異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第144話「そ。蹴散らしてあげて」

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―――翌日。

 

新メニューのシチューは概ね好評であった。

 

ワイルドサンドイッチ冒険者風と並んで、嘘みたいな売れ行きである。

 

名前は「冒険からの帰還シチュー」と名付けられたが、これはミナが「シチューは帰ってきてから食べることが多かったから」という理由に基づく。

 

なんとなれば、干し肉を使ったシチューは冒険に出てすぐの野営で食べる料理としては定番なので、行く前に食べるものはあまりいないという事実に基づくものである。

 

「乳製品は保存の魔法がかかった革袋に入れておけば、そこそこ持つんですよ」と崎見老人への説明では言ったものだ。

 

「―――行列ができるまでになるとは思わなかったねえ、ハハハ」

 

ミナの作ったクラムチャウダーをすすりながら、ようやく客足が落ち着いた店内で崎見老人はぐったりとそう言った。

 

「うーん、結構この店SNSで勝手に宣伝されちゃってますねえ。ウェイトレス増やさないと行けないのではないでしょうか」

 

ルルがスマホをシュッシュッとフリックしつつ苦笑すると、「いやあ本当にそれを考えなければならないかも知れないねえ」と微笑む。

 

崎見老人はなんだかんだ言っても80近い老人であり、ぶっちゃけ相当にオーバーワークになっているとミナは踏んでいる。

 

このまま際限なしに客に来られても困るなあ、と苦笑しつつ昼営業で作ったフレンチトーストの余った食パンの耳で作ったパン粥を喰んでいた。

 

「対策は考えないといけないかもですねえ。実際、予想以上の客入りでパンク気味ですし。そうなるとやっぱりエールビールとかはまだ出さないほうが良いか……」

 

この上で酔っぱらいまで出てこられては面倒臭さ極まると思ったミナはそう言ってクラムチャウダーを食べて嘆息した。

 

「まあ私の体のことはともかくですよ。そのご病気の小学生は大丈夫なのですか?」

 

崎見老人はパン粥に塩を少し振り、ミナの顔を見ながらそう微笑んだ。

 

「ええ。今のところは……岬たちのところにはルルの幻影を行かせていますんで」

 

「あまり使いたくない魔法なんですけどね。もう手が足りなくて仕方ないので、目立たないように送り込んでいますよ」

 

ルルがコーヒーを啜りそう答えると、ミナは「流石にアレを突破できるのは……まぁ、SMNの首領くらいじゃないですかね」とパン粥にしなかった食パンの耳をムグムグと頬張りながら答える。

 

ミナの言葉にルルが肯んずる。

 

「拡大は限定的ですが、僕の魔法の殆どを使えますし、物理攻撃は性質上効きにくいので、改の会のゴーレムもどき程度ではびくともしませんよ」

 

ルルの言葉にミナは「と、いうわけなので今日明日でどうにかなるとは思えませんから……」と続けて笑った。

 

その時であった。

 

ルルがその長い耳をピクリと動かしたのは。

 

「―――性懲りもなく、接触を図ってきたようです」

 

「そ。蹴散らしてあげて」

 

ルルの報告にミナは短くそう返して、残ったクラムチャウダーをスプーンで豪快に掬って食べ尽くした。

 

「ふむ……まあ君たちのことだからまた荒事なんだろうが、問題がないのならそれでいいですよ」

 

崎見老人も食べ終わって食後のコーヒーに移り、後30分ほどの休憩時間をゆっくりと寛いでいた。

 

「全く、くだらない理想よりもゆったりとした寛ぎと胸躍る冒険のほうが何万倍も良いでしょうにね。人の考えは人の考えだけれども」

 

ミナはコーヒーの香りを楽しみながら、ようようと春を終えようとする店外の景色をおろがむかのように見つめたのであった。

 

 

 

―――そしてその頃。

 

『しつこい。君たちは本当にしつこい。よくもまあこの地に訪うものだ。死以外に君たちを待つものはない』

 

少しばかり攻撃的な作りとしたルルの幻影は、手を払うかのように薙ぎエネルギーボルトを培養兵へと降り注がせた。

 

『……!』

 

4体、純粋な魔力の矢を受けて炭になって消えていった。

 

『―――まだやるかい?メイズ・ウッドがかけられた校舎にも水門家や一ノ瀬家にも近寄れないから、岬さんや恋さんがかける殿の家へ往くところを拉致しようだなんて、不愉快極まる』

 

ルルの分身は、そうしてジリジリと下がる培養兵たちを睨めつける。

 

住宅街の真ん中で襲いかかってくる辺り、余程メイズ・ウッドの敵意忌避効果で近づけなかったことが焦りになっていると、心無い培養兵たちの後ろに感じた彼はニンマリと笑った。

 

『それでもかかってくるなら……いいよ?遊んでやる。お前らは―――僕のおもちゃだ』

 

人差し指で一人ひとりを指しながら、ルルの分身はアハ、と短く笑った。

 

『潰れちゃえ★世界を支配する偉大なるロジックよ。彼らを大地に繋ぎ留めよ。その軛で跪かせよ―――フォーリングコントロール』

 

彼は重力制御の魔法を―――おそらくは最大級の出力で放った。

 

すると、すぐにも効果は現れ―――彼らは自重を持ちこたえられなくなり、やがて地面へと突っ伏した。

 

『どうかな。今、君たちの身体は10倍以上の重さになっているよ?そろそろ潰れても良いんだよ?あはははははは!』

 

哄笑が響く中、培養兵たちは自壊処理を行って炭となり消えていく。

 

笑いが収まったルルの分身は『つまらない、つまらない、くだらない』と呟くと浄化の魔法を唱えて炭を消し、服や銃器、爆発物を回収していった。

 

『……ふん』

 

パチン、と指を鳴らすとそれまで殆どなかった音が返ってくる。

 

彼は遮音の魔法で中と外の音を遮断していたのであった。

 

『どれ、二人は―――無事なご様子。やれやれいつまで続けていれば良いものやら』

 

これで襲撃は3度目。

 

―――そろそろ終わりだとは思うが、油断はしないようにして、みんな潰してしまおう。

 

ルルの分身はそうして、また姿を透明にして岬たちの後をつけていった。

 

かけるの家まで、後10分ほど。

 

楽しげに話している二人を見て、ニコリと笑って静かに気取られないようについていくのであった。

 

 

 

「いやっほーう!恋ちゃん、岬ちゃんおっはよう!!」

 

一足早い夏休みとでも思っているのか、水木食材店のあたりまで来た岬たちはななかに後ろから元気に声を掛けられた。

 

その格好は……まだ4月末なのに半袖短パンに小さい麦わら帽子というずいぶん古い時代のテンプレ男の子夏休みそのものの衣装である。

 

「おはよう!」「おはようなのです―――ってなんです、その格好?虫取りにでも行くのですか?」

 

「ご丁寧にまぁ……虫取り網まで持っちゃって」

 

恋がちょいちょいと指さすが、ななかはどこ吹く風で「そりゃもうね!ほら、この休校で夏休みが少なくなるって言うし!一足早くこう、虫取りをしようとおもって!」と無邪気にぶんぶんと網を振った。

 

「いやー流石にカブトムシもクワガタもいないと思うのですけど……」

 

岬が肩を落としてたはーと苦笑すると、「ふっふっふ……そんなこともあろうかと、幼虫を探すためのスコップもあるのだぞ!」とテンション高くスコップを取り出してニヤリと笑った。

 

「……お、おう……あ、そうだ。夏休みの代わりだっていうんならさーちょっと考えがあるから、ななかちゃんも一緒に行こうよ。かけるちゃんも誘ってるんだよね」

 

恋がそう言うと、「プール!?やってるところあんの!?」と身を乗り出してきた。

 

「あ、ああ……そろそろGWに入るだろ。それに合わせて温水プール付のスーパー銭湯がオープンしてるんだってさ。それで今日はかけるちゃんを誘いに来たわけ」

 

恋はどこから手に入れた物か、タダ券と思われるチケットをぴらぴらと5枚ほど見せびらかしてニッと笑った。

 

そしてすぐに「水着取ってくる!」と叫んで家―――というか水木食材店の中へ飛んでいった。

 

やがて母親なのか、姉なのかはわからないが女性とななかの言い争いの声が聞こえてくる。

 

きっと急に水着なんて言われてもお母さんだって困るだろうな、と岬はフッと笑った。

 

やがて頭にたんこぶを作ったななかが水着入れらしいアニメキャラのプリントが入ったビニールバッグを手に「お待たせ!」と飛び出てくる。

 

その様子に岬は思っていた。

 

―――休校と言っても7日だけなんですけどねえ。そのままGWに突入するだけなのです。子供は元気なのですねえ……

 

そんなおばちゃん臭いことを。

 

 

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