ミナとルルもまた家路へと急ぐのであった。

 

 

 

「あ、帰ってきたのです」

 

ミナとルルが帰ってきた時、居間にいたのは岬一人であった。

 

「おかえりなさいなのです」

 

玄関を開けた二人に、岬は朗らかな笑顔で挨拶をしてくる。

 

その顔に安心して、「ただいま。恋ちゃんは―――帰ったか。かけるちゃんと学校の方はどうだった?」と返した。

 

「問題は―――まあ、あったのですが。概ね警察と消防のアレで。あたしと恋ちゃん、かけるちゃんや先生は校庭外れの林でダウンしてたことにしたのです」

 

岬がガチャガチャと冷蔵庫から、おそらくは岬自身が作ったと思われるご飯のおかずを取り出しながらそう答えて笑った。

 

「まぁまぁ大騒ぎで、学校は1週間休校になってしまったのですが。部室棟はぐっちゃぐちゃ、けが人こそほとんどいなかったですけども、立て続けですからね」

 

そう言った岬は少し残念そうであった。

 

「あー……そりゃそうか」

 

ミナは頭を掻いて、席についた。

 

「……そうなるとまずいですね。学校にメイズ・ウッドをかけただけでは彼女を守れないかも知れない」

 

ルルがお茶を淹れながらそう言ってミナを見つめる。

 

ミナはその視線に嘆息して「おそらくかけるちゃんが魔法少女となったことは改の会にバレたと思う。そうなるとかけるちゃんが拉致されたり攻撃されたりする可能性は十分にあるわね」と唇をへの字に曲げて瞑目した。

 

「それは……困るのです」

 

味噌汁を温め直し、ラップで包んだ煮魚の皿をレンジに入れつつ岬は神妙な顔になる。

 

「そうね、困るわ―――岬、かけるちゃんちってわかる?」

 

「あーそれならわかるのです。水木食材店っていうななかちゃんのおうちの隣に住んでいるのです」

 

岬はパッと笑ってそう言って、「確かミナちゃんもわかるですよね?水木食材店」と返した。

 

「あー、うん。わかる。惟神町と南森町の間っ子にある業務スーパー。思い出鏡の食材も半分くらいはそこから仕入れてるからね」

 

ふむ、と頬に手を当てて足はあぐらをかくと、ミナは「図書館は後回しにして、影山家のほうに行ってみましょうか、漁大くらげ屋の漁がある日は私らバイト休みだから、その日にできれば」と笑った。

 

「かけるちゃんの様子も見たいし、岬、連絡してくれる?」

 

「了解なのです!」

 

ご飯をよそって卓に置きながら岬はそう返す。

 

「予定がどんどん変わっていくわね……明日はシチューの初お披露目だから店には行かないといけないし、うーん……」

 

受け取ったご飯にほうれん草のおひたしを載せて、飯と一緒に持ち上げて口に入れながら、ミナは唸らざるを得なかったのであった。

 

 

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