異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第149話「グギギギギギギギ……!」

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―――違和感を再び感じたのは、レストランブースを出ていくときであった。

 

「―――!」

 

岬は周囲を見回し、しかしそこには誰もいない。

 

入口近くの席でビールを飲んでいる髪を短く刈り上げたおっさんしかいない。

 

「……気のせい、ではもうないですね。何かがこちらを見張っている」

 

「マジか。ミナねーちゃんがつけてくれた護衛じゃなくて?」

 

岬が恋に耳打ちすると、彼女はそう返して怪訝な顔つきになる。

 

「ルルくんや使い魔だったらこんな剣呑な気配はしないのですよ……とにかくいつ魔法を使ってもいいようにしておきましょうですよ」

 

岬はそう言ってから、かけるたちを守るようにその後ろについていく。

 

恋もまた同じくそうして、一瞬だけ後ろを向いた。

 

―――そこに見覚えのあるものがいた気がしたが、それは気のせい。

 

黒い髪の少女が一人、レストランブースの中に入っていくのが見えただけであった。

 

 

 

それから30分ほど後。

 

レストランブースから出てきた黒髪の少女は、ぶちぶちと誰にも聞こえない小さな声で文句を言い続けていた。

 

「畜生畜生畜生畜生メグミめメグミめあの軽薄尻軽トンチキ大馬鹿大阿呆糞女郎が………」

 

その文句の大半は―――メグミ、という少女に向けられていた。

 

ということは、である。

 

「このクロキがこのクロキがメグミの代わり?メグミの代わりだと!?おのれおのれおのれおのれおのれ―――」

 

そう、彼女は最初に岬、恋と交戦した魔法少女のクロキである。

 

しかし、その出で立ちは変身が解けた時に二人が見たものとは全く違う。

 

海藻のようにウェーブがかった髪はストレートに伸ばされ、ツインテールとなっていた。

 

「グギギギギギギギ……!なぜだ!なぜこのクロキが……!メグミの代わりに新たな魔法少女のスカウトなど……!」

 

青筋を立てながら、髪型を変えて眼鏡を外しても地味目の印象を拭えない少女は静かに怒り狂う。

 

―――なぜそうなったか、その顛末を記しておこう。

 

SMNのアジトで、ほんの1日前のことである。

 

「……どうやら干渉があった。公的機関が魔物の出現を機にオリジナル共が通う小学校をしばし休校にしたようだ」

 

「そればかりではないですよ~私の……がいる老人ホームとか小学校とか、なんか入りづらくなっちゃってるんです!変身しようとするとなんか変なのに攻撃されるんですよ!!」

 

イェカの言葉に、傅いているメグミが叫ぶように言って青筋を立てた。

 

「それは本当ですか、イェカ様」

 

マコが顔を上げてそう聞くと、イェカは「残念ながら、な」と物憂げに指で頬を軽くつねる。

 

「夢でも幻でもないらしい。作戦不能―――とは言わんが、抵抗を覚悟しなければならん地域が出来たということだ」

 

それはミナの使ったメイズ・ウッドの効果であり、迷わせるだけではなくその効果範囲で攻撃的な行動が行われれば、ドライアードによる魅了と鎮静が行われるようになっているのだ。

 

以前の―――邪神によって変異した猫のようにそれらの攻撃が効かないケースを除いて、である。

 

「そのため、我々は連中を魔法無しで捕捉する必要が出てきた。幸いにして、オリジナルやミストレル・レン、そして新たに現れた魔法少女はしばらくは惟神小学校に近づくことはあるまい」

 

イェカはファンシーでマジカルな装飾が成された情報端末を操作し、神森警察署や市役所の情報を検索する。

 

「休校の延長……場合によっては学期中は分散授業やリモート学習とする検討を市は行っているようだ」

 

イェカはため息をつく。

 

「メグミの家族のいる老人ホームもまた、化物たちによって……あえてこう言うが、『異界化』している。そのため、メグミは一旦スカウトの任を離れ、家族のそばにいるがいい」

 

イェカの言葉にメグミは「あ、ありがたき幸せです!」と平伏する。

 

「家族を思うのは当然のこと……私の役にお立ちなさい。では、面を上げて」

 

そういうイェカの目はある意味で冷酷さを感じさせた。

 

その目を直接見ていたマコは怖気を振るう。

 

(……きっとイェカ様が守ってくれるとしても、私達の直接的な家族程度までだろう……恐ろしい……それもいつ……)

 

その思考を遮るように、イェカの言葉が投げかけられる。

 

「では、スカウトの任はどうすればいいと思う、マコ?」

 

柔らかな笑みを向けられて、マコは一瞬硬直するが、時間にして0.1秒もなくその態度はいつもの忠誠心溢れる様子へと戻った。

 

「はっ!メグミは変身前も変身後もどちらかと言えば目立つ容姿です。きっと1度目の失敗でオリジナル共も警戒しているでしょう。ここは地味目のクロキに行ってもらうべきかと」

 

マコが自信たっぷりにそう提言すると、イェカは満足そうにうなずいた。

 

「クロキ……貴女には前回の失態分があります。頑張ってきなさい」

 

隅で待機していたクロキにそう声をかけると、クロキは数瞬逡巡して「承知いたしました、イェカ様」と感情をなるべく表に出さないように努力しているとわかる声音で回答する。

 

「ふふ……中間テストにまで影響を及ぼすつもりはない。交代要員は用意しますよ」

 

イェカは明らかに不満そうな地味少女に、そう笑いかけると椅子から立った。

 

「では……行動し、新たなる魔法少女のスカウトを正しく行いなさい。いいですね?」

 

そうしてイェカとマコは店の準備のために部屋からすたすたと出ていく。

 

残されたのは―――

 

「おい、どういうことだメグミ。あんたの仕事だろうが……!」

 

「イェカ様に逆らうのかな~?こっちだって化物共にナメられて苛ついてんだから、そういうふうに突っかかってくるの、やめてよね」

 

剣呑な雰囲気を撒き散らす二人の魔法少女。

 

しばしにらみ合いを続けた二人は、やがてクロキが根負けしたかのように「ふん!」と鼻息一つを残して踵を返した。

 

そうしてイェカへの挨拶もそぞろに少女は店の通用口から外へ出ていく。

 

その様子を見ていたマコは「……提案しておいて何なのですが、あれでよかったのでしょうか」とケーキの仕込みを始めた主へと問いかけた。

 

「いいの。クロキとチカは戦う任務しか好まないから、それはいずれ問題になるもの」

 

ベーキングパウダーをふるいにかけながら、少女は笑う。

 

「まあ、戦闘しかどうしても出来ないというのであれば……私にも考えがある」

 

一瞬だけ冷たいものを感じたマコが振り返ると、その笑顔はいつものもの……

 

その様子に空恐ろしくなった彼女は、ただ無心に卵を割っては黄身だけをボウルに入れていく作業に戻るのであった。

 

上記の顛末にて慣れないスパイめいた任務を行うことになったクロキはすこぶる不機嫌であったのである。

 

「ぐるるるるるるるるる……!」

 

喉から唸り声を発しながら歩き去っていく少女に、何人かの老人は何事かと振り向いて彼女を見るが―――

 

「がぁぅ!」

 

その獣じみた様子に、これは話しかけるべきではないと判断したのか、そそくさと目的の場所へと皆去っていく。

 

「見てろよ、メグミ……あとで絶対落とし前つけてやっからな……!」

 

低く、低く、その声が空間に残され、やがてレストランブースの入口付近には誰もいなくなっていたのであった。

 

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