異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

146 / 333
第146話 「女同士でも!子供同士でもこれはセクハラ!」

-146-

 

「……お城?」

 

「……城だな、これは」

 

岬と恋はその城塞みたいな出で立ちのスーパー銭湯の前で、その威容を眺めていた。

 

見た感じシンデレラ城みたいな西洋の城が熊本城みたいな和風の城の真ん中に生えている、というわけのわからない物体であった。

 

店名は「スーパー銭湯・洞森の湯」とデカデカと看板が飾られている。

 

―――無論、常識的な大きさには見えた。

 

見えるのだが、何故こんな出で立ちにしているのかは岬にはさっぱりわからない。

 

周辺には自衛隊基地と田んぼくらいしか見当たらず、ちょっと目を凝らすとミナが壊滅させた結果、解体を待つばかりとなっている集政党支部の存在も見て取れる位置だ。

 

「……ろくに調べないで来たほうが面白いとは思ったけど」

 

「これはちょっと予想外なのです」

 

呆然とする二人をよそに、とおるがスマホでペコペコと調べているのに気付いたのはその直後。

 

「建屋面積13000平方メートル、東京ドームのグラウンドとほぼ同じ大きさ……4階建て、20種類の内湯、4種類の露天風呂に50mプール……」

 

「なんで去年までチンピラだの半グレ共がたむろってた街にこんなでっかいスーパー銭湯……銭湯?ができたんですかね……」

 

とおるが並べる文言に、岬は驚愕のあまり静かな口調になってそう宣った。

 

「なーんか、その前から計画はあったみたいですよ。半グレと言うか、反社団体を一掃する作戦的なのが用意されてたとかなんとか。それでここを建設する話が出たとか」

 

とおるが訳知り顔でそんな事を言っているが、岬にはそれがネットで拾った都市伝説の類であるとわかっていた。

 

―――ネットロアが出現するほど、実際に半グレ暴走事件とその顛末は不可解なものである。

 

即ち、100人以上の行方不明者と同じく100人以上の精神疾患患者が現出し、更には集成党の支部が崩壊してその機密文書がネットに大量に流れるという前代未聞の顛末は、憶測を呼ぶのに十分なものだろう。

 

とおるの言っていることは結果論に近いな、と岬は思って再び城のようなスーパー銭湯を眺めた。

 

「4階建てで天守閣やシンデレラ城もどきの部分に数室宿泊できる部屋があるようですね」

 

とおるがまたそう言って、スマホをしまう。

 

「気後れしていても仕方ないのです。ご飯とかは足りなければあたしがお金を出すので、まぁまぁ安心してほしいのですよ」

 

―――そう、岬は元の身分で失踪する前に、なけなしの貯金を全部おろしているので、小学生としては過大なほどに現金を持っているのである。

 

普段はミナの無限のバッグで管理しているが、今日はそこから3万円ほどもらってきた。

 

岬曰く、最強のタンス預金である。

 

「あたいもお金は持ってきたから大丈夫。それより小学生だけで入っていいかが問題だと思うよ」

 

恋も自分のショルダーバッグから重そうな財布を取り出して唇を曲げた。

 

「うーん。まあいいのです。入ってみればわかるのですよ」

 

「おう!とつげーき!!」

 

岬の言葉にななかがまず駆け出した。

 

それを追ってかけるも「待ってよぅ!」と走り出す。

 

恋と岬、そしてとおるはその様子に顔を見合わせて肩をすくめ、そして足早に二人の後を追うのであった。

 

 

 

「はーい、お父さんやお母さんはいないのかな?」

 

眼鏡をかけたポニーテールの受付さんが入場券を差し出した小学生5人にそう返した。

 

それに対して顔を見合わせた岬は「今日は友達だけで来ましたですよ」と言ってにぱっと笑った。

 

「そう……迷子になったりしないでね?何かあったら私達店員さんに言ってください。それじゃあ、5名様無料券で登録します。タオルは大丈夫?」

 

お姉さんに言われて、「はーい」と5人は元気よく返事をした。

 

「私は水着をレンタルしたいです」

 

とおるがそう言って、券売機で購入した水着レンタル券をお姉さんに渡す。

 

すると、すぐに小学生用の水着が彼女に手渡された。

 

「返すときは、プールの入り口においてある回収ボックスにどうぞ。それじゃあごゆっくり」

 

そうお姉さんに促されて、5人は中へと入っていく。

 

平日であるせいか、人はそこまで多いわけでもないが、地方都市であることを思えば結構お客さんは入っていた。

 

「んじゃぁ、プールは地下だから、こっちの階段だな」

 

恋が先導して地下へ続く階段を降りていく。

 

更衣室も真新しく、掃除が行き届いていた。

 

「うちの学校のプールとは大違いだなー」と言ったのはななかであった。

 

「そんなになのですか?」

 

岬が聞くと「そうなの。毎年のプール開きでプールはみんなで掃除するんだけど、更衣室は他の部活でも使うからかお掃除がね……」ととおるが答える。

 

「端っこの方とか真っ黒なんだよ。もうクレンザーとか使っても落ちないんだ。ボク、あそこで着替えるの不気味だし嫌なんだぁ」

 

とおるが少しうんざりとしてそう言って、自分のロッカーを見定めた。

 

惟神小学校は公立の小学校であるためか、清掃業者などが入ることはなく、もっぱら用務員のお爺さんお婆さんと教師、生徒たちによる清掃が行われてはいるが十分ではないらしい。

 

「こないだの……なんて言えば良いのか、部室棟が壊れた事故で更衣室もなんか壊れちゃったってお母さんが言ってたから、もしかしたらきれいになるかも」

 

―――胸像の化け物が暴れた事件は、恋の忘却魔法によって爆発事故が起きたというふうに周囲の人間の記憶が書き換えられていた。

 

もちろん事故を調査している警察は、そんな単純な爆発事故ではないことはわかっているだろう。

 

空悟が疲れた顔で「派手にやったなあ」と苦笑していたのはこの間のことだ。

 

「とはいえ、プール開きまでに更衣室が直るかは微妙なところなのです」

 

岬は、おそらく更衣室も部室棟も今年は使えないだろう、と思っていた。

 

そう、役所や公立学校の予算は年度でかなり厳密に決まっているため、修繕の予算を超過するのであればそれは今年度中には修理不能なのである。

 

そしておそらくはあのぶっ壊しっぷりだと、まず新築になるだろうから……何年先になるかもわからない、と岬は踏んでいた。

 

「まぁプールは壊れてないですし、しばらくは普段の体育の時間と同じく空き教室で着替えになるのでしょうです」

 

岬が上着を脱いでロッカーに入れながら、そう言って笑った。

 

「しばらく、かあ。卒業まであの更衣室壊れたままだったら良いのに」

 

かけるがそうして下着を脱いで、手早く水着に着替えていく。

 

水着を持ってこなかったとおる以外は学校指定のスクール水着で、とおるだけは受付で借りた水着を着る。

 

「……胸がきつい」

 

年にしては発達した乳房をそのフリル付きの可愛い水着に押し込みつつ、とおるはハァとため息をついた。

 

「ふむ……あたしも少しきついかもしれないのです。夏まで持てば良いのですが」

 

岬も同じように―――そう、このロリロリした姿になる前はそれなりに女性らしい体型をしていたためか、少し胸が大きくなってきたような気がしていた。

 

ふと思い出し……そういえば小学生を卒業するくらいから、前も胸が成長してたですね、と本物の小学生だった頃を思い出して苦笑し―――

 

羨ましそうに見ているぺったん娘3人の視線にぶつかった。

 

「……何?」「む、胸を凝視しないでほしいのですよ」

 

とおると岬はその視線にそうして抗議する。

 

岬は胸を手で覆って、とおるは逆に突き出すように腰に手を当て胸を張って。

 

「いや、羨ましいなって。あたいの母親もぺったんだったから、あたいも多分おっきくならないし」

 

肩をすくめて恋が笑う。

 

そうこうしているうちに、他のぺったん娘二人は彼女らの後ろに回って、そして―――

 

「ちょっと……揉まないでよ」

 

「あのぉあたしそういう趣味ないのですけど?」

 

かけるは岬の、ななかはとおるの胸を後ろから掴んで揉み出したのである。

 

「ぬぅ~!またでかくなってるッ!」

 

「ちゃんと揉める……羨ましいよぅ……」

 

ななかとかけるがそんな事を言ってきたので、岬はその身体能力でするりとその拘束から抜けて、かけるの頭を軽くチョップした。

 

「痛いよぅ」「痛くしているのです。親しき仲にも礼儀ありなのですよ」

 

ミナがルルにしている仕草を真似てそう言ってやると、「はーい。今度からは許可もらってからやるよぅ」とわかってるんだかわかっていないんだかわからない答えが帰ってきた。

 

―――とおるを見れば、慣れているのだろうか。

 

すぐに手を後ろに回して、ななかの腹の肉を掴む。

 

「いたたたたた!?」「いい加減にしてって言ってるでしょ、ななかちゃん……ほんと、岬ちゃんの言う通り。親しき仲にも礼儀ありだよ?」

 

腹の肉を思いっきりつねられたななかは痛みに悶絶してとおるの胸から手を離した。

 

「女同士でも!子供同士でもこれはセクハラ!」

 

「せくはらってなんだぞ……?」

 

お腹を抑えてロッカーにもたれかかるななかは、そう言ってとおるの言っていることがわからないと涙目で訴える。

 

その態度にとおるは耳をぐいと引っ張って「胸とかお尻とか触るのは、性的嫌がらせ!セクシャルハラスメント!略してセクハラ!」と耳に注ぎ込むように言葉を放った。

 

「わかったぁ!わかったから耳元で叫ぶのはらめぇ!」

 

ななかがそうやって逃げようとするのをとおるは「次はないからね!」と締める。

 

その様子に岬は「うーん、仲が良くて羨ましいのです」と二人には聞こえないように呟いた。

 

かけるもまた「またふたりの世界に入っちゃった……」と言って水泳帽をかぶる。

 

「岬ちゃんたちが来てからはあんまりやってなかったけど、時々こんなふうになるんだよ、このふたり」

 

かけるは呆れたようにそう言って、プールへと歩を進めた。

 

「あれ?かけるちゃんはレジャープールでも水泳帽かぶる派なのですね?」

 

「これがないとなんか落ち着かなくて」

 

「あたいもかなあ」

 

とりとめのない会話を交わしながら三人はプールへと向い、そしてそれを追ってななかたちも駆けていくのであった。

 

 

 

どんな日常回が読みたいですか?

  • メインキャラのエピソード
  • サブキャラのエピソード
  • 敵キャラについての深掘り
  • その他(活動報告にコメントお願いします)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。