異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第15話 「やっべ!逃げるわよルル!」

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翌朝。

 

その日の朝、ミナは夢を見なかった。

 

見なかったが、それでも寝ている間に涙が止まらなくなっていたようで、枕がしとどに濡れていたのが気味が悪かった。

 

完全にうなされている様子だったためルルが何度も起こそうとしたのだが、ちょっとやそっとで起きなかったらしく、遂に少年は彼女のパジャマを脱がそうとしたようだ。

 

当然そこまでされて起きないわけもなくミナの大目玉を食らい、彼は現在のところ部屋で逆さ吊りになっているはずである。

 

逆さ吊りにまでされたのは、興奮しながら脱がそうとしていたからだ。

 

彼がもし真面目な顔で脱がそうとしていたなら逆さ吊りにはされなかったであろう。

 

母を見送り、朝食の片づけをしながらなんとなくテレビをつける。

 

惟神テレビではなく、東京キー局系列の地方局である。

 

『**は**で政権が……』

 

全く頭に入らないどうでもいい政権批判が流れてくる。

 

相変わらず集成党の大不祥事の報道はなく、半グレ暴走事件も小さな扱いであった。

 

「うーん……今日も駅周辺の探索してみるかなあ」

 

大したニュースがないことを確認したミナはチャンネルを惟神テレビに変えて居間に座る。

 

今は10年ほど前に局オリジナルで制作したご当地特撮ヒーロー番組「戦え!ゴッドフォレスターX」が画面に映っていた。

 

『おい待てェ!てめえらの悪事はこの俺が許さねえ!かかってきやがれ悪党ども!!』

 

「うーん、相変わらず安直な名前に違わぬ直球昭和ヒーローめいたストーリー……」

 

主役の科戸風大弥が変身したところでテレビを消す。

 

べりん、と醤油せんべいをかじり十分に咀嚼して飲み込んだ。

 

そうして乾いた口中を潤すため、ポットからお湯を湯のみに汲んで飲むとごろんとその場で横になる。

 

「こりゃあ夢魔かなんかの仕業ってことも考えないといけないな……」

 

倦怠感が彼女の瞼をゆっくりとおろしていく。

 

そのまま、彼女は眠りに落ちていった。

 

 

 

幽霊戦車の話題がSNS上で取沙汰されるようになったのはその日の昼のうちであった。

 

例の酔っぱらいのおっさんがスマホで写真を撮っていて、それがSNSで拡散し始めたのである。

 

写真はそれなりに鮮明で、しかし蒼白い男は写っておらず、半ば与太話とされていた。

 

しかし、軍事クラスタではこれが本物の九七式中戦車ではないか?という検証が既に行われている。

 

酔っぱらい親父はああ見えて情報機器を使いこなしているようで、実名でこそないが写真やら旅行先やら、個人の特定が十分可能な情報をアカウント上に披露していたこと、そして彼は軍事どころか歴史すら話題に出しておらず、九七式中戦車のCGやレプリカなど作る動機も技術もないことが不気味な信憑性を醸し出していた。

 

「……うちのチハたんじゃないからスルーで」

 

「そういうわけにいくと思います?」

 

「いかないわよねッ!知ってるのだわ!!」

 

この情報を受けて、ガー!と腕を振り上げて涙目になるミナであった。

 

「太平洋戦争で戦死した苗字のわからないツヨシさんとその人を想って泣き続ける夢の女の人!護国神社の神様!それにチハたんとこの写真の幽霊戦車!これが全部関係なかったら冷麺鼻ですするわ!」

 

怒りのままに昼食のカレーライスを飲み物のように掻き込む。

 

「行くわよルル!早く例の木の行方を探さないと!」

 

ミナは急いで食事を終えると立ち上がり、律義に食器を洗ってからそう言ってルルと一緒に科戸駅へ向かったのであった。

 

 

 

「うーん……ここのはずなんですけどねえ」

 

ルルは駐輪場を目の前に残念そうに唸った。

 

電子書籍で「神森市郷土史」を購入した二人は、ミナのタブレットで写真を確認しつつ探索を行い、おそらくここに写真の木が生えていたのではないかというところまでは突き止めていた。

 

しかしながら……

 

「駅舎は建て直し、建て増しが多かったようですが、南口の改札の位置は変わっておらず、他の建物や当時から残っている神森市博物館……当時はそこが図書館だったみたいですね。その位置関係からするとここで間違いないはずなんですけど……やっぱり撤去というか抜かれたり切られたりしちゃったんでしょうね」

 

現在はそこは南口駅前駐輪場になっていて、当時の縁を感じることはほとんどできなくなっていた。

 

「そうね……うーん、手掛かりが消えちゃったか……」

 

「70年以上前の出来事で、こんな思念がいっぱいある町中となると、僕やハニーファさんでも魔力探知はできないですね……木の枝葉など実物があるわけでもないですし」

 

「でも場所がここだと推定できるなら、やれることはある。ルル、それ貸して」

 

ミナはルルからタブレットを受け取ると、地図を表示した。

 

「夢の中では左の視界の端に写ってたはず……夢だからそこは信じないで、周辺全てととらえてだから……そこから考えて……」

 

木が見えそうな場所の当時から存在した駅前の病院を探す。

 

ミナの視線の上には……一つだけ病院があった。

 

神森市民病院旧棟と地図上には表示されている。

 

「旧棟、ですか」

 

「そう。確か本院と統合という形で14年前に郊外に移転して、古い建物はそのままになってる廃病院よ。土地を売る当てがなくて壊さないほうが税金を節約できる、なんて場合にこうなることはよくあるわ。そんでもって当時からある病院って駅前だとここしかないのよ。ほかにもあったのかもしれないけど、まずはここから調べましょう」

 

ミナはタブレットを無限のバッグにしまうと、駐輪場に止めてある自分の自転車のロックを外した。

 

そしてルルを後ろに乗せるとそのまま走り出す。

 

目指すは市民病院跡であった。

 

昭和五年に神森市立科戸病院として設立された病院は、敗戦後日本が主権を取り戻した昭和27年に神森市民病院と改称し、建物の改築・増築を繰り返しながら平成の半ば過ぎまで稼働していた。

 

しかしながら病院そのものの老朽化と駅前という救急車の入りにくい場所がネックとなり移転計画が立てられ、現在は西之森のミナたちがよくいくホームセンターの近くに移転している。

 

現在の旧棟は完全に廃墟と化し、A県内では随一、全国でも有名な街中廃墟スポットである。

 

何年かに一度、肝試しや廃墟探訪目的で入り込んだ間抜けが事故を起こすため、周囲は厳重に有刺鉄線で囲まれたうえ、以前ミナたちが忍び込んだ廃工場とは異なり警報装置の類も設置されている。

 

当然、彼女たちには無意味である。

 

二人は姿隠しの魔法を使い、裏口から侵入する。

 

警報装置は斥候としての修行を積んでいるミナが判別し、飛び越え、あるいは壁を抜いて入り込む。

 

警報装置は玄関や裏口など入り口になりうる場所にしか設置されていなかったようで、内部に入れば静かなものであった。

 

東日本大震災の際にはすでに移転していたこともあり、ところどころひび割れ崩れ、床や壁に穴が開いている場所すら散見される。

 

リペアーの魔法は壊してすぐに使わないと効果がないため、こうした古い破損には無力である。

 

念のためフォーリングコントロールとプロテクションの魔法を唱えてから、ヒヒイロカネの小剣の先に明りを灯し慎重に進んでいった。

 

「こりゃあ廃墟マニアが手を叩いて喜びながら死んでいきそうな場所ね。私も前世でかなりお世話になった病院だけど、諸行無常だわ」

 

扉を開けてすぐに床に大穴が開いている医事課の入り口を見てミナは少し感嘆した。

 

「もう元の建物は残ってないのかな……まあもう少し見て回ろうかな」

 

崩れかけた階段を無視して、鉤フックつきのロープで2階によじ登りながらそうつぶやく。

 

床の強度を確かめてOKサインを出すと、ルルも同じようによじ登ってくる。

 

玄関で写しを取った院内地図では、ここをまっすぐ南側へ進むと2階病棟にたどり着くはずであった。

 

「高さは2階のはずよ。戦前のこの街にはほとんど高層ビルはなかったから……」

 

そうして渡り廊下を二つ抜けて2階病棟へ。

 

増改築の繰り返しで複雑怪奇な構造になっている病院は多い。

 

この市民病院もその多分に漏れずやたらと複雑であった。

 

割れたタイルの床が続く。

 

渡り廊下自体も老朽化によるものか、あるいは最初からか、坂のようになっている場所がありちょっとした迷宮の様相を示していた。

 

そうしてたどり着いた2階病棟は20床程度なのだろうか、4つほどの相部屋と思しき部屋と2つほどの個室であろう部屋があるようだ。

 

「201、202、203、205、211に212と……」

 

こういうところは戦前から一緒だったのだろうか、病院らしく結末が死とならないよう末尾が4の番号を持つ病室はないように配慮されていた。

 

「あの部屋は多分個室だったから……211から入ってみましょうか」

 

「わかりました」

 

ミナは鍵が締まっているその個室のドアにアンロックの魔法をかける。

 

そしてトラップになりうる床や天井の破損がないことをそっと隙間から確認してからドアを開けた。

 

開けて、部屋を見回す。

 

そこは古ぼけて、色あせて、壊れて、汚れて、何もなくなっていた。

 

夢の部屋と似た印象ではあるが、年月の経過はこの場を同じ部屋には見せてくれなかった。

 

「……鉄格子もありませんし、窓枠も多分付け替えられたものですね。何の魔力も感じられません」

 

「うん……でも、ビンゴよ。『ここ』だと思う」

 

そう言って窓に近づいていく。

 

近づいて積もりに積もった埃を払うと、窓を開く。

 

開いて、「ほらね」とつぶやいた。

 

そこからは―――ばっちりと科戸駅南口の駐輪場が見えたのだった。

 

「やっぱりここが夢の場所……」

 

ミナはふうと息をついて、窓を閉じる。

 

埃まみれの部屋は開ける前と何も変わっていない。

 

「それで、どうするんです?この病院の移転先で聞き込みでも行いますか?」

 

ルルの言葉にミナは腕を組んで考え始める。

 

「日本ではうろ覚えだけどカルテは最後の診療から何年かしか保存義務はないはずから、病院に聞いてもわからないわ。ただ、ここが夢の場所ということがわかったから、とりあえずここに魔除けを置いて……」

 

その時、ふと視界を何かが横切った気がした。

 

「……何?」

 

ミナはヒヒイロカネの小剣をそちらへ向ける。

 

向けられた先には―――何もない。

 

ただ―――

 

―――きゅらきゅら……きゅらきゅらきゅらきゅら……

 

キャタピラ音が。

 

聞きなれたチハのヂーゼル発動機の駆動音があたり一面から聞こえてくる。

 

「……どうやら本物の怪奇現象ね……世界を調律する我らが祭神よ!生に迷い死に惑えるものに安らぎをもたらす光をお与えください!ホーリーライト!」

 

ミナは剣を高く掲げると、不死者や悪霊にダメージを与える神聖魔法を唱えた。

 

光が走り、闇を照らす。

 

―――しかし。

 

―――きゅらきゅら……きゅらきゅらきゅらきゅら……

 

あざ笑うかのようにキャタピラ音は去っていく。

 

「チッ……悪霊の類じゃないのね!」

 

ミナがそう言った瞬間、キャタピラ音もヂーゼル発動機の音も消え失せ、シン、とした静寂が戻る。

 

「こうなったらとことんやってやろーじゃない。私にホラーが利くと思うなよ!」

 

ミナは拳を振り上げ、この事件の解決を高らかに宣言した。

 

その時。

 

「ちょっと!ここは立ち入り禁止だよ!どうやって入り込んだ!」

 

「やっべ!逃げるわよルル!」

 

「はーい」

 

窓から彼女らの姿が見えたのだろう。

 

外から警備員の怒声が聞こえたため、ミナたちはとっとと撤退するのであった。

 




おっぱいぷるんぷるん

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