異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第160話「ぎゃああああああ!?!?!」

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それから3時間後―――

 

食事休憩を挟んで狂った精霊たちを倒していたミナたちは、空の明らかな変化を観測していた。

 

「空気が若干薄くなってきたわね。風が巻き上げられて一箇所に力が集中している証拠なのだわ」

 

『雷雲が通常の数百倍の速度で形成されつつある。階層の中央部には凄まじい上昇気流が渦巻いていることだろう。近づくのは危険だな』

 

ミナと夕はそう言って顔を見合わせた。

 

『内包されてる熱量がすべて解放されれば100キロトン級の核兵器に匹敵する爆風が発生するぞ』

 

「やっぱりそのくらいにはなるか……」

 

台風と比べればそのエネルギー総量は遥かに低い。

 

だが、それが爆発的に解放されるのであればその威力を発揮してしまうのだ。

 

「うーん……暴発寸前って感じの風情ではあるし、このまま予定通り防護魔法を展開しつつ様子を見ましょう」

 

ミナはそう言って双眼鏡を目から離した。

 

『了解した。しかし、常識はずれの現象だな……こうして話しているうちに積乱雲が完全に形成されてしまった』

 

夕の言葉に「上位精霊や魔精霊の領域ではよくあることだから……」とミナは諦めの感情が色濃く見て取れる表情で笑う。

 

『ふん……まあとにかく陣地形成を続けよう。あの積乱雲の中心はここから四〇〇〇米ほどしか離れていない。核爆発と同じと仮定するとここは十分致死になる範囲だ』

 

それがもし本当に核兵器と同じ程度の威力を持つのなら、殆どの民間建築物は破壊されてしまう距離である。

 

既にルルは準備をしているが、自分たちも手早く済ませねばならない状況であった。

 

「わかってる。しっかし、おおよそこのフロアは半径5kmの円形になってることだけはわかったけど、一つのダンジョンにしては広すぎるなあ……」

 

ミナはそうしてできるだけ壁に遮蔽される場所へと移動する。

 

「多分、後数分で臨界点に達するわ!ルル、行くわよ!」

 

「了解です」

 

ルルは既にその場所に何体ものアイアンゴーレム、ストーンゴーレムを配置し、爆風から逃げられるように配置している。

 

「いい、岬、恋ちゃん。私達はここからずっと防護魔法を使い続ける。あなた達は精霊力が爆発的に解放される瞬間にマジカル・プロテクトを発動するのよ」

 

「はいなのです!」「うん!」

 

二人が元気よく返事をしたのを見た彼女は、後ろの空悟に「空悟!勇者の兜は絶対に外すなよ!」と声を掛けた。

 

「わかってる!死にたかねえからな!一回でもよ!」

 

その言葉にミナは「だよなー」と笑った。

 

すでにミナは上古の森人の戦装束に着替えており、ルルも普段の黒い魔法使い然としたローブではなく、青い豪奢なローブ……おそらくは幾重にも防御魔法が仕込まれていると思われるローブをまとっている。

 

「世界を停滞へと導く我らが厄神よ―――その冷たき流転の終わりを」「破壊と渇望の王、呑み込み食らう我らが神よ―――その赤き牙を」

 

「「盾と変えたまえ!デス・ウォール!」」

 

二人は言葉をかわし合うこともなく、いつもどおりと言った風情で物理防御として最高の防御力を誇る死の壁の魔法を唱えて視線だけを交わす。

 

そうしてミナはすぐにカウントダウンをするように夕へと促す。

 

「少し予定より早いけど―――推定、後30秒。夕ちゃん」

 

『承知した。三十、二十九……』

 

夕のカウントダウンとともに、岬と恋もまた魔法を唱え始めようと杖を構えた。

 

「光よ肉に還れ……」「壁となれ……!」

 

ギリギリまで魔力を使っての全力防御。

 

そのために二人は引き絞るような声で呪を唱える。

 

『わー……おねーさんたちヤバイねーヤバイって』

 

むくろの声が聴こえるが、それを皆が半ば無視していることを悟ると、彼女は『ちぇっ』と言って黙り込んだ。

 

『電磁防壁、最大出力―――』

 

岬、恋、そして空悟をかばう位置で夕が目を見開くと、バヂバヂと電磁防護膜が展開される。

 

―――ストーンゴーレム、アイアンゴーレム、デス・ウォール2枚に、電磁防壁……

 

これで防御できないものがあるとすれば、もはや成長した魔王の攻撃のレベルとなってくるだろう。

 

『―――三、二、一 ―――今!』

 

「「マジカル・プロテクト!!」」

 

夕の合図とともにマジカル・プロテクトが展開され――― 一瞬遅れて巨大な雷光が世界を覆った。

 

幾条もの雷と猛烈な暴風竜巻がほぼ一点に集中して天より地上へと突き刺さるのが誰の目にもわかる。

 

そして数秒もしないうちに雷竜巻の「着弾」による大爆風が襲いかかってきた。

 

「―――………ッッッ!!!」

 

ミナですらも口を開くことすら出来ない衝撃。

 

既に幾重にも展開されていたゴーレムたちは刹那のうちにそのほとんどが破壊され、ひしゃげ、衝撃波はすべてデス・ウォールへとぶつかってくる。

 

しかし、デス・ウォールを砕くことは―――否。

 

「ギィッ……!」

 

ミナの展開したデス・ウォールが100キロトン級―――否、すでにそれはメガトン級と言えるほどの核爆発に匹敵する衝撃波によって破壊される。

 

10秒ほど遅れて音が襲いかかってきて―――その着弾したモノがどのような威力なのか、本能へと訴えかけるような轟音であると全員に理解された。

 

そしてその瞬間に―――バギリ、と。

 

ルルのデス・ウォールも破壊され、二人は衝撃波によって―――吹き飛ばされ―――

 

「るかぁぁ!!」「アァァァァァァ!!」

 

夕の電磁防壁の前に杖を持ち立ちはだかる。

 

二人の装束はそれだけでも凄まじい防御力の伝説の装備である。

 

故に―――数秒耐えきった。

 

それが決め手であり―――夕の電磁防壁はその役目を完全に達成し、衝撃波を岬たちに届けることなく護りきったのであった。

 

「いってぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

衝撃波が完全に後ろへ抜けていった瞬間、ミナは絶叫しながら転げ回り始める。

 

ブラックリボンの効果で四肢の切断や内臓の破裂など致命傷は回避している。

 

もちろん勇者の装備である装束にも傷一つない。

 

が、その代償に―――転げ回りはじめて0.7秒後。

 

「ぎゃああああああ!?!?!」と絶叫を上げて、全身の穴という穴から血を吹き出したのであった。

 

見ればルルの方は立ったまま同じ状態となっており、微笑みのまま表情を固まらせて主同様に全身の穴という穴から黒い血のような液体をブシュブシュと吹き出している。

 

「大丈夫か三郎ぉぉぉぉぉぉ!?」

 

「ひえー!?ルルくんが!?ルルくんが大変なことになってるのです!?」

 

「ちょっと!ちょっと岬ちゃん早くヒーリングかけて!!」

 

空悟と岬、恋はそうして大慌てで二人の治療に入ったが……

 

その様子を見ながら、夕は少し思った。

 

(あの衝撃波で骨が折れたり吹き飛んだりしないで、全身から血を吹き出すなどどういう体構造してるんだ……?)

 

概ねブラックリボンの効果であったり、あるいは死の王としての防御力によるものであったりはするのであるが、夕がそれを解析できるわけもないのでこうして疑問に思うしか出来なかった。

 

そうして数分後、岬のヒーリングで最低限の回復が成されたミナは、自分とルルにグレートヒールをかけ―――更に作っておいたブラッディパウダーを服用して完全に回復する。

 

治ってすぐにミナが言ったのはお定まりの「死ぬかと思った……ブラッディパウダー作って置かなかったら死ぬところだった……」という言葉であった。

 

「また無茶してからに……」

 

空悟がミナの額をポコンと叩くと、「無茶しなきゃ駄目なときはいくらでも無茶するさ」と微笑んで立ち上がった。

 

『周辺どころか、壁は少なくとも光学目視範囲にはなくなったな。すべて粉砕されてしまったようだ』

 

夕が呆れ気味にそう言ってミナを見ると、「了解。それじゃあ一休みする前に行ってみましょうか!」と提案する。

 

それに空悟は「わかったわかった。ふさがっちまうと大変だからな」と返した。

 

魔法少女たちもまた「ここまで苦労してふさがってたらあたし泣くのですよ」「わかるわ……」と賛成する。

 

『そうかんたんには塞がんないと思うけど、でも急いだほうがいいと思うよー』と言ったのはむくろだ。

 

「それじゃあ行きましょうか……」とルルも立ち上がった。

 

「大丈夫か、お前……」

 

空悟がまだ黒い血糊でデロンデロンになっているローブを見ながら聞くと、「まぁ実は魔力がすっからかんでして。自然回復するまで浄化が使えないんですよ」と微笑んだ。

 

「あ、やっぱり切れてたのね。じゃあ私が浄化したげるわよ。うっかりダメージ食らわせるかも知れないけど」

 

「嫌ですよ。確実に僕も大ダメージ食らうやつじゃないですか」

 

ルルは不満げにミナを見る。

 

「後で脱いだ時にやるから大丈夫です。それにリッチーの血は死に近い魔物よけになるのはミナさんも知っているでしょう?」

 

ルルはジト目で主を見て、ミナもまたいたずらが過ぎたとばかりに舌を出す。

 

「おう、いちゃつくのは良いから早く行こうぜ。日は……暮れねえけどな」

 

ニヤニヤと笑う親友に「どういう意味だそれは」と返したミナに、「さーてどういう意味だろうな?」と笑って空悟は前へと歩いていく。

 

竜の兜はかぶったまま。

 

警戒は怠らず、一〇〇式機関短銃と今津鏡はいつでも反応できるよう抜身で携帯していた。

 

「そういやさ、おめーホントは自衛官になりたかったんだっけ?」

 

ミナはふと、そんな古い話を聞いてみた。

 

「あー、うん、そうだけど。結局、我が国の人間って国を守るってことなんか一つも考えてないじゃないか。なんでそんな国の人間を戦場に行ってまで助けなきゃならないんだ、って思ってしまったんだよな」

 

空悟はもう雲ひとつない天を見上げて苦笑する。

 

元々は親に反対されたことが原因だった、と彼は昔言っていた記憶がミナの心に蘇る。

 

「へー、軍人になりたかったんですねえ、空悟さん」

 

ルルは意外でもないな、といったふうに彼に声をかける。

 

その言葉に「まあな。そこそこ後悔はしているし、そこそここれでいいと思ってるよ」と笑い返した。

 

『軍人になりたかったと言う割にはへらへらしているな』

 

「今の時代、警官だろうと自衛官だろうと公僕なんてそんなもんだって。モチロン、真面目に自衛官してて戦死の覚悟もちゃんとしてる奴もたくさんいるんだろうけどな」

 

揶揄するような自動人形の少女に、空悟はそう返しててくてく歩いていく。

 

それを追うように全員がその足音へとついていった。

 

「……じゃあさ。今は死ぬ覚悟とかあるのか、にーちゃん」

 

恋が少しだけ逡巡してそう聞く。

 

男はそれに少しだけ驚いて、ただ一言。

 

「男は妻と子が死ぬかも知れないとなったら、たとえ地獄の果てにだって行くもんだと思ってるよ」

 

そう答えて沈黙した。

 

「自衛官を目指していたのですね、空悟さんは」

 

「ああ、あれで色々と難しいやつなんだよ。まあオレと清水さんくらいしか知らないけどね」

 

岬に聞かれたミナは、あえて男口調でそう答えてフッと短いため息をつく。

 

「さぁ、もうすぐ次のフロアへの入り口よ。気を引き締めていきましょう」

 

ミナの言葉に皆が沈黙する。

 

透明な床に、ぽっかりと黒い穴が見えるのはそれからすぐのことであった。

 

 

 

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