異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第167話「外では何分経ってるんだ?」

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『……正しく次の階層だな。先程の階層は上に見える』

 

「あーもういつまで続くのかしらね。メガトン級核爆弾レベルのトラップはないけど、魔物が多すぎる……」

 

探索を軽く終えた夕にミナはそう声を掛けて、彼女に補給用の水筒を手渡した。

 

中身は薺川博士から預かった、廻と夕には最適となる燃料の超純水である。

 

『感謝しよう。一応な。むくろ嬢らから別れてもう20層は潜っているが、一向に敵は見つからん……』

 

夕は苛立ってもいないが、面倒くさいと言った風情で紫色の半透明ブロックに座って水を飲み干した。

 

もちろん周囲にトラップが存在しないことは、ミナによって解明済みである。

 

「ガドゥルさんが案内する、って言ってたし後はずっと順路で良いとは思うのだけどね。少なくとも、ここまで床下に見える次のフロアが前のフロアとそう違った配置になっていないのはそのとおりよ」

 

かと言って本当にこれが順路とは限らないのがバグダンジョンというものであった。

 

「あれから特にヤバイイベント起きてないし、何かあるならそろそろなんだけどねぇ……」

 

ミナは頭を振って、少し離れた場所で煮炊きをしている4人を見た。

 

「外がどうなってるのかもそろそろ気になってきたわ」

 

全然時間は経っていないから、きっと何も起きていないだろう、とミナは思っていたが―――

 

外で今廻とかけるが全力で戦闘中であることを知れば叫びだすであろう。

 

そんな彼女を一瞥し、夕は天を見上げた。

 

『ガドゥル氏たちは無事だろうか』

 

「大丈夫でしょう、きっと」

 

ミナがそういうと、彼女の腰に佩かれたインテリジェンスソードが『そうそう死ぬものではないわ、きっひひひ』と金切るような笑い声を上げてガドゥルの無事を保障する。

 

『あやつは魔王と戦って死んだのだ。それも我もガドゥルもが手も足も出ぬほどのな―――確か、ラギオンとか抜かす炎の魔王よ。あのものが命を捨ててようやくどうにかしたレベルであったのう……』

 

懐かしげに、しかし楽しげに女は笑う。

 

ミナはその祖母の思い出話に、「んー……と……それって多分、私倒したわ。10年くらい前に」と台無しにするようなことを抜かした。

 

『はぁ!?なんじゃとぉ!?うっそじゃろお前ぇ……』と言って、しばらく『はぁ?!』だの『ええ……』だのと繰り返した後に、『マジで?』と心底きょとんとした声音で孫へと質問する。

 

ミナはその言葉に「あ、うん……火山がまるごと爆発して、最悪破局噴火……あ、破局噴火ってわかる?」と半笑いで祖母に語りかけた。

 

『知っておるわ。破滅の業火を大地が放ち、もって世界を焼き尽くす大災厄のことじゃろう』

 

まぁ地球の基準では当たらずとも遠からずといった回答に、ミナは深く頷いて「いやあ、しかも天護の森の北の北の大山脈がまるごと吹っ飛びかねない、下手すりゃ人類滅亡って瀬戸際になったことがね、あってね……」と遠い目をした。

 

「だから私のこと、なんだか面白そうに眺めてたのか、あのハゲ魔王め」

 

納得したように腕を組んで何度も首肯する彼女に、『何超ド級のことしてんじゃ孫ォ!』と祖母ブレードは激高した。

 

「なこと言われても、邪神探索の一環でもあったし、世界滅亡の危機だったし、私もルルも結構死にかけたし……」

 

頭をかいて困った顔をするミナに、『戦果の自慢は良い。夕飯の準備もそろそろできる。とっとと行くぞ』と夕がいつもどおりの刺々しい態度で促した。

 

「そうね、そうしましょ」

 

気にすることもなく歩き出す彼女の背に、フン、と鼻息を一つ吹きかけて夕もそれに続く。

 

どこまで深いか知れないダンジョンは、まだまだ続くように見えていた。

 

 

 

ふと気づけば、手足を縛られた童女が自分の後ろではしゃいでいる。

 

そんな光景に頭が痛くならない人間がいるだろうか。

 

いないだろう、と機械の体を持つ男は思った。

 

『ねーねー!ゲッ○ービームとか出せるの!?ビームライフルとか!』

 

「いや、そんな名前の武器はないな……」

 

廻はげんなりとしつつその声を受け流している。

 

受け流しつつ、周辺をレーダーで油断なく走査していた。

 

―――異常はありません、ご主人。

 

―――承知。このまま警戒を頼む。

 

電子信号のやり取りだけで会話をし、廻は一つため息をついた。

 

―――早くミナくんたち、帰ってこないかな……

 

―――まだかかると思いますよ。

 

そんな彼らしくもないツマらない思考を秋遂と繰り返しながら、後ろではしゃぐ少女を見てはげんなりする。

 

そんな時間が数十分間続いた時―――それは起きた。

 

起きて、しまったのである。

 

 

 

「30層……キリが良い頃だけど」

 

「どうなんですかねえ……」

 

ミナは目の前の巨大な渦を前に、岬とそんな会話をしている。

 

それらしい、と言ってしまえばそれまでだが、しかしそれらしいとしかいいようがない渦である。

 

「トラップとしては、これが地上や別の場所に続いているってお定まりのやつが考えられるけども……」

 

ミナはそれは考えづらいという。

 

何しろ、ここまで思いっきり嫌な罠は続いてきたけども、突破すれば素直に通れる場所ばかりだったのだ。

 

カレーナもまたミナと同じ感想を抱いているのか。

 

『アウステルとやらがノトスの分霊―――の魔精霊だとすればこう、めんどくさいがある意味で素直なダンジョンを作っても我は当然と宣おう。あれはそういう面倒な精霊であった』

 

そう面白くて仕方ないという風情で含み笑いをしたのだ。

 

「バーチャンの言うこと信じるしかないわ……後はなんか情報ある?」

 

『あるとも。やつは少年の姿をしている割には少年を好いた。つまり男色の変態じゃ』

 

祖母はそうして自分を棚上げして意味のわからないことを言い始めた。

 

「そう。じゃあルルを囮にするか……」

 

ミナはその言葉を聞き流しているようで聞き流していない絶妙な風情で、あちらで偵察に行っているルルを生贄に出すことを考える。

 

「いやいやいやいや、それじゃあ流石にルルくんが可愛そうでは?」

 

「……そうかも。あいつ女の格好するくせに、男に迫られると必ずキレるのよね」

 

岬のツッコミにしゃーねーなーとばかりにミナは微笑んだ。

 

『マジか。あの死体殿、倒錯しとるのう……』

 

おまえは何を言っているんだ、と岬もミナも同じようにジト目でげんなりして「「あんたが言うな」なのです」と声を揃えて彼女を罵倒する。

 

『えー、我、別に少年でも少女でもダンディなおじ様でも雑食なだけなんじゃが……』

 

「普通は人はそれを倒錯と言うんですよ。ミナさん、探索は終わりました。周辺に魔物の気配も―――狂った精霊の気配もありません」

 

その時、偵察から帰ってきたルルがカレーナを罵倒しつつミナに声を掛けてきた。

 

「お、ご苦労さま。うーん、つーことはやっぱりまだか……流石にもうそろそろまた休まないと駄目ね」

 

よくよく見れば、岬は座っていて、その膝枕で恋が安らかな寝息を立てている。

 

「あたしは……徹夜とか慣れているので大丈夫ですけども、これは恋ちゃんにはちょっときついのですよ」

 

岬が恋の髪をなでながらそういうと、同じく偵察に出ていた空悟が「そうだな。そろそろ休まんか、三郎」と提案してきた。

 

「そーだなぁ……そうすっか。幸い、ここらには敵の気配はないし……」

 

ミナが素早く野営の準備を始める。

 

始めて、そしてしばらくして。

 

空悟に声を掛けられた。

 

「……どうだ?大丈夫か、お前」

 

「大丈夫だよ、オレはな」

 

気の置けない二人の、どこか胡乱な会話が始まる。

 

「外では何分経ってるんだ?」

 

「ああ、30分ってところだな。オレらはもう1週間は潜ってるが……」

 

テントの設営が終わったミナは、先に恋と岬を寝かせようと彼女らに「先に休んでて」と促して、バッグからビールを取り出した。

 

「飲むか?」

 

「そうだな、飲むか」

 

ミナに手渡されたビールは、キンキンに冷えていて「どんな魔法使ったんだ、これ」と思わず聞いてしまった。

 

「いや、普通に保存の魔法を掛けただけさ。保存の魔法をかけられたものは、それを決定的に変化させることが起きなきゃ温度もそのまんまだ」

 

「便利だなぁ」

 

「便利なものかよ。完全に失われたら、絶対に戻らないんだ。保存も、復活も、そこにモノがあるから。そこに生命であったものが残っているから意味を持つんだよ」

 

ミナは遠い空の果てを見て、そう呟く。

 

呟いて、小さく「乾杯」と言って、親友はそれに応じて盃を合わせて「乾杯」と小さく笑った。

 

「時の氷雨、だったか。あれを見てからお前様子がおかしいんじゃないのか?」

 

二人を話させようとしているのか、ルルも夕も離れた場所でそれぞれの作業をしていることを確認して、空悟はそう小さな声でミナに聞いた。

 

「あー……古い話さ。只人や地球人のスパンじゃな。オレにとってはついこないだのことだけどなぁ……」

 

ミナはそうして遠い日に思いを馳せる。

 

「もしかして、過去の話か?」

 

「あー……すぐに寝るつもりなら良いけどもよ」

 

ミナはぐいとビール缶の中身を飲み干して、親友を見た。

 

「聞いてほしいんだろ?おめー、わかりやすいんだよ。あの時の氷雨とかいうのでちょっとダメージ食らったんだろ」

 

面白そうにそう笑った親友に、ミナは「お見通しだなあ、オメーには」と微笑んだ。

 

そうして、しばらく二人はビールとかコンビニで買ってきたつまみなどで飲み続けて―――ルルが日誌を書き終わって、夕とともにこちらにやってくるのを見て、ミナは「ルルも知ってる話だし、一緒にな」と言って、バッグから日本酒を取り出した。

 

「ミナさん、飲み過ぎではありませんか?」

 

面白がっているルルの顔に、ミナは笑い顔のままビール缶―――中身が入ったものをぶっつけた。

 

ガギン、と金属音がするが、ルルはのけぞることもなくただ「痛いじゃないですか」と返した。

 

「痛くしてんのよ。ま、いいわ。あんたらも付き合いなさいよ。岬と恋も寝ちゃったみたいだしね」

 

外で廻がかける相手に苦労してることなど何も知らないミナは、そう言って夕にもビールを差し出した。

 

『……まあ、一週間もこもっていれば疲れもするか。たとえお前のような人外でも』

 

その缶のプルタブを抜いて、夕は『私のような機械でもそうはなる』と揶揄するような瞳ながらも優しく、ミナを労るようなそんな視線を向けてきた。

 

「わかってくれるの助かるわー。んじゃぁあんたらから見ればババァの思い出話でも聞いてよね」

 

ぐびー、と500ml缶を一気飲みしたミナはそうして話始める。

 

鞘の中で『お主がババァなら、我遺跡かなにかかのう……』と祖母が呟くが、それは無視して、バッグからハープを取り出してミナは唄い出す。

 

それは遠い日の歌。

 

ミナにとって、死を強く意識したある出来事の話であった。

 

 

 




次からまた過去編です。

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