異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第154話「今日の日はさようなら、ってか?」

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子供たち全員を送り届けたミナは、家に帰ってきて車を無限のバッグにしまうと盛大に溜息をついた。

 

「魔精霊……かぁ……」

 

恋も既に帰っているため、周囲にいるのは岬だけである。

 

「とにかくあの子が気絶してる間に見た感じ、風化病は徐々に改善されていることは明白なんだけど……」

 

「一体なんなのですかね?」

 

岬が首を傾げるが、答えが出るはずもなく。

 

「考えられるのは……やはりダンジョンね。この地に狂いきった上位精霊である魔精霊を生み出す素地がある場所なんて、あそこしかないもの」

 

ガチャリ、と玄関の扉を開けながらミナはそう言った。

 

靴を脱ぎながら「手がかりがそれしかない以上、やるしかないわねぇ……」とため息まじりに言って居間へと上がっていった。

 

すると、まだルルも廻も夕も帰ってきてはいないようで、そこにはテレビを胡乱に鑑賞している母の姿だけがあった。

 

「ただいまカーチャン」「ただいまですよ」

 

「おかえり。だいぶ疲れてるみたいだけど、小学生と遊ぶのは大変だったか?」

 

立ち上がって、「待ってな。今、ごはん出すから」と言った母に向けて「ありがと~」と返し、台所でミナは手を洗う。

 

同じく岬も手を洗い終わる頃、半分は自分の作りおきのおかず、もう半分は母が久々に作ったであろうおかずが並んでいた。

 

「あー追加作っててくれたんだ。ありがてえありがてえ」

 

「まーね。私、ちょっと今日は食べすぎちゃったから追加してあげたわ」

 

そう言ってごはんをよそってミナに渡す。

 

「ありがとう。いや、その前の岬の救助のほうが大変だったぜ」

 

「いやあ、来てくれなかったら今頃大惨事になっていたのですよ」

 

岬も茜からご飯を受け取り、少し疲れた笑顔を浮かべる。

 

「いやはや、しかしなんとも派手にやるもんだわ。その崩れたっていう地下施設の件、ちゃんと地盤沈下とか確かめないといけないわ」

 

ふぅ、とため息をついて茜は戸棚から一升瓶を取り出して微笑んだ。

 

「ま、難しい話とかは明日でも良いでしょう。まだ廻くんと夕ちゃんも帰ってこないし、ルルくんも仕事終わってこっち向かってくる頃でしょ?第一、空悟くんも恋ちゃんもいないしね」

 

そうして湯呑を2つ出して、「あんたも呑むわよね?」と聞いてくる。

 

「……呑む」

 

数瞬迷って、ミナはその湯呑を手に取った。

 

「よろしい。男も女も、めんどくさくなったら酒のんで寝てから考えたほうが良いわよ」

 

「十分、わかっております母上様」

 

「ですねー。あたしはもうもっかい大人の体になるまで呑む気はないですけど」

 

湯呑を掲げてヘヘーと母に頭を下げるミナを見て、岬はそう嘆息した。

 

「んじゃ、かんぱーい!」「はいはい、乾杯」

 

ミナの声に母親は苦笑しつつ盃を合わせて、ニッと笑った。

 

「それにしても三郎も岬もちゃんとやることやって楽しんできたにしては、随分疲れてるじゃない。なに?泳ぎすぎた?」

 

岬を呼び捨てでそう呼んだ茜は、湯呑の日本酒をぐいと飲んで質問をした。

 

「そういうわけじゃなくてだなぁ……そうか、カーチャンにも聞いてみたほうが良いか」

 

「ですねぇ。実は……」

 

岬がそうして話し始める。

 

かけるが風化病という精霊の呪いを受けていること。

 

それが魔精霊という狂った精霊の呪いである可能性が高いこと。

 

そのために魔法少女に変身すると、暴走してしまうということを。

 

「そんでさ。そういうのが神森の歴史上、言い伝えでもいいからいるかどうかってのを明日辺り図書館に調べにいくつもりだったんだ」

 

ミナがそうして話を締める。

 

それを聞いた茜は、腕を組んで「あーえーと……なんかもう少しここらへんまで出てんだけどねえ……」と唸ってしまった。

 

「もしかして、心当たりがあんのかカーチャン?!」

 

「まぁ、仕事が仕事だからねえ」

 

茜はそう言って、娘の湯呑に酒を継ぎ足した。

 

「あ、岬もオレンジジュース冷蔵庫に入ってるから飲んでいいわよ」

 

「ありがとうなのです」

 

てこてこと岬が歩いて冷蔵庫の前まで行った時、茜は「あっ」と声を上げてミナを見た。

 

「そうだそうそう、神社だよ、神社」

 

娘に酒を注がれながら、茜は膝を打った。

 

「神社って……科戸護国神社のこと?」

 

―――あの場所には然るべきときが来るまで来るな、と氏神様から言われていることを想起してミナは不満そうに鼻を鳴らす。

 

それを見た茜は「違う違う。街中に昔からある神社の方よ。なんて言ったかな……」

 

茜は思い出そうとして―――しばらく腕を組んで悩んだ後、「場所だけは思い出したから、うん」とバツの悪いといった体で二人に頭を下げた。

 

「期待させるだけさせてそれかあ!?」

 

「いやいや、まあそうだけど場所は思い出したから許してよ。えーと、神森駅の近くの林工業団地にある小さな神社よ」

 

ミナはそう言われて「ああ、子供の頃そこそこお参り行ったあそこか」と得心する。

 

「そーそー、七五三もそこでやったわよね。懐かしいわ」

 

ミナも場所がわかったようで、「葛野裏神社だよ。忘れてやんなよ、カーチャン」と苦笑して湯呑の酒を干した。

 

「そうそう、そうだった。葛野裏神社。あそこが確か韋駄天を祀っている神社なのよ。デパートの名前が韋駄天百貨店なのもそこから取っているのよ」

 

茜はカツオのフライにポン酢をかけてそう笑う。

 

「ああ、なるほど……そういうことか」

 

「あれ?韋駄天って仏様ですよね?なんで神社で祀られているのです?」

 

ミナが得心すると、今度は岬がそんなことを聞いてきた。

 

「元々は別の神様だったらしいんだけど、神仏習合の流れで韋駄天と同一視されて、そのうちにその神様の名前のほうが忘れられちゃった……って話だったはずよ」

 

答えたのはミナの方だった。

 

「崎見店長の件で図書館調べた時に、その記述は見た覚えがある……ただ、電書にはなってない文献のはずだから、また今度行って確認してみましょう。現地に行くのはそれからね」

 

ミナはほうれん草のおひたしを食べて、そして湯呑の酒を飲むとハァ、と息をついて笑った。

 

「ありがとう、カーチャン。やっぱり頼るべきはカーチャンだわ」

 

ミナがそうしてまた湯呑に酒を注ぐと「そんなこと言っても何も出ないわよー」と気怠く返される。

 

その時、ガチャリと玄関のドアが開く気配がした。

 

「ふむ……ただいま。今日は御母堂と飲んでいるのだな。私も同席してよいだろうか」

 

まず入ってきたのは廻である。

 

「ただいま帰りました」「ただ今戻りましたよ、ミナさん、お義母様」

 

次いで夕とルルが入ってきて挨拶をした。

 

「おーおかえりー、ヒントはカーチャンからもらったから、小難しい話は明日にするわー」

 

ミナが少し赤い顔でそういうと、「わかりました」とルルが応える。

 

「あ、そういえばあのクロキとか言う人は……」

 

「言われたとおりに、恐怖を刻んで追い返しましたよ」

 

岬に聞かれたルルはそう言ってミナの隣りに座った。

 

「よろしい。じゃぁ、みんなもご飯食べましょ。お酒でもいいけど」

 

ミナがそういうと、ルルは「はい」と顔を綻ばせる。

 

「はいはい、じゃあご飯は私がよそうから、三郎は味噌汁お願いね」

 

「へーい、任されたー」

 

ミナが立ち上がって、味噌汁茶碗に味噌汁を注いでいく。

 

ワカメと溶き卵の味噌汁だ。

 

ミナはこれだけでも飯が食えるな、と思ういい味が出ている味噌汁である。

 

そうして全員が食卓につき、飯か酒が出されるとそれぞれに「いただきます」あるいは「乾杯」と言って食べ、飲み始めた。

 

「……うむ、うまい」

 

静かに廻がそう盃を干した時、岬は彼の顔をじっと見ていた。

 

「……どうしたね、岬」

 

「あー、いえなんでもないのです」

 

岬は手のひらをふるふると振って、なんでもないと繰り返す。

 

(やっぱり……何か悩みがあるのですかね?)

 

味噌汁をすすり、心の中だけで疑問を呈して岬は食事を続ける。

 

(これは見抜かれているな……致し方あるまい。しかし、これは俺が自分で答えを出さねばならぬ問題だ)

 

廻はそうしてカツオのフライを口に入れてしゃくりと咀嚼した。

 

その様子をウィスキーを手にシラけた目で夕は見ている。

 

それにミナもルルも気付いているようで、しかし口に出しはしない。

 

そして茜とミナは酔いに相応しいとりとめもない話に移っていった。

 

それを横目に夕はため息をつき、ルルはミナを見つめ、岬は廻を、廻は酒の表面に映し出された自分の顔をひたすらに凝視していた。

 

「あ、そうそう。そろそろまたダンジョンに潜るわ。かけるちゃんのこと、元の世界のクソババァのこと、邪神の眷属を鑑みるに、私とルルの武装の修復とみんなの新装備を作るか拾ってこないといけないからね」

 

宴もたけなわとなった頃、ミナがそう宣言する。

 

「ほー、装備」

 

赤ら顔の茜にそう聞かれると、ミナは耳のピアスを弾いた。

 

「カーチャン、これなんだと思う?」

 

「んー……そうねぇ?ス○ース○ーズかなにか?」

 

ろくに考えることもなくそう答えた母に、ミナはサムズアップを返して「一発で正解だよ。すげーな」と微笑んだ。

 

「マジでMP消費1になるの?」

 

某有名RPGの6作目に初登場した、ほぼ無制限に魔法が使えるようになるアクセサリの効能を茜は言ってまじまじと息子であった娘の耳を見る。

 

それにミナは微笑みを絶やさずに「まあアレほど破格ではないけど、魔力を使う行動で消費する魔力を全部3分の1にしてくれるし、なんなら3倍までは力を蓄えられるんだよ」と返した。

 

「星界の力を集めるスターティアラと呼ばれる伝説の宝物。その欠片から作られたその『スターピアス』がなければミナさんが邪神を倒すことは不可能だったでしょう」

 

ルルがお茶をすすりそう続ける。

 

「ところが最後の一撃で魔力を集めすぎたせいか、こっちに来た後に壊れていることが発覚していまして。今までは特に必要ない敵しかいなかったので修復していませんでしたが」

 

ルルはそうして肩をすくめる。

 

多くの装備、アイテムを失い、切り札に近いスターピアスも壊れてしまった状態で邪神が復活したらおしまいであろう。

 

「改の会、SMN、かけるちゃんのこと。色々ありすぎてアレだけど、とにかくもうこうなれば悠長にはしてられないわ。かけるちゃんについての調査と並行して、ダンジョンの攻略を進めましょう」

 

ミナがコトンと湯呑をテーブルに置いてヒックとしゃっくりをしつつもそういうと、岬がまっさきに「了解なのです」と笑いかけてくる。

 

「空悟くんや恋くんにはちゃんと伝えてあるかね?」

 

そう聞いてきたのは廻だ。

 

隣の夕も含めて否やはないようで、夕は静かにウィスキーを舐めている。

 

「明日伝えますよ。流石に今日はもう遅いし」

 

ミナが時計を見ると、もう21時を過ぎていた。

 

「もう空悟たちのお子さんも寝てるだろうし、流石に迷惑だわ。まあ、日曜あたりに呼び出すかねえ」

 

ミナがそう言って立ち上がる。

 

「寝るならちゃんとお風呂入ってから寝なさいよ」

 

なんでもない茜の言葉に、娘は「わかってるよ。すぐ入っちゃう」と答えて居間を出ていった。

 

「さて、私も……」

 

「茜さん、片付けは私がやりますから休んでいてください」

 

後片付けのために立ち上がろうとした茜を夕が静止する。

 

見ればもう日本酒の一升瓶は、殆ど残っていなかったのだ。

 

「その状態で台所仕事は危険です」と夕は言って、壁につっかけてあるエプロンを手に取った。

 

「そう?じゃあお言葉に甘えて―――あ、そうだ。今日は天空の○○ピュタがやる日じゃない」

 

茜はそうして消していたテレビをつける。

 

チャンネルはもちろん惟神テレビだ。

 

「廻さん廻さん、もう少しお話しましょうですよ」

 

「うむ……どんな話が良いかな」

 

岬もまた少し離れたところで廻と話を始めてしまう。

 

「今日の日はさようなら、ってか?」

 

茜はとろんとした頭でぼうっと、画面の中の青い光を放つ宝石の力でゆっくりと落ちてくる少女を見つめる。

 

「やれやれ……」

 

やれやれ。

 

その言葉が誰に向けられたものなのかはわからない。

 

ルルは少なくとも、そう思ったのだった。

 

 

 

 

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