異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第152話「はーい!無事なのですよー!」

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「闇夜へと溶け消えて―――アーク・アン・オブスキュリテ!!」

 

かけるの嬉しそうで楽しそうで意地が悪そうで溶けて消えてしまいそうな甘いチョコレートのような声が、特大の魔力を乗せて虚空に響き渡る。

 

「こぉ……れはっ!?」

 

岬は腕で顔を覆って、できるだけ遠くへと退避しようとドレスの翼をはためかせるが、闇の暴風のせいでそう自由には飛ぶことが出来ない。

 

弓から放たれた圧倒的な闇は、次元すら歪めて大地へと刺さりつつある。

 

このままでは大惨事が起きると、岬は覚悟して杖に力を込め―――そのとき。

 

ふと自分ができてきたダクトの出口を見れば、そこからは―――

 

「やめろばぁぁぁーーーか!!!」

 

全力の全速でかっ飛んできた恋の姿だ!

 

「うおおおおおおおお!!!」

 

恋はそのままトップスピードを維持したまま、かけるの得物へと蹴りかかる。

 

しかし、それだけでは―――通らない。

 

「ちぃ!?風のせいで、弓を吹っ飛ばせない!」

 

恋がそう言って、岬の傍まで飛んでくる。

 

「だめだ!このままじゃ!」「あれが地面に落ちたら、生き埋めなのですよ!」

 

ミナの術のように制御されていない、次元追放の闇の風。

 

それが堕ちればどうなるか―――言わずともわかるだろう。

 

闇は勢いを増し、そして大地に落ちかけて―――

 

「させるかあほぉぉぉぉ!!!」

 

―――瞬間、轟音を立て大地を砕きながら地の底より黒い巨人と―――その頭に膝をついて怒りの声を上げる妖精の勇者が現れた。

 

「ミナちゃん!?」「ねーちゃん!どうしてここに!?」

 

「決まってるでしょ!勇者はいつもそこにある!」

 

慌てているのか焦っているのか、ミナはわけのわからないことを叫びながらその杖に魔力を集めていく。

 

「安定させてください、廻さん!秋遂さん!」

 

ミナが闇の風の中でまた叫ぶ。

 

『心得た!』『振動抑制、姿勢安定、慣性制御全開します』

 

廻と秋遂の声が漆黒の機体から聞こえ、そしてミナの魔法が完成する。

 

「世界を支配する偉大なるロジックよ。混沌の中心よりあらゆる神に連なることなき白痴の王を呼び覚まさん。白き闇よ全てを吐瀉する白痴の光よ。昏き白よ、冥き闇を染めよ―――ホワイトホール!」

 

黒い風の塊に、空間に放たれた白い闇がぶつかって相殺されていく。

 

「あはははははっ!楽しいなあ!すごい!すごいよぉ!!」

 

「ええい!ケラケラ笑わないでよ!」

 

楽しそうなかけるの笑い声に、ミナは苛立ちを隠さないままそう返す。

 

『しゅ、秋遂まで……く、この基地もおしまいか!?』

 

「終わらせたらぁあよ!」

 

『覚悟したまえ』

 

まだ音響装置は十全に働いているのか、あまりノイズのない牛込の焦り声が聞こえるが、それに返す言葉などお定まりに過ぎない。

 

即ち、素早くかけるを救助してこの基地を破壊するのみである。

 

白き闇―――ホワイトホールは、闇の風を白き空へと放逐していく。

 

徐々に収まりつつある暴風に、ミナは少し安堵する。

 

しかし、手を緩めることはない。

 

「ああ、うううう……!楽しい、けど、これはきついなぁ!!」

 

かけるが楽しげに、苦しげに、悲しげに、厭わしげに、優しげに叫びをあげ―――

 

「岬!今よ!」

 

ミナが大音声を上げると、心得たとばかりに恋は岬の両肩を後ろから掴み、岬は杖に力を集中する。

 

「光よ―――夢と希望は悪しき心に歪められた―――その心、支配するものから解き放ち給え!!」

 

輝きが集まり、残った黒き風を、禍々しい空気を消し去っていく。

 

その奥に、岬は何かが見えた気がした。

 

「悪しきを、凶つを、魔に落つ前の姿へ。天の道を思い出させるのです―――!さぁお眠りなさい!アナン・レインボー・フラワー!チャージアップなのです!!」

 

光の向日葵が満開で咲き誇り、少女を包み込んでいく。

 

「おやすみなさい。起きたら、またプールで遊びましょう。その時まで、ぐっすりおやすみなさい!」

 

岬はそう約束を口にして、フウと息をつく。

 

「……怖かったのです……!一体、あれは……!」

 

地面に降り立って、そのままへたり込むと岬は天を仰いだ。

 

『くっ……!おのれ異常熱源体どもめ!おのれ!だが、空間流体が魔法への有効性を持つことは確かめられた……次はこうは行かぬ!』

 

「お定まり過ぎて笑えるわね!おとといきていってねってんだ!!!」

 

ミナが牛込の声が聞こえてくる天井を指して怒りを顕にしているが、岬の耳にはよく入ってこなかった。

 

岬に抱かれたかけるはスッキリした顔でくぅくぅと寝息を立てている。

 

そのほっぺを引っ張っても耳の穴に指を入れても起きる気配はない。

 

「かけるちゃんヤバイな……あたいよりも岬ちゃんよりもなんかめちゃくちゃじゃん……」

 

「うん……まるで、バレンタインの時に出てきた虹の欠片を持ちながら邪神に操られてた女性のようなのです」

 

恋の言葉に岬は頭を振って怖気を振るう。

 

それよりも遥かに強く、制御できていない呪いの塊。

 

一体何がかけるの身体に眠っているのか、空恐ろしくなる。

 

「無事かね、岬、恋!」

 

ガシュン、とコクピットのハッチが開いて廻が顔を出す。

 

「はーい!無事なのですよー!」

 

その顔に岬は安心して、声を掛けた。

 

「そうか……全く、心配をかけてくれる。無茶はしてくれるなよ」

 

廻は素早くコクピットから降りて、岬の傍に降り立ち彼女の頭を撫でる。

 

それが気持ちいいのかなんなのか、岬はえへーと心地よさ気な笑みを浮かべて、そしてやがて「そういえばどうしてここがわかったのです?」と素直な疑問を呈した。

 

「いや、君が地下に入ってしまったことが発信器で読み取れた。そして、ミナもまた同じように気付いていた。すぐさま連絡が来たので研究所へ向かい、秋遂を緊急発進させた」

 

廻がそう言って、秋遂を見ると『強制起動されましたが、人の無理難題に応えるのも機械の運命です』と彼女の静かな声が空間に響き渡った。

 

その言葉に、廻がコクリと首を縦に振る。

 

『走査完了しました。この空間はやはり『改の会』の基地であるのは明白ですが、もはや放棄されているようです』

 

秋遂の声に、ヒートアップしていたミナが瞬間落ち着きを取り戻して「ああ、やっぱりそうですか」とつまらなそうに秋遂の頭から飛び降りた。

 

『既にクロキと名乗った魔法少女の装甲両脚車への攻撃による魔法のデータ、そしてそのカケルとかいう少女の力のデータはいただいた!ふははははは!さらばだ!』

 

そうして牛込の声はプツリと途切れる。

 

『大深度地下に設置された常温原子核分裂炉の自壊を確認。これ以上ここに留まることは危険です』

 

「なんですか、そのやたら物騒な名前の物体!?」

 

秋遂が声の調子をいくら源罪も変えずにしてきた報告に、岬は思わず突っ込まざるを得なかった。

 

「簡単に言えば、超高出力の原子力電池というやつだ。薺川博士の成果物だが、どうもそれを超えるものを作ることは出来なかったようだな」

 

秋遂とデータリンクしている廻は、瞬時にそれが何かを見抜いて嘆息する。

 

と、同時にゴゴゴゴゴと基地が揺れだした。

 

「んじゃあ、脱出しますか。岬の友達はルルの分身に任せて、私達はトンズラするわよ!」

 

「は、はいなのです!」「了解だぜ!」

 

かけるをお姫様抱っこした岬はコクピットに乗り、同じく恋もその隣に。

 

最後に廻が乗って、コクピットのハッチがしまった。

 

「あれ?ミナちゃんは?」

 

「彼女は頭上でトンネルという精霊術を唱えてもらわねばならん。とりあえず君たちを近場の空き地に下ろすので、こっそり銭湯へ戻り給え」

 

ミナがコクピットに入らなかったことを気にした岬に、廻はふっと笑ってそう応える。

 

『そういうこと。ドリルだけじゃ地中の超高速移動なんか出来なかったからねー』

 

外からのミナの声が音響システムからコクピット内に流れた。

 

「じゃあ、お言葉に甘えるのですよ!」

 

「うむ、出発しよう」

 

「はーい」

 

岬の声に廻が答え、恋がまた元気よく返事をする。

 

そうして秋遂は十数秒後には空間から脱出し―――そのまた数分後に改の会の基地であった場所は完全に地中に埋まっていったのであった。

 

 

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