異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第153話「あれー……ボクたちどうしてたんだっけ?」

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それから20分ほど後のこと。

 

テーブルでななか、とおる、そしてかけるは突っ伏して寝息を立てていた。

 

「んにゅ……?あれ?ここ、どこぉ……?」

 

最初に目を覚ましたのはかけるで、今時分がどこにいるのか全くわかっていない様子で周囲をキョロキョロと見回した。

 

すると、プールの方では……

 

「ぶわっ!?耳に水が入ったのです!?」

 

「スキありだぜ、岬ちゃん!」

 

「あー、久々に水浴びするの気持ちいいわぁ!」

 

水を掛け合う岬と恋、そしてザバザバと背泳ぎをしているミナの姿が目に入った。

 

「あれー……ボクたちどうしてたんだっけ?」

 

「ん……?あれ?なんでミナお姉さんがここにいるの?」

 

かけるが首を傾げていると、とおるもまた起き出して疑問符を頭の上に浮かべる。

 

「―――はっ!?もう3時じゃん!後1時間半しか遊べないぞ、みんな!!」

 

ななかが飛び起きて、ノータイムでプールサイドに走り出した。

 

「あっ!この馬鹿!プールサイドで走らないでよ!―――っていうか、いつからここで眠ってたんだっけ……?」

 

とおるがまだ納得できないと首をかしげるが―――何故か妙にスッキリした顔のかけるは「いいよぅ。遊ぼうよ」と晴れやかにとおるの手を引っ張った。

 

「みんな起きてきたようですね」

 

「だなぁ」

 

岬と恋が目を合わせて笑うと、「はい注目ー!保護者になれる年の私が来たからにはなぁ、19時までは遊べるぞ、お前ら!」とプールサイドに上がってきたミナが宣言した。

 

「えーほんと!?」

 

「そうよ。さ、親御さんに許可をとってらっしゃい。そうしたらまた遊びましょうね。あ、恋ちゃんはもう連絡済みよ」

 

ななかの鼻に人差し指を当てて、ミナは柔らかく微笑む。

 

「はーい!」「よろしくおねがいします」「わかったー!」

 

三人の返事にミナは「うん、よろしい」と微笑んで三人を更衣室へと行くように促した。

 

三人が更衣室に入っていったことを確認したミナは、フーっとため息をつく。

 

「きちんと目を覚ましてくれて安心したわ、あの子。ちょっと私やルルでも呪いの正体がつかめないどころか、あんな暴走するなんて」

 

ミナは濡髪を弾いて瞑目する。

 

「正直お手上げですねぇ……それこそ妖精郷で調べたほうが早いでしょう」

 

女性監視員の姿を取ったルルの分身が、そう言ってミナを見た。

 

「やはりあの社へ行ってみますか?」

 

「それしかないならそうするまでよ」

 

ミナがそうして腰に手を当てて天井を見る。

 

「なのです。正直、このままではいつかけるちゃんが街をふっとばしてしまうかわからないのです」

 

岬はそうして腕を抱いて怖気を奮った。

 

「まさか……次元追放の魔法のマネごとまで出来るなんて、どうなっているのでしょうです」

 

その言葉にミナはフッと鼻で息をして、「次元追放、ディメンジョン・イーターは暗黒魔法の最奥。それこそグリッチ・エッグでも私とルルを除けば使える人間は10人といないでしょう」と目を開く。

 

「それが使えるようになる呪いであれば、邪神の呪いしかありえない……だけど、風化病は精霊の呪いによって発現するものなのだわ」

 

普通ならば絶対にありえないとミナは断言できる。

 

しかし、実際に次元追放の魔力を彼女が放ったこと、それは虹の欠片を通じて出たとしても異常であるということだ。

 

原因を早急に探らねば、岬の危惧通りに下手をすればかけるは大量殺戮を行ってしまう可能性がある。

 

ミナはじっと自分の手を見る。

 

多くの悪を為した人間を許さずに殺してきた手を見て、それが出来たのは自分が勇者であり、2つの魂の混じり物であり、ハイエルフであり、地球の歴史を知るものだからだ。

 

彼女には荷が重いだろう、とミナはまた瞑目した。

 

そして考える。

 

可能性があるとすれば、それは……

 

「魔精霊……」

 

口を開いたのはルルの分身であった。

 

「やっぱりそう思う?」

 

「変異精霊の中でも最も危険な存在であるアレしかないでしょう。アレは学院も聖魔両方の神殿でも、まして国や輸送団も実態がつかめていない現象だ」

 

ミナはその言葉に天を仰いだ。

 

「魔精霊……ってなんだ?」

 

「むかーし、TRPG好きの友達から聞いた覚えがあるのです。確か……」

 

恋と岬の言葉に、ミナは「ま、似たようなものよ。ア○ンほどアレじゃないけど」と言って説明を始めた。

 

「魔精霊は……いろいろな伝承や推測、論文があってはっきりとしたことは言えないんだけども、複数の精霊力を併せ持つ上位精霊とでも言うべき存在ね」

 

魔王の一種とされるそれは、やはりバグダンジョンにおいて発生する現象である。

 

バグの集合体にして悪意の具現とも言われる魔王は強い意志を持つが、魔精霊は精霊としての意志のみを持つ。

 

あくまでバグによって変異した変異精霊の一種だが、その力は魔王にも匹敵する。

 

バグダンジョンで生まれれば、そのまま消え去っていくことがほとんどだが、稀に地上に現れて猛威を振るう災害の化身とも言える。

 

「流石にソー○・○ールドRPG1.○のアレみたいにすべてを滅ぼすものではないのだけれど、邪神めいた力を与える精霊なんてそれしか考えられないわ」

 

そして、ミナは言う。

 

精霊術の基礎である地水火風の属性は、地は星、水は時間、火は波動、そして風は空間という上位概念を持つのだと。

 

「次元追放に似た術を風の精霊に呪われているはずの彼女が使った……これはもしかすると、風系の魔精霊の呪いなのかも知れない……」

 

もし空間の魔精霊が相手となれば、ミナも黄昏の剣を使わざるを得ない。

 

そして……それには一つ問題があった。

 

「問題、です?」

 

「うん……それはおいおい話すわ。とりあえずそろそろかけるちゃんたちも戻ってくるだろうから、この話はまたあとにしておきましょう」

 

ミナはそうして再びプールへと歩いていく。

 

子供たちの歓声が上がって、彼女らがプールへ戻ってくる。

 

ミナはその様子をちらりと後ろを向いて見つめ、耳の星をあしらった宝石のピアスを指で弾いたのであった。

 

 

 

遊び終わった頃にはもうとっぷりと日は落ちていた。

 

洞森ノ湯から出ると、月が美しく輝いている。

 

それを見て、岬は「無事今日も終わったのです」と言って、恋に「家に帰るまでが遠足だぜ、岬ちゃん」と窘められていた。

 

「お夕飯はどうするつもりだったの、みんな」

 

ミナが優しげにそう聞くと、「疲れたからお家帰る!」とななかが手を上げて笑う。

 

「私も帰りますね」

 

「ボクは……家に帰ってもお兄ぃだけなんだよぅ……」

 

かけるはハァと肩を落とす。

 

「いいじゃない。お兄さん、お料理できるんでしょう?」

 

とおるがそう言うと、かけるは更にげんなりとして「でもさぁ……雑なんだぁ、お兄ぃのごはん」とため息をついた。

 

「誰かと一緒にいるときはいいんだけど、一人だとこう……」

 

「……番組で一緒になった時言ってたな。気がづけばレバーばっかり食べてるとかなんとか」

 

恋が頭の後ろに手を回してジト目になる。

 

「そう!そうなの!レバーでしょ、ほうれん草とか後脂身の少ない鶏肉とか、そういうのばっかりになるの」

 

かけるの父母は家を留守にすることが多く、料理はその場合総司が行うのが常だと言う。

 

しかも出てくるのはアスリート御用達の高タンパクかつ高ビタミン、ミネラルの食事ばかりになってしまうらしい。

 

「お母はそんなことない普通の料理作るんだけどぉ……うー、こうなったらボクももう料理するようにしないと駄目なのかなあ?」

 

かけるはそのことに真剣に悩んでいるようであった。

 

「まあ、そこは勉強あるのみね。岬、教えてあげたら?」

 

今日の日が名残惜しいのか、それとも別のことが気になっているのか曖昧な表情でミナの後ろを歩いていた岬に、ミナはそう声を掛けた。

 

ニッコリと笑いかけられた岬はその視線から逃げるようにミナの前に出ると、「いい考えなのです。かけるちゃんさえ良ければあたしが教えるのですよ」と彼女の手を握った。

 

かけるはそう言われて、「じゃあお願いしようかなぁ?」と少し照れながら返した。

 

「そういやさ。三人とも家庭科の調理実習とかどうだったの?」

 

恋はそう疑問を投げかけると―――「実は、ななかちゃんが私達の中では一番お料理うまいの。去年の調理実習の焼き魚とおひたし、味噌汁はななかちゃんがいなかったら失敗してた……」と恥ずかしげにとおるは目を伏せる。

 

「そうそう。ボクなんか全然出来なくて、しかも味噌とピーナツバター間違えて大惨事にするところだったしぃ……正直うらやましぃかなあ」

 

かけるもそう言ってななかを見る。

 

「へへーんだ!りょーりなんて感覚でどーにかなるのだ!美味しいものをイメージすれば誰でも出来るッ!」

 

意外にもななかは料理上手であるという証言が出たことで、岬は「じゃあななかちゃんに教われば……」と言い掛けて、「感覚派過ぎて駄目、というやつなのでしょうです?」と頬に手を当てて微笑んだ。

 

こくり、と二人は転校生たちに首を縦に振ってそれが真実だと伝える。

 

「えー?そっかなー?材料と方法書いてある本だけあればがーっとやってばーっとやれば出来るよお料理!」

 

ななかが腰に手を当ててあっはっはーと笑うと、岬は「それでできちゃうのは結構な才能がいると思うのですよ」と苦笑した。

 

「まあそんなもんでしょ。じゃあ帰りどうすっかな……車は店に置いてきちまったもんな……」

 

うーん、とミナが唸っているとスマホに着信があった。

 

「はい、もしもし……ああ、博士?え?自動操縦でこっちに?えっ?」

 

ミナが電話を受けると、慌てて彼女は駆け出した。

 

「ちょっとそこで待ってて!車取ってくるから!」

 

そう叫んでミナは駐車場の外へと走っていってしまう。

 

「ちょっとミナちゃん……えぇ?」と岬が困惑していると、「アレだろ。博士からなんか連絡あったんだろ。待ってようぜ」と恋が笑った。

 

「じゃあいつにする?かけるちゃんに料理教える日。あたいも一緒に行くから」

 

恋がそういうと、とおるが「へー、意外……でもないか。アイドルとか芸能人の自炊ってバラエティではよくやってるもんね」と唇をすぼめる。

 

「そーそー、あたいも飯自分で作れるようになっときたいんだよね。本格活動再開する前に芸風増やしとかないとさ」

 

へへっ、と小さく笑うと「むむむ!私もいくぞ!」とななかが手を振り上げた。

 

やがてヘッドライトの明かりが見え、ミナの運転するジープが近づいてきた。

 

「ほら乗って。みんな乗れるから」

 

―――そのジープ・グラディエイターは何故か6ドア6人乗りになっていた。

 

「ミナちゃん、これは……」

 

「みなまで言うな。博士の魔改造よ」

 

ミナはため息をついて、少し微笑んだ。

 

「問題は後でゆっくり話しましょう。今日は楽しかった?」

 

ミナが助手席に座った岬に聞くと、「はいなのです!」と元気に答える。

 

それに首肯したミナは、後ろを向いて「じゃあ出発するわよ。みんなシートベルトはしたかな?」と聞いた。

 

「「「「「はーい!」」」」」

 

5人の元気のいい声が木霊した瞬間に、「じゃあしゅっぱーつ!」とミナはクラッチを入れて車を発進させた。

 

まだまだ駐車場には車が多い。

 

仕事を終えた社会人たちが一時の憩いを求めて集まってきたのである。

 

それを横目に、ルルの分身は駐車場脇のベンチで佇んでいた。

 

隣でぐったりしている少女の覚醒を待ちながら。

 

『いい加減起きてくれないかな……ああ、ツマラナイ、ツマラナイ。おもちゃにしちゃ駄目なんて、ミナさんも無体なことを言ってくれる……』

 

ふぅ、とため息をまたついて、今頃目を覚ましているはずだな、あの監視員の女は、と彼にとっては益体もないことを考えた。

 

『どうせなら殺してしまえばいいと言うのに、虹の欠片を取っただけでいいだなんて、本体もミナさんも甘い甘い……』

 

首を横に振って両手のひらを天に向けて肩をすくめる。

 

すると、ちょうどよく隣で寝ている少女の目がパチリと開いた。

 

「こ、ここは―――貴様、ば、化物の片割れ!?」

 

『化物とはひどいなあ……さっさと行かないと、流石に殺すよ?』

 

ルルの幻影の目が怪しく輝く。

 

怒りと苛立ちとが綯い交ぜになった、普段のルルが絶対にしない表情。

 

殺意の塊のような視線が向けられたクロキは、瞬時に絶句して―――

 

「―――?」

 

わけがわからない、という表情のままそのまま再び気を失った。

 

失禁することすらなく、身体の全機能が一時的に休止しているような、そんな気絶の仕方であった。

 

『……あ、もしかしてやりすぎちゃいましたか?』

 

ルルのどこかで聞いたようなセリフが響き、『まあ……恐怖を刻んでおけ、っていうミナさんのオーダーは達成できたから良いか』

 

またため息をついてルルの幻影は立ち上がった。

 

『本体もそろそろ仕事が終わる頃だ。さぁ、そろそろ僕も消える頃だな……』

 

徐々に半透明になっていくルルの幻影は、ニタリと笑って『それじゃあおやすみ、お嬢さん。起きても僕のことを忘れないでいてね』と言って―――本体へと総てが転送される。

 

後にはベンチで仰向けになって倒れるブレザー姿の女子高生と、破壊された球形のドローンらしきもの―――岬が感じていた違和感の正体が残されるばかりであった。

 

 

 

一方その頃―――

 

ロッカーの前で、その女性は意識を取り戻した。

 

「あっるぇー?私、今まで何してたんだっけ……ってか、もう8時近いじゃん!?え?!なんで?!どうして!?」

 

ルルに眠らされていた監視員の女性は、誰もいなくなったプールの監視所の本部……監視カメラの部屋で目を覚ましたのであった。

 

「うっそぉ……どういうこと……?」

 

呆然とする彼女に応えるものはなく、ルルの魔法の眠りによってほとんど一日中爆睡していた彼女は2日ほどまともに眠ることができなくなっていたのであった。

 

 

 

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