異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第145話「またおばさんくさいこと考えてるでしょ、岬ちゃん」

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―――そうしてそして。

 

「ここがかけるちゃんの家だぞ!」

 

ななかがそう言って何故かVサインを見せてきた。

 

そのVサインの向こうには……

 

まぁまぁ普通の家があった。

 

ただし、庭をちらと見ればなんだかトレーニング機器らしい様々なものが転がっている。

 

その様子にそこはかとなく不安を抱きつつ、岬はインターホンのスイッチを押した。

 

するとすぐに「はーい」とかけるの声が聞こえてきた。

 

そして、用心深いのだろう、ドアを開けないまま「どなたですかー?」と誰何の声を上げる。

 

「岬なのです。恋ちゃんとななかちゃんもいるのです」

 

岬の言葉に、「あ、やっと来てくれた!」と明るい声が聞こえてきた。

 

「どうぞどうぞ、入って待ってて!今、水着を取ってくるよ!」

 

どたどたとななかと同じように家の奥へ入っていって、そして―――

 

「プールか!それはいいな!!足にもいいし、全身にいい!」

 

凄まじい大音声が聞こえてきたのである。

 

「―――!?」

 

ビリビリと大気を震えさせるような大声に、岬は一瞬震え上がり、思わず杖を出そうとしてすんでのところでやめていた。

 

「なんだ今の……」

 

恋も同じであったようで、全力で身構える。

 

「おにいちゃん声でっかいよぅ!!」

 

―――次に聞こえてきたのは、同じくらいの大音声のかけるの声であった。

 

「何を言うッ!!陸上選手にとって肺活量とは生命の中の生命ッ!!声の大きさは肺活量にも繋がるんだッ!お前もまた俺たち影山の勇者!勇気ある者なら声を張り上げるんだッッ!!」

 

大音声は続く……その声を聞いて岬は「……なんですかね、これ。勇者王?」と言って、恋に「勇者王はそんなこと言わないよ……」と返されて、お互い深いため息をつく。

 

「ななかちゃん……あれってなんです……?」

 

「ん?あー、かけるちゃんのおにーちゃんはいつもあんな感じなんだぞ。インタビューとかもすっごいやかましいんだ!オリンピックで銅メダルを……えっと、何歳だっけ?」

 

ひぃふぅみぃ、と指折り数えるななかに恋は「確か18んときだよ」と教えてあげて、ななかは「そうそれ!」とニコニコ笑って恋を指差した。

 

「まあそんな芸風で売ってるらしいし、いいんじゃないですか?」

 

がちゃりと玄関を開けて入ってきたのは―――とおるである。

 

「あれ?とおるちゃんも?」

 

「ううん。かけるちゃん、事故の日早退しちゃったから宿題のプリント持ってきたんだけど……なんの騒ぎ?」

 

きょとんとして奥から響いてくる兄弟喧嘩の大音声を聞きながら、そう言った。

 

「いつものだから気にしないでなのだ!」

 

ななかがハッハッハ!と大声で笑いながらそう言って、とおるは「ああ、いつもの」と苦笑いをする。

 

「……あたいがあの人と一緒にバラエティに出たときはあんな感じじゃなかった気がするんだけどなあ……」

 

恋が耳をほじりながらそう言うと、「女の人と会うときは老若問わずに紳士になるって」ととおるが答えた。

 

「んぁー……めんどくさそうな方なのですねぇ……」

 

岬はそうしてメガネを外して布で拭いてまたかけると、盛大に溜息をついた。

 

「あ、そうなのです。あたしと恋ちゃん、かけるちゃんでこれからプールに行くのですよ。ななかちゃんも行くみたいなのですが、とおるちゃんはどうしますです?」

 

「でも、私持ち合わせが……」

 

「だーいじょーうぶ、水着もレンタルできるらしいし、何よりタダ券はなんと5枚ある!」

 

恋がタダ券を見せびらかしてニヤリと笑った。

 

「う、うーん……まあ、うん。突然のお休みでやることもないから、うん。お言葉に甘えようかしら」

 

一瞬悩んだとおるはそうして恋にぐっとガッツポーズを返して微笑み、タダ券を見せてもらった。

 

「あ、これ……市営プールじゃなくて、東森の自衛隊駐屯地の近くに出来たやつね?」

 

とおるがそう聞くと岬は「そうなのです。森果の普通科連隊の基地とは別の第16特科隊がいる基地の近くなのですよ」とパーカーを翻してサムズアップを返す。

 

「危なくない?」

 

「自衛隊が危ないなら、列国の軍隊は全部チンピラかなんかの集まりなのです。普通は自国の軍隊が攻撃してくることはないので、危ないと言えば危ないですけど、翻って最も安全な存在ですよ」

 

とおるの不安げな顔に、岬はそう返して二人のメガネっ娘は一瞬にらみ合うが、「そう言う意味じゃないんだけど……何かあって出動とかなったら怖いし……」ととおるが言うと「まーさかー自衛隊、それも特科隊が出動することなんてそうそうあるはずないのですよ、あっはっは★」とおばさん臭い叩くような仕草で手を振ってケラケラ笑うのであった。

 

―――そしてしばらく。

 

やがて、家の奥の喧騒がこちらに向かってくることが岬の強化された感覚ですぐに分かった。

 

「だからやめてってお兄!ボクが恥ずかしいんだから!」

 

かけるの声。

 

「なんだそんなことか!俺は恥ずかしくないぞ!何しろ結構な有名人であるという自負はある!」

 

彼女の兄の声が響き渡っている。

 

そしてドカドカとでかい足音を響かせながら、その男―――3000メートル障害物陸上五輪銅メダリスト、影山総司は岬たちの前に立ったのであった。

 

「君たちがかけるの友達か!かけるのことをよろしく頼む!!かけるは生まれつき身体が弱かった!最近はマシだが俺は心配だ!この影山総司たっての願いだ!かけると仲良くしてやってくれ!!」

 

大音声でそう叫ぶかのように話す男に、恋は面食らってしまう。

 

この中の誰よりも一層面食らってしまった。

 

なぜなら、彼女はバラエティ番組などで彼と共演したことがある、と言う前言のためである。

 

「……お、お久しぶり、です……?」

 

「ああ、テレビ番組で一緒になったアイドルの子だな!あの時はすまない!俺も親やコーチから素を出すなと厳命されていたのだ!」

 

「あー……つまり、お兄さんのあの大人しさっていうか、大人びた印象と熱血さがあいまったような感じは……」

 

恋が気付いて肩を落とす。

 

それに追い打ちをかけるがごとくに、総司は「そう―――そのとおりッ!アレは俺がいつも声がでかいから、外では意識的に心がけているだけのことなんだ!」と呵々大笑する。

 

「うへー……マジすか?」

 

「マジもマジッ!俺には親しい人間やその友へ吐く嘘はないッッ!!」

 

恋は何故か深くショックを受けて、うずくまってしまう。

 

「ほらぁ!友達も知ってるんだから、素で行ったらショックだってボク言ったじゃぁん!!」

 

その様子に後から水泳道具を持って現れたかけるが絶叫する。

 

「―――何故だ?」

 

急に真剣な顔つきになってかけるを見つめた青年は、そのままかけるの瞳を食い入るように見つめたままフリーズしてしまう。

 

「……そんな悲しそうな顔しても駄目!ななかちゃんは良いけど、毎回とおるちゃんが怖がってるんだってば!!」

 

かけるが両腕を床の方に突き出して拳を握りしめる。

 

どうも、今までもこの青年の無意味な熱血さに苦労しているようであった。

 

「もういい!お兄ちゃん、嫌い!ボク、プールで泳いでくる!バカ!!」

 

ぷい、と頬を膨らませて兄からそっぽを向いた少女を見た青年は―――

 

「ぬ、おお……うおおおおおお!!!」

 

叫び、滂沱の涙を流して膝から崩折れる。

 

「ふん!その大声をボクの友達の前でするのをやめない限り、今回は許してあげないんだからね!」

 

かけるは追い打ちをかけて、呆然と見守る友人4人に「ごめん、うちのバカお兄がアンポンタンなこと言って……特に恋ちゃんには言っとかないとだったよ」と頭を下げた。

 

「いえ、あたしはいいのですが……」

 

「うん、あたいも良いんだけども……」

 

岬と恋は困った笑顔で、かけるの後ろを見る。

 

「ウゴオオオオオオオアアアアァァァオオォォォォッッッ!!!俺は!俺はァァァァ!!!」

 

泣き叫んで転げ回るメダリストの姿を見つめつつ、「「あれどうすんの」ですか」と聞くことしか出来ないのであった。

 

 

 

結局、機嫌の良いかけると一緒に四人は、彼女の兄の絶叫をBGMにスーパー銭湯へと向かうこととなった。

 

あのでかい声には苦情はないのだろうか、と魔法少女たちは内心で心配するが、知らず魔法少女になったと思われるかけるは「いつものことだよぅ」と恥ずかしげに笑う。

 

「いつものことなのかぁ……」

 

「いつものことなのだ」

 

恋のうんざりした吐露に、ななかはニコニコとそう答える。

 

「うん、割と有名かな……ここらへんでは。メディアには流れてないと思うけど」

 

とおるがそう言った時点で、岬はため息をついて「みなかったことにしますです」と天を仰いだ。

 

「うちのバカお兄は何度言っても家族の前ではあれをやめてくれないんだぁ……ボクはやめてほしいんだけど、ね。お父もお母も止めてくれないし」

 

かけるはそうしてハァとため息をついた。

 

「まあでもあそこまでいったから、1週間位はおとなしいと思うんだ」

 

たはー、と笑って水着バッグをぶんぶんと振り回す。

 

「なるほどですよ―――とりあえず今日は楽しみましょう」

 

岬がそう言った時、東森へのバスが到着した。

 

『東駐屯地行き~発車しま~す』

 

バスの自動音声がそう言って、バスは動き出す。

 

目指すは東駐屯地停留所の一つ前、森ノ緑停留所である。

 

「さて……プールも楽しみですけど、実はお風呂も楽しみなのです」

 

―――そして、実はお風呂のほうが楽しみなのです。

 

そんな事を考えていた岬に、恋は「またおばさんくさいこと考えてるでしょ、岬ちゃん」と聞かれて、彼女は「そ、そんなことは!?」と返すことになったのだった。

 

 

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