異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第166話「ちょっともう少しなんでお静かに」

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バグン、と空を切り裂く轟音が太平洋上に響き渡る。

 

硝煙、熱波、破片―――それらが失せた時、そこにいたのは―――

 

「すごーい!当てられちゃった!」

 

楽しそうな、本当に楽しそうな、遊園地ではしゃぐ子供のような―――かけるの姿である。

 

「指部針型誘導弾ではなんの痛痒もないか……!」

 

煙を放つ機体の指先を少女に向けながら、廻は忌々しげに呟いた。

 

「まだ三分……か。魔法障壁の強度を考えれば……」

 

廻の独白に、秋遂が『肯定』と短く答え、情報は直接電脳へと送ってくる。

 

―――胸部熱線砲、眼部殺人光線照射砲、溶解嵐噴霧装置。総て目標『影山かける』の魔法障壁を破壊し、生命活動を停止させる十分な威力を持っています。

 

殺してしまってはなんの意味もない。

 

この場にミナたちはおらず、蘇生させる手段など廻にあるはずもないのだ。

 

ならば牽制を続けるしかないが、すでにかけるは秋遂の動きにある程度ついてくるようにまでなってしまっていた。

 

「すごいねそのスーパーロボット!どこのテレビでやってるの!?」

 

かけるの楽しくてたまらないという声が機械の耳朶に響く。

 

頭部機関砲、指部針型誘導弾ではあたりはするものの障壁―――見様見真似で覚えたらしいマジカル・プロテクトを突破することが出来ず、かと言って再利用型噴進腕―――ロケットパンチでは捕まえることが出来なかった。

 

「やれやれ。先程離してしまったのは悪手だったかな」

 

かけるの魔力弾を急降下で避けつつ廻はそう自嘲した。

 

―――否定。あのまま保持していれば、掌部を破壊されていた確率〇.九七四。

 

軽口にも彼女はいちいちツッコミを入れてきて―――廻はそれもそうだと微笑んだ。

 

「怒ったり自嘲したりしている暇などない、か」

 

瞬間、バリバリバリバリと空を裂く砲音が鳴り響く。

 

頭部機関砲を偏差射撃で彼女の進行方向へとばらまいているのだ。

 

しかし、かけるはまるでどこかの三体合体三変化する合体ロボットが如くに慣性を無視した挙動でそれを避け、また秋遂も同じく直角鋭角、時には30度の急角度で彼女の攻撃を回避する。

 

その戦いは、空間をジグザグに走る大小の光のごとくに見えたかも知れない。

 

『最高速度、三七〇〇ノット。こちらの格闘戦速度とほぼ同等です』

 

「……少なくとも人類を超越した挙動であることだけは私にもわかる」

 

それでいて解析結果は普通の地球人なのだから、廻も呆れ返った声を上げることしか出来ない。

 

その異常すぎる速度と無数の鋭角を描く軌道は―――闇風の矢とすべき魔力の総てを、推進と自己防御に使用しているために使えているのだ。

 

こんなムチャな魔力の使い方は、たとえそれが嵐の勇者ミナ・トワイライトと言えどめったにすることはないだろう。

 

「彼女の体内熱量の残存は?」

 

『不明。長続きする可能性も不明です、ご主人』

 

秋遂にそう言われて、廻は「よし。超圧縮粘着液を使う」と呟いた。

 

半ばほどつぶやいた時点で、意図は完全に秋遂に伝わっていたのだろう。

 

腰部脇に取り付けられている噴射口から大量の気体が散布され始める。

 

「え?なにこれ?」

 

それはすぐにエアロゾル状になり、空気中の水分やかける自身の汗と結びついて粘性を帯びていき、やがてそれは拘束性のある雲となっていった。

 

「うえー!?気持ち悪い!!」

 

かけるがそう言ったときにはすでに遅く、全身のほぼすべてが粘液の雲に覆われ、完全に身動きが取れなくなってしまう。

 

「なにこれぇ……あ、でも息ができる!すごい!」

 

「当然だ!非殺傷性である!」

 

廻はコクピットを開けて、かけるに大声で呼びかけた。

 

「何がしたい!遊びたいのであれば、電子遊戯でもカードを使った遊戯でもなんでも付き合おう!神社に暗黒魔法を落とすような真似は、岬や恋が悲しむ!」

 

切実なその叫びに、かけるはニパっと笑って―――

 

「えっ!遊んでくれるの!?じゃあそのロボットに乗せてよ!」と、粘液の雲に囚われながらも元気よく叫んで笑う。

 

「……それでいいのか?暴れないか?」

 

「あはははははっ!それはねえ!約束できないけどぉ!いいよ!岬ちゃんたちが出てくるまではおにーさんに付き合ってあげるよ!ひゅーひゅー!このロリコン!」

 

その言葉に廻は一瞬瞳を曇らせるが、すぐに気を取り直して「では、粘液を一部溶解しよう。ただ、操縦席の中をいじられては困る。手足の拘束はそのままだ」と大真面目に返す。

 

すると彼女は悪びれもせずに「えーそれってお兄の持ってたえっちぃ本で見たぁーえすえむぅー」と抜かしてケラケラ笑い出す。

 

―――今の笑いに呪言の空気が重くなる現象は起きなかった。

 

「勘弁してくれ……私はロリータ・コンプレックスではない……」

 

大きなため息をついた廻に、秋遂が『私もそのような躯体を薺川博士に創っていただいたほうが良いでしょうか』と真面目な声音で突っついてきて……

 

「やめてくれ……」と疲れた声で返すことしか彼には出来なかったのであった。

 

 

 

外では25分が経過した頃。

 

ダンジョンではすでに3日ほどが経過していた。

 

むくろ、ガドゥルと別れた三人は、全フロアまでの透明な世界とは全く異なる紫色の水晶の塔で魔物たちと戦闘を繰り返していた。

 

「マジカル・サンダーストームなのです!!」

 

フレアスタイルとなった岬から、風と雷をまとった拳が放たれた。

 

それは風樹と呼ばれる狂った風の精霊に朽ちさせられた木が変じた魔物をバラバラにし、その後ろにいるウィンドライオンをも弾き飛ばす。

 

「よーぉぉぉし!行くぜ!マジカル・ゴールデンハンマー!!」

 

恋がそう言った瞬間、杖がまるで巨大な黄金のハンマーとなって振り下ろされる。

 

「鋼鉄ぅ!粉砕!玉砕!大喝采!」

 

恋の雄叫びが響き、風樹が一本、また一本と吹き飛ばされていった。

 

その様子を尻目に、横合いから押し寄せようとする魔物たちを空悟と夕が支援射撃で抑えつけている。

 

「まだか三郎!」「もう少し!」

 

そんな彼らの後ろでは、ミナが扉に魔力を、ルルがその下で工具を使ってなにかパズルを解いている。

 

「ぐぁー!魔力注ぎ続けないと解けないパズルめぇ!!」

 

「ちょっともう少しなんでお静かに」

 

ルルがちょいちょいとスパナとドライバーでそのパズルを分解していく。

 

そうして、魔物の数が100を超えた頃―――「いいですよ」と彼は静かに言って、主人に微笑んだ。

 

「しゃあ!みんな!とっとと門に入れ!ルル!褒美に3回だけ寝てる間おっぱい揉んでも許す!」

 

「ありがたき幸せ!早くみなさん!後20秒もすればパズルが再生します!!」

 

ミナとルルの合図を背に、全員が最大出力での攻撃を実施する―――

 

「「サンダーバード!ストライクウウウウウウウ!!」」

 

「喰らえロケットランチャー!!」

 

『殺人光線、最大出力』

 

四人の最大火力が魔物たちに直撃し、そして彼らは一目散にミナが手を当てている扉に飛び込んでいく―――

 

もちろん、最初に飛び込んだ空悟はその扉を蹴り壊した。

 

「三郎!あんな約束して良いのか、お前!」

 

「構わねえよ!ここで足止めされる方がきつい!」

 

セクハラOKの約束をしたこと親友に咎められて、ミナはそう返してから呪文の詠唱を始めた。

 

「とっとと死ね!世界を支配する偉大なるロジックよ。地獄の業火を呼び覚ませ。我が前のものすべてを焼き尽くし原初の姿へ葬送せよ。フレアー・クリメイション!!」

 

杖の先から巨大な火球が生まれ、その指向する方向を焼き尽くしていく。

 

『早く入れ、馬鹿!』

 

夕の罵声と殺人光線が虚空を引き裂き―――そして、ミナもまた門へと飛び込む。

 

――― 一瞬、閃光が輝くとその門は消え失せ―――

 

魔物たちもまた風の中に溶けるように消え去り、後には何も残るものはなかった……

 

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