異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第163話「……そっちなんか」

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「そっかー……ほとんど時間が止まってるこの空間でずっとかぁ……」

 

ミナはイーガックの懐中時計を見つめて、ため息をついた。

 

このダンジョンへと入ってきてからもはや1日近くが経っていると言うのに、その時計は10分も動いていなかったのだ。

 

「とりあえず下手な考え休むに似たり、ね。ゴーレムに考えさせても仕方ないってものなのだわ」

 

こちらとあちらの、考えても意味ないことは考えないという言葉を重ねて、空悟たちが地球人を逸脱しつつある事実はまた後で考えようとミナは頭を切り替える。

 

「そうですねー……まぁ、少なくとも早死よりはマシだと思っておくしかないのです」

 

「右に同じぃかなぁ……」

 

魔法少女二人の言葉と、夕・空悟の首肯を合図にミナは本来聞かねばならないことを聞いた。

 

「このダンジョンの主は風の魔精霊のはずです。居場所はわかりませんか?」

 

ミナの言葉にガドゥルはしばし沈黙する。

 

静寂が空に流れ、吹く風以外の音がなくなって、そして―――

 

静寂を破ったのは……

 

『下らぬ思考をするでないぞ、我が友よ』

 

ガドゥルの古い知り合いであるカレーナであった。

 

『カレーナ……我はむくろを守りたいだけなのだ……』

 

少しだけ気分を害された、という色の声を発した龍へカレーナは笑う。

 

『ファファファ!お互い死んだ身ぞ!下らぬことを考えるよりも、自らの快楽と後身の栄達を望むがジジイとババアのやるべきことじゃろうが!それとも汝が美少年出してくれるんか!?それなら汝の繰り言とか意味不明な難読会話に付き合ってやるわ!』

 

嘲り笑うその声に、ルルが「……やっぱり気に入りませんね」と不機嫌な声を上げ。

 

そして親友が「やっぱりおめーのバーチャンだってのはまぁまぁ信じられてきたな……縁召喚かなんかでこの人の家に生まれ変わったんか?」と少し顔をしかめて聞いてきた。

 

「HAHAHA。生まれる家は選べねーんだぜ、親友」

 

ミナは少しだけ青筋を立てて親友にそう返すと、祖母の言葉が紡がれるのを黙って聞いている。

 

いくらなんでもこれ以上とんでもないことは言わないだろう、というある種の信頼でもあり―――

 

そしてそれはきちんと当たったのであった。

 

『そもそも我と違って、汝死にたいのではないか?こんななにもない場所で何千か何万か、下手をすれば億と過ごしたであろう。いい加減に嫌になっているのであれば、我の孫娘がきっちり引導を渡してくれよう』

 

手の中の祖母の剣から伝わる波動は、その言葉が心の底から生まれ出ているのだと伝えてくる。

 

ミナは首肯して、ガドゥルに視線を送った。

 

『……カレーナの孫ミナよ。なにか言いたいことでもあるのか』

 

「あるに決まってんでしょ」

 

ミナは盛大なため息をつきつつ、カレーナにも聞いた。

 

「バーチャン、この人、昔っからこーだったん?」

 

『そうさのう。まあ、汝の感想通りと言っておこうか。一言で言えば真面目がすぎる、である。我はシリウスが冒険者になると申したとき安心したのだ。真面目が過ぎて、我、コヤツの種でシリウス産んだんじゃなかろうな?とのぅ。まぁ、こやつのが入るほど我のあそこはガバくないが』

 

シモネタを交えつつ呆れの含まれたその言葉に、ミナは「はー……」と頭を抱えた。

 

「いい?ぶっちゃけここから出たいにしても、死にたいにしても私達が協力しなきゃあんた自分じゃ死ねないし、私達が殺しても生き返るでしょうが。この空間がある限り!見当違いの真面目さは害悪よ!むくろちゃんを助けたいのかも知れないけどさ!」

 

ぷりぷりと怒り出したミナの怒声が空間に響き渡る。

 

ルルはその声音に、本当に怒ってるなこれはと嘆息した。

 

『繰り返すぞ。私はむくろを守りたいだけだ。そのため、私が動くわけにはいかんのだ……』

 

「動くわけにいかないなら私たちが動くって言ってんの!わかんないかな!?」

 

ミナが更に迫ると―――『くどい!』と龍の咆哮の如き拒否の声が響き渡る。

 

そうしてしばらく二人は言い合った―――言い合って。

 

やがて怒声が途切れると、ミナの視線とカレーナの気配がガドゥルの怒りとも殺意ともつかぬ圧力とぶつかり合う。

 

―――そんな怒気を放つミナに同調したのは、意外にも夕であった。

 

『金髪女の言うとおりだと存ずる、龍王閣下』

 

静かに夕は前に出た。

 

『……なんだと?』

 

『あなたの任務はとうに終わっているのに、ここに囚われているのでしょう?兵士としても戦士としてもあなたはもう終わっているはずなのに、終わらせるとそこの金髪女とその祖母が言っているのです。乗らぬ手はありますまい。たとえ、それによってそこで浮かんでいる少女がどうにかなるとしても、あなたには関わりがないはずだ』

 

夕はそこまで一息に言って、指を彼に向けた。

 

『そう。その姿に瓜二つの少女を救うのは我らの任務である。その姿を見れば影山かけるという少女とは無関係ではあるまい。であれば、むくろ嬢を救うのは我々の任務でもあろう。終わったものに出番はない……協力する気がないのであれば、退いていてもらいましょう。情報もいりません。沈黙を貫いているのが良いでしょうとも』

 

夕は不機嫌と苛立ちを隠そうという気もない態度でそう一気にに言ってのけた。

 

その言葉に最初に反応したのは―――

 

『かはははははっ!よう言うたよう言うた!ゴーレムのくせになんともまぁ肉感的に情感込めて痛切に痛烈に吠えるものだ!ガドゥルよ!我が古き友よ!わずか80年ばかり前に造られた程度のゴーレムにこれほど言われて悔しくないかのう?くっふふふ……ああ、なんということじゃ!こやつのほうが汝よりも『生きて』おるぞ!?』

 

歌を謳うような楽しげな調子でミナの祖母は笑い出す。

 

その言葉と哄笑をしばし耳朶に入れた龍は―――重く、また重く口を開いた。

 

『……敵わぬな、トワイライトの氏族には。そして汝には。しかしながらユウとやら―――称賛しよう。最も強く私の心を動かしたのは汝だよ』

 

『それは何より』

 

そっけなく夕に返された龍はほほえみそして、ズシン、と半透明の足を地面に叩きつけるかのように踏み出して立ち上がる。

 

『むくろ……ここから出たいかね?』

 

『うーん……楽しいところなら、出るよ!かけるとも会ってみたいし!』

 

ガドゥルに聞かれたむくろは空中をまるで円月輪かなにかのようにくるくると回転しながら笑って答えた。

 

その言葉に龍は『では協力しようではないか。魔精霊―――アウステルのところへな、案内しよう』と唇を歪めた。

 

「アウステル……ノトスのローマでの別名なのですね。色々不思議ですけど、こちらの世界と同じ名前がいっぱいあるのですね」

 

岬がふと小さな疑問を投げかけると、ミナは「私も気になってるけど……今は考えないようにしましょう」と微笑んだ。

 

「では案内してもらうわよ、バーチャンの友達のガドゥルさん!」

 

妖精の勇者の言葉に、龍は恭しく肯んずると―――雷霆の去っていった方向とは逆の方向へと歩き出した。

 

「……そっちなんか」

 

『そのとおり。ロケート・オブジェクトを始めとする捜し物の魔法はこのフロアにてはほぼ無効化される。そして発動したものを私が確認し、有害ならば排除するのだよ』

 

ノシノシと歩く龍の姿を追いかけるミナたちに、ガドゥルはそう笑いかける。

 

「とはいえ、バーチャンが知り合いで良かったわ。あなたを倒しても解決しなさそうでしたし」

 

ミナにそう言われると、ガドゥルは笑い出した。

 

『そうしていると本当にカレーナがまだ少女と言える頃を思い出す』

 

「やっぱバーチャン似なのな、お前」

 

面白そうに乗ってくる親友に、「うるせー馬鹿!」と言い返してミナはノシノシと足音を立てて歩いていく。

 

「はぁ……だから気に入らないんですよねえ。ミナさんをあんな色ボケにさせてたまるものですか」

 

ルルはジト目でミナが佩く剣と前を行く龍を交互に見つめてため息をつく。

 

『そこまで言うのなら一線を越えてしまえばどうだ、女男。アレも女だろう。押し倒せば良い』

 

100年と言わず10年も一緒にいて不快ではない異性同士なら、私なら悪い気はせん。

 

夕はそう言って唇を不機嫌に歪める。

 

『勇気がないのであれば構わん。確かにあの金髪女を押し倒すなど、生命の危険を覚悟せねばならんだろうからな』

 

胸を揉んで逆さ釣りで顔面崩壊するまで殴りまくるのだから、それ以上となれば死を覚悟せねばならないのは当然であろう。

 

当然であろうが、目の前にいるのは死の王と呼ばれる怪物であることに夕はため息をついた。

 

『死ぬのくらい屁でもなかろう。そのうち根負けしてやらせてくれるかもしれんぞ。いや、寝ている間に性的嫌がらせをするのではなく、土下座して僕と寝てくださいと懇願したほうが良さそうだな』

 

遠慮のない言葉に、ルルは「……それでうまくいくと思います?」と返す。

 

それに首を突っ込んだのは少女たち二人である。

 

「いや、多分、ミナねーちゃん特に処女とかにこだわりなさそうだから、そのままてこでも動かねえ!って感じになったらヤラせてくれんじゃねえか?あたいの先輩のアイドルで、似たような感じでカレシとヤッちゃったつってた人いたぜ」

 

どうせマスコミはいないと高をくくった爆弾発言を織り交ぜつつ恋がそう言ったのを岬が継ぐ。

 

「いやーあたしもそう思いますですよ。セクハラ繰り返す変態よりは、土下座する男の娘のほうが元男のミナちゃんには効果的ですよ」

 

耳をほじって、そのかすをふっと息で飛ばしてくる岬に言われると、「みんなしてひどくないです?」とルルは肩を落としてしまう。

 

「いやあ、だってスキあらば寝てるミナちゃん素っ裸にしておっぱい揉んでる変態なんてこの程度の扱いが丁度いいと自分でも思いませんですか?」

 

おまえは何を言っているんだ、とでも言わんばかりの岬の頼りない笑みを受けて「ぬ、ぬぬぬぬ……」とルルは黙ってしまう。

 

『やれやれ。お前より何十分の一も生きていない者たちに言われてしまっては形無しだな』

 

夕はそうとだけ残してスタスタと前を行く3人のところへと歩いていってしまう。

 

岬と恋はそんな夕についていく素振りを見せ、そして最後に一言。

 

「セクハラはよしなさい!正々堂々と行くのですよ!」と岬が言って―――

 

ルルは「ぁぁぁぁぁぁぁぁ……」とか細い悲鳴をあげながら肩をがっくりと落とすのであった。

 

 

 

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