異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第177話『わかるはずがなかろうが』

 

 

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―――そして。

 

地上での戦闘が終わりを告げ、その現場からの逃走も成功を収めたその頃。

 

ミナたちもまた迷宮の最奥へとたどり着いていた。

 

碧色の翡翠のような―――風の精霊たちの結晶が一面を覆っている。

 

その真ん中に鎮座するのは―――年の頃は、見た目にはミナやルルと同じくらい―――つまり地球人であれば13~14といった頃の少年に見える半裸の男。

 

流れるような緑の髪が美しい、と岬は思った。

 

恋はまた違う感想を持ったようで、喉の奥から威嚇するようにグルルルと獣じみた唸りを上げていた。

 

『ようやく来たか。痴れ者め。恩知らずめ。帰らざるものよ』

 

少年の声と大人の男性の声。

 

若々しく澄んだ声としゃがれた老人の声が重なって聞こえる。

 

『余はアウステル。魔なるものとならざるを得なかった精霊の成れの果てである』

 

此方が声をかける前に、男は立ち上がってこちらを憎悪に満ちた瞳で睨めつけてきた。

 

「……この気配。間違いない……」

 

ミナは、その姿と声に確信を抱く。

 

「どういうことだ?」

 

「ああ、アレは正真正銘の上位精霊―――の成れの果てだよ。そんなバカな、だけどな」

 

空悟の問にそう答えて、ミナは槍を―――客人碎を構えた。

 

「……しかし、ここまで憎悪を向けられるようなことを僕らしましたっけ?上位精霊相手に失礼なことと言えば、何度となくポンポン呼び出している、くらいしか思いつかないのですが」

 

ルルが二口水晶を身に着け戦闘準備を整えながらそう言って首を傾げる。

 

「たしかにおかしいけどさ……あれは、ヤバイぜ。敵、としか言いようがないって……」

 

恋が不安そうに、しかし戦意を溜め込みながらミナを見た。

 

「……待ちなさい。痴れ者だの恩知らずだの……私、あなたに―――南風のノトスにそんな恨みに思われることをした覚えないのですけれど」

 

ミナはキッとアウステルを睨めつけて、そうしてそう冷たい声で聞く。

 

『強き精霊に言うことを聞かせられる方法は―――ただ一つと、随分と昔に答えた記憶があるな―――!』

 

ゴウ、と闇の風がその少年の体から膨れ上がった。

 

『熱量測定不能。金髪女、先制攻撃を仕掛けるがいいか?』

 

「もちろん!行くわよ!!」

 

ミナは客人碎の封を解く呪文を唱え始め、夕は『殺人光線、最大出力』と短く言って額から光線を放つ。

 

「碎くものよ。異界よりの悪意ある客人を微塵と返すものよ。この戦いは世界を蝕むもの、邪悪なる世界蟲との戦いなり!その力を解放し、我に勇者としての任を果たさせ給え!」

 

『異界から来たのは貴様であろう!』

 

ミナには怒りどころがよくわからない言葉を吐いて近づいてくるそれは、ずっと黒き風を放ち吹かせ続けている。

 

「ルル!」

 

「わかっています。破壊と渇望の王、飲み込み食らう我らが神よ。停止と切断を。世界と心に縛られし執着を絶つ力を与え給え。リムーブ・カース!」

 

襲い来る呪いの風を、ルルの唱えた解呪の魔法が作る陣が弾く。

 

ミナはその隙に夕が殺人光線を照射している正面を避けて、脇から槍を繰り出した。

 

殺人光線は流石にあの精霊でも防御しなければいけないのだろう。

 

黒き風を圧縮した黒い珠がその光を無へと返していた。

 

その隙にと繰り出した槍が彼の鼻先をかすめる。

 

「チッ……!」

 

「下がれ、三郎!」

 

空悟が一〇〇式機関短銃とロケットランチャーを同時に構えて射撃体勢に入ったことを見て、ミナは一足飛びで後ろへ下がる。

 

そこに銃弾とロケット弾が降り注ぐが―――

 

『……このような鉛玉で余が止められると思ったか』

 

アウステルは低く笑うと、少年の甲高い声で『来たれわが眷属よ』と吠えた。

 

空間を圧するほどに風の精霊力が高まり、そしてそれが弾けようと圧縮される。

 

「精霊を呼ぶ気ですか……させませんよ。偉大なるロジックよ。生命の論理たる精霊を沈める式を駆動せしめん。静なるかな、静なるかな、静なるかな……サプレス・エレメンタル!!」

 

敵の目論見に気づいたルルの特定の精霊力を消し去る古代語が紡がれ、そしてそれはある程度成功した。

 

精霊力はある程度霧散し、現れた風の精霊……否、魔物と化した精霊たちは数体で済む。

 

『素晴らしい力だ……その力があれば、あのようなことには!』

 

「あのようなこと……?」

 

客人碎を左前に構えて、夕とともに油断なく格闘戦へ移るタイミングを図っていたミナは、精霊のつぶやきに耳を貸した。

 

「バーチャン、なんかわかる?」

 

『わかるはずがなかろうが。おい、ノトス!随分な変わり果てようじゃな!!』

 

鞘の中の祖母が吠える。

 

男は鞘を一瞥し、『随分と懐かしい声だ。だが、もはや終わったことよ!』と手をミナへとかざす。

 

その手からは魔風が吹き出し、ミナを吹き飛ばそうと殺到した。

 

「ちぃ!」

 

『任せよ。風よ、吹くな―――』

 

鞘の中の祖母が小さく呟くと、ミナを吹き飛ばそうとする風が僅かに弱まる。

 

それは精霊術であり、風の精霊を使役するための呪言であった。

 

「すげえなお前の婆さん!剣状態でも魔法使えんのか!」

 

空悟が射撃は無意味とわかって、今津鏡を抜き吠える。

 

「恋ちゃん!」

 

「あたぼうよ!」

 

魔法少女二人が、空悟の接近を援護するために攻撃力という意味では最大の魔法を唱えた。

 

「「光と希望と明日の翼!羽撃け未来のエネルギーッ!!マジカル!!サンダーバード!!ストライクゥゥゥゥゥゥゥ!!」」

 

接近する空悟にかぶるように飛んだサンダーバードは、そのまま風の魔精霊へと衝突して爆光を放つ。

 

爆光はアウステルが呼び出した魔物たちを巻き込み、消滅させていった。

 

そして、当然のように―――

 

「いやぁぁぁぁぁぁっ!」

 

その瞬間、空悟の全力の袈裟斬りが男をズバリと切り払う。

 

「よし、やったか!?」

 

しかし。

 

『―――我らの世界より盗んだ力でよくもやってくれる』

 

傷は瞬時に再生して、ふさがっていく。

 

「下がれ空悟!」

 

ミナがその瞬間投擲したのは、真銀のナイフだ。

 

爆発の魔法が付与された特製品である。

 

「おう!」と空悟が叫んで横に転げた瞬間、ナイフはアウステルの肩口に突き刺さり爆発した。

 

しかし、やはりと言うか。

 

『下らぬ』

 

怒りを宿した瞳でミナを睨めつけるその男は、まるで無傷であった。

 

『―――本気を出すが良い。恩知らずの森人め』

 

アウステルが手を天にかざすと、風が龍の形へと変貌していく。

 

それは―――即ち。

 

「ルル!」「もちろん!」「全員私とルルの近くから離れないで!」

 

空悟の首根っこをひっつかむようにして恋たちの場所へ戻ったミナは、ルルとともに防護魔法を紡ぎ出す。

 

「世界を調律する我らが祭神よ!大いなる流転に生まれし渦を我らが鎧として与え給え!調和とは即ち世界なり!ホーリー・ウォール!」

 

「破壊と渇望の王、呑み込み食らう我らが神よ。その赤き牙を盾と変えたまえ……デス・ウォール!」

 

魔法、物理双方の最高魔法が唱えられた、それは即ち。

 

『電磁防壁展開。先だってのあれよりはマシだと思いたいが』

 

夕もまた恋たちの前に立って防壁を展開。

 

「ヤバイじゃねえか!」

 

「来るぞ!タイフーンドラゴンが!!」

 

―――瞬時に、風は龍へと変貌して襲い来る。

 

しかし、それはミナがゼビュロスへと乞い願ったときとは違う。

 

真っ黒な、恨みの黒風そのものである黒龍であった。

 

「洒落にならん!なんで私こんなに恨まれてるのよぉ!?私、なにかした!?」

 

「―――なにかしたのではなく、なにかするのではないですかね。これから」

 

ルルはデス・ウォールに全力を注ぎながらもそうミナに答えた。

 

「やっぱりそう思う?!」

 

「あたしもそう思うのですよ!あー、来る!来るのです!!」

 

岬と恋もマジカルプロテクトを発動し、全力での防御の構えだ。

 

前の核爆発もどきとは異なり、まず一番前面にマジカルプロテクト、その後ろにホーリー・ウォール、デス・ウォール、そして最後に夕の電磁防壁が展開されている。

 

とにかく魔力を弱めることから始める防御陣形であった。

 

『―――』

 

アウステルはニタリと笑った。

 

笑って、風の龍が防御陣に消されるままに笑う。

 

「のおおおおおお!ふんばれぇぇぇ!」

 

「なのですうううう!!!」

 

「ちくしょおおおおおおおお!!!」

 

夕以外の女子メンバー3人が吠える。

 

マジカルプロテクトは粉砕され、粉砕されながらも岬と恋の魔力の続く限り再生して、そして途切れた。

 

「これ以上は……」「無理なのです……!」

 

「あとは任せなさい!ルル!」

 

「わかってます」

 

次はホーリー・ウォールとデス・ウォール。

 

光と闇の壁が魔風の龍の顎を砕いていった。

 

「ようし……ガドゥルさんとむくろちゃんのためにも、これ以上はやらせん!」

 

ミナが吠えると―――

 

『ふん……ガドゥルは余を裏切ったようだな。ああ、それはそれでいい。それでいいから貴様らは死ね。裏切り者というのなら、貴様らこそがふさわしい』

 

笑顔を貼り付けたまま、男は二匹目の龍を作り出す。

 

「いいっ!?まずいこれ!やばい―――!」

 

ミナはすかさず次の詠唱に入る。

 

それは―――

 

また、頭痛がした。

 

誰かが、否、彼女が奉ずる神が警告している。

 

これ以上は―――魔力の使いすぎで、死ぬぞ、と。

 

ならばその魔法は、ホーリーフィックスは使えない。

 

ならば、やるべきことは一つ。

 

もはや、これしか手はないのだ、とミナの心が訴えかけてくる。

 

「ルル!」「わかっていますよ。やれやれ……!」

 

ミナはある決意をする。

 

それでどうにかなるか、なるだろう。

 

それならば。

 

 

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