異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第158話『さーて。それはいつからでしょう?』

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暫くロケート・オブジェクトが示すままに進み、道中現れた敵を倒していく。

 

狂ったシルフや最初のウィンドライオン、カマイタチなどが主な出現エネミーであった。

 

「カマイタチ、異世界にはマジでいるんだ……」

 

「一応、アレでも風の中位精霊の一種類なのよ。こっちの世界ではただの伝承でしかないけれども……」

 

恋にそう返して、ロケート・オブジェクトの光が消えたあたりを探索する。

 

ここからは片っ端から周辺にペイント弾やペンキを塗りたくっていく作業となる。

 

「こっから半径30メートル以内くらいには階段があるはずだから、岬と恋ちゃんもこれ持ってお願いね。ルルと空悟は周囲を警戒してくれ」

 

ミナはバッグからペンキ缶と竹かなにかで作られた水鉄砲らしきものを取り出して、それぞれ二人に渡す。

 

「夕ちゃんは遠くにペイント弾ばらまきまくって。私達3人には近場からこれで塗っていくから」

 

水鉄砲にペンキを充填して動作を確かめつつそう頼むと、夕は首肯した。

 

『よかろう。弾種選択……染色弾。射撃開始』

 

夕がそうしてミナたちには当たらないようにペイント弾を発射し始める。

 

どうやらそこは広間のようになっているようで、ペイント弾は随分と遠くへと着弾していた。

 

『敵接近。任せたぞ、今野殿、女男』

 

ペイント弾を撒き散らす夕がそういうと、すぐにもわらわらとウィンドライオン、狂ったシルフが十数体現れる。

 

ここまでに倒されて続けていたからか、それともここに大事なものがあるのかわからないが、その顔には明らかな憎悪と怒りが含まれていた。

 

左手にサブマシンガン、右手に今津鏡を保持して空悟は笑う。

 

「悪いが、そっちの親玉さんのご招待でね!ガサビラもフダもないが、事情聴取は最低でもさせてもらう!」

 

小脇に抱えてサブマシンガンを乱射すると、その鉛玉を嫌ってシルフたちは散開した。

 

そしてそれを見逃すルルではない。

 

すぐにも魔法が飛んでいく。

 

「偉大なるロジックよ。我が手に握られしものは槍。心を蝕む光の刃なれば、疾く放たれ我が敵を射ん。マインドウーンズ!」

 

唱えた呪文は幾本もの光の槍になって飛んでいく。

 

その槍は精神や実体のないものを穿つ論理の矢だ。

 

すぐにもシルフたちは蹴散らされていき、そしてその隙に空悟がウィンドライオンへと肉薄する。

 

既に一〇〇式機関短銃は投げ捨てられて、今津鏡を霞に構えて突貫した彼に面食らった獅子は、また一匹首を飛ばされる。

 

「よーし、そのまま抑えててくれよ!」

 

「おうとも!」

 

刀を青眼に構え直し、まだ3体ほどいる獅子の前に立つ。

 

半年前の自分ならきっとこんなものを相手になどしたら逃げ回るしかなかったろう、と苦笑して刀を振る。

 

ウィンドライオンはその口から熱気を持つウィンドブレスを放ってくる。

 

それは麻痺の効果を持つ危険なものだ。

 

しかし、空悟はその風を切るかのように構えた刀によって―――いやさ、文字通りに切り開いていった。

 

「しっかし、相変わらずすげえなこの刀……」

 

今の空悟は、ミナが渡したいくつかの魔法の武具と薺川博士から預かったボディアーマーを組み合わせて装備し、まるでどこかのリメイク前魔○塔士人間・男のような出で立ちである。

 

その出で立ちを補強するかのように彼の手に握られ輝く今津鏡は、東方にて妖に変じた只人の鍛冶師が鋼の秘密を解いた山人の教えを受けて鍛えたと言われる妖刀だ。

 

風の獣程度であればバターのように切り捨てることは―――できる。

 

しかし、素人ではその妖刀の輝きに魅入られて剣鬼と化してしまうのはこの手の妖刀魔剣の常であった。

 

空悟はその輝きに負けることなく、その刃を振るえている。

 

それを水鉄砲で階段を探索しつつミナは横目に見て、成長早すぎだー!詐欺だー!と内心で叫ぶ。

 

同じように岬や恋の成長も早すぎる―――つまり、地球人の特性に感嘆せざるを得ない事態であった。

 

(やっぱり私があのくそやろうに選ばれてしまったのも、きっと地球人だから……だと思うんだよねえ)

 

そう考えるとしっくり来ることはある。

 

―――勇者の権能を持つエルフなど、おそらくは世界を巡っても自分ひとりなのだから。

 

いずれ竜の兜を空悟が勇者の兜として使いこなせるであろうということも相まって、ミナはこの件は早急に調査をしなければならないと思っていた。

 

しかし、竜の兜はアレでなかなかの難物で、ミナも使いこなすことは出来たがそれがどういうものなのかは未だにさっぱりわからない状態である。

 

それをいずれは明かさなければならない―――などと思っているうちに、空悟とルルは風の魔物たちをすべて蹴散らしてしまっていた。

 

「よし、これで全部だな」

 

「ええ。今の所追加はないようです」

 

ひゅう、と風に敵が溶け消えていく。

 

その様子を見たミナは「OK!じゃあ二人も手伝って!なかなか見つかんねえ!」と叫んで、二人に水鉄砲を渡した。

 

「風の精霊術で塗料を拡散されてはどうですか?」

 

「何が起こるかわからんから却下。風の上位精霊や魔精霊の空間で風の精霊術使うのは危険だって知ってるでしょ?」

 

ルルの言葉に、水鉄砲を手渡しつつミナはそう返す。

 

向こうを見れば、恋と岬が「見つからないのですねえ」「そうだねえ……」とぼやきながら水鉄砲でペンキを床に塗布していた。

 

「……おかしいわね」

 

「何がだ?」

 

ミナが床にペンキを塗りつつそういうと、空悟が同じようにしつつ聞いてきた。

 

ミナはそれに少し苦笑しつつ「部屋の中、だいぶ塗りまくったけど階段みつかんねーなってこったよ」と返してまた水鉄砲からペンキを発射した。

 

「うーん……そうだな……」

 

空悟は首をひねって、しばし考える。

 

「やっぱり定番は隠し通路だな。俺もクソみたいな売春してるアンポンタン摘発するときにだなあ。アレだ。マンションの床に隠し通路作ってた連中とか知ってるからよ」

 

そう言って、微妙な顔になる。

 

それにミナも気付いて、「そういう経験、オレもあるわ。床に大穴開けて大家さんが泣きを見るやつ」と言ってケラケラ笑った。

 

「あー、やっぱそういう仕事もしたことあんのな?」と聞かれた彼女は「シティアドベンチャーで建物調査とかガサ入れとか普通だかんなー」とため息をついた。

 

「で、そういうのって」「大概な」

 

二人は息を合わせて「「往生際が悪い」」と顔を見合わせて爆笑する。

 

「文の前だと職場の話ができねーからな、こういうのいいな」

 

「まーな。オレが情報漏洩とかは絶対しねーから安心しろや、親友」

 

そうしてひとしきり笑い合って、二人は「やっぱリドルあるよな」「だよなー」と表情を曇らせた。

 

6人のペイント作業で部屋ほとんどの場所はペンキが塗られているが、階段はない。

 

念のために行った2回めのロケート・オブジェクトもこの広間に階段があるという結果しかもたらすことはなかった。

 

「……うーん、なにかあるのは間違いんだろうけど見当がつかねえな」

 

何しろ、周りの壁や床はほぼ透明の板と言うしかない代物なのだ。

 

何かを見つけるというのがなかなか難しい。

 

ふと岬の方を見れば、彼女は―――

 

「……え?」

 

空を見上げて、水鉄砲を取り落していた。

 

カラン、ともうペンキの入っていない水鉄砲が乾いた音を立てて転がる。

 

「―――なんで?」

 

岬はどこか虚にそう言って目を見開いた。

 

その彼女の見ている方向をミナは見据えるが―――そこには何も存在しない。

 

あるのはただただ虚空だけであった。

 

「どったの岬!?何見えてんの!?」

 

長年の経験から、ミナはその様子をなにか彼女しか見えないものが見えているのだと判断して彼女に駆け寄っていく。

 

「え?いや、その、あの―――見えませんです?そこにかけるちゃんが……!?」

 

先程まで自分が見ていた方向を指差して、岬が青い顔でミナへと振り向いた。

 

「マジで?」

 

「マジなのです!ほら、そこに!!」

 

ミナは岬の指差した空間を、精霊感知の感覚を開いて目を凝らす。

 

すると、たしかに薄ぼんやりと何かが見えてくる。

 

その姿、可愛らしい短髪の少女の姿がミナの目にやがてじわりと見えてきた。

 

「なんでここに……いや、『違う』……!」

 

「かけるちゃんの形だけど、かけるちゃんじゃないのです……!」

 

ミナと岬はそう交互に言って、虚空を睨む。

 

「ちょっとどういうことだよ、ねーちゃん、岬ちゃん!」

 

恋が聞いてくるが、岬は「しー!」と口に人差し指を立てて静かにするように促した。

 

それもつかの間のこと。

 

それは―――虚空より声を発した。

 

『あはははは!ここまで来る人なんていつぶりかなぁ!ねぇ遊びに来たの?ねぇ!』

 

楽しそうな、嬉しそうな、どこか寂しそうな笑い声が響く。

 

『私にも聞こえる……なんだこれは。音源が特定できん』

 

夕が怪訝な表情で周囲を見回す。

 

「こりゃあどういうことだ……?」

 

「ちょっと、怖いんだけど……説明してよふたりとも!」

 

それは空悟や恋も同じだったようで、キョロキョロと周りを見ては不気味さを感じているようだった。

 

「……まぁよくあることです」

 

そう言って冷静に瞑目したルルを横目に、岬はそのかけるのようななにかに声を掛けた。

 

「かけるちゃん……ですよね?」

 

恐る恐るに名前を聞くと、彼女は半透明の身体でくるりと回って『ちがーうよー』と笑い出した。

 

そのケラケラという笑い声は魔法少女に変身したかけるにそっくりだったが、しかし呪言の重みはなく軽快に聞こえる。

 

『ボクは……むくろ。かけるっていうのは―――ボクの影―――いや、ボクが影なのかな?どっちでもいいけども』

 

うひひ、と空中で胡坐をかいて笑う少女に―――夕が話しかけた。

 

『なるほど。『駆』と『躯』か。似た漢字だが意味は全く異なる』

 

腕部機関砲を油断なく向けながら、夕には不敵な笑みを浮かべてミナと岬の視線の先を正確に狙う。

 

「ああ、なるほど確かに似た感じだけど、走ることと身体とか死体って意味がぜんぜん違うな。君、一体何モノだい?」

 

空悟もまたそれに気付いて声をかけると、むくろと名乗った少女は『ありゃまぁ、そういうことだねえ。ボクはずっとここにいるだけだけど』とまたケラケラ笑い出した。

 

「……いつからいるのです?」

 

『さーて。それはいつからでしょう?』

 

岬に聞かれたむくろは、空中で縦にくるりと回転しておどける。

 

『リドルだよー!さぁ、ちゃんと答えられたら下に連れてってあげる!でも、漢字がわかる人ならとってもかんたんかな!』

 

岬に抱きつこうとして、するりと透明な身体がすり抜けたことに少し残念そうな顔をして、少女の幻影は謎掛けを出してくる。

 

『ボクとボクの名前で共通する部分は『区』だけど―――これが意味するところは何でしょう!いやー、かんたんかんたん!奉仕問題ってやつだね!えへへへ!』

 

むくろが笑うと、それだけでそこらへんじゅうに塗られたペイントが消えていった。

 

『あ、でもねー『仕切』のことじゃないよ。それはそれで正解の一つだけども、もう一つのほう!』

 

楽しそうなむくろに、ミナはハァ、とため息をついた。

 

「仕切以外……か。わかるか、三郎?」

 

「まぁな。槍の刃を『穂』と言い、これは剣も古くは同じ。そして剣の柄は『袋』ともいう」

 

ミナにそう言われた空悟は「ああ、それか。つまり刃と柄の間のことを『区(まち)』とも言うな。簡単に言えば」と指を弾く。

 

『せいかーい!やっぱりかんたんだったね!あははっ!』

 

くるくると回るむくろが見えていない恋は、「それってどういう意味?」と空悟に聞いてきた。

 

「ああ、日本刀ってのは鉄の部分は刀身=穂と『茎(なかご)』っていう切れない持ち手の部分に分かれるんだが、その刀身と茎の間を区っていうのさ」

 

今津鏡を鞘から抜いて、空悟はそう説明する。

 

それに「へぇ~」と感心する恋をよそに、口を開いたのはルルであった。

 

「即ち、上『身』であるあなたが本体……あるいは魂の、ということですか」と難しい表情でむくろへと視線を向ける。

 

『まぁ……そうなるかな?そうなるんだろうねぇ……』

 

腕を組んで苦笑したむくろはルルにそう返してまた空中をくるくると回転し始めた。

 

『えっと―――とりあえずなぞなぞには合格したんだから、連れてってあげるね!じゃあ、皆さんボクのエリアへご招待!』

 

少女は一瞬逡巡するような素振りを見せたが、すぐに元の調子に戻って手を振り上げた。

 

すると透明な床は更に透明度を増して、ゆっくりと全員の足が床に沈んでいった。

 

「ちょ、ちょっとこれどゆこと!?」「怖くないのです、むしろ暖かな風を感じる……?」

 

まず最初に沈んでいったのは恋と岬。

 

『単純な重量で沈んでいるわけではないな……』

 

次に沈んだのは不機嫌そうな夕。

 

そして顔を見合わせてうなずきあったミナ、空悟、ルルがほぼ同時に沈んでいった。

 

液体と気体の中間のような不思議な感覚。

 

―――時間が停止していることを考えると、この空間には水系の精霊も関わってはいないだろうか?

 

ミナはそう疑問を抱きつつ静かに潜っていった……

 

 

 

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