異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか 作:大回転スカイミサイル
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――― 一方その頃。
ミナたちが1日以上に渡って内部で悪戦苦闘をしている間。
外ではまだ10分ほどしか経過していないが、廻は外でまんじりともせずに待ち続けていた。
「……なんだか情けないな、俺は……」
普段は使わない一人称で自嘲しつつ、怪しまれぬよう神社の境内の隅に設置されているベンチに座りコーヒーを飲む青年が、全身が機械の戦闘ロボットであると気づくものはそれはおそらく人ではないだろう。
彼らしくもないため息をつくが、そもそもその原因はミナたち……というよりは岬である。
何故か彼女の嫌な笑みを見てそれを止めようという情動が起き、そして彼女が気になっているのだ。
「……ロリータ・コンプレックス、というのだったか、これは」
廻は額を右手で抑えて瞑目し、そして顔を顰める。
「彼女は実年齢40歳だ……そういう感情を抱くのは……いや。わからん……」
思考がどこかループしてしまっているのか、廻はそうして悩み続ける。
―――とはいえ彼の思考速度は人のそれではない。
すでに地球人が1日掛けて行う思考をこの10分ほどで行っていた。
「うむ、わからんものはわからん……夕の言うとおり、一旦棚上げしよう」
ロボらしくない結論を出しかけたそのとき―――
『廻様、何者かが急接近してきます。速度五八〇ノット』
「!!」
およそ時速千キロに及ぶ速度で接近する何かは、秋遂のその警告の直後に廻にも感知できた。
時刻は午前6時半。
この時間帯は周辺の工場もほぼ稼働していない―――神主たちがいたことすら想定外だったのだ。
しかも人間大の大きさのそれが飛んでくることなど常識ではあり得るはずもない。
廻はすぐさまに光学迷彩を施している秋遂に乗り込むと、迷彩を解くことなく彼女を起動した。
「接敵まで後十秒」
『問題ありません。光波障壁を展開します』
秋遂と接続した廻へ情報が入ってくる。
同時に、秋遂本体を守るバリアが展開され、そして神社を守るように立ちはだかった。
そして待つこともほとんどなく―――それは現れた。
「いたぁ―――!あっはははははは!そこを退いてお人形さん♪」
それは紛れもなく。
紛れもなく―――
「影山かける……!」
現れたのは岬たちの友人にして、風の精霊に呪われた魔法少女。
「永遠を走り抜けろ……天の弓―――アメノカケル!参上!!あーははははははっ!」
名乗りを上げて高らかに笑うかけるであった。
『高熱量反応感知。地下空洞で使用された『暗黒魔法』と空間流体波形〇.九九九九八七で一致』
その秋遂の警告に廻は「街から離す!」と叫んで秋遂の掌でかけるを掴む。
―――意外にもそれはあっさりと秋遂の手に握られて。
「あれ?遊んでくれるんだ?うふふふ!えへへへへへ!いいよ!ちょっと遊ぼう!」
「慣性制御最大出力!岬の友人を傷つけるわけにも、街に被害を及ぼすわけにもいかん!」
廻が叫ぶ。
同時に意図が接続を通じて完全に共有された秋遂は何も言うことなく加速し、そして慣性制御を実行した。
実行から0.1秒の差で秋遂の身体は音速を超える―――が音速突破に伴うソニックブームは発生しない。
そう、ソニックブームすらも何らかの方法でキャンセルしたのであろう。
そのまま常人には見ることのかなわないまま機体は海を目指す。
―――蒼沫湾を出て太平洋へ出ます。現在、速度二四〇〇ノット。
廻の電子頭脳に秋遂の声が直接伝わってくる。
発進からたったの2分。
彼女の躯体は雲を突き抜け、今や洋上は150km地点へと飛び去っていた。
(……すまぬ、ミナ!岬!任務を達成できないかもしれん!!)
しかし巨人の手の中の彼女を放置すれば、どのような被害が出るかもわからない。
ダンジョンの中に通信することは出来ないのだ。
「ままならんな……」
廻はそう独り言ちると、手の中の少女を解放する。
そのままの状態で魔法を発動などされては秋遂とてどうなるかわからない。
「あはははっ!やっさしい!離してくれるんだ!」
「君は岬と恋の友達だ―――殺すわけには行くまいよ」
廻の言葉にかけるは「ふーん、そうなんだ。でもねーボクはねー」と楽しそうに。
「殺しちゃうかもよ?」
本当に楽しそうに唇を半月に歪めて、秋遂を覗き込むかのように腰を曲げて視線を送ってくる。
「……」
廻は答えない。
これ以上の会話は無駄と感じて、沈黙する。
「それじゃあ!行っちゃうよう!!」
闇色の風が魔法少女から吹き始める。
廻は一瞬瞑目し、躊躇なく戦闘機動を取るように―――ただし防御を中心として行うように機体を動かす。
瞬間、美しささえ感じるフレアがいくつも海の上に輝くのであった。
―――ダンジョン内。
食事を終え、パーティが十分に8時間ほど睡眠を取り……更に3時間ほど歩き続け、たどり着いた場所は……
この透明な空間にあるまじき、虹色の空気―――とでも言うべき、カラフルな光の舞う空間であった。
「うーん、風と水と火の精霊力がこんがり混ざって気持ち悪ぅい」
ミナがなんとも言えない不思議な笑みを浮かべると、それを聞いていた祖母も『同感じゃのぉ……なにこれぇ』とヘタレた声を上げた。
「大丈夫か、お前ら」
「大丈夫くねぇ……精霊術使えんお前にはわからんだろうが……」
めまいがする頭を抑えて、ミナはそうして肩を落とした。
『無理もあるまい。ここからは完全に魔精霊の領域……つまり、我らをこの空間に捕らえ続けている何者かがいる場所だ。今のうちに慣れておくがいい』
ガドゥルがそうして地面に腰を下ろす。
「あー……ありがとうございます。ちょっと楽になりました」
『うむ、礼を言おう。褒めて使わすぞ』
孫と祖母が声を揃えて礼を言うと、ガドゥルは『いらぬよ、むずがゆい。私は無秩序な精霊力が吹き出さぬように孔の上に座っただけだからな』と笑った。
「ぷはっ……これは一体どういうことなのです……?一瞬意識が飛びましたですよ」
「あ、あたいも……!」
岬と恋が頭を振って、未だ乱舞する光の風に困惑していると、ルルが「これは魔精霊の結界の一つです。魔精霊は上位精霊が歪んだ存在でもあり、複数の精霊と融合し、その眷属を従えるものでもある」と杖をついた。
「ミナさん、僕がやっちゃってもいいですか?」
「うん、やったって」
ミナがうなずくと、ルルはすぐに呪文を唱え始める。
「偉大なるロジックよ。生命の論理たる精霊を沈める式を駆動せしめん。静なるかな、静なるかな、静なるかな……サプレス・エレメンタル!!」
カッと光が弾け、光の風が色の殆どを薄闇のごとくに失っていく。
薄っすらと色が分かる程度まで薄まった時、ルルの杖の光もまた消えていった。
古代語魔法の中の精霊力のキャンセル魔法である。
「全部消してしまうと、この空気に慣れませんので」
「へぇ、そういうもんか」
「そういうもんです」
何故地水火風すべての精霊力を消してしまうエレメンタル・キャンセレーションではないのかについて空悟に解説すると、ルルは「何故か嫌な予感がします。空気に慣れたらすぐに」と珍しく先を促すようなことをミナに進言した。
「……やっぱ何かありそうね。私もなんかそんな気がするわ」
ミナは立ち上がり、空気を吸う。
「うえぇー気持ちわりぃー……」
しかし、それはミナであってもすぐに慣れるような「匂い」ではなく、ミナはブラックリボンがあってもなお感じる軽い吐き気に辟易する。
「うえっぷ……」「やばいこれ……」
それは当然、ブルーリボンを装備している岬や恋も同じで、やはりげんなりした顔を見合わせていた。
「後5分ってところか。それで体の中の精霊力が整理される」
『ふむ……精霊力は誰にでもあるのだよな。私のような金属と有機・無機合成物の塊でも』
夕に聞かれたミナは「そーよー。でもこのトラップは精霊力を見て嗅ぐことができる精霊使いにしか関係ないの。精霊を色のついた風や匂いとして感知するからこそ平衡感覚を狂わされるってやつね」と笑った。
「ちなみに夕ちゃんからは石と火の精霊力を強く感じるのだわ」
『使えないのだからしこたまどうでもよろしい』
ピシャリと夕が言うと、ミナは「だーよねー」と掌を振ってケラケラと声を出して笑った。
『ふん。それはともかく、酔い止め薬を使え。少しでも早く回復してもらわんとな』
腕を組んだ夕がそういうと、ミナは「ああ、そっか。エルフの酔い止め薬なら……」とバッグから薬を取り出した。
「はい、ふたりとも飲んで。効くかどうかはわからないけど」
二人にその錠剤を渡し、夕が紙コップに注いだ水を渡す。
「うん、ありがとう……」「どうもなのです」
少女たちはそれを受け取り、水で一息に飲み下すと息をついた。
「うー……なんか、うん」
「溶けるように……めまいがなくなっていくのです……」
二人が胸をなでおろす。
それを見たミナは、「よし、じゃあ行きましょうか」と立ち上がった。
『む、もういいのかね?』
「ええ。後は道中で慣れてしまうと思います」
ガドゥルの言葉にそう返して、フロアの中央部……サプレス・エレメンタルとガドゥルの精霊封じでもまだ強い精霊の気配がする場所へと歩いていく。
「ここが入り口……か。ラストフロアだと良いのだけど」
『それはわっかんないなーボクらもここまで来たのは初めてだしー』
また空中をまるで円月輪か円盤かの如くにくるくるくるくる回り続ける少女がそういうと、「まだここにはいってから外の時間は15分しか経ってないはずなのです!」と岬がガッツポーズを取った。
「とはいえ、15分だから……ウ○トラ○ンなら5回は変身解除してる時間だ。何か起きてないといいが……」
空悟がそう言うと、「大丈夫なのですよ。廻さんがそうそう簡単にやられるはずないじゃないですか」と岬はにぱっと綻ぶような笑顔を周囲に向けた。
その笑顔に『ああ、そうだな。我ら兄妹がそう簡単に負けるはずはない』と夕は大真面目な顔で答える。
『我らは必勝のために生まれたのだから』と続けて、ミナの方へと歩いていった。
「よっし、行くかふたりとも」
「はーい」「はいなのです」
空悟はそうして魔法少女たちを促して歩き始めた。
そうして全員が部屋の中央に集まる。
『我々はここまでだ。おまえたちが無事に戻ることを祈っている』
ガドゥルが重々しい峻厳な山を思わせる声音でそう激励すると、それを継ぐようにむくろが『もしねー……外に出たボクがかけると一緒になっちゃってもよろしくしてね!』と言って、イヒヒと歯をむき出して笑った。
『うむ。汝の案内に感謝しよう、古き友よ。ここを出れたのであれば、そのときじっくり話をしようではないか』
カレーナの言葉に、風龍は深く深く頷いて『また会おう』と発して黙りこくる。
それを合図にミナたちは中心部に足を踏み入れると、むくろのフロアへと移動したときのように沈んでいった。
背ではむくろが名残惜しそうに手を振っている。
それを笑顔で見送って、六人はカラフルに染まる雲海の中へと沈んでいったのだった。
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