異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第164話「あ、それでいいんだ」

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てくてくと何時間も、何時間も歩き続けている。

 

冒険者現象の恩恵を受けている一行、特に機械人形である夕には何の苦でもない時間であったが、それでも話す内容などは尽きて行くというものである。

 

そうして大体この空間についてから26時間ほど経った頃、遂に恋が眠気に耐えられなくなってきた。

 

「う……眠い……」

 

「大丈夫、恋ちゃん。仕方ない。足元が心もとないけどここらへんで野営しましょうか」

 

空は常に昼の明るさであるが、遮光の手段がないわけでもなし。

 

ミナはガドゥルへと「少し休憩させてもらいたいのだけど」と言うと、彼は無言で首肯してまるで人であるかのように地面にあぐらをかいた。

 

『あーりゃー恋ちゃんねーむそー』

 

「眠そうじゃなくてマジ眠みぃんだよなあ……」

 

むくろに頭に乗られながら、恋は少し辛そうにそう答えた。

 

むくろには重量はまったくないため、彼女には特に身体的負担はないが、その乗られているという事実で頭が重くなったような気がする。

 

「ちょっと退いててくれねえ?」

 

『はーい』

 

むくろがぴょーんと空に跳ね上がると、恋は「ミナねーちゃん……」と心細げが声を上げた。

 

「無理しないで、休みましょう。真面目にもう26時間も動いてるからね、私達」

 

人ではないルルや夕は平気だが、流石に生身を持つ他の3人も後2~3時間もすれば活動に若干の支障をきたしていくだろう。

 

人が不眠でいられた世界最高記録は11日だというが、そんな耐久試験をする意味もない。

 

ミナは手早くバッグからテントを出すと、空悟に「じゃ、手伝ってくれ」と声を掛けた。

 

そうしてミナと空悟がテントを作る間、ルルと夕は食事の準備に取り掛かる。

 

道中、非常食―――カロリー*イトなどはかじっていたが、それだけでは不足というものだ。

 

「大丈夫です?ご飯食べてから眠りましょうですよ」

 

岬にそう言われた恋は「わーかってるーわかってる。大丈夫」とけだるげに答えて雲の上に座り込んだ。

 

「これは限界っぽそうなのです」

 

「はいはい。わかってますよ。さて」

 

ルルがそうして、手間を省くために買ってきていた鍋用の野菜パックを3つ破ってまな板の上に出した。

 

そうして器用にそれらを混ぜられる前の野菜に選り分け、煮えにくいものから先に夕がすでに火にかけた鍋に投入していた顆粒出汁とうま味調味料、固形ブイヨン、ミネラルウォーターの混合物に入れていく。

 

やがてそれらに火が通りつつあるのを確認すると、しゃぶしゃぶ用と思しき牛肉を次々と鍋へ放り込んでいった。

 

「ふう。こんなところですか」

 

『意外だな……貴様、料理できたのか?』

 

「錬金術や儀式魔法では鍋と刃物と火の扱いは基本ですので」

 

ルルは怪訝な顔をする夕に、ニコリと笑いかけてそういうと鍋の火……カセットコンロの火を弱くして、別の鍋で茹でていたレトルトご飯を器によそう。

 

「それに全部レトルトですし。いやあ、便利この上ない。プリザベーションを掛けた保存食よりも保つし、美味しい。まぁ、こういうミックス野菜パックなんかはこうして選り分けてやらないと思った味にならないので面倒ですけども」

 

ルルはそうしてウトウトしている恋と、彼女をなんとか眠らせまいとしている仲間たちに「出来ましたよー」と声を掛けた。

 

出来上がったのは野菜と牛肉の簡単な鍋であり、味付けは顆粒出汁などが使われているものの薄く、大根おろしを溶かしたポン酢醤油で食べるようになっている。

 

レトルトのごはんはもう茹でられてこそいるものの、食べ終わった時の締めのためのようでちょっと大きめのボウルに入れられていた。

 

「おー、結構いいわねー手間もかかってないみたいだし」

 

『手間はかけていたぞ。袋詰の混ぜ野菜を種別ごとに選り分けていた』

 

おたまで鍋の中身を掬うミナに、夕はそう言ってジト目になる。

 

「……ルル、そういうのやめてって言ったわよね?」

 

「でも野菜の煮え具合が違うではありませんか」

 

以前にもそういうことがあったのだろうか、ミナは夕と同じくじっとりした目でルルを睨めつけた。

 

「異世界にも鍋用野菜パックとかあったのかい、ねーちゃん」

 

白菜を口に入れてそう言う恋に、ミナは「まぁめったに見なかったけどねー一応あるにはあったわ。保存の魔法と油紙とかを応用してね」と懐かしげに笑う。

 

「今はそれどころじゃないから、その話は後にしてもいいかしら」

 

ミナが小さく笑って恋を見ると、眠気からか、あるいは別のものか、単純に恥ずかしかっただけなのか彼女から目をそらす。

 

「わかってるよ……いつの間にかむくろちゃんも見えるようになってるしな……余計なことを考えてる場合じゃないってのは、あたいにも」

 

今は岬の頭の上に乗っている薄ぼんやりした少女を眺めながら肉を食む。

 

きちんと出汁の味がして美味しかった。

 

やがて鍋を食べ終わり、締めの雑炊も胃の中へと消えていくともう耐えることができなくなったのか、恋は隣の岬にしなだれかかるかのように眠ってしまう。

 

「ぐう……」

 

「あややや……ここで寝ちゃ駄目なのですよ。しかも変身したまま寝れるって器用にすぎるのですよ」

 

岬が自分の器を地面に置きながら、恋の頬をぺしぺしと叩くが起きる気配は一向にない。

 

「うー……ごめんなのです、ミナちゃん。あたしは恋ちゃんを寝かせてきますのです」

 

片付けをミナたちに任せることを言外ににじませて、二人はテントの中へと入っていった。

 

その後ろをふよふよとむくろがついていくのを見送りながら、ミナは「じゃさっさと私達も寝ちゃいますか」と鍋に入れた皿や器をまとめて浄化の魔法をかけてしまった。

 

「あ、それでいいんだ」

 

「時間がないときだけだぜ。調和神様もこのくらいは許してくれるよ」

 

親友にそう答えた勇者は鍋をそのまま自分の無限のバッグに放り込んでしまう。

 

「そういうもんか」

 

「そういうもんだよ。多くの神様は信者一人ひとりのやることには寛容なのさ。んじゃ寝るべ」

 

そうしてミナは自分のテントに入って、そのまま十数秒も経たずに寝息が聞こえてくる。

 

その様子に、空悟は「そうだな」とだけ言ってテントに潜り込んだ。

 

残った夕とルルは―――夕は何事もなく周囲を監視するために立ち尽くし、そしてルルは―――

 

『ふぅーむ……徹頭徹尾私の話題にならないとはな……』

 

「まあみんなお腹も空いてたでしょうし、眠かったでしょうから」

 

隅っこで放置気味であったガドゥルに話しかけていた。

 

『まぁよかろう。私とてむくろのこと以外は今はどうでもいいことなのだからな』

 

ガドゥルは遠く空の果てを見つめる。

 

その顔にルルは「なるほど……」としたり顔で頷いた。

 

頷いて、「さてどうなるかな」とだけ呟いて今度は机を出して日誌を書き始める。

 

そうしてガドゥルのことを半ば無視して日記を書き始めて1時間近くが経った頃、いつもどおりにミナが起きてくるのであった。

 

 

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