異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第150話「えへへへへへへ!あーっはははははははは!!!」

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ご飯を食べ終わって、5人は午後もプールに来ていた。

 

岬だけはスパブースに興味があったが、今日はかけるの護衛も兼ねた遊びである。

 

岬と恋がかけるの傍を離れるのはNGであった。

 

(水着なら最悪襲われた時に、変身しないでも逃げれますですが、お風呂で全裸では外に逃げるのが難しくなるですからね)

 

岬は内心でそう言って、恋の顔を見た。

 

「今日はルルくんの分身も来てるはずなのですが、どこに来てるかは全くわからないのです」

 

「あの人、ありとあらゆる意味でやばいよな……アレでゾンビだってのが信じられないよ、あたい」

 

3人が飲み物を買いに行ったスキに二人はため息をついてそう笑い合っていた。

 

「本当に身体が冷たいってくらいしか、人間と変わるところがないのは驚きなのです。腐臭とか死臭とかそう言うのも全然なくて、むしろいい匂いすらしますからね」

 

岬が瞑目して不可解であるとばかりに嘆息すると、恋も「やばいよな……」と言って、足を組み直す。

 

「多分変装してるんだよな……いや、もう変身とかしてるのかも」

 

恋がレンタルした水中メガネをいじりながら、ぼやっとした目つきでプールを眺めた。

 

相変わらずあまり人はいない。

 

スパブースが老人たちで盛況なのと比して心配になってしまうほど人がいない。

 

何かあっても人を巻き込む心配は少ないが―――

 

それでも、心配になってしまうほど人がいなかった。

 

「平日だから……と思うしかないですねえ」

 

ハァ、と岬はため息をついた。

 

今日も平和に終わればいいが、と二人が同時に思った時、後ろからかけるたちが現れた。

 

「ただいまー!」

 

「買ってきたよ!はい、岬ちゃん」

 

両手にジュースを持ったかけるは、そのうちの一本を岬に渡す。

 

次いでとおるがかけるに同じように飲み物を手渡した。

 

「はいどうぞ」「サンキュー」

 

そうして5人はそのままテーブルで休憩を始めていた。

 

「ところで、かけるちゃん。あたしたちのこと、いつの間にか名前で呼ぶようになったのですね」

 

あまりにもナチュラルにそうしていたから、意識からすっぽり抜けていたので岬はそうかけるに聞いてみた。

 

かけるはその言葉に一瞬キョトンとして、しかしすぐに「……だめ、かなぁ?」と自信なさげに返してくる。

 

「いえいえ、いいのです。むしろ大歓迎なのですよ!あたしたちは友達なのですから」

 

ニコリと笑ってそう返すと、ストローでジュースを再び飲み始めた岬に、かけるは「ありがとう」と小さな声で言った。

 

「そうそう!遠慮なしでいいよね!友達だもん!」

 

「だから親しき仲にも礼儀ありっていってるでしょうがッ!」

 

ななかが身を乗り出してそう言ってきたところに、とおるがそう返して耳を引っ張る。

 

「痛い痛い!やめてよとおるぅ!」「やめないわよ!ジュースこぼすところだったでしょうが!」

 

プリプリと怒るとおるに「まぁまぁそのくらい大目に見ましょうよ」と窘めながら、岬は良いものだと思っていた。

 

遠い昔に失ったものを取り戻しながら生きているという、なかなか味わえない幸せだな、と。

 

「さて、じゃあそろそろ泳ぎに行きましょうですか」

 

岬はすっと立ち上がってプールを見つめる。

 

見つめて―――また違和感を感じた。

 

それは―――隅の方で泳いでいるツインテールの少女―――からではない。

 

プールの中に嫌な気配が滲んでいるのだ。

 

「今ならあたいにもわかる。なんかプールの中にいる……?」

 

「ええ。間違いないのです。あ―――」

 

岬が止めるまもなく、三人はプールの方へと行ってしまう。

 

そしてかけるが飛び込もうとして、岬が「ま―――」と。

 

待てと叫ぼうとして硬直する。

 

プールから透明な何かが浮かび上がってきたからだ。

 

「ヤバイ!まずいぞ、岬ちゃん!変身を―――」

 

恋がおっとり刀で杖を取り出そうとしたその時、海坊主めいたそれは姿を表す。

 

全長は3メートル近くはあろうか。

 

空間が若干歪んで見えるが、それはほとんど透明ななにかだ。

 

プールの中に潜っていればおそらくわからないだろうし、これも魔法少女としての力、そして冒険者現象で強化された五感でなくば即座に捉えることは難しいほどだ。

 

「行くぞ!」「はいなのです!」

 

二人は即座に駆け出して―――そして。

 

杖を出して変身する前に、かけるたちの視線が一転に集中されたことに気付いた。

 

―――そこには。

 

「―――魔法少女、クロキ・サージカル推参。面倒なことになったな!クソが!!」

 

そこには水面に足をつけずに浮かぶ少女の姿。

 

そう、かつて岬たちは白き空へ連れ去られた事件で、最初に見えた魔法少女クロキの姿があった。

 

「なにあれ!なにあれ!?マジのプリ○ュアかなんかかな!?」

 

「わ、わかんないけど、わかんないけど、逃げたほうがいいと思うわ!」

 

ななかととおるの叫びが聞こえる。

 

もうなりふりをかまっている場合ではなかった。

 

「「変身!!」」

 

二人は杖を使って変身し、プールの上空へ飛び上がり―――不穏な気配を感じた。

 

それは―――そう、再びかけるから発している。

 

数日前に彼女が変身したときと同じ、不吉な気配を。

 

「恋ちゃん!」「わかってる!ちょっと怖いかも知れないけど我慢してくれ!!」

 

岬が叫ぶと、弾けるような勢いで恋はプールへと急降下した。

 

「えっ?」「こ、こっち来る!」

 

二人が困惑と恐怖の声を上げるやいなや、恋はななかととおるを小脇に抱えて離陸―――というよりは離水した。

 

その様子をチラと横目で確認した岬は前を向く。

 

「岬ちゃん!」「任されたのです!!」

 

恋の一声を受けて少女は杖を握りしめた。

 

岬はそうして、クロキと巨人。

 

「う、うふふふ……あっはははははは!」

 

プールから空中へと浮かび上がりながら、笑い出したかけると対峙する。

 

「どうもこんにちはなのです、クロキ……さんでしたです?」

 

杖を構え、プールサイドに降りながらそう言って黒きを睨めつける。

 

当然、こちらには気付いていた。

 

「―――貴様か、オリジナル。だが、今の私の任務は貴様の確保にはないんだ……すっこんでろ」

 

苛つきを少しも隠そうともしない声で、クロキはヨーヨーをしゅるり、しゅるりと投げてはパシン、パシンと手元に戻して手のひらで音を立てる。

 

「なんで怒ってるですか?怒りたいのはこちらのほうなのです」

 

岬は聞こえないようにそう呟いて、かけるへと目を向けた。

 

「へー今度はおねーさんが遊んでくれるのね!あはははっ!じゃぁいくよぅ!変身!!」

 

かけるは盾を構えてすぐにも変身し、その姿を表す。

 

岬は―――しかし、彼女をクロキと戦わせる気はなかった。

 

(この分だと目的はかけるちゃんの拉致!かけるちゃんはあたしが相手しないと駄目なのです!)

 

「かけるちゃん!あなたはあたしが相手なのですよ!!小さき灯りの子リンカちゃん!あたしの手に小さな灯火をくださいな!その灯火をあたしの後ろにできるだけ!」

 

岬が灯りの精霊に呼びかけると、合計10発―――今の岬の力では最大の数の目潰し光がクロキのほうへと飛んでいく。

 

「小癪な!」

 

一声怒りの声を上げると、クロキはヨーヨーを振り回して狐火を弾いた。

 

一瞬、その光に岬やかけるの位置確認ができなくなる。

 

「どこだっ!?」

 

そう言って周囲を見渡すが、既に二人は数十メートル離れた場所へ飛行していく。

 

「あはっ★岬ちゃん遊んでくれるんだ!やったぁ!」

 

「やったじゃないのですよ!ええい、後はどこかにいるはずのルルくんに任せるしかないのです!」

 

岬はそうして、天井の大きめのダクトに二人して飛び込む。

 

「恋ちゃん、二人をうまく逃しててくださいですよ……!」

 

「あは~♪岬ちゃんの身体あったかいねえ~」

 

しっかりと粘着魔法を使って抱きついてくるかけるをお姫様抱っこしつつ、ダクトの中の網を破って外に出ようとして―――

 

上に、下にとダクトはくねっていて、出口がわからない。

 

それどころか岬の感覚……精霊使いとしての感覚はより地下へ潜っていっているような、土の精霊の支配領域へと入っていくような感覚が強まっていく。

 

「くっ……これは一体どういうことなのです?」

 

ダクトの壁にぶつからないように、岬はべたべたぬるぬると自分を触ってくるかけるの手や身体の感触を無視しながら、器用に進んでいった。

 

そうして疑問を呈したのもつかの間、二人はついに開けた場所へと出る―――が、そこは地上ではなく。

 

そこにはなぜか―――大きな空間が存在していたのである。

 

「なんですか、この体育館めいた場所は……」

 

岬は着地して、キッと周囲を睨んだ。

 

確かに大きめの体育館に見えなくもないフローリングされた木の床。

 

鉄骨と金属板で形作られた天井。

 

そして無機質なコンクリートの壁で覆われたおおよそ200m×80mほどある長方形の空間がそこにはあった。

 

「……誘い込まれた、というか、なんというか……これは確実に違法建築物なのです」

 

岬は魔力でかけるの粘着魔法を解きつつ、その床面へと降り立つ。

 

お姫様抱っこしていたかけるを地面におろし、岬は微笑んで声を掛けた。

 

「はい、かけるちゃん。正気に戻りましたか?」

 

「ねー遊ぼ遊ぼ遊ぼ!ねぇねぇ!ここどこ!?遊園地!?体育館!?遊ぼう!!」

 

―――しかし彼女は、幾分か理性の光が戻ったような雰囲気はあるものの、未だに狂ったように遊ぼう遊ぼうと笑うばかりだ。

 

「風の精霊さんが狂ってるだけじゃないんですかね、これは……?」

 

その時である。

 

天井のスピーカーから声が上がったのは。

 

『飛んで火に入る夏の虫とはこのことか……!自らこの場所に来てくれるとはね!』

 

若い男の声、しかし挑発的でいやみったらしい声だ。

 

その声に岬は覚えがあった。

 

「―――あなた、科戸研究所の分所にいた人ですね?!」

 

岬が叫ぶと『答える義務はないねぇ―――では、捕獲させてもらおうか!』と楽しげな声が響く。

 

間違いなく、それは牛込の声であった。

 

すると、床に小さな穴がたくさん開いて、そこから細い機械の触手が飛び出してくる。

 

更には壁からは、シュウシュウとなにかガスが吹き出してくる音が聞こえた。

 

「ちぃ!なのです!こんなこともあろうかと、ミナちゃんからブルーリボンを借りているのですよ!」

 

岬はそうして頭に飾られた青いリボンではなく、太ももにおしゃれ的に巻き付けられていた青い布を取り払って、かけるに駆け寄った。

 

「かけるちゃん!このリボンを巻いてあげたら遊んであげるのです!」

 

「ホントぅ!巻く!巻くよ!」

 

状況は当然理解できるわけではないかけるは、ぴょんぴょんと飛び跳ねて嬉しさを表現する。

 

岬はその様子を半ば無視して、その頸にブルーリボンを巻いて綺麗に結んであげた。

 

「よしなのです!これで毒のたぐいは効かないですよ!」

 

多くの状態異常を防ぐブルーリボンである。

 

少なくとも、睡眠と毒、そして麻痺を回避してくれるマジックアイテムなのだ。

 

「何して遊ぶ?あははははっ!」

 

楽しそうに跳ねる少女に、岬はひとしずく汗を流して―――「当然この変なのを多くぶっ壊したほうが勝ちなのです!」と笑った。

 

「わかったよ!あっはははははは♪♪♪」

 

かけるはケラケラケラケラと笑い出す。

 

それには呪言。

 

精霊の呪いの乗った呪言だ。

 

ミナの手術が成功したせいなのか、それは威力を増している。

 

空気の流れを阻害し、粘性を与える呪言。

 

それは岬たちを捕らえようとした機械の触手にも効いているようで、すぐにも動きを鈍くしていく。

 

岬は「やべーやつなのです……」と小さく呟いて空中へ退避した。

 

「じゃーーーーいーーーっくよーーーーー!!」

 

その瞬間、かけるは弓の生えた盾を天に掲げる。

 

そして、やがてガスが空間に充満していったが―――

 

「……なんとか効いてないのですね。これならイケるのです!」

 

岬はふう、と汗を拭う。

 

飾帯の防護効果をガスが超えていたら不味いことになっていたが、それはどうやら大過なく防がれたようである。

 

『ば、馬鹿な……いや、これも魔法か!?イソフルランの1000倍の鎮静効果を持つ、象も一吸いで気絶する麻酔ガスだぞ!?』

 

吸入型の麻酔薬でもポピュラーなそれの1000倍などという意味不明な威力のガスが全く効果を発揮していないことを受けた、牛込の驚愕が響き渡った。

 

「なんてものを散布してやがるですか!?ほとんど毒ガスじゃないですか!!」

 

岬の抗議が虚空に響くが、答えが帰ってくることはない。

 

その間にかけるのチャージは完了したのか―――

 

「えへへへへへへ!あーっはははははははは!!!」

 

哄笑が響く。

 

「天の弓よ―――風の呪いを聞け。地に伏し、涙を呑んだものの声を聞け。黒き風よ。黒く黒く、三千世界の鴉すらも阿る漆黒へと帰れ―――」

 

岬はその弓に集まる気配に覚えがあった。

 

それは―――暗黒魔法の最奥の一つ、ディメンジョン・イーターとそれは同じものであると。

 

「ま、不味いのです!こ、これは―――」

 

闇が落ちる。

 

岬はその強烈な闇の気配に、心底戦慄するのであった。

 




いやあ、150話ですよ。HAHAHA!

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